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異世界八険伝  作者: AW
第1章 旅立ちは風のように
13/92

13.フィーネへの旅路

 交易場を訪れたリンネたち一行は、暴挙とも言える高値に言葉を失う。でも、その背後にいた西の王国の連中を退け、笑顔を取り戻すことに成功する。そして、再びミルフェ王女と共に新たな目的地フィーネに向けて旅立った。

簡易鑑定(リサーチ):人族》

簡易鑑定(リサーチ):人族》

簡易鑑定(リサーチ):エルフ族》

簡易鑑定(リサーチ):服》

簡易鑑定(リサーチ):服》

簡易鑑定(リサーチ):指輪》


 はぁはぁ……鑑定って結構疲れる。


 で、この結果ですか。

簡易鑑定(リサーチ)/下級》くん、はっきり言っちゃいますね。あなたはポンコツです!


『全ての事物の表層を観ることができる』なんって偉そうに説明しているけど、そんなこと、目ん玉があれば誰でもわかるわ!


「リンネちゃん、そんなに息を切らしてどうしたの? 私の身体に興奮しちゃった?」

「いえ、ちょっと突っ込みたくなってしまって」

「ここで!? 私、まだ心の準備が――」


 女性専用車の中は凄いことになっている。


 今まさに、濡れた布で軽く身体を拭き合いっこしている最中なんだけど、《簡易鑑定(リサーチ)/下級》を試してみたんだ。

 自分、ミルフェ王女、リザさん、ボクの下着、ローブ、貰った指輪――それが、当たり前すぎることしか鑑定できないのだよ。


 考えられる原因は、ボク自身の魔力が低いことと、下級魔法だってこと。どちらも早急に解決できる問題じゃないから、この魔法は当分の間、単なる疲労蓄積魔法として眠れないときにだけ使おう。


「リザもフィーネに行くわよね?」


 黄金色に縁どられた綺麗なローブを羽織ったミルフェ王女が、後ろからリザさんに抱き着き(おど)すように言う。

 この2人、以前からの顔見知りらしい。まぁ、エリ婆さんの1番弟子とお孫さんだからね、どこかで接点はあったのかもしれない。


「申し訳ないですけど、帰ります」

「でも、聖樹結界があれば魔人すら寄せ付けないのでしょう?」

「ですが、エリザベート様はお目が見えませんので、私がお世話をしませんと――」

「そっか。苦労掛けさせてしまってごめんなさいね」

「こちらこそ、里を守っていただいて感謝が尽きません」


 リザさん、エリ村に帰っちゃうのか――。

 一緒に行こうなんて誘う資格、ボクにはないよね。


「リンネちゃん」

「はい――」


 さっきまでの変質者モードとは違う、真剣な表情のリザさん。


「私たちは皆、リンネちゃんのことが大好きですよ。辛くなったらいつでも帰ってきてくださいね。皆、きっと喜んでくれますから」


 でも、それってボクが銀の使者の役目を放棄して逃げ帰った場合だよね――世界の終わりを、その原因を作ったボクを、どうして喜んで迎えてくれるの――。

 

「リンネさん、私も同じ考えよ。命運を1人の少女に任せるような世界なら、消えてしまっていい。自分の幸せだけを追い求める結果になったとしても、決して間違ってはいないよ。帰りを待ってくれる人がいるのは素晴らしいことだから、私は甘えていいと思う」


「でも……でも、このままでは……ボクにお帰りなさいって言ってくれる人も――」


「リンネちゃん、その先は言わないで。私たちは全てを受け入れて生きているの。生きることを諦めたって意味じゃない。自然に寄り添い、共に歩むのが私たちエルフ。自然が滅びても生きられるほど強くはないの」


