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Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
1章 初めて尽くしの猟師道
8/105

初めてのボス戦闘

6話銃の整備と腐れ縁の誘いにて、装備品の耐久値を数字表記からアルファベット表記に変更しました。

 突然富士が手で後続を抑えるような仕草を見せた。息を詰めながら恐る恐る覗くと、はい、いました。禍々しいまでに黒い、それでいて艶やかな巨体が見える。普通なら初期のマップでは可愛らしい感じのモンスターが多くて、こういうのは中盤から出てくるんじゃないのか。


「フォレストホースの姿を確認できた所で戦略を立てようか」

「突っ込んでアドリブ」

「却下だ」

「なんでだよ」

「無策はさすがにあり得ない。が、このパーティーで出来ることは限られてるのも事実か。富士は防御に専心、攻撃を逸らさずに受けて奴が動かないように固定。楓は回復をメインにHPのコントロールを頼む。弓は安全ラインを維持できている時のみだな。アタッカーと皆の補助は私がやろう。奴は火が弱点だから火属性を多用することになる、富士はタイミングをみて射線を開けてくれ」

「あいよ」

「わかりました」


 やはりこのパーティーの頭脳はヨーシャンクだ。的確な指示で戦略を定めていく。細かい話を詰めているようだが、こうなると気になるのは俺の仕事だ。希望は周辺警戒しながらの見学なんだけど、流石に戦わないのも気が引けてしまう。だがここからの戦闘についていける気はまったくしない。あれに向かって突撃していくにはかなりの勇気も必要だ。


「俺はどうする?」

「うむ、この戦闘の鍵はカイだな。我々はすでにフォレストホースを討伐しているが、その経験からいって3人ではまだ勝ち目が薄い。普通なら1人増えたところで厳しいのは変わらないんだが、銃の火力を生かせばいくらかは方法がありそうだ。それにカイのスタイルなら外さずいけるだろう。ということで、装填が済み次第私と富士で奴の動きを押さえ込む。そこをズドン、だ」

「男見せろよ」

「頑張ってください」

「そうそう、初期装備だと蹴られたら即死だと思って飛び込んでくれ。楓は富士のフォローで手一杯の可能性もある」

「なんてこった」


 既に戦うことは決まっているようで、俺に出来るのは土壇場でミスが出ないよう作戦を頭のなかで反芻する事だけだった。戦闘の流れについていくつかは考えている間に疑問が1つ、まあ今さら聞いたところでって感じだし終わってからにしよう。まずはインフォの確認だ。


《銃のレベルが4になりました》

《隠密のレベルが4になりました》

《植物知識スキルのレベルが3に上がりました》


 森に入ってからずいぶんと簡単に上がっているように感じてしまうが、パーティーでの狩りはそれだけ効率が良いということだろう。確認も済み、準備を終えるとヨーシャンクの顔を窺う。


「富士、いつでも構わない」

「よし!そんじゃまあやったりますか」


 富士には気負いというものがまったくないようだった。普段通りに歩き出すと俺達から十分に離れたことを確認してフォレストホースに向かって駆け出していく。続いてヨーシャンクと楓も木陰から飛び出す。それから数秒遅れて俺も飛び出す。こうしてフォレストホースとの死闘が始まった。


 泉に向かって駆け出すと既に準備が出来ていたのか、ヨーシャンクの周囲には火の玉が3個浮いていた。富士の動きに合わせて火の玉が矢を形どり、一つずつ弾かれるように飛び出してはフォレストホースの体を焼いていく。楓は戦況に合わせて富士に回復魔法か。1人で前線に立つ富士は、フォレストホースの蹴りを盾で丁寧に受けては隙をみて切りつけている。捌ききれない攻撃の時には長剣を仕舞い、盾を両手で支えて受けているようだった。

 さて、俺もさすがにこのまま見ているわけにもいかないな。最後にもう一度銃を確認するとヨーシャンクと楓を追い抜きフォレストホースにむけて走りだした。


「行ってくる」

「援護は任せろ、富士!固定だ!」

「よっしゃあ!15秒で当てろよ、“バンプ”!」


 富士が叫ぶと全身から仄かに赤い湯気のようなものが揺らめいた。そのままこっちを振り返ることなく剣を仕舞うと、盾を両手で構えて前肢に飛び込む。タイミングよく入れたこともあり、そのまま前肢の付け根を抑え込んだ。バフをかけたにも関わらずそれでも押し負けているが、少しなら持ちこたえられそうだな。


