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Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
6章 プレイヤーイベントと中級猟師
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他称ベテラン猟師の狩猟論


 会場についてみると、そこには30人くらいのプレイヤーが待っていた。講座は途中退場、途中入場も出来るし最初の銃の試し撃ちだけ参加したプレイヤーだっている。それにしても少ないのは、俺のネームバリューのなさとソロの猟師プレイというそこまで人口の多くないスタイル故かもしれない。

 数の少なさに落胆したなんてことはなく、むしろホッとして少し肩の荷が下りたような気がしている。これで気兼ねなく始められそうだ。


「こんにちは。今日はプレイヤーイベントに参加してくれてありがとうございます。今回の講座を担当するカイといいます。普段はマナウスの森を中心に猟師プレイをしているのでこれから会う事もあるでしょう。その時はよろしくお願いしますね」


 そう言って頭をさげるとまばらな拍手が返ってきた。座っている受講生は概ね好意的な視線を向けてくれているようだった。数名強面のプレイヤーもいるけど受講生であることに変わりはない。気を引き締めると言葉を続けた。


「さて、肩がこるから言葉遣いを戻させてもらう。これからの内容についてだけど、俺の講座では銃の扱いについても取り扱うけどメインはそこじゃない。その辺は正直にいって他の講師の方が優れてるし。それにここはソロ志望者の集まりだから、主にソロで動く際の技術について話そうと思っている。銃の扱いは後半に実践を交えてやっていくからそのつもりで頼む」


 そこまで一息に話すと、受講者を見回した。銃の扱いがメインじゃないと聞いてその場を離れたのが10人くらい、他のメンバーも戸惑いの表情を浮かべていた。そのうちの1人、金色の長髪を後ろで纏めている精悍な面構えの男が手を挙げた。俺が頷くと立ち上がり口を開く。


「ソロで銃使いを希望しているライヘルトといいます。今日はよろしくお願いします。まずは銃の扱いがメインではないという考えに至った具体的な理由を知りたいのですが」


 受講生からしてみれば当然の疑問ではある。質問を聞いて頷いている者も多い。俺としても説明を省くつもりはなかったのでまずは結論から始めることにした。


「俺も猟師プレイを続けてきてわかったことなんだけど、リアルと違ってVLOでは弾丸1発で敵を倒せるのは初期のモンスターだけだ。それなりのボスやレアモンスターを倒すなら数十発は撃ち込まなきゃならないことだってある。銃は無限に連射できるようにはなっていないし、相当の攻撃に晒されることになる。射撃の技術は当然必要になるけど、その間を繫ぐ技術はもっと重要だと感じた。だから今回は俺なりの生存術について話させてもらえればというのが理由なんだけど、納得はできるか?」


 納得が出来たのか、それ以上の質問をする気にはならなかったのか。ライヘルトは静かに座るとじっと俺の方を見ていた。別に気分を害したというわけではなさそうだ。

 他の質問はないか確認しても手を上げる受講者はいなかった。質問を思いついたようなら進行しながら受け付けていくことにしよう。


「さて、これまでプレイしてきて俺が銃の技術以外で必要だと思ったのは主に4つ。見つからないこと、走れること、環境に合わせること、スキルを使いこなすこと、これだけだ」


 言ったことが伝わらないのか、全員の頭に疑問符が浮かんでいる様な気がする。まあこんな漠然とした説明で理解出来たらそれはそれで凄いけど。


「順を追って説明していこう。1つ目の見つからないことについては大丈夫か?」


 聞きながら見回すと手を挙げたのはライヘルト一人だった。名前からいって彼はスナイパー志望なのか、かなり熱心な受講者のようだ。


「銃使いは攻撃間隔が長いのが特徴です。今ある最新の銃でも連射数は5・6発が精々といったところでしょう。それにパーティーでは味方のタンク役が攻撃を受け止めてくれますがそれがありません。サブウェポンがないなら近距離戦が苦手になります。その為、見つからないことと見つかっても再び隠れられることが大事なのではないでしょうか?」


 おお、流れるような淀みない回答だ。ここに参加するのもあって相当に勉強してきているようだ。おかげで説明がほとんどいらなくなってしまった。


「正解だ。付け加えるなら銃が最も苦手とするのが多数の敵との戦闘だ。にも関わらず大きな銃声は近くにいる好戦的なモンスターを呼び込んでしまう。それらとソロで戦おうとするのなら自分の身を隠す技術が必須になる」

