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異世界転生ダンジョンマスターとはぐれモノ探索者たちの憂鬱~この世界、脳筋な奴が多すぎる~  作者: 北乃ゆうひ
第三章 樹海の迷廊に挑み戦う探索者たち

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3-32.経験と蓄積と定着


 ミーカの店で食べるだけ食べたサリトスたちは、お店を出て探索をはじめた。


 俺の横で食べるだけ食べてるミツは、サリトスたちが食べ終わって探索に戻った今もなお食べ続けている。


「腹、壊すなよ?」

「大丈夫ですッ、御使いは体調不良とかありませんからッ!」


 どこか自慢げに胸を張る。まぁ本人が言うんだから大丈夫なんだろう。

 ほっぺたにホットケーキの欠片を付けながらなのが、一切の説得力をなくしている気がするけど。


 その後、しばらくサリトスたちの様子を見てたけど、どうやら今日は本格的な探索じゃなさそうだ。

 恐らくはデュンケルを加えた状態での、探索や戦闘の調整のためなんだろう。

 

 少なくともサリトスたちの探索は大きく進展しなさそうだ。

 ほかの探索者(シーカー)の様子も見るが、これまでと似たり寄ったりの様子だ。


 ……となると。


「ミツはしばらくここで食べながら見てるか?」


 俺は席を立ちながら、ミツに訊ねる。


「はい。アユム様はどちらへ?」

「ちょっと身体を動かしたくてな」


 ミツはこてりと首を傾げた。その仕草はどこか小動物じみていて可愛らしい。


「考えてみたら、ダンマスになってから食って作って見て眠って……くらいしか動いてないし」


 いやまぁ、作る――にカテゴライズしたダンジョン作成も料理も、動くってほど動いてるもんでもないけど。


「ダンマスは基本的に肉体状況は私たち御使いに寄りますので、いわゆる生活習慣病とかとは無縁ですよ? やろうと思えばDPで肉体状況や肉体環境を調整できますし。ふつうなら無駄遣いに近い行為ですが、アユム様には余裕がおありでしょう?」

「身体的にはそうなんだろうけど、心はそうじゃないからな。食事や睡眠だってそうだろ?」


 調整できるんだ。DPで。自分の肉体も。

 そんなことに胸中で驚きつつも、今のところは特に実行する気もない。

 ルーマの取得程度ならいざ知らず、肉体をそれで弄るってのは、何か違うというか何というか……。


「食事や睡眠と同じ、というのでしたら納得です。

 さすがに精神や心の調整までは、DPなどではできませんからね」


 もぐもぐと何皿目とも分からないホットケーキを口に入れ、ミツはうなずいた。


「美味しいというコトが、ここまで心を満たしてくれるものとは思いませんでした。それを思うと、確かに不要とまでは言えません」


 セブンスにお代わりを頼みながらそう告げるミツ。とても説得力があるなぁ……。


「そんなワケでちょいと運動してくる。何か変わったコトがあったら呼んでくれ」

「はい」


 そうして俺は管理室を出て廊下を歩く。

 とりあえず、運動場は俺の居住区内には作ってあるんだけど、どうしようかな。


 何をしようかと考えていると、ちょうどスケスケが対面からやってくる。


「スケスケか。ちょうどいいや」

「何がご用ですか?」

「おう。悪いんだけど、おスケに変わって貰えるかな?」

「かしこまりました」


 スケスケが一つうなずくと、白かったその身体――というか骨――が、薄桜のような色に変わる。

 ……正直、微妙な変化すぎて見た目はあんましわからんけど。


「お呼びですかや、主様(ぬしさま)? わっちに何か入り用で?」


 色の変化に合わせて、声も言葉遣いも女性のモノへと移り変わる。

 スケスケは、主人格であるスケスケの他に、女性剣士のおスケ。男鍛冶師のスケマサという人格が宿っている。


 ちなみに、スケルトンとして俺に召喚されて以降の記憶は三人で共有をしているそうだ。


「ちょいと、付き合って欲しくてね」

「くふふふ……いややわぁ主様(ぬしさま)。そうは言っても、この身はすでに洒落も喋れぬ髑髏(しゃれこうべ)。ましてやわっちは、生前に伴侶のあった身でありしてな。お誘いは嬉しくありんすが、主様(ぬしさま)の身と醜聞を思えばお断りを……」