「ファイアーアロー!」


 後方からは火の矢が飛び、フォレストフォースの顔面に直撃していく。小さな嘶きとともに頭の振りが止まった、このタイミングしかない。

 すかさず富士の右から回り込んで銃身を突きつけると、そこでフォレストホースが大きく跳ねた。そのまま暴れだしてしまい、迫力に気圧されて足がもつれて中途半端に下がってしまった。

 さっきまで頭のあった位置を黒い塊が横切る。


「カイ、気を付けろ!」


 慌てて飛び退くとステータスバーに目を向けた。さっきのはかすっていたらしい。HPが3割ほど失っているのを確認すると慌ててポーションを飲んだ。初期装備の俺は直撃したら本当に一撃かもしれないな。


「カイは一旦後方へ下がってくれ。富士とフォレストホースの位置確認をわすれないように気を付けろ」

「了解」


 もしもフォレストホースがこっちを標的にしたら、その時に真正面から富士が抑えていないと不測の事態だって起こり得るかもしれない。全体の安全を最優先に一度後方に下がった。


「悪い、うまいこといかなかった」

「いや、一度で成功するとは我々も考えてなどいないさ。タイミングはまたこちらから指示で構わないか?」

「ああ、頼む」


 タイミングを待つ間にさっきの失敗を振り返ってみると、体が跳ね上がる迫力に気圧されたのが一番の要因に思える。ということであそこで硬直せずにまずは撃ち込むことを次の目標にしよう。その後は富士の後ろに飛び込めれば死に戻りは免れそうだ。


「そろそろ行こうか。私が次に放つファイヤーアローに合わせて飛び込んでくれ」

「頑張ってくださいね。富士さんいきますよ。“ヒール”!」

「よし、今度こそ風穴開けてくる」


 ヨーシャンクの鋭い声と共にファイヤーアローが飛び出し、俺も駆け出す。今度は外さない。やることのシミュレーションはばっちりだ。


「よっし、来たな。“バンプ”」


 さっきと同じように突っ込んでいき、今度は富士の真後ろまで接近してから横に飛び出してみることにした。すぐに銃を構えたが、読まれていたのか首を振り回して牽制してくる。まさか、銃を狙っている?

 それでも何とか発砲したけど、外れてしまった。これは中々に厳しいな。


「やべぇ、抑えきれなくなる!カイ、退け!」


 再度退きながら改めて富士の様子に目を向けると、フォレストホースを抑えられるのは正面で組み合った時だけのようだ。俺が横から行ってしまうとフォレストホースの力が横に向かうとそのバランス崩れてしまう。

 となると、残された方法は中央から外れることなく、それでいて富士に当てず、戦いを邪魔しないで一撃を見舞うってことになるのか。他に方法が思いつかん。仕方ない、突撃するか。


「ヨーシャンク、魔法ってマニュアルで軌道変更も出来るんだよな?」

「ああ。マニュアルで軌道を決めればある程度は曲げられるが、そうなると必中は約束できないぞ」

「構わない、次は富士のすぐ後ろから飛び込むからそれで頼む」

「引き受けた。“バンプ”のリキャストは3分だ、明けと同時に頼む」


 リキャストタイムである3分の間に再装填を終えるとそれからはひたすらフォレストホースの動きを観察した。今は3人の連携がしっかり機能しているからこそ均衡を保っている。でも、このペースだと遠くないうちに楓のMPが尽きて全滅だ。チャンスはそう多くはない。


「カイ、飛び込め!」

「“バンプ”!」


 富士とヨーシャンクがほぼ同時に声をあげ、俺はすぐに駆け出した。


「肩借りるな」


 声を掛けながら富士の肩に飛び乗るのに合わせ、左右をすり抜けたファイアーボールがフォレストホースを襲う。1発は外れたが、動きを止めるのには十分だ。そのまま富士の肩を蹴り宙に跳ぶと黒い巨体を飛び越し、振り向きながら着地する。と同時に火竜槍を撃ち込んだ。結果については確認もせず、転がり込みながら即座に距離をとって富士の後方を目指す。

