記憶と時間 3
包装紙はしわ一つなく、恐らく開けてすらいないのだろう。
それほど重くもなく、手のひらに乗ってしまうほど小さなその箱を大切に持ってレイラ様の下へと向かう。
「レイラ様!」
扉を勢いよく開けると同時に、バチーンッとフール様が頬を叩かれているところだった。
(うわぁ……。痛そう)
「何したんですか、フール様」
「……この状況を見たなら、まず僕のこと心配してくれても」
「だって、レイラ様がそこまで怒るようなことをしたんですよね?」
「――自分の気持ちに少々素直に行動しただけだ」
手のひらを撫でているレイラ様は、耳まで真っ赤だ。
何をしたか聞いてしまったけれど、それは野暮というものだったかもしれない。
私はこの会話はここで終わりにすることにした。
「レイラ様、頼まれた物を持ってきました」
「……今、このタイミングで持ってくるなんて。あなたは空気を壊す天才ね……」
「褒められました?」
「褒めていないわ」
レイラ様が私から箱を受け取る。
(あれ、どうしてそんなにも大きく目を見開いているんですか? フール様)
リボンをシュルシュルとほどくと、小箱の中から出てきたのは濃い緑色のビロードが貼られた小箱だった。それは中に入っている物が容易に想像できそうな小箱だ。
(指輪……。絶対に指輪が入ってるとみた!!)
「お邪魔みたいなので退室しますね」
「ええ、またいらっしゃい」
一歩、二歩とフール様との距離を詰めたレイラ様は、王立魔術院の制服のせいで凜々しく見える。
頬を押さえて呆然としながらも、フール様の視線はその小箱に釘付けだ。
「それ……。まだ残っていたんだ」
「ええ。あのとき、あなたを助け出せたら開けようと思っていたの」
「君には救われたけど、君がいない孤独な時間は長すぎたよ……」
「……ごめんなさい」
「僕の時間、動き出したから残り少ないんだけど」
「それより今を大事にしたいわ」
会話を聞いてはいけないと思いながら、足早に部屋を出る。
二人の間にあった出来事を想像するには十分な会話。
けれどきっと、この瞬間から二人の時間は再び動き始めるのだろう。
バタンッと音を立てて扉が閉められた。
時間が経っても、褪めることのない気持ちはきっと存在するに違いない。
だって、この三年間、振り返ってはいけないと思いながら、私の気持ちも色あせることはなかったのだから……。
「シェリア、なぜ泣いているんだ」
「アルベルト」
会いたかった瞬間に、合いたかった人に会うことが出来た。
とても些細で小さなことだとしても、たぶんそれは『奇跡』という名前に違いない。
当然の権利みたいに抱きしめてもらって、安心できる腕の中で私はボロボロと涙をこぼす。
過去の映像を見てきたからなのか、とても、とても長い時間アルベルトに会えていなかったように思える。
「会いたかった」
「さっき会ったばかりなのに……。でも、俺も会いたかった。シェリアがそばにいない時間は、いつだってとても長いから」
抱き上げられて、向かったのはアルベルトの部屋だ。
そこで私は違った意味で時間を止めることになるのだけれど……。
それは少しだけ後の話。
今はアルベルトの温もりを感じたくて、ギュッと腕を回して抱きつき、私は幸せを噛みしめたのだった。
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