「いや、そういう付き合えじゃないから」


 少なくとも、洒落を喋れないってのは嘘だしな。


「それではどのような?」

「軽い運動だな」

「……主様(ぬしさま)には(ねや)髑髏(どくろ)を抱きしめんご趣味が?」

「ねぇよッ、ンな趣味ッ!」

「それはそれで傷つく言い方ですなぁ」


 ちっとも傷ついた様子もなく、おスケはカラカラと笑う。


「お前、本当に生前は剣士だったのか? なんか言動が、ミーカみたいなんだけどさ……」

「くふふふふ……。ミーはんと違って、わっちはふつうの人間でありんしたよ。

 もっとも、主様(ぬしさま)のお考えになっとる場所で働いていたんは、その通りでありんすが」

「金持ちや貴族相手の、高級な方だろ? 街の片門閉じるのにべらぼうな金が必要だったりとかさ?」

「おや? ご存じで?」

「マジでそういう場所だったのか?

 生前に暮らしてた国は、大昔はそういう街があったんだよ。だから言ってみただけなんだけど」


 ベーシュ諸島は和風の国だと聞いていたけど、まさか吉原に似た土地もあるとは思わなかったな。


「……で、おスケが働いてたのって、そういう高級娼館の用心棒でってコトだろ?」


 屈強な男というのは確かに抑止効果は高いだろうけど、威圧感のせいで客の気分が萎えかねない。たとえ受け付けだけであったとしても。

 その点、用心棒が女であれば多少の屈強さがあれど、男ほどの威圧感もないだろう。


「まったく、からかい甲斐のないお人でありすんなぁ……」


 少し不満そうにするおスケに苦笑を返し、俺は本題を始めることにする。


「ちょいと剣術を教えて欲しいんだけど、付き合ってくれる?」

「わっちでよろしければ、お手伝いしましょうや」


 今度は冗談を返してきたりすることなく、おスケは一つうなずいた。





 運動場へと場所を移すと、この場所に入ってくるなりおスケが驚いたような感心したような声を出す。


「このような場所、いつの間にか作ったんかや?」

魔本(タブレット)とDPがあればすぐに作れるからな。空いた時間にちゃちゃっとな」

 