 反撃を受けることも考えていたがどうやら当たっていたらしく、直撃していた後ろ足を庇ってたたらを踏むその動きは精彩を欠いていた。


「今だ、よろけている間に総攻撃!“ファイアーランス”!」

「頭を狙います。射線を空けてください」

「まだまだ、“スイング”!」


 少しずつ動きが回復してくると、今度は富士が盾用のスキルを発動してフォレストホースの頭部を叩き上げた。するとこれまでとは違い、首を大きく振ってよろめく。

 俺もあと一撃くらいはきっちりと当てておきたい。富士が攻撃に備えて構えた盾に銃身を乗せ、その先をフォレストホースに突きつけて撃ち込んだ。フォレストホースは大きく嘶き後退するがそれでもまだ倒れない。他の奴は当たれば一撃だったのに、こいつの体力はどうなってるんだ?

 銃撃の強力な一撃は敵の動きを大きく阻害できるようで、よろめきさえすればチャンスは多い。一連の流れを経て、ヨーシャンクがそれを生かした作戦がその場で構築されていった。

 そのままパターン化して繰り返すこと3度、戦闘時間は15分を越えた。MPポーションを使っているとはいえそろそろ楓のMPも底をつく頃だ。チャンスは多くても後2回ってところか。

 装填しながら考えていたこともあり、気付くと戦況を見逃していた。顔を上げると富士はフォレストホースを中心に時計回りに少し動いていて、それに合わせた移動を忘れていたのだ。富士との戦いの中、黒い首が一度こちらへぐるりと回される。


「やべ、カイ!そっちいく!」


 富士の言葉よりも速くフォレストホースはこちらに向かって駆け出した。敵の残りの体力がわからない以上引き付けるのは恐い、というかあの巨体が向かってくるんだ。迫力がボアと違いすぎる。反射的に後ろに走りだし、木で突進を防ごうかとも思ったけど、ギリギリで間に合いそうにない。

 VLOはゲームな訳で、死に戻れるという意味ではデスペナルティ以外は気にしなくても良い。そんなことを気楽に考えていたはずなのに、必死になると頭にはそんなことは一切浮かばず打開策を探していた。

 目指していた大きめの木の手前には突撃を防ぐには心もとない、少し細いが枝が歪に伸びた木があり、使えそうなのはこれだけだ。それも博打のようなものだけど、もう他に方法は思い浮かばない。

 一度振り向いて距離を確認し、火付け用の棒をくわえると跳び上がり木の節に足を掛けた。上にさらに跳びながら枝を掴んで身体を持ち上げ、届く範囲で一番高い節に足を乗せる。あとは渾身の力を込めて飛び上がるだけだ。人生初の宙返りがまさかこんなところでお披露目とはな。

 身体はふわりと宙に浮き、気を抜くとバランスを維持できずに落下してしまいそうだ。それにイメージではフォレストホースの上を華麗に跳び越す感じだったんだけどね、そう上手くはいかないようで。首の横をすり抜ける程の高さしかない。首の横薙ぎで一発KOの未来がありありと浮かぶが、やることはやったわけだしこれが初の死に戻りならそう悪くないか。


「そのままだ!」


 叫んだのはどちらだろうか。わからなくても疑うことなく姿勢だけに意識を集中させ咥えていた火付け用の棒を左手に取った。黒い首がしなるが、それは振るわれることはなく、突き立った矢と火の槍によって防がれていた。攻撃での硬直は一瞬だ。怯んだのを見ると着地を捨て、空中で銃を構えた。

 炸裂音が響き、フォレストホースは大きな音をたてて倒れた。


「うっぐ!」


 腹を地面に強かに打ちつけながら着地し、その衝撃に思わずお腹を押さえてしまう。ダメージ判定がある時の痛覚系はかなり軽減されていて今回も腹に衝撃と違和感がある程度なんだけど、これはリアルでの反射だな。戦闘が終わったことで気が抜けたのかどうでもいいことが頭に浮かんでいた。

 まさか、ここから立ち上がってくるとかないよな?俺はもう疲労困憊で戦うとか勘弁してほしいんだけども。しかし、こっちの期待に応えてくれたのか、フォレストホースはピクリとも動かなかった。


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