3-26.『フレッド:二人を抱えて』
昨晩の更新が、今年最後の更新と言ったな。あれはウソだ。
どういうわけだか、上から落ちてきたデュンケルとごっつんこしちまったディアリナ嬢ちゃんは、当たり方が悪かったのか、その場で目を回しちまった。
「どーすんの? サリトスの旦那?」
「四人は残るからな」
サリトスの旦那の返答に、バド君、ケーン君、ゼーロスの旦那が首を傾げる。
そうだろう、そうだろう。
オレも馴れてなかったら、そういうリアクションしただろうね。
だが、今のオレなら理解ができる。おっさん、成長したんだぜ。
「誰か二人が担いで、探索はいけそうなとこまでみんなで――ってコトでいいのかい?」
「ああ」
オレが言うと、サリトスがうなずく。
それに、バド君たちも納得したようだ。
倒れたディアリナ嬢ちゃんと、目を回してるデュンケル。
二人をどうするか――抱えて脱出するか……と、考えた時、誰かが二人を担いでも、動ける奴は四人残るなら、多少の探索は出来るんじゃないか……っていうのが、サリトスが言いたかったことだ。
「なら、わしがデュンケルを担ごうかの」
デュンケルの方は、ゼーロスが担ぐらしいんで、オレは――と。
「んじゃ、おっさんがディアリナ嬢ちゃんを担ぐかね」
そんな提案をしてみると、スッとアサヒちゃんが手を出してきて、オレを制した。
「そのようなお顔をされている時のフレッド様とケーン様は信用できませんので」
「おっさんッ、俺に飛び火したぞッ!」
「ええッ!? おっさんのせい?」
そんなワケでディアリナの嬢ちゃんは、アサヒちゃんが担ぐ形になったわけだ。
「んじゃ、ゼーロスとアサ姉は中央な。ケーンは殿で。
フレッドのおっさんは、今まで通りの先導を頼む――って感じでいいか、サリトス?」
「ああ。問題ない」
いやはや。
初めて会った頃の初々しさとか、十把一絡げなふつうの探索者っぽさは無くなってるわねバド君ったら。
サリトスの旦那と、作戦面でちゃんと会話できるとか、若者の成長っておっさんの涙腺によろしくないわー。別に泣かんけども。
「んじゃ、ちょいと先を見てくるぜ」
一言告げてから、オレはこの部屋にある扉の一つへと向かう。
この部屋には扉が二つ。
北側にある入ってきた扉と、東側にある先の分からない扉。
その東側の扉を少し開き、その隙間から様子を伺いつつ、ゆっくりと開けていく。
扉の先にあったのは正面と左右に伸びる細めの廊下だ。
少しだけ正面の廊下の様子を伺うと、熊の巣らしきものが見える。これ以上進むと、倒木の壁を壊しながら熊が飛び出してくるだろうな。
正直、オレ一人で勝てる相手じゃないんで、無視だ。無視。
正面は危ないと分かったし、右へ伸びる廊下は途中で左に曲がっている。つまり、熊の巣の裏を通る道なんだろう。
左に伸びる廊下は、行き止まり。
だが、よく見れば突き当たり少し手前に扉が見えた。
オレは少しだけ考えてから、その扉へ向かって歩き出す。
扉を少しだけ開けて中を覗くと、わりと広い部屋になっているみたいだ。
隙間から部屋の中の様子を伺っていると、部屋の片隅に青い扉を見つけたオレは、ゆっくりと扉を閉めた。
周囲に気をつけながら素早く元の部屋に戻って、サリトスたちに報告をする。
「青い扉は今のところ、アドレス・クリスタルとセットだ。ならばその部屋には、アドレス・クリスタルもどこかにある可能性が高いな」
そんなワケで、オレたちは青い扉のあった部屋を目指す――ってほど大げさな移動距離じゃないけどな。
道中でグレイヴォルフとダンジョン豚ことブートンが行く手を塞いだけれども――まぁ、サリトスの旦那とケーン君が瞬殺した。
凶悪な面構えな上に、獲物を見つけるとしつこく体当たりをしてくる以外はふつうの豚なブートンは、死体をさっさと腕輪にしまって、先に進む。
