闇魔法 2
生温かい視線、しかし残念ながら何ごともなかったことがわかるとジルベルト様は「こじらせ」とよく口にする謎の単語をつぶやいた。
そして、ジルベルト様とミラベル様が王立学園に登校してしまうと屋敷は急に静かになる。
図書館の鍵をマスターキーで開けて中に入る。
ほとんどの本は本棚に収められていた。
「まだほとんど手をつけていないのはこの棚ね」
それは闇魔法の本だ。
(他の属性に比べると圧倒的に少ない闇魔法の本。それにもかかわらず、この図書室には闇魔法の本が一番多い)
「闇魔法を持つ人は現存しないから」
不思議に思いながらも本棚に本を収納していく。
途中、命令に従い昼食を軽く食べて作業を続ける。
「……できたわ。でも本当に魔力が発せられるなんてこと、あるのかしら」
『……』
ドサッと何かが床に落ちた音がした。
振り返るとフィーが、ブンブン尻尾を振りながらお座りしている。
目の前には、アルベルトが私に預けた初代筆頭魔術師が記したというあの本があった。
「……持ってきてしまったの? でも、この本はここにはしまわないのよ?」
『ふぉんっ!! ふぉん、ふぉん!!』
大人しいフィーがこんなに鳴くなんて珍しい。
そう思いながら本を拾い上げ、ふと思いつく。
「そういえば、初代筆頭魔術師は闇魔法を使ったと言われているわね。と、いうことはこれも闇魔法の本なのかしら」
魔力を持つ者には読めない文字。
少しずつ読みすすめているけれど、予言書のように難解な中身と高度な、しかし用途不明な魔法陣。
失ってしまった私の魔力は光だった。
治癒や守りの力が強くもてはやされる光魔法。
対する闇魔法は時を司ると言われているけれど、その研究は進んでおらず、魔力を持っている人間自体が希少すぎる。
「フィー、大切な本だから持ち運んではダメよ」
『ふぉん?』
美しい白い犬。
魔力と色は関係している。真っ白なフィーは、私と同じで魔力がほとんどない。
空いている隙間に本を押し込む。
その時、図書室の明かりがすべて消えた。
驚いていると、淡い緑色の魔法陣が浮かび上がる。
「……フール様?」
魔法陣の中心部に立っていたのは筆頭魔術師フール様だ。彼はフラフラと本棚に歩み寄る。
「ようやく手に入る。あとはこれだったんだ」
その鬼気迫る様子に知らず後退る私に視線を向けることもなくフール様が透明な魔石を本棚に近づけた。
あっという間に純度の高い魔石が闇色に染まっていく。
「……フール様」
「感謝する」
少年のように笑ったフール様は、杖を使ってもう一度魔法陣を描くと消えてしまった。
暗いままの図書室に私一人を残して。
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