 おスケに答えながら、俺は魔本(タブレット)の画面をタッチする。

 この本には、探索者(シーカー)たちが使っている腕輪の大本となった機能があるからな。

 次元収納もお手の物だ。しかも、腕輪と違って制限がないと来たもんだ。


 そうして、俺が取り出すのは、一振りの小太刀。

 ベーシュ諸島のものではない。日本の小太刀をDPで作りだし、さらにDPで色々と強化した一振りだ。


「短いタチかや?」

「ああ。俺の国で、小太刀と呼ばれてた剣だ」

「コダチ……なるほど、言われればと納得する名でありんすな」


 小太刀を手にして、俺は左手で鞘の先を握り、柄の近くに右手を置いて軽く腰を落とす。

 それを見たおスケの様子がやや変わる。


主様(ぬしさま)は、剣術の心得がおありかや?」

「ないな。本当の斬り合いとかも見たコトないし。芝居なんかじゃ良く見てたけど」


 アニメやマンガ――と言っても通じないだろうから、芝居と言い換えて告げる。

 それで通じたので、この世界にも一応芝居はあるんだろう。


「……であれば、解せませんなぁ……。真剣な戦いではなく、芝居でしか見たコトがありゃせんのに、サマになる程度の構えが出来るんかや?」

「流石に、疑問に思うよな」


 苦笑しながら構えを解いて、俺は種明かしを口にする。


「DPで自分自身にもルーマを付与できるみたいだったからさ、剣術のレベルを5ほど取ってみた」

「そうでありんしたか。それならば……。

 しかし、もっと高いレベルのものにしなかったんかや?」

「ある程度サマになる動きができればそれで良かったからな。欲しいのはルーマに支えられた技術や技量じゃなくて、経験としての技術や技量の方だから」

「どういうコトかや?」


 おスケはイマイチ理解できないのか、腕を組みながら首を傾げた。


「どんなすごいルーマを持ってても、戦場に初めて出たやつが、そのすごいルーマを使いこなせると思うか?」

「無理でありんしょうな」

「それが一つ」

「というと?」

「もう一つ、意味があるんだ」


 どちらかというと、こっちが本命かもしれないな。

 胸中でそう付け加えながら、俺はおスケに説明する。


「技術の――肉体への定着だ」

「わっちは、スケスケやスケマサほど学はありんせん。もうちっと分かり安く言ってくれんかや?」

「そうだな……。

 持っているだけで強くなるタイプのルーマ――それこそ剣術とか槍術とか。これを俺はパッシブルーマと呼んでいる。

 それから必殺技や魔法のようなアーツとブレス。こちらを俺はアクティブルーマと呼んでいる」


 まずは言葉の定義から。

 それは理解できているようなので、そのまま続ける。


「アクティブルーマは、無意識下でスイッチを切り替えるように、使ったり使わなかったりを使い手が選べる。

 まぁ、剣を軽く振ったら勝手に剣圧が飛んでたりするのは困るしな」

「確かに。剣についた血を払う度に地面が削れたりしたら大変でありんすな」

「だから、ここでこのアーツを出そうって時にだけ出るだろ?」


 おスケがうなずくのを確認してから、俺は小太刀を抜いて軽く振るう。


閃翔斬(センショウザン)ッ!」


 自分の振るった剣から閃光の刃が飛んでいく。

 実際にアーツが使えたことに内心興奮しつつ、何事もなかったようにまた剣を構え直す。


「技の名前を叫ぶのは、技発動のスイッチの切り替えを明確にする為のものなんだろう。だから、技量関係なく、しっかりとスイッチを意識できれば、口を開く必要はない」


 同じ技をもう一度。

 ただ、今回は特に声は出さない。


 しっかりと技が出たのを確認してから、俺は鞘に納刀する。


「この通りな」

「無声発動――わっちは感覚でやっておりましたが、そのような理屈がありんすなぁ」


 ただまぁ、しっかりと技術をその身に定着させるんであれば、まずは有声発動を完璧にする必要があるだろうけど。

 今、俺が無声発動できたのは、パッシブによる補正みたいなものだしな。


「おそらく、この世界の多くのアーティストはこの理屈は知らないだろう。だけど、おスケのように可能な奴は少なからずいる。俺が欲しいという経験は、そういう部分の話なんだよ」

「またちょっと分かりづらくなりんした」


 再び首を傾げてしまったおスケに、俺は頭を掻く。


「サリトスやディアリナ。そしてお前もやっているコトをしたいんだ」

「……と、いいますと?」

「パッシブに頼らない、技能の定着。

 もっと言うなら、ルーマとしてではなく技術として発動するアーツ。それを身につけたいんだよ」


 サリトスが使う、走牙刃(ソウガジン)の昇華アーツ。

 ディアリナの使う、剣で別の武器の技を使う継承アーツ。


 このあたりは、その定着によって使えるものだと、俺は睨んでいる。


 武器を扱う技量があがるパッシブルーマはあくまで補助輪。どんなドライビングテクニックを使えても、事故を抑えるアシストが付いているから無茶ができるわけだ。多くの探索者(シーカー)たちは、補助なしだと事故るだろう。


「例えパッシブの補正がなくなったとしても、おスケは剣を振るえるだろ? 多少は衰えるかもしれないけど、おそらく数多の剣士よりも強い」

主様(ぬしさま)の仰る数多の剣士たちというのは、そもそも技術の補正を失ったら戦えない者たちでありんしょう?」


 おスケに訊かれ俺はうなずき、先を続ける。


「補正に頼った素振りでも、それを繰り返し続ければ正しい素振りが身につき、やがて補正がなくても正しい素振りが出来るようになる。

 補正に頼ったアーツであっても、繰り返し使用し続けるコトによって、知識と経験がその身体に蓄積していき、補正がなくとも発動できるようになる。

 やがて繰り返した動きが、経験として蓄積され、肉体に定着すれば、パッシブもアクティブも必要なく身体を動かせるようになる」


 ブレスは、アーツと違って俺にはちょっと分からない概念も多そうなのでハッキリとは言えないけど、似たような部分もあるだろう。


「そこまで行くと、パッシブは技量を補うチカラではなく、技量をより高めるチカラになる。

 アーツも同じだ。使い続け、真に自らのモノとなったアーツは、加減も応用も自在に効かせるコトができるようになる」


 昇華ルーマや継承ルーマは、この世界のルーマに関するシステムに組み込まれているけど、同時にルーマの先にあるものとして設定されている気がする。


「心当たり……ありんす」


 自らの腰に帯びるタチの柄を撫でながら、おスケが神妙そうにうなずく。


「そこまで技量が高まっているのなら……それはもう、風聞再現(ルーマ)ではなく、我流技術(スキル)と呼んでいいだろうさ」


 いずれは世界にスキル――という名称は俺が勝手に付けたものだけど――の使い手が増えてくれることを創造主は願っているのではと思うところはある。

 だからこそ、サリトスが昇華アーツを使った時、ミツは感激していたんだろう。


 補助機能としてのルーマではなく、高めた技能を扱うスキルを当たり前とする世界。

 この世界の人間が、そう進化するように、ルーマというシステムは設計されているのだろう。


「ルーマではなく……スキル……」


 なにやら感極まったように、おスケは自分の両手を見下ろしている。

 はて? どうしたんだろう?


