4-5.『コナ:危険な夜、抜けた先も危険な夜』
引き続きコナ視点です。
コナ視点編はこれにて終了。
腕輪の新しい機能を説明するようなフロアが来るかもと思ったけど、そういうものは特になく、私たちはふつうにフロア8へと到着したらしい。
「ちょっと外の様子を覗くか」
カルフはそう言って、出口の扉を僅かに開いてのぞき込み――
「あれ? この先も丸太小屋だな」
「なら、エクストラフロアってやつなのかな?」
説明用のフロアでなくても、宝箱やモンスターの巣があるような変わったフロアが時々現れるという話は聞いている。
私の脳裏にはそのことが過ぎったけれど……
「いや。たぶん、フロア8なんじゃないか。これ」
言いながら、カルフが扉を開け放つと、そこはちょっとした宿屋の一室のようになっていた。
机があって、イスがあって、ベッドもある。
さらには部屋の片隅に、アドレス・クリスタルまで設置されているし、出口らしき扉とは別に、青い扉まで存在しているのだ。
「安全地帯?」
「みたいだな」
二人でその部屋へと踏み出すと、今し方出てきた扉は消えてしまった。
「階段下りてすぐに安全地帯ってのも変な感じだよな」
「そうね」
アドレス・クリスタルを腕輪に登録しながら、私は少し思考を巡らせる。
「もしかして、このフロアも夜になると危ないのかも」
「どういうコトだ?」
「このフロアも、上のフロアみたいに夜になると妙に強いモンスターが現れるとしたら――今の私たちからすれば、もうここから外へ出るコトはできないでしょ?」
「そうか。安全地帯の外はあんなのがウロついてるんだとしたら、やってらんないもんな」
カルフも思い至ったらしく、激しくうなずく。
そう。
リッパーレクシアやナイトレクシアと呼ばれるモンスターは強敵だった。少なくとも私とカルフじゃ、倒すのも一苦労するだろう相手だ。
しかもあいつらは他のモンスターを捕食することで自身を強化していく。放置しておけば制限なしに強くなってくんだと思う。
そんなのから必死に逃げてフロア8に来たというのに、外に出たらあんなのが群れで待っているとしたら――
「恐らく、このフロア8も、昼間に探索する方がよい場所なんだと思うわ」
「だからアドクリ設置してあって、青い扉まであるのか。
夜になってる場合、一旦帰れるように」
納得したようにうなずくカルフ。
それでも、好奇心だけはどうにもならないようで――
「ちょっとだけ、外を覗いてみる」
出口の扉に近づいて、そこを開けようとする。
その時、何かに気づいて、カルフは自分の腕輪を見下ろした。
「どうしたの?」
「なんか、すごい勢いで文章が表示される……」
「え?」
言われて、カルフの近くまでいくと、私の腕輪にも同じようにすごい勢いでメッセージが表示され始めた。
『付近にいるナイトレクシアは実験体ゾンビの捕食に成功しました。
ナイトレクシアはレベルがあがって、ナイトレクシア2になりました』
『付近にいるリッパーレクシアは影の酔っぱらいの捕食に成功しました。
リッパーレクシアはレベルがあがって、リッパーレクシア2になりました』
『付近にいるリッパーレクシア2は被検体グールの捕食に成功しました。
リッパーレクシア2はレベルがあがって、リッパーレクシア3になりました』
『付近にいるクライムレクシア14はリッパーレクシア9の捕食に成功しました。
クライムレクシア14はレベルがあがって、クライムレクシア15になりました』
『付近にいるナイトレクシアは影の警備員の捕食に成功しました。
ナイトレクシアはレベルがあがって、ナイトレクシア2になりました』
『付近にいるナイトレクシア3は影の不良少年の捕食に成功しました。
ナイトレクシア3はレベルがあがって、ナイトレクシア4になりました』
『付近にいるリッパーレクシア5はナイトレクシア2の捕食に成功しました。
リッパーレクシア5はレベルがあがって、リッパーレクシア6になりました』
「…………」
「…………」
それでもカルフはゆっくりと扉を開けて隙間から外を覗き――ゆっくりと閉めた。
「腕輪からの情報通りの光景が広がってた」
「そう……」
私とカルフはしばらくの間、無言で顔を見合わせたあと、どちらともなくうなずいた。
「帰ろう」
「おう」
思ったことを口にすると、カルフはそれを否定せずに返事をしてくれるのだった。
ここは夜に探索しちゃダメなフロアだ……ッ!
