ハロウィンの灯
ハロウィンの夜、村じゅうに小さなカボチャの灯がともりました。
子どもたちは仮装をして歌い、家々を回ってお菓子を集めます。どの家も明るくにぎわい、笑い声が響いていました。
ただ、村はずれの古い家だけは真っ暗で、誰も近づこうとはしませんでした。
そこには、もうずっと前に亡くなった老婆が一人で住んでいた家だったからです。
人々は「幽霊が出る」と言い、子どもたちはこわがっていました。
けれど、一人の少女・麻衣は違いました。
「……もし、本当に幽霊さんがいたら、寂しくないかな」
そう思った麻衣は、かぼちゃのランタンをひとつ手にして、古い家へ向かいました。
扉を開けると、冷たい空気が流れてきました。
けれど、中には薄明かりが灯っていました。
「……だれか、いるの?」
麻衣がそっと呼びかけると、奥から白い影が現れました。小さな老婆の姿をした幽霊でした。
『まあ、子どもが来るなんて。ずっと待っていたのよ』
幽霊はやさしい声で笑いました。
「待っていた……?」
『ええ。毎年、ハロウィンの夜になると、灯りのある家々から笑い声が聞こえてくるでしょう。でも、私の家には誰も来ない。だから、ほんの少しだけ寂しかったの』
幽霊の言葉を聞いて、麻衣は少し考えてから、持ってきたランタンを差し出しました。
「これ……あげる。おばあさんの家にも、灯りがあったほうがいいと思うから」
『まあ……!』
幽霊は驚いたあと、ゆっくりとうなずきました。
ランタンに火が灯ると、部屋が温かく照らされ、壁に光がゆらめきました。
その光の中で、幽霊の姿は次第に薄れていきました。
『ありがとう。私、もう寂しくないわ』
「え……待って!」
『来年のハロウィンも、この灯りをともしてちょうだい。そうすれば、私はずっと笑っていられるから』
そう言い残すと、幽霊は光に溶けるように消えていきました。
翌朝、村人たちは驚きました。
長いあいだ荒れ果てていたはずの家の窓に、小さなカボチャの灯りがともっていたのです。
それ以来、麻衣は毎年ハロウィンの夜になると、必ずランタンをひとつ届けに行きました。
やがて大人になっても、子どもを連れても、彼女はその灯りを絶やすことはありませんでした。
村人たちはそれを「幽霊に捧げる灯」と呼びました。
けれど麻衣にとって、それはただの「約束の灯」だったのです。
幽霊がずっと笑っていられるように。
happy halloween