 やがて、その両手を嬉しそうにぎゅっと握りしめて顔を上げた。


 まぁいいか。


「さて、長々と説明しちまったけれども結論としては、だ。

 俺はさわりでもいいから、最低限のスキルを手に入れておきたいんだよ。いくらDP使って好きなだけルーマを得られたとしても、定着してない能力ってのはどうしたってボロが出る。

 そのボロが致命的だったら、最悪だしな」

主様(ぬしさま)……。主様(ぬしさま)は、何を想定しておるのかや?」


 空洞のはずのおスケの双眸が、確かな意志を湛えたように揺れて見える。

 それはきっと錯覚なんかじゃなく、おスケが――いやその身に宿す三人の魂の全てをもって、こちらに問いかけてきてるから見えたものなのかもしれない。


 それに対する俺の答えは――


「ただの保険、かな。今のところは」


 その程度だ。

 正直、我ながら臆病すぎるとは思うけどな。今のところは、保険以上の何者でもないってのは事実だし。


「そうかや……そういうコトにしておきんしょう」

「そうしてくれ」


 そんな感じで話が途切れる。

 だけど、おスケには俺のしたいことが触りだけでも通じたはずなので、さてここから軽い運動を開始だ。


「そんなワケで、ちょいと付き合ってくれ」

「了解でありんす。ルーマではなくスキルを高めるというのも、面白そうでありんすし……死後にまた、高みを目指す目標が定まるというのも、不思議な運命を感じるものでありんすなぁ」


 そうして、決して軽くない運動が始まった。

 ……おスケ、意外にもスパルタだぜ、こいつ……。




 しばし、おスケを相手に汗を流していると――


《アユム様、よろしいですか?》


 魔本(タブレット)を通じて、ミツが声を掛けてくる。

 おスケに軽く手を挙げて見せてから、俺は魔本(タブレット)を起動させた。


「どうした?」

《サリトスさんたちが、クロバーの大樹に樹液を塗り、熊に倒させるコトに成功しました》

「おお。何かキッカケとかは?」

《どうにも事前に考えてきていたようです。それから巨木を倒せるだけ倒してから帰還しました》

「そっか。なら明日辺りはバドたちが巨木を倒しにくるな」


本格攻略は明後日以降だろうけど……ちょいと楽しみだ。


「他に面白そうなコトはありそうか?」

《うーん……私の目からは特には》

「了解。なら、そろそろいい時間だし、夕飯にするか。

 汗だくだから、シャワー浴びてから食堂に行くよ」

《はいッ! 今日の夕飯も楽しみです》


 通信を切り、魔本(タブレット)をしまった時に、おスケが訊ねてきた。


「時に主様(ぬしさま)。ふと、思ったでありんすが」

「ん?」

「セブンスはんやミーはんの話を聞くに、本日の御使い様は探索者(シーカー)たちを見ながら、ずっとホットケーキを食されていたようでありんすが……そのまま夕餉を楽しみにするなんて、どれほどの大きな胃をお持ちなのかや?」

「……それは俺も気になっているところだ」


 俺的七不思議の一つである。

 他の六個は何も考えてないけどな。


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アユム「堪能しましたと言いつつもどこまで食べるんだ?」

ミツ「私の胃袋は宇宙です」

アユム「神の使いが言うと洒落に聞こえないな」


 もうちょっとふんわりとした説明回を兼ねた探索回の予定だったのですが、わりとガッツリとした説明回になってしまいました……。

 次回は、軽くバドたちに触れたあと、デュンケルの狼リベンジの予定です。


 感想欄にて、3-2話の12報酬が11個しかないのでは?と指摘があったので確認してみたら、まさに指摘の通りだったので、「戦鎚」を追加しました。

 嫁さんから「せっかくなら、フライパンやスコップにすればいいのに」と言われ、心引かれましたが、そこはグッと堪えて普通に鎚です。まぁそれらを出すとしたら別の場所でというコトで。



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 https://book1.adouzi.eu.org/n2350fi/

 いわゆる特撮の2号戦士って奴を演じている俳優が、異世界に迷い込み、変身能力を実際使えるようになっちゃったという話です。

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