サンタさんのぼうし
クリスマスの前の日。
町には白い雪がしんしんと降っていました。
木の枝も、道の角も、すっぽり白い毛布にくるまれて、
まるで大きなケーキのように見えました。
その町のすみっこに、古い帽子屋さんがありました。
《ほしぞらぼうし店》という名前の、ちいさなお店です。
ドアについた銀色の鈴が、風にふれてチリンと鳴りました。
店主は、白いひげのあるやさしいおじいさん、クロフトさん です。
たくさんの帽子を、ひとつひとつ手作りしているのでした。
その日の夕方、店のドアがコトリと音をたてました。
「すみませーん。帽子、ありますか?」
雪でほっぺを赤くした男の子が入ってきました。
小学生のリクです。
「いらっしゃい。寒かったでしょう。さあ、お入りなさい」
クロフトさんはにっこり笑いました。
「ぼく、サンタさんのプレゼントを探してるんです。でも、お金はあんまりなくて……」
「プレゼントをあげたい相手は、だれかな?」
「入院してる妹のミナです。ずっと病院にいて、クリスマス会にも来られなくて。窓から雪しか見られないから……笑ってもらえるものがいいんです」
クロフトさんは、帽子でいっぱいの棚をゆっくり見わたしました。
それから、奥にしまってあった箱を静かに開けました。
「この帽子は、特別な帽子です。ひとつだけ、見る夢を叶えてくれます」
そこにあったのは、夜空みたいに深い青い色の帽子でした。
小さな金色の星が、きらりと光っています。
「妹さんにかぶせてあげるんだよ。そしたら、クリスマスの日に……」
「夢がみられるんですか?」
「そう。いちばん見たい景色を」
リクは目を丸くしました。
「でも、ぼく、たくさんお金ないです」
「気にしなくていい。その想いがあれば、じゅうぶんだ」
リクは帽子をぎゅっと抱きしめて家へ走りました。
雪がぱらぱら、帽子の上で踊るように落ちました。
クリスマスの朝。
リクはミナの病室へ行きました。
「ミナ、プレゼント!」
「わあ、きれいなぼうし!」
ミナが帽子をかぶった瞬間、部屋いっぱいに光が広がりました。
天井がすうっと消え、見上げると大きな夜空がひらけました。
星がきらきら、雪みたいに降ってきます。
サンタクロースのそりが空を横切り、トナカイが楽しそうに走っています。
ミナは目を輝かせました。
「すごい! 本物みたい! こんなの、見たことないよ!」
リクはほっとして笑いました。
「メリークリスマス、ミナ」
ミナは帽子を抱きしめました。
「ありがとう、お兄ちゃん。ずっと忘れないよ」
光はゆっくり静かに消えていきました。
けれど、ミナの顔には明るい笑顔が残っていました。
夕方、リクは帽子屋さんへ行きました。
「クロフトさん、ありがとう。ミナ、すっごく笑ってました!」
けれど、店のドアに張り紙がしてありました。
《長いあいだ ありがとうございました。
ほしぞらぼうし店は 今日でおしまいです。
みんなの願いが これからも かないますように》
店の灯りは、もう消えていました。
でも空には、たくさんの星がまたたいていました。
「クロフトさんも、どこかで見てくれてるのかな」
リクは夜空を見上げました。
そのとき、遠くで鈴の音がチリンと響きました。
(ありがとう)
雪はやさしい音をたてて降りつづけていました。




