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筆頭魔術師 1


 流麗な文字と厳重な封。

 真っ白な封筒と甘い薔薇の香り。

 それは差出人を思わず想像させるような手紙だった。


「……筆頭魔術師レイ・フール」


 現筆頭魔術師フール様は、私たちが生まれる前からその座にいる。

 彼は生まれもっての天才であり、既存の魔術に納得せず新たな世界を切り開いた。

 魔術師を目指す者であれば、誰もが憧れる存在だ。


 そっと開いてみれば、そこにはやはり流麗な文字で王立魔術院へ招待するという文面が書かれていた。


 もし、アルベルトに助けてもらう前ならば、迷わずその招待に応じただろう。

 けれど、迷う理由は……。


「……アルベルトに相談して決めよう」


 王立魔術院へ所属してわずか三年のアルベルト。

 しかし彼は、筆頭魔術師に一番近い位置にいると言われている。


 私がアルベルトの元に身を寄せたこのタイミングで届いた手紙。

 

「アルベルトに不利になるようなことはしたくないし……」


 けれど、アルベルトが帰ってくるのは三日後だ。

 もちろん、筆頭魔術師からの手紙にすぐに返事をしないのは失礼だろう。


 三日間ほど返事を保留させてほしいと書いて、ビブリオさんに返信を託す。


 けれど三日経ってもアルベルトは帰って来なかった。そしてその夜事件は起こるのだった。


 ***


「期限は守らないとね?」


 目の前にいるのは、漆黒の長い髪と瞳をした男性だ。

 二十代前半くらいの年齢に見える彼は、実際は百年以上の時を生きているらしい。


(真っ黒な瞳だなんて、どれだけ魔力が高いの)


 アルベルトも美しい黒髪をしているけれど、瞳の色は金色だ。

 魔力の色が髪と瞳を染めるという説が正しいのであれば、漆黒の髪と瞳はどれほどの魔力を持つ証なのだろう。


(そういえば、今では一般的になったその仮説も、彼が提唱したのだったわ)


 ニッコリと笑いかけてくる彼の美貌は背筋が粟立つほど美しく妖艶でこの世のものではないようで恐ろしい。


「筆頭魔術師レイ・フール様ですね」

「そうだよ。君を迎えに来た」

「……」


 その瞳を見ていると、有無を言わせず言うことを聞かされそうになる。

 それが何かしらの魔法であることは明らかだけれど、抗うすべがない。


「あれぇ? あまり効いていないようだ。不思議だ、魔力がゼロだからなのかな?」

「……っ」

「研究、したいな?」


 微笑んだフール様が、私の手を掴もうと手を伸ばす。逃げることもできずに強く目を閉じたとき、激しい足音とともに壊れそうなほど勢いよく部屋の扉が開いた。


 体を縛り付けていた縄が急に解かれたように、ガクンッと身体がバランスを崩す。

 けれど、倒れることなく身体が支えられる。


 顔を上げると、そこには再会のあの日みたいに息を切らして汗をしたたらせるアルベルトがいたのだった。


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