「なるほど、敵から身を隠しながら動き回り、常に1体を相手にするという事ですね」


 古風なことにわざわざメモ用紙を買ってきていたようで、何やらメモをしながら納得している。そんな物を使わなくてもシステムのメモ機能でも事足りるだろうに、これも一種のロールプレイなのかもしれない。


「次に走ることだが、これについては分かるだろうか」


 今度は誰も手を挙げなかった。なぜそこまで走ることが重要なのか、俺はキャプテングリズリーや牙狼と戦った時に実感したのを思い出す。あの時の感覚が少しでも伝わればいいんだけど。


「さっき言った見つからないことなんだけど、俺は一定以上の強さの敵を相手にそれをやり切れたことがない。というかボス相手だと戦闘に入ってから身を隠せるのは良くて数回あるかどうかだった。近距離に詰められるかそもそも隠れる場所がないか、必ずどこかでどうしようもない場面がくる。そうなった時に出来るのは走って逃げることだけだ。息が切れようが走り続けて距離と時間を稼ぎながら次の策に移る。撃って走って時々隠れる。一撃で倒せない相手との戦闘の基本はこれだと思ってもらっていい」


 撃ったら走って逃げて隠れる。この繰り返しと断言した俺に呆れたのか、数人がその場を離れていった。まあ戦闘の様子を想像すればあまり格好良さそうではないのは確かだな。

 こうやって話していくうちに人数が減っていくのは予想をしていたことで、特に気にすることもなく続けた。


「たぶん皆はあまり格好良くはない自分の姿を想像してるだろ。でもまずは考えてほしい。VLOのモンスターのほとんどはパーティーで倒すことを念頭にデザインされている。その中でソロを貫こうとするならどこかに無理が出るんだ。パーティーではやらないことだって必要になる」

「あの、ソロはそれだけ大変で、あまり見栄えの良い方法ではないという事ですか」


 ためらいがちに手を挙げて質問をしたのはマリーユだ。そんなに過酷な戦闘が必要なら何がなんでもガウェインにソロはさせられない。そういう意志が感じられる。


「どうして走るのか、次の策やその後の展開までを明確イメージできるのであれば別に格好悪くなんてない。それにこの戦闘方法が過酷かどうかは戦闘の工夫次第だと思う。あくまで俺の感想だけどな」


 次の説明に移ろうとした時、これまでずっと聞いているだけだったプレイヤーが手を挙げていた。銀髪を結って纏めていた、静かな印象を受ける女性だ。


「エレノアといいます。質問がありますわ。私はどんな障害があっても、必要な戦闘方法がなんであろうとソロで銃を使ってみせます!しかし、今の話だけでは具体的な方法が全く分かりませんの。その辺についての説明はないのかしら」


 エレノアはまさかのお嬢様系のロールプレイヤーだった。話し始めるまでの清楚なイメージは遥かかなた、自己主張の強さが際立っている。どうしてこう、俺の周りの銃使いは個性的な女性ばかりなんだろうか。


「俺が知っている技術についての説明はするけど、まずは必要な心構えから。残り2つを話してからだが、それで構わないか?」

「ええ、わたくしも少々もどかしさがあっただけですので。後に説明があるとわかれば特に文句はありませんわ」


 話しもまとまったところで続きだ。残りはあと2つ、予定時間で終わるだろうか。


「次に環境に合わせること。俺は森での狩りがメインだが、他のフィールドで戦ったこともある。はっきり言ってフィールドが変わったら必要なスキル構成はガラッと変わる。自分が今いる環境に合わせたスキル構成と戦闘方法を見出せるか、今後VLOでのソロプレイを楽しんでいく上で常に考え抜かなくてはならないところであり、明確な答えのないであろう問題だ」


 いまさら当たり前のことをという呟きが聞こえる。まあ武器に関わらず必要な心構えだしな。当たり前すぎて聞く気にもなれないのかもしれない。


「最後にスキルを使いこなすことについて。俺にとって一番身近なスキルが隠密だからそれを例にさせてもらう。まずは問題、隠密のスキルレベルが上がったらどうなるだろうか」