どう考えても、外には地獄が広がってるとしか思えない……ッ!!
青い扉をくぐって、ラヴュリントスのエントランスへと戻る道、カルフがそういえば――と腕輪を示した。
「リッパーレクシアとナイトレクシア。鑑定してたよな?」
「そうね。ここを出る前に確認しておきましょう」
===《ナイトレクシア ランクB+》===
ラヴュリントス固有種。レクシア種という特殊な種族。
左手が異様に肥大化した人型モンスター。左胸にφのような模様がある。
全身が緑色のコケのようなものに覆われており、体の各所から金属の骨のようなものがはみ出している不気味な姿をしている。
星灯りがなくとも、夜の森でも問題なく活動できる眼を持っているものの、その眼にとって昼間の光は眩しすぎるため、昼間は物陰でじっとしている。
パワーとスピードで相手を圧倒する戦い方を得意とする反面、非常に打たれ弱い。猪突猛進なスタイルから、搦め手にも弱い。
クラスランクを持たないが、ほかのモンスターや生き物を捕食してパワーアップする。
そのパワーアップは最高99まで到達する。
レベル5を越えるまでは、同類であるレクシア種を攻撃するようなことはないが、レベル5を越えた個体は同類のレクシア種であろうと攻撃するようになる。
ドロップ
通常:レクシアの左腕鉄骨
レア:レクシアの金属肋骨
クラスランクルート:
特殊なモンスターの為、クラスルートはありません。
===================
===《リッパーレクシア ランクB+》===
ラヴュリントス固有種。レクシア種という特殊な種族。
刃のような平たく鋭い骨に肉が付いてるようなモンスター。頭部側面にφのような模様がついている。
人型ながら、頭部が三日月状になっており、鳥や虫を思わせる。
体も曲線と鋭角で構成させているかのような姿。かろうじて下半身はふつうの人間を思わせる。
陽光が非常に苦手な為、夜にしか活動しない。
両手の指は鋭い鎌のようになっており、これで獲物を容赦なく切り裂く。
ナイトレクシアを越えるスピードを持ち、防御力はこちらが上。
爪の攻撃力は高いが、元々の筋力は高くない。
知性は低く食欲任せの行動が多い為、搦め手に弱い。
クラスランクを持たないが、ほかのモンスターや生き物を捕食してパワーアップする。そのパワーアップは最高99まで到達する。
レベル5を越えるまでは、レクシア種を攻撃するようなことはないが、レベル5を越えた個体は同類のレクシア種であろうと攻撃するようになる。
ドロップ
通常:レクシアの鎌爪
レア:レクシアの刃骨
クラスランクルート:
特殊なモンスターの為、クラスルートはありません。
===================
「うあ。放置しとくと危ないやつだこれ……」
「でも、一匹倒すのだって難しいのに、イチイチ相手にしてられないだろこれ」
「そうなのよねぇ……」
レベル1すら相手にしててシンドイってのに、放置しとくと延々と強くなっていくとか勘弁願いたい。
あと、とんでもないのも一匹混ざってた気がするけど、見なかったことにしたい。
フロア7、8……夜に出歩くのは本気でやめた方がよさそうだ。
レクシア種というモンスターが、この二種類だけとは限らないし。
「可能な限り昼間の探索を心がけるしかないわね」
「アリアドネを常に用意しておいて、日が暮れたらとっとと帰る。これだな」
「ええ」
そうして、私とカルフはラヴュリントスのエントランスから外に出た。
これから帰っても王都へ着く頃にはだいぶ遅くなってしまうので、ラヴュリントスの死に戻り用出口付近へと向かう。
メインの入り口からほど近いこの場所には、王国軍が常にキャンプをしている。
死に戻った探索者の保護がメインなんだけど、必要があれば有料ながら物資の補給や寝床を貸してくれるのだ。
