銃の整備と腐れ縁の誘い
気付いたらブックマークが100件を超していました!読んで頂き、ありがとうございます。
喜びは文章で、という事で1話アップすることにしましたのでよろしくお願いします。
装備の耐久について数字表記からアルファベット表記に変更しました。
冒険者ギルドでは、依頼を完遂できているかを冒険者証を使って確認している。依頼を受けてからの成果が自動的に記録されるようで、驚くほどのオーバーテクノロジーのような気もするのだがそこはVLOというゲームの世界。そういうものなのだろう。
ちなみに納品系の依頼はアイテムを渡せばいいだけだ。野兎の討伐で200リール、薬草の納品で100リールを得られた。薬草は一束5リールだったからしばらくはとっておくことにした。バイポッドの料金は受け取り時に支払うことになっているので現在の所持金は2730リールになる。過去最高所持金を更新中だな。ここからは減っていくけども。
次に向かうのは木工ギルドだ。筋肉兄さんに話をするとちょうどいい大きさの木片と棒をくれた。廃棄するだけだからと無料にしてくれるおまけつきだ。
その後は食料品店でジェイル酢というたぶんジェイルから出来ているであろうお酢を200リール。生活用品店で安い布を100リール。武器屋では手入れ用の油を100リールで購入した。最後に商店街通りで串焼きとお茶を350リールで買ってマナウスの外に出る。
時計は午後3時30分を過ぎ、入り口周辺でも沢山のプレイヤーが狩りに精を出していた。これなら町の外でも安全だな。ということで城門から右にそれると地面の柔らかな場所を探し、適当な場所を見つけられた。それじゃあ始めることにしよう。
初心者のリュックサックから取り出したのは小さな木片とジェイル酢の瓶だ。銃身の根元にある着火用の穴に破った布を巻いた木片を嵌めると、サイズもちょうどよく隙間はない。続いてジェイル酢の瓶を開けて銃身に流し込んでいく。これで錆がお酢の酸で溶けていくはずだ。
柔らかな地面に持ち手を突き刺し、お酢がこぼれないようしっかりと支えながら串焼きとお茶を取り出した。この方法はそれなりに時間が掛かるし、今のうちに腹ごしらえだ。
≪野兎の肉の串焼き レア度1 重量1≫
満腹度25%回復
野兎の肉の串焼き。軽く塩を振って焼いてあり香ばしいにおいが漂う。空腹を満たすためには量が足りない。
≪黒茶 レア度1 重量1≫
満腹度10%回復
マナウスの北の森で採れる黒の葉から作られたお茶。匂いが強いが味は少し薄い、マナウスに住む人々にとっての定番のお茶。
なるほど、回復量も表示があるのか。新たな発見に感心しながら串焼き3つを頬張り、10分ほど待つ。お酢を捨てると、錆が溶けだしたのか色が赤黒く変わっていた。銃身の中身を覗き込むとそれなりに汚れが落ちているようにも見えるが、錆びはまだ残っているか。
状態を確認したら次に棒に布を巻いて洗い矢と呼ばれるクリーナを作る。完成したら後はひたすら錆と火薬がとれて元の輝きを取り戻すまで磨き続けるだけだ。布を取り換える事3回、銃身の内側は見違えるほどの輝きを手にしていた。最後に新しい布を棒に巻いたら手入れ用の油を少量つけて磨いていく。
随分と時間が掛かったけど、おかげで銃身の内部は見違えるほどの輝きを見せていた。
これで手入れは万全なはずだ。とはいえ火薬は銃身内を常に汚していく。これからは頻繁に手入れが必要になってくるだろう。
これで少しでも正確性が上がってないかと装備の情報を確認すると、そこに初心者のハンドキャノンはなかった。
≪青銅の火竜槍 レア度1 重量5≫
攻撃力:G-
反動:D
正確性:F-
速射性:G-
耐久:E
攻撃タイプ:射撃
射程:10メートル
初心者のハンドガンに手を入れたことで本来の姿を取り戻した初心者にも扱いやすい銃。持ち手をラブナ材で製作し、グリップとストックをつけることで射撃時の正確性が向上している。
