図書室と魔法 1
ディールの協力を得て目録が完成する。
パラパラとめくってみれば、探している本が一目瞭然だ。
「あとは、ひたすら本棚に詰めるだけね」
「すまない。俺は手伝ってやれないけど」
「そうね、魔力のない私だけが無制限に触れるから」
少しだけ自慢げになってしまっただろうか。
反省していると、ディールが学生時代みたいに朗らかに笑った。
「ディール?」
「良かったな」
子どもを褒めるみたいに微笑んだディールが私の頭に手を伸ばしてくる。
――パシンッ
一瞬アルベルトが帰ってきたのかと思った。
けれど、私とディールの間に入り、その手を払ったのはジルベルト様だった。
「この人は兄様の婚約者だ。気安く触れるな」
「おお……。アルベルトの弟か、大きくなったな!?」
「……は?」
ジルベルト様が眉根を寄せてディール様をにらみつけた。
「ところで、ジルベルト様が好きな兄様の学生時代の話が聞きたくはないか?」
「……えっ」
そのあと図書室には沈黙が訪れた。
ジルベルト様はしばらく下を向いていたけれど、勢いよく顔を上げるとディールの腕をガシリと掴んだ。
「そう、それなら僕は何を差し出そうかな」
「ふふ、さすがアルベルトの弟君。話が早い」
悪い笑顔で向かい合った二人は、年の差を感じさせないくらい息が合っているようだ。
仲良く去って行った二人の背中を見送り、私は再び本棚をあるべき場所へと戻し始めたのだった。
***
昼食もそこそこにせっせと本を棚へと戻していく。魔臓がダメになってしまって魔法が使えない私は、一つ一つ手作業で戻すしかない。
でも、魔力があったなら触れることもできない貴重な本。そもそも私にしかできない仕事だ。
「……でも、なぜ本は魔力を持つ人が触れると朽ちてしまうのかしら」
『ふぉんっ!』
そのとき、さっきまで退屈そうに図書館の床で寝そべっていたフィーが尻尾をブンブン振りながら鳴いた。
グリーンのソファーの前に魔法陣が浮かび美しい男性が現れる。
サラリと流れた漆黒の髪。切れ長で完璧な美しさのやはり漆黒の瞳。
この世のすべての美しさを凝縮したような彼は、見た目の若さにはそぐわない恐ろしさを感じる。
「やあ……」
「フール様」
彼が微笑めば、ほとんどの貴婦人たちが頬を染めるだろう。実際、目の前で微笑んだ彼はあまりにも美麗だ。
(でも、素の性格を知ってしまっているせいか嘘っぽく見える)
いや、道化のような姿すら偽りの可能性がある。相手は長年筆頭魔術師の座に着いているお方なのだから。
「素晴らしいね!」
次の瞬間、闇夜に浮かぶ三日月みたいな笑顔が、真夏の太陽のような満面の笑みに変化した。
何が素晴らしいのかと理解できずにいるうちに、私の横をすり抜けたフール様は、完成した水魔法の本を集めた本棚の前に立った。
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