「すみませーん」
「はい」
「寝る場所を貸して欲しいんですけど」
「構いませんよ。一人50ドゥース頂いておりますが」
「わかりました。二人分、お渡ししますね」
「確かに。あそこの緑色のテントをご利用ください」
そんなワケで、今日はここへお泊まりだ。
明日になったら、フロア8の続きをするとしよう。
「あの」
そうしてテントへ向かって歩き出そうとすると、宿泊施設貸し出しの受付をしてくれた兵士さんが神妙な顔をして、訪ねてくる。
「つかぬコトをお伺いしますが……」
「なんですか?」
「この時間になって急に死に戻りされる方々が増えてきたんですが……心当たりとかありますか?」
「あー……」
むしろ、心当たりしかない。
私とカルフは顔を見合わせてから、軽く肩を竦めあった。
「フロア7は日が暮れると出現モンスターが変化するんです。
かなり凶悪なのが二種類暴れ回るんで、まともに戦わず逃げるのが正解なんですよ」
それでだいたい察してくれたらしい。
「逃げずに戦ったか、逃げきれなかった人たち――というのが、死に戻ってきてる人たちなんですね」
「そうだと思うぜ。それに、階段やアイテムに化けてるモンスターもいてな。必死に逃げて、ようやく階段だと思ったら偽物でしたー……みたいなのもあるからな」
カルフが補足すると、王国兵さんもちょっと顔が強ばる。
「ず、ずいぶんと凶悪なフロアなんですね……」
「フロア8の夜はもっと凶悪っぽいけどな」
「フロア6以降は解禁されたばかりなんで、まだまだ増えると思いますよ。死に戻りする人たち」
私たちよりも遅い時間から探索を始めた人たちがいるとしたら、今がちょうどフロア7の探索中だろう。
さらに言えば、手柄ほしさに我先にの精神で夜も構わず進むタイプの人たちだってたくさんいるわけだしね。
「あのぴょんぴょん跳ねる廊下でレクシアたちとやり合わずに済んだのは幸運だったかも……」
「確かに、あんな場所でやり合いたくはないわな」
そうして、私とカルフは王国兵さんに挨拶をしてから、緑のテントへと向かった。
「朝になったら、フロア8へ向かうわ。
ロープの余力はあったわよね?」
「あったハズだけど、なかったらここで多少は補給できるだろ。
ここに在庫がないなら、フロア8行く前に、フロア5の骸骨商店に寄っていけばいいさ。アドクリや青い扉も近かったろ、あそこ」
「そうね。面倒だけど、準備は確実にした方がいいだろうしね」
そうして、翌日の算段たてた私たちは、緑のテントの中に用意してある寝袋をありがたく利用させてもらう。
――と、その前に。
「カルフ。こっち見ないでよ」
「へーへー」
軽金属の胸当てをはずして、上着を脱ぐ。
濡れたタオルで体を拭いて、予備の上着に着替えた。
ズボンも同じように脱いで体を拭いて予備のズボンに替えて――よし。
「女って面倒くせーよなー」
「うるさいッ! むしろ、男どもが気にしなさすぎなのッ!」
実際、数日かけて潜るようならいざしらず、ラヴュリントスみたいに小刻みに行って帰ってを繰り返せるなら、可能な限りは身体を清めたいのが乙女心だと思うのよ。
結構、女性探索者は同意してくれそうなんだけど……。
男どもって、本当に気にしないところあるのよねぇ……。
一方その頃――
サリトス『クライムレクシア……あんなものもいるのか』
ディアリナ『本気の準備が必要な相手だねあれは』
フレッド『ナイトやリッパーと違って狩り方が確立できないのよなぁ……』
ディアリナ『遭遇したらとっとと逃げるに限るね。今日はもう素直にここの宿で一夜明かすべきさね』
これにて、コナ視点によるローグエリア探索終了です。
次回はアユム視点になります。
本作の書籍版
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