名前が変わっている。武器の形状だけなら木製部分を取り換えた時点で条件は満たしていた。持ち手の換装が説明に載っていてこのタイミングという事は恐らく銃身の整備が条件となっていたという事だろうな。装備が初心者シリーズじゃなくなったからか耐久がEになったけど、何はともあれ喜ばしいことである。特に正確性の上昇が嬉しい。これで少しは狙い通りに飛ぶといいんだけど。
何はともあれこれでこの銃に今できることは全て終わったことになる。狩りに行くにもまずは火薬と弾の補充から。ということで商店街通りの武器屋へ戻ることにした。
「お、カイ!まさか武器を乗り換えるのかぁ?」
武器屋で補給を済ませる前に短剣でも、と商品に目を通していると富士に声を掛けられた。
富士は昨日の今日ですでに防具と剣が変わっている。心臓部だけ金属をあてがった軽装の革鎧で身を包み、腰には鉄製と思しき剣と盾を装備していたのだ。ようやく武器がバージョンアップした俺とは大違いである。
富士の傍には貫頭衣に身を包んだ青年と弓を背負った女の子が立っていた。この二人が富士がβで知り合ったというプレイヤーだろうか。
「富士さん、もしかしてこの人がマタギ志望の?」
「そ、幼馴染のカイだ」
「初めまして、富士と組ませてもらっているヨーシャンクだ。色々と面白い話を聞いていたもので会えるのを楽しみにしてたよ」
「楓といいます。よろしくお願いしますね」
「えっと、富士の知り合いでカイです。よろしく」
互いに自己紹介をするとすぐに富士が話を戻して来た。俺が銃を手放す気がないことなんてわかりきっているだろうに。ちょっと見ていただけと答え、まずは本来の用事だ。初心者の火薬と初心者の弾丸を30セット、900リールで購入する。
「そういや一日経ったことだし、そろそろ一緒にどうだ?」
店を出るなりありがたい申し出ではある。ただ、ボアなら狩れるとはいっても未だに野兎すら満足に狩れない状態で組むのは気が引けるんだよな。たぶん、俺が勝手に考える最低限必要な命中精度は気付かないうちに動かない野兎になってたってのもあるんだろうけど。
「いや、せめて野兎にまともに当てられるようになるまで待ってくれ。このままじゃ何もできない」
「何も出来ないやつがそんな弾買う金ないだろ」
「確かにな。生産クラフトをメインにしたわけではないんだろう?」
富士のつっこみにヨーシャンクがにやりと笑っている。何か誤解されても困るのでボア狩りの話をして逃れておこう。と、思ったらそっちの方に食いついてきた!?
「は?ボアとチキンレースしてんのかよ。相変わらずやることが斜め上だな」
「無謀というかなんというか、いやいや褒めているんだ。話に聞いていた通りで面白い」
「凄いですね。私にはそんなことできません」
褒められているのか馬鹿にされているのか、3人とも楽しそうに話を聞いてくれるのもあるし気にならないけど。
改めてヨーシャンクと楓の装備をよく見てみると富士同様にすでに初期装備ではなくなっている。依頼をこなした報酬は基本的には人数割りだし、モンスターのドロップも人数によって増えるわけではない。富士の口ぶりだとまだメンバーがいるようだし、いったいどれだけ狩ったのだろうか。
その後も装備の話から始まり、マナウス周辺のモンスターの情報や町の施設について話していた。しかし、気付くと最終的にはボア狩りの話に戻ってしまっている。富士はそれ程気にはしていないようだが、ヨーシャンクと楓は銃使いの戦いを見てみたいらしい。
「とはいっても、やってることは凄い地味なんだけど」
「それがいいのさ。まだ私は銃使いの戦いを間近で見たことがない。今後を考えても是非とも見てみたい」
「私もカイさんさえよければ。それに4人なら何かあってもフォローできますし」
「まあ、皆がいいなら構わないけど」
「よし、話し通りならカイがいれば草原は突破が楽そうだし、ついでに森の中も探索するか」
「草原ってそんなにきついのか?」
「その後を考えるとな~。魔法使えばいけるけど魔力消費は森まで抑えないとそこからキツい。弓も銃も動く奴には中々当たらないから結局は近接戦闘になるんだよ。で、最初の突進を止めれなくて陣形崩れて乱戦だな。それで勝っても連戦になると消耗が大きすぎて森で戦えなくなる」
