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さかなににらまれた

 ある朝、けんたろうは魚ににらまれました。

 それはスーパーの魚売り場でした。

 ママといっしょに買いものに行って、ママがちょっと目をはなしたすきに、けんたろうは一人で魚売り場のまえに立ってしまったのです。

 並んでいる魚は、どれもこれもピカピカに光っていて、その中の一ぴき、サバに、けんたろうはガン見されたのです。

 サバは、ギョロッとした目で言いました。

「……おまえ、こないだ残したな」

「えっ」

 けんたろうは思い出しました。

 先週の夜ごはん。

 サバの味噌煮を三くち残して、バレないように白ごはんの下に隠したことを。

「し、しらないよ」

「白米のかげにかくしてもムダだぞ。オレら、そういうのぜったい忘れねえ」

「ええええっ!?」

 けんたろうがサバとそんな会話をしていたことをママは何も知らず、さっとサバをカゴに入れました。

「ママおさかな買うの?」

「そうよ。お魚は体に良いのよ」

 ママは呑気に鼻歌を歌いながらお買い物をしていましたが、けんたろうはずっと魚ににらまれている気がしてなりません。

 晩ごはんの食卓では、サバがぴったりこっちを見てきます。

「たべるんだよな? ちゃんと?」

「は、はい……」

 けんたろうはサバをぜんぶ食べました。もちろん涙目で。

 

 その日からです。

 魚売り場に行くと、魚たちがしゃべるようになりました。

 ある日はサンマが、

「おれ、骨が多いけど、それも人生だよな!」

 ある日はタイが、

「わたし、祝いの席でよく食べられるの。名誉よ名誉!」

 ある日はアジが、

「名前がふつうっぽいって言われるけど、味には自信があるよ!」

 けんたろうは毎週スーパーで、魚たちにいろいろ教わりました。

 その結果、魚をめちゃくちゃ食べるようになりました。

「けんたろう、最近すごいお魚食べるね」

「うん。だって、おさかなたち、がんばって生きてきたから……」

 ママはけんたろうが行っている意味はよくわかってないけど、うれしそうでした。


 でも、一つだけ問題があります。

 ある日、肉売り場の牛肉が言いました。

「……おまえ、最近こっち見ないよな?」

「えっ」

 

 けんたろうの、食卓のプレッシャーはまだまだ続きそうです。

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