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キツネと月のスープ

 深い森の奥に、ひとりぼっちで暮らすキツネがいました。

 名前は コン。

 金色の毛並みを月の光に照らしながら、いつも丘の上で空を見上げていました。

 「今日の月は、まるくておいしそうだなぁ」

 森の仲間たちが眠るころ、コンは空に向かっておなかを鳴らす。

 だって、月を見ていると、どうしてもお腹がすいてしまうのです。


 ある晩、風が冷たくなったころ、コンはとうとう言いました。

「よし。月のスープを作ってみよう!」

 月のスープ。

 それは、月の光を材料にした、あたたかいスープ。

 そんなもの、ほんとは誰も作ったことがありません。

 でも、コンは本気でした。

 まずは、湖の水を汲んできました。

「月が映ってる水なら、きっとおいしいはず」

 それから、森で拾ったミントの葉を入れ、こっそりウサギの畑からニンジンを少し拝借。

 鍋に入れてコトコト煮ると、ふんわり甘い香りが立ちのぼります。

「うん、いい感じ。でも……月の味がしない」

 コンは首をかしげました。

 そのとき、どこからか声がしました。

「ねえ、キツネさん。なに作ってるの?」

 見上げると、空の上から月がのぞいていました。

「月のスープだよ。君の味をスープにしたくて」

「まあ、うれしいこと。でも、ちょっと困ったわ」

「どうして?」

「わたし、自分では味がわからないの。」

 コンは目を丸くした。

「えっ、月なのに?」

「そう。だから、あなたが作ったスープをわたしに教えてほしいの。」

「なるほど。それならまかせて!」


 コンは夜じゅうかけてスープを作り直しました。

 湖の水をもう一度汲み、星のかけらをすこし混ぜて、ミントとニンジンの香りを整えます。

 ぐつぐつ、ぐつぐつ。

 やがて、やわらかい光が鍋の中に広がりました。

「できた!」

 コンはスプーンでひとくち味見しました。

「……やさしい味だ。お腹じゃなくて、心があたたかくなる」

「それが、わたしの味なのね」

 月がやさしく光って言いました。

 その夜、コンはスープを丘の上において、

「はい、どうぞ」

 と月に向かって言いました。

 もちろん、月は飲むことができません。

 でも、スープの湯気が風にのって、夜空へと昇っていきました。

 月はほんの少し輝きを増したようでした。

「ありがとう、キツネさん。今夜はいつもより、あたたかく照らせそう」

 コンはにっこり笑って言いました。

「じゃあ、ぼくもおかわりしよう」


 次の朝。

 森の仲間たちは不思議に思いました。

「コンの丘の上、花が咲いてる!」

「冬なのに、どうして?」

 丘には、小さな白い花が月の形に咲いていました。

 きっと、あの夜のスープの湯気が、やさしさの種になったのでしょう。


 それ以来、コンは満月の夜になると「月のスープ」を作りました。

 味はいつも少しずつ違って、ある夜はミントの香り、ある夜は星の味、ある夜はほんのり涙の味。

 でもどの夜も、月は笑って言いました。

「やっぱりあなたのスープは、あたたかいね」

 コンは少し照れくさそうに笑う。

「ぼくも、君が照らしてくれるからおいしく作れるんだよ」


 今でも森のどこかで、満月の夜になるとスープの香りが漂います。

 それは、キツネと月がいっしょに食べるやさしい夜の晩ごはんの匂いです。

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