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小さな手紙屋さん

 森のはずれに、小さなポストがある。

 赤い屋根と、白いドア。

 そこに住んでいるのは、一羽のすずめ、ピッポ。

 ピッポは森じゅうの動物たちの「手紙屋さん」だ。

 手紙を預かって、届けて、代わりにどんぐりや木の実をもらう。

 朝になると、木の枝から枝へ飛びまわり、夕方にはポストの屋根で羽を休める。

 それが、ピッポの日課だった。


 ある日、リスのミミが駆けてきた。

「ピッポ! 手紙をお願い!」

「だれに?」

「となりの丘のウサギさん。冬のあいさつをしたいの。」

 ピッポはちいさな封筒をくちばしにくわえて、冷たい風の中をひとっ飛び。

 ウサギの巣穴の前に着くと、ポトンと手紙を落とし、かわりにニンジンの欠片を受け取った。


 森の仲間たちはみんな、ピッポに手紙を託した。

「ねえ、ピッポ。あなたのお手紙は?」

 ミミが尋ねると、ピッポは首をかしげた。

「ぼくの? ……出すあてが、ないんだ」

 ミミはちょっと寂しそうに笑った。


 ある雪の夜。

 森のポストに、見たことのない封筒が入っていた。

 淡い青色の紙で、表にはこう書かれていた。

『すずめのピッポへ』

 ピッポは目を丸くした。

「ぼく宛ての手紙なんて、はじめてだ!」

 慌てて屋根の上で封を切る。

 中には、やさしい筆跡でこう書かれていた。

『あなたが運んでくれる手紙が、森をつないでくれています。

 いつもありがとう。

 あなたの翼が、春を運んできてくれる気がします。』

 差出人は『森のどこかより』。

 ピッポはしばらく空を見上げた。

 星が雪にまぎれて、静かに瞬いている。

 心の中がぽっとあたたかくなった。

 それは、どんぐりよりも、ニンジンよりも大切な贈り物だった。


 次の日から、ピッポはいつもより元気に飛んだ。

 森の動物たちに手紙を届けるたび、なんだか羽が軽くなった気がした。

 ウサギさんにも、キツネさんにも、クマさんにも、冬眠前のモモンガにも。

 みんなの「ありがとう」を集めながら、ピッポのポストはいっぱいになっていく。


 やがて春がきた。

 雪がとけ、芽が出て、

 森じゅうがあたたかな空気に包まれたころ、また、青い封筒が届いた。

『ピッポへ。

 春の森も、きっとあなたのおかげでにぎやかになるね。

 こんどはわたしが、お手紙を届けにいく番。』

 ピッポはドキドキした。

「どんな子なんだろう……!」


 次の日。

 ポストの前で羽音がした。

 そこにいたのは、白い羽をした小鳥。ハルという名のメジロだった。

「あなたがピッポ?」

「う、うん! きみが手紙の……?」

 ハルは笑ってうなずいた。

「あなたが飛ぶのを見てたの。だれかのために頑張る姿が、すごくすてきだったから」

 ピッポのほおはすこし赤くなった。


 それから、ピッポとハルはふたりで手紙を運ぶようになった。

 春風にのって、森のすみずみまで飛びまわる。

 ある夕暮れ、ハルが言った。

「ねえピッポ。手紙って、すごいね」

「どうして?」

「だって、声が届かなくても、想いは届くんだもの」

 ピッポは笑った。

「うん。だから、ぼくらの仕事は、森の“こころ”を運ぶことだね」


 その日、夕日が木々の間から差しこんで、ピッポのポストが金色に光った。

 そのあとも、森のポストには毎日のように手紙が届く。

 ありがとう。

 おやすみ。

 またあした。

 小さな言葉たちが、森をやさしく包んでいた。

 ピッポは今日も羽を広げる。


「さあ、いこう。次の想いを届けに」

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