扉の先の部屋にモンスターとかの気配がないのを改めて確認してから、オレたちは扉を開いた。
中はちょっとした広さの部屋になっていた。
端っこに青い扉があること以外には、特に目立ったものはない。
……いや。
「サリトスの旦那。扉の脇に細道がある。
ちょっと、覗いてくるぜい」
「ああ。頼んだ」
旦那に一声掛けて、オレは軽い足取りで青い扉の脇を抜けて、細道へと入っていく。
道の先は十字路になっていて、正面にはアドレス・クリスタル。
左には、骸骨商店の扉。そして右には――
「なんだこりゃ?」
コウモリの羽をベースに、白いモコモコとか、いろんな色のリボンだとかで飾り付けられた扉がある。
扉には大きめなネームプレートが付いて――
『ねざー☆すいーつ☆さきゅばす☆ミーカの美味しいお菓子のお店 プティ☆アンヘル☆カイド』
――と、書かれていた。
胡散臭いこと極まりないな……。
さらには店の前に看板が置いてある。
丸っこく可愛らしい文字で書かれている内容はというと――
『リトルメアのとろける囁きより甘くて美味しい魅惑のお菓子は、ナイトメアの甘美な悪夢よりも夢心地に、サキュバスの魅了の凝視よりも、あなたの心を魅了します☆ ※なお、本物の魅了成分は一切含みません。だから怖くないよ☆ おいでおいで☆』
――である。
……怪しさしかない。
「ま、報告だけするか」
オレは自分の腕輪にアドレス・クリスタルを登録してから、旦那たちのところへと戻った。
戻って報告をすると、まずはアドレス・クリスタルの登録をしたいということで、改めてクリスタルの前までやってくる。
気を失ってるディアリナ嬢ちゃんも、デュンケルも、担いだままクリスタルに近づけてやれば、腕輪に勝手に登録された。
これで二人もここから再開できるわけだ。
「こっちの扉も気になるわいが……ちょうど良いタイミングじゃ。わしは帰還を提案するわいな」
「俺もゼーロスの意見に賛成だ。サリトスたちはどうだ?」
ゼーロスとケーンの意見にオレは下顎を撫でる。
「おれも一度、帰還だな。
ディア姉やデュンケルが目を覚まさないんなら、見慣れない扉の先で戦闘とかになった時が大変だ」
「私も異論はありません」
バド君とアサヒちゃんも、帰還っと。
「オレもそれでいいと思うわよ。冒険は好きだが、危険を冒すことだけが冒険じゃないだろうしね」
まぁオレもみんなの意見に賛成だ。
「クリスタルの登録もできて、青い扉も見つけた。
仲間が一人倒れていて、遭難者も一人確保している。
この状況は無理すべき状況じゃないでしょうよ」
オレがそう告げると、サリトスも一つうなずいた。
「そうだな。フレッドの言う通りだ。満場一致――というやつだな」
こうしてオレたちは、今回の探索を終了する。
意識を失ったデュンケルは、どうして良いか分からないんで――とりあえず、オレたちはアジトの客間へと連れて行った。
その日の夜――
「迷惑かけちまったね」
夕食の席で、ディアリナ嬢ちゃんはバツの悪そうな顔をして後ろ頭を掻く。
それには、オレも旦那も気にするなと返した。
「しかし、何でデュンケルは木の上から落ちてきたんだろうね」
「恐らくだが、あのクロバーの木の裏側から登ってきたんだろう」
オレの疑問にサリトスは首を撫でながら答える。
「木の向こうは恐らくボス部屋だ」
それだけ言って、ソーセージにナイフを入れ、切れ端を口に運ぶ。
いつも通り、言うだけのことは言ったというような調子だ。
オレとディアリナの嬢ちゃんは顔を見合わせて首を傾げあう。
今回は意味がわからん――そう思ったところに、麦酒のお代わりを運んできたコロナちゃんが答えをくれる。
「デュンケルさんって基本はソロなんでしょう?