 強くなればいいじゃん、森を捨ててでも生き足掻いて欲しい――その反論が(のど)まで出掛かったけど、何とか紙一重でぐっと飲み込んだ。

 ボクとは生きた世界も種族も違うんだ、違う価値観を強要してはいけないんだ、そう思ったから。


「今は、何も、わかりません――」


 そう言うしかなかった。

 誰も何も言わず、ボクたちは馬車を降りた。



「おぅ、何だか暗い顔してるな! そんなんじゃ、折角の美人3姉妹が台無しだぜ?」


 相変わらず空気が読めない赤髪だけど、今はそんな彼の存在を有り難く感じる。


「全員髪の色が違うけど?」


 長女は綺麗な金髪ロング、次女は桃色のふわふわ、三女は肩まで伸ばした銀髪だ。

 姉妹と言われたことは凄く嬉しいけど、思わず出たボクの自然なツッコミに、護衛の方々も微笑ほほえんでくれる。


「姫さん。サイルとも話し合ったんだが、俺らは隊商(キャラバン)より先に出ようと思う。あいつらは捕虜の顔を見たくはないだろうし、俺らも急ぎたいからな」

「わかったわ。それならなるべく早く出発しましょう」

「承知した。よし、馭者はさっき決めた通りだ。半刻後に出るから、各自準備しておけよ!」


 ランゲイルさんが的確に指示を出す。


 それから間もなく、ボクたちは交易場を後にした。




 ★☆★




「ここを、こうやって――はい、完成! リンネさん、よく似合っていますよ!」


 ミルフェ王女に絶賛、髪を(いじ)られ中なボク。

 これで何度目の髪型チェンジだろうか。髪を弄る、弄られるのって、何だかとっても楽しい。こればっかりは女の子の専売特許かもしれない。ちなみに、今のボクは安定のポニーテールで一段落中だ。


 突然だけど、女子の髪型について物申します!


 走っているときにポンポン揺れる陸上部女子的なポニテが好き。頭を左右に振る度に優しく往復ビンタしてくれるツインテールも好き。他にも、王道的なサラサラストレートロングだって大好きだし、可愛い顔を優しく包み込んでくれるショートボブだって良いと思う。

 要するに、可愛い子はどんな髪型でも似合うし、可愛いんだ! きっと、今のボクなら世界中の全髪型を制覇できる!! なんちゃってね。



「あぁ、空気読めなくて悪いが――この辺りはまだ森から魔物が出てくる危険地帯なんだよな。もう少し緊張感を持ってくれたら助かる。別にまぁ、嫌いじゃないんだが」


 最後、小声で「目の保養だけじゃなく俺も混ぜろよ」とか付け加えてるお兄さんが、馬車の中に居ますよっと。



 馬車は2台。そこに、ボクたち7名と蓑虫5匹が分乗している。

 前を行く先頭車は、護衛3名が交替で馭者をしながら蓑虫を乗せて馬車を繰る。王女と隊長とボクの3名は後続車の中。馭者はベテラン冒険者のブランさんに任せてある。

 ランゲイル隊長を先頭車に乗せるのが最善だとの多数意見は、隊長権限によって一蹴された。しかもその権限によって彼は美少女2人との同席を勝ち取るまでに至る。この人、将来絶対に背中から刺されそうだ――。


 一行は、時折街道にまで現れる魔物を追い払いつつ、3時間ごとに休憩を取りながら順調に北上を続ける。

 秋の穏やかな天候のせいか、それとも窓から見える景色がずっと変わらない岩石砂漠のためか、比較的和やかな馬車旅が続いていた。

 こういう場合の暇潰しと話題提供に最適なのが髪弄りなんだよね。1人で毛先を弄るのもいいけど、話し相手が居た方がずっと楽しめるもんね。


 日はまだ依然として高い。時刻にすると午後1時頃だと思う。


「フィーネの町でしたっけ? あと何時間くらいで着きそうですかぁ?」


 左手で欠伸を、右手でお腹の音を押し殺しながら、目の前に座る赤髪ツンツン頭に話し掛ける。


「そうさなぁ、2時間も掛からないんじゃないか? 必要ならトイレ休憩を入れるぞ」


 暗くなる前には到着できるらしく、少し安心した。連日馬車で寝ているとエコノミークラス症候群の危険性が――。


「トイレは大丈夫ですけど、お腹が空きました。馬車の中で食事をするのはマナー違反だったりします?」


 隣でせっせと銀髪を櫛で梳かしてくれているミルフェ王女に訊いてみる。


 実は今朝から何も食べていないんだよね。学校でも4限目の途中からお腹を鳴らしていたボクとしては、お昼を我慢するのが辛いの。食欲というより、羞恥心が原因なんだけどね。