「そんなことは聞かれるまでもありませんわ。敵に見つかりにくくなる。それだけですわね」

「そうだな。それじゃあ同じ隠密スキルのレベルが同じプレイヤーが2人いたとしよう。1人は草原を堂々と歩いている。もう一人は腰をかがめて草に紛れるように動いている。見つからないのはどっちだろうか」

「後者だと思います。スキルを持っていることやスキルレベルの高さに自惚れず、プレイヤーの工夫を凝らすことでよりスキルの効果を高めることが出来る。という理解で良かったでしょうか?」


 積極的に答えてくれるエレノアとライヘルトのおかげで会話をしながらサクサクと進めることが出来ている。おかげで特に詰まることもなく話せているし2人には感謝だな。そう思いながらも頷いて話しを進めた。


「そう、そしてスキルの組み合わせについても考えなければならない。銃の利点は身体能力の強化が攻撃力に影響せず、完全に銃の性能に依存しているところにある。その分多くのスキルを入れられるわけだ。そのスキルをいかにスタイルに合わせて組み合わせ、プレイスキルを磨いていくか。これが重要になってくる」


 ようやく最初の説明を終えたところで飲み物に手を伸ばした。アイラが持たせてくれた喉に良いらしいドリンクを飲みながら、周囲を見渡す。とりあえずの話は終わったわけでここからは俺のスタイルの具体的な内容を話すことにしている。

 後の話は簡単だ。荷物から数々の罠を取り出し、説明する。次に使っている罠とスキルを実際の戦闘でどうやって生かしているのか、モンスターの名前を挙げて実例を示していった。

 その頃には受講者は10人くらいまで減っていたけど、人数が少なくなった分しっかりとしたやり取りが出来たと思う。最後まで参加していた受講者は今後のプレイに見通しが持てたようで俺としても講座を受け持ったかいがあるというものだ。

 残った時間は質疑応答を行い、3コマ目は終了となった。休憩時間を知らせる花火が上がり、受講者は思い思いに動き出す。

 長々とした説明も終わり、後は実践あるのみだ。プレイヤーが散っていく様子を見送った俺は準備のために本部に戻り、あらかじめ用意してもらっていた荷物を受け取った。

 休憩を終えて講座の場所まで戻ると、そこには7人のプレイヤーが立っていた。すこし離れた場所にいるマリーユを除外していいのなら6人だな。残った6人を前に俺は意気揚々と宣言した。


「さて、長い説明も終わったことだし、せっかくだから狩りに行こうか」

「今からですか?俺は構いませんが、中にはまだ銃スキルをとっていないプレイヤーもいるのではないでしょうか?」

「うん。だからこんなものを借りてきた。実は冒険者ギルドで所有している訓練所にはこんな便利なアイテムがあるんだ」


 全員に見せたのはこのアイテムだった。


≪銃士見習いの証 レア度1 重量1≫

銃士を志す者が訓練場で借りることのできる腕輪。銃スキルを所持していないプレイヤーが一時的にLv5相当の銃スキルを取得できるというもの。装備すると一定の制限がかかる。


「こんなものがあるのですか」

「俺も知ったのは知り合いに今回の件を持ち掛けられた時だ。まああくまでこれから装備変更を考えているプレイヤーが希望する武器の使用感を確認する為だけのもの。これを装備している間の戦闘では他のスキルレベルも一切上がらないし、モンスターを倒してもドロップ品はでない。更には採集も不可っていうデメリットがあるから本当にお試し用だ。一応言っておくけど、パーティー組んだら装備してない他のメンバーも同じデメリットが出るから注意しろよ。まあそんな使い勝手の悪いアイテムではあるけど今回はちょうどいい。まだ銃スキルの取得を迷っているプレイヤーはこれを使ってみてくれ」


 すでに銃スキルを取得していたのはガウェイン、ライヘルト、エレノアの3人。他の3人には銃士見習いの証しを渡した。本部から持ってきた銃を装備してもらい、全員の準備が整ったのを確認すると、俺はリュドミラに声を掛けに行った。

この時間にはとくに担当のないリュドミラは本部でギルドスタッフと何やら話し合っていた。表情も明るく今回のイベントの成果に手ごたえがあるのかもしれない。


「リュドミラ、事前申請通りにこれから森に向かう。手の空いてる護衛を2人貸してくれ」

「分かったわ。それじゃあここはよろしく頼むわね」

「はい。行ってらっしゃいませ」

「え?」


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