ゆきだるまのポッケ
冬のある朝、町じゅうがまっ白い雪でおおわれました。
窓を開けたはるとは、うれしくて思わず声をあげました。
「わあ! すごい雪だ!」
はるとはあわててコートを着て、手袋をはめ、長ぐつをはいて外へ飛び出しました。
外の空気はつめたくて、鼻の先がキーンとしました。
でもそんなことは気になりません。
はるとは雪を見るだけで、胸の中がぽかぽかするのです。
「よーし、今日は大きな雪だるまを作るぞ!」
はるとは雪を丸めて、ころころころ……と転がしました。
雪は思った以上に重く、何度も転んでしまいましたが、それでもがんばりました。
ようやく、大きな体と、少し小さめの頭ができあがりました。
「できた! でも、まだ目も鼻もないや」
はるとは家のまわりを見て、小石や木の枝を拾ってきました。
小石で目を、枝を両手に。
鼻には小さなみかんを差しこみました。
「よし、完成!」
はるとが手をパンパンとはたいたそのとき……
「さむーーい!」
雪だるまが、大きな声を出して体をぶるぶる震わせました。
はるとはびっくりして、しりもちをつきました。
「しゃ、しゃべった!?」
「しゃべるさ! さむいんだもん!」
雪だるまはとてもつめたそうに、両手の枝をぶんぶんふりました。
「ぼく、ポッケっていうんだ。でもね、ほんとはもっとあったかいはずなんだよ。だれかが“冬のポケット”をくれたら、ぼくは寒くなくなるんだ」
「冬のポケット?」
「うん。あったかい気持ちがぎゅっと入った、ふしぎなポケット。それをもらった雪だるまは、ぜったいにとけないって言われてるんだ」
「そんなもの、どこにあるの?」
ポッケは雪だけど、肩をがっくり落としました。
「わからないから困ってるのさ……」
はるとは少し考えました。
あったかい気持ち……
ポケット……
「ねえ、ポッケ。ちょっとまってて!」
はるとは急いで家に戻りました。
自分の部屋の机をひっくり返すようにさがし、ひとつの小さな赤い袋を見つけました。
去年、おばあちゃんにもらった、手作りのミニポケットでした。
中には、はるとの名前の入ったミニタオルが入っています。
「これなら、きっと……」
はるとはまた雪の庭へ走りました。
「ポッケ! 見て!」
ポッケはキラキラした目で、赤い袋を見つめました。
「それ……すっごくあったかい!そのポケット、ぼくにくれるの?」
「うん! これ、おばあちゃんにもらったとってもあったかいものなんだ。だれかの気持ちが入ってればいいんだよね? だったら、きっとこれが冬のポケットだよ!」
はるとがそっと袋をポッケのお腹につけると、ふんわりとしたあたたかい光が広がりました。
雪だるまの体がやさしい白に輝き、周りの空気までもぽかぽかしてきました。
「わあ……あったかい……すごいよ、はると!」
ポッケはうれしそうにジャンプしました。
雪だるまなのに、跳ねるたびに雪がきらきらと光っています。
「これでぼく、もうさみしくも寒くもないや!」
はるとは笑いました。
「よかった! でも、友だちだから、また会えるよね?」
「もちろん! 冬のあいだはずっとそばにいるよ。それに」
ポッケはにっこり笑いました。
「春になっても、きっととけないよ。
だって、このポケットは、あったかい気持ちでいっぱいだから」
空にはふわりと雪が舞い、ひかりに溶けるように降りつづきました。
はるとはポッケの手をぎゅっとにぎりました。
その手は、雪なのに、とってもあたたかかったのです。