 命懸けで走り回っているときはいいんだけど、こういうのんびり旅ではお腹が激しくオーケストラを始めてしまう。あぁ、もし飲食不要系の魔法があったら凄く欲しいよ――。


「そんなことないわよ? 保存食で申し訳ないけど、今のうちに食べておきましょうか。お口に合えば良いけど」


 ボクの布袋には例のカチコチパンが入っているんだけど、折角だから頂くことにする。


「ありがとうございます! 口の方を合わせます!」


 そう言ってにっこり笑うボクに、ミルフェ王女も笑みを返してくれた。



 色彩の薄い乾燥肉や野菜を水で(ほぐ)していくと、徐々に立派なメニューに変わっていく。ちょっと塩っぽい感じはしたけど、日本では味わえない素朴な料理だった。


 その後しばらくは食事の話題で盛り上がった。

 さすがは王族。想像できないようなデザートや飲み物、肉料理が出るわ出るわで、話を聴いているだけでボクと隊長さんは逆に空腹感が増した気がする。



「ところで、王都は遠いんですか?」


 いずれは行くことになる王都について、話のついでに訊いてみる。


「交易場から馬車で片道10日間くらいかなぁ。早馬なら4日で着くと思うけど、魔物がうようよいるから途中の夜営が大変よね」


 馬車なんて乗るのも初めてだから、どのくらいの距離なのか想像が付かない。ちょっと計算してみるかな。


 時速10kmだとして、10時間走れば100kmだよね。10日ってことは、王都までは1000kmくらい?

 確か、フリージア王国って大陸の東半分だったよね。ざっくり3倍したとして、3000km――このロンダルシア大陸は、ちょっと小さいオーストラリア大陸ってイメージかな?


「王女様は、王都に戻らなくても大丈夫なんですか?」


 正直、ずっと気になっていたことを訊いてみた。

 フィーネの町は王都への途中にあるわけではない。フィーネに寄ることでミルフェ王女の王都帰還が遅くなってしまうなら、原因の一端となったボクにも責任がある。それがどんな罪に該当するのかはわからないけど――。


「その点はこっちも好都合だったりするんだよな」


 隊長さん(いわ)く、最寄りの町フィーネで冒険者の護衛を新たに依頼する必要があるとのこと。

 ギベリンがもう1度襲ってくるとは思えないけど、反王党派の襲撃に対しては、いくら用心しても、し過ぎるということはない。安全こそが最優先事項なので、それで数日遅れるくらい問題ないそうだ。


 食事さえ頂ければボクが王都まで護衛をしますよ、まさにそう言おうとしたところで、突然王女様から重大発表がっ!


「実は――フィーネにはもう1つ大切な用事があるの。最近、フィーネの近郊に迷宮が生まれたそうで、その情報収集も行うつもりよ」


「め、迷宮!?」


 迷宮といえばダンジョン、ダンジョンといえばお宝だ。確か、宝箱の中には魔法書が入ってたりするんだよね!


「まじかよ、俺ら冒険者にはそんな情報入ってねぇぞ?」


 身を乗り出して(いきどお)るランゲイルさん。


「フィーネ迷宮の存在、実は国家機密なの」

「おいおい、後からそれを言われても――」

「あのね、私たち3人で迷宮に潜らない?」


「「はぁ!?」」


 あまりに唐突な提案だったので、思わず敬語を使い忘れてしまった――。

 1国の王女が冒険者みたいに迷宮へ入るのって、どうなの?


「なるほど、そういうことか! 迷宮誕生が本当なら、俺の知る限り約50年ぶりってことになる。そして、このタイミングを考えると――勇者を待っていたってことだ!」


 何だかボクだけ理解が追い付かない。

 迷宮が勇者を待つ? いったい、何があるの? お宝は確かに興味あるけど、今はそれどころじゃないよね。


「迷宮探索は確かに楽しそうですが、今は一刻も早く――って、あっ! もしかして、そこに召喚石があるかもしれないってこと?」


「「そう! 」」


 召喚石――あの声は、召喚石で仲間を増やすように伝えていた。その召喚石が、仲間がフィーネ迷宮で手に入るってことか。


「私から説明するわね。あ、あと、私のことはミルフェと呼んでほしいな。私、13歳よ。リンネちゃんより1つだけお姉さんだけど、パーティメンバーになるんだから敬語はやめてね」


「わかった、ミルフェ。一応護衛隊長だからな、俺も付いて行くぜ!」


 赤髪ツンツン頭が太い腕を見せつけてくる。

 別にマッチョ好きじゃないけど、頼もしいとは思う。


「いやぁっ! あんたに言ったんじゃない!」


 ノリノリだった隊長が、椅子から転げ落ちる。

 よし、骨はボクが拾ってあげる!