なら、ボス部屋に入ってみたものの、勝てなくて逃げてきた――ってところじゃないかな。
ほら……ボス部屋って入ると、入り口に鍵がかかるタイプもあるでしょう? 正規の方法では逃げられないってコトで、木を登ったんじゃないかな」
コロナちゃんの説明でようやく合点がいった。
登ったあと、降りるときに失敗したというところか。
「直前にリーフヴォルフが落ちてきたのって、樹上であいつが戦ってたってコトだね」
「そうだろうな。あの狼がクロバーの木に生息しているというのなら、ボスとの戦闘中に、乱入してくる可能性もある……か」
サリトスの推測に、オレたち三人も納得する。
「そうなると、ソロのデュンケルにとっては条件が厳しい戦いになったんだろうな」
ボスとタイマン張りたくても、クロバーの木からリーフヴォルフが大量に……となると、確かにしんどいわな。
「クロバーの木……オレたちがやり合う時にも邪魔してくると思うと、切り倒しておきたいとこだわね」
「でも、どうやるんだい? 香りのしない倒木だって、どうすればどかせるか分かってないんだよ?」
ディアリナ嬢ちゃんの言う通りなんだよなぁ……。
それが難題だ。
オレは麦酒の入った木杯を一気にあおりながら嘆息した。
「それについてなんだけど、ちょっとした情報を仕入れたよ」
「聞こう」
コロナちゃんが含みを持たせて笑うと、サリトスが即答する。
すると、コロナちゃんは手を開いて出してくるので、サリトスがそこに200ドゥースほど乗せた。
いやぁ……ほんとちゃっかりしてるわね……。
「毎度あり~」
嬉しそうにお金をしまうと、コロナちゃんはピッと人差し指を立てる。
「さて、情報なんだけど」
オレたち三人はそれにうなずき、先を促す。
「香りのしない倒木を壊して先に進んだチームが出たって。
フロア4の、階段のある部屋から見て北側の通路らしいけど。倒木の壁の奥には宝箱があったみたい」
コロナちゃんの言う通路に心当たりは確かにある。
あの辺りには、倒木の壁が多かった。
「どうやって進んだかの情報はあるのかい?」
麦酒を飲んでいたディアリナ嬢ちゃんが、口を拭いながら訊ねると、コロナちゃんは首を横に振った。
「進んだチームが出たって情報しかないんだよねー……」
「そうか」
あの通路にも赤熊が出没するし、通路の始点と終点となるどっちの部屋にも黄熊が縄張りにしている。
そう考えると、やはり熊を利用するんだろうってことは想像つくんだけが……どう利用するかって話になるんだよなぁ……。
「そのチームはどういう状況のあとに、進めたのか――そういう情報はあるか?」
「赤熊とニンジンの群れに挟撃された状況を脱出したら、倒木の壁をすり抜けていったみたい」
「倒したのはニンジンの群れの方だな?」
「うん。探索者チームの能力は聞いた限りだと、熊を相手にするのは大変みたいだし」
状況の脱出――となると、ニンジンの群れを倒して、熊から離れるしかない。
だが、その時に何かをした影響で、倒木の壁が壊れたとなると……。
「俺たちに熊を倒す能力が無かったとして、同じ状況になったらどう行動する?」
サリトスの旦那の問いに、オレと嬢ちゃん、コロナちゃんは少し首を捻る。
「とりあえず熊が近寄ってくる時間を稼ぎたいよね」
コロナちゃんの言葉に、オレと嬢ちゃんはうなずいた。
「その場合、何をするかって話だけど……」
熊が近寄る時間稼ぎ、か……。
好物でも投げればいいけど、あいつらの好物って肉だろ。
酔いどれ鳥の肉か、ダンジョン豚や牛の肉でも投げるべきかね。
そんなことを考えていて、ふと脳裏によぎるものがあった。
――いや、違う。肉じゃない。
「樹液だ」
「フレッド?」
ディアリナの嬢ちゃんが不思議そうな顔をするけど、サリトスの旦那とコロナちゃんは何か合点のいくものがあったようだ。
「甘い香りのする倒木――あれって、ビーケン樹が倒れたやつよね?」
そして、熊たちはビーケン樹の樹液に目がないって話だ。
なら、その先に進んだチームは何をしたのか。
きっと、進み方を見つけたのは偶然だ。
その偶然をどう発生させたかを考えれば、答えは出る。
恐らくだが、熊の好物を把握していたので、時間を稼ごうとしてビーケン樹の樹液を投げたんじゃないかと思うわけだ。それも、ビンに入ったままね。
それがたまたま倒木の壁にでもぶつかって割れたんだろう。
「香りがしないならさせればいい。たぶん、その為の樹液じゃないかって、おっさん睨むわけだけど」
サリトスの旦那たちの目の色が変わる。
「同じ方法で、クロバーの木も倒せたりしないかしらね?」
そう告げて片目をつむって見せると、三人は試す価値はありそうだと笑った。
ちょうどその時だ。
二階から、誰かが降りてくる気配がする。
今、このアジトにいるのはオレたち四人。
そして――意識を失ったままだったデュンケル。
となれば――
「どうやら、お前たちに助けられたようだな」
降りてくるやつなんて、デュンケルしかいないわな。
アユム「二人が入れ替わってなくてよかった」
ミツ「なんですかそれ?」
ミーカ「面白そうな話だよね。短時間で解ける呪いとしてちょっと開発してみようかなー☆」
次回は、チーム:臆病ネズミとデュンケルの夕飯の予定です。
実はちょっと余裕ができたので作業してたらアップできそうだったのでアップしちゃいました。今度こそ今年最後の更新になると思います。
改めて、皆さん良いお年を。





