筆頭魔術師 4
***
何重にもかけられた結界魔法。
そして魔術師たちによる厳重な警備体制。
さらに、筆頭魔術師の間に関しては、王立騎士団の騎士が守護していた。
顔パスのアルベルトと、招待状を確かめられて、おそらくこの色のせいだろう不躾な視線を投げかけられる私。
そのたびにアルベルトが、その相手に氷のような視線を向ける。
ほとんどの人が慌てたように視線を逸らして去って行った。
――そして、ようやくたどり着いた筆頭魔術師の間。
「お前たち、いったいどうしたんだ。昨日は激アツな恋人同士のようだったのに」
それが、開口一番のフール様のお言葉だった。
「何でもありません!」
「……」
「なるほど、アルベルトが何かやらかしたな」
実はあれからアルベルトとは口をきいていない。
クッ、という忍び笑いのあとには、無遠慮な大笑い。フール様はお腹を抱えて笑っている。
「はははは! あの、氷の貴公子、冷徹の魔術師、氷結の侯爵令息と呼ばれるアルベルトがな!」
「やめてください!!」
「おや、どんな呼びかたをされても表情筋が死んだように何も反応しないお前がそんな顔するなんて。年相応で良いではないか」
目を細めたフール様は、やはり空恐ろしくなるほど美しい。
カツンッという靴音と、ジャラジャラという音。
フール様の衣装は、筆頭魔術師の名にふさわしく色とりどりの魔石が飾り付けられた豪華な物だ。
「まあ良い、本題に入ろう。とりあえず、その本のこともあるが……。少々用があってな。まずは、図書館でも見ていると良い」
「図書館!!」
「ほら、アルベルト。図書館を案内してあげなさい」
「かしこまりました」
「ちゃんと仲直りするんだよ?」
「くっ、普段自由奔放なくせに、こういうときだけ大人のふりするのやめろ!」
アルベルトとは、筆頭魔術師であるフール様にそんなことを言っても良いのだろうか。
心配になってしまい、チラリと横目に見る。
フール様は、むしろご機嫌に見えた。
「はは。僕がどれだけ自由であろうと、君たちの5倍……いや10倍? 以上生きている事実は変わらない」
「じゅ、10倍!?」
「そうさ、永きにわたって生きている。だから、もちろん魔力ゼロになってしまった希少な人間にだって実際に会ったことがあるのさ」
口元に指先をあてて、内緒話でもするようにフール様が呟く。
その言葉を聞いた私は、おもわず喉を上下させる。
「……フール様、それは」
「でも、今はその話をする時間がない。陛下に呼ばれているのでね」
「陛下に!?」
それは大変だ。国王陛下の呼び出しなら、何をおいても馳せ参じる必要がある。
(その割に急いでいる様子がない)
「君たちを招待してなければ、向こうに来させるんだけど、面倒だなぁ」
「さっさと行ってきたほうが良いですよ?」
「そうだねぇ……。じゃ、ちゃんと戻るまでに仲直りしておくんだよ? アルベルト」
「さっさと行け!」
ニヤリと笑うと、フール様は黄緑色の光に包まれて姿を消し、筆等魔術師の間には私たちだけが残されたのだった。
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