 敢えて隊長と同じように渋い感じで言ってみる。だって、恥ずかしいんだもん。


「わかった、ミルフェ。よろしくな!」


「ひゃぁん! リンネちゃん、かわゆい!!」


「あ、ちゃん付けいいかも! って、ミルフェちゃん!?」


 ナイスバディ美少女に抱き着かれ、赤面フリーズ状態のボクを見て、嫉妬心に蘇生された隊長さんが物申す。


「あぁ、それなら俺からも言わせてくれ。リンネちゃん――」


「「“ちゃん”はやめて!!」」


「話が違うだろ。ちゃん付けがいいって言ったくせによ。じゃあ、ミルフェさん、リンネさんで良いか? 俺はランゲイル、25歳のチェリボーイだ! 以後、敬意を込めて()()隊長と呼んでくれて構わない!」


 この人、年齢はサバ読んでそうだね。普通に30代に見える。顔も悪くないしモテそうだけど、性格及び言動に思いっきり難ありと見た。


「えっと、話を戻すぜ。俺が言いたいのは、あれだ。リンネさん、メイン武器は棒かい?」


 隊長はボクの腰の布袋から飛び出している黒い棒を見て、険しい表情を浮かべている。


「あ、これは村のエルフさんから頂いた装備で、素材は確か――オオグモの脚だとか」


「「……」」


 引くよね、普通に引くよね?

 でも、硬いし軽いし魔素を含んでいるしで、意外と凄いんですよ?


「リンネさんは棒が好きなのか? 盗賊団の死体から回収した棍棒があるが、使うかい?」


 棍棒?

 モノによってはちょっと興味があるかもしれない。


「どんなのですか?」


「もっと長くて、黒くて、太いぜ?」


 あっ、セクハラ発言?

 お巡りさーん、こっちです!って、心の中で叫びたくなる。


「死体から回収とか――精神的に無理ですよ。そういうのって、呪いが掛かってたりしませんか?」


 セクハラにはスルー推奨です。

 ミルフェちゃんはスルーというより、何も気づいていない様子――まぁ、お姫様はピュアが1番だよ。


「呪われてはいないと思うが。それなら俺の予備の剣でも使うか? そのクモの脚よりは役に立つだろ」


 詰まらなそうに話題を変えるランゲイルさん。でも、剣はちょっとね。


「ボク、《|棒術/下級》があるんですよ。あと、剣や槍や斧はちょっと。血が出ているのを見ると気絶してしまいそうで」


「はっはっは! 違いねぇ! 子どもが血塗れに慣れちゃダメだよな!」


「武器はフィーネで探そう? で、そろそろリンネちゃんを返してもらうわ。さぁ、情報を共有するわよ」



 その後、小1時間ほど説明が続いた――。


 ミルフェちゃんによると、王国は残り7つの召喚石の在処(ありか)を全力を挙げて捜索中だそうだ。

 銀の召喚石が実際に点滅するまでは、召喚石=ただの宝石だと認識されていたんだって。確かに野球ボールくらいのサイズなので、立派な宝石にしか見えないもんね。

 王国全土で行われた捜索の結果、得られたのは1つの確定情報だけ。他の6つは依然行方不明だそうだ。


 現時点でわかっている1つとは、大陸北部にある大迷宮だ。その奥には人が進入できない結界があって、その地の伝承と合わせて考えると、召喚石がある可能性が高いという。


 未確定情報でも有力なのは、残り6つのうちの4つが西の王国領内にあるのではないかということ。その他、大陸北東部の離島にも怪しいと思われる神殿があり、現在調査団を派遣する準備段階なんだって。


 整理しよう。


 1.所有中(銀)

 2.フィーネ迷宮に?

 3.王国北部の大迷宮に?

 4.王国北東部の離島に?

 5.たぶん西の王国

 6.たぶん西の王国

 7.たぶん西の王国

 8.たぶん西の王国


 もうこれ、ドラ〇ンレーダー的な物を作った方が早い気がする。

 普通に考えて無理でしょ。7つの野球ボールを、たった100日間で、オーストラリア大陸から探し出すとか――。


「フィーネの後は、北に向かうべきですか?」


 うまく行けばだけど、効率よく半分ゲットできるかもしれない。


「そうね。ただし、北の大迷宮は難易度が高いの。最奥の結界まで辿り着けた人はごく少数しかいないんだって。あと、私がお手伝いできるのもフィーネだけになりそう――西の王国へ交渉と調査に向かう予定だから」


「あれ? 東西の王国は仲が悪いと聞いていたけど、大丈夫?」


「昔はね。今はそれどころじゃないでしょ。それに捕虜の件もあるから、少なくとも協力はしてもらえるはずよ」


 なかなか大変な旅になりそうだったけど、東西の王国が全面的に協力してくれるのは助かる!


「前方に魔物多数!!」


 突然上がった馭者の悲鳴が、一瞬にしてボクたちから平穏な旅を奪い去った!

<召喚石の在処まとめ>


1.所有中(銀)

2.フィーネ迷宮に?

3.王国北部の大迷宮に?

4.王国北部の離島に?

5.たぶん西の国

6.たぶん西の国

7.たぶん西の国

8.たぶん西の国

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