ボア狩りはリスクが高く、外せば俺だけだと現状は太刀打ちが難しい。経験値なんかのリターンが減ってもパーティーを組むことで殲滅速度が上がるし保険を掛けられる上、まだ見たことのない森にも踏み入れる。森はしばらく先だと思っていたけどこれを逃す手はないか。
「話はまとまったな。せっかくだ、森のクエストも受けていこうか」
ヨーシャンクが話をまとめると4人で冒険者ギルドまで向かい、依頼を受けていく。今回受けたのは『野生猪の討伐』『森猿の討伐』『ジェイル納品』『泉の水質調査』の4つだ。ボアはいいとして、残りは森に行かないと達成出来ないらしい。
気になるのは後半の2つ、依頼票には冒険者ギルドからではなく調理ギルドと農業ギルドからの依頼となっていた。依頼票をしげしげと眺める様子で察しがついたのか、富士が口を挟んでくる。
「それは冒険者ギルドからの依頼じゃないな。他にも鉱石系なら鍛冶ギルド、木材なら木工ギルドみたいに色んなギルドからの依頼が混じってるんだよ。珍しいのだと町に住むNPCからの個人依頼とかもあるし」
調べてみると薬草調達は冒険者ギルドからの依頼で調薬ギルドからの依頼じゃないんだなと意外に思わなくもないが、今は調薬ギルドでは薬草が不足していないとのこと。冒険者ならポーションにしなくても使うことがあるからここでそのまま売っているらしい。
そんな感じで知らないことを富士達に教えてもらいながらも、気を取り直して冒険へ。しかし時間は午後4時を回っている。依頼をこなしながらだと森に入るのは夜になってもおかしくはない。全員のスケジュールの確認をしていなかったが、森の中で順番にログアウトしていくようでどうやら問題はないようだ。
富士が全員の準備が整っているか確認し、森に向けて進む。道中では互いの戦いを見せるという目的もあり、最初に野兎相手にヨーシャンクと楓が戦う姿を見せてくれた。
ヨーシャンクは火と光の属性魔法が扱えるようだが、今は火属性で攻撃、光属性で回復と援助と使い分けているようらしい。
楓は遠距離からの弓だ。当たり所が悪くない限りは2発で仕留められて、外して向かってきても風魔法で迎撃している。
個人のレベルや技量については言う事なしだな。少なくとも明らかに俺より遥かに格上だ。でも気になることが一つ。
「なんか、後衛過多じゃないか?」
「後のメンバーは前衛2人とヒーラーだしこれでバランスがいいんだよ。それよりカイ、早速だけど腕前を見せてもらうぞ」
「うい、外したらよろしく」
3人は隠密を持っていない。先に誰かを見つけられても厄介なため、3人には後方で待機してもらうことにした。
一人で草原を進み、影が動き出したところで伏せる。人数が増えてもやることは変わらない。引き付けて撃つ、それだけだ。そのまま3体続けて仕留めたところで3人が寄ってきた。
「おいおいおい、何が10メートルだ。撃ってるの5メートルくらいじゃねえか」
「驚いた、まさかあんなところまで引き付けるとは」
「無理です、私には無理。怖くて先に射っちゃいます」
3人の感想はまあいいとして、気になったのは距離だ。距離感については最初は確かに10メートル程で撃っていたはずだ。どうも確実に仕留めるために無意識で少しづつ引き付けてしまっていたらしい。それだけ火竜槍の射撃精度に不安があるということでもある。
「気になったんだが、そこまで敵を引き付ける必要があるのか?猟師を目指すなら遠くから狙う練習をした方がいい気がするんだが」
「確かにな~、なんか今の感じだとパーティー組んでも近接職と立ち位置被るだろ」
「そうできればいいんだけどさ。俺の腕のせいってのもあるけど、この銃は初期の物過ぎていろいろ問題があるんだ。銃の改良が進むまでは弓道経験者がそれなりにいるかもしれない分、弓の方が距離稼げるかなとは思うよ」
言い訳がましいようでもあったが、事実でもある。銃身の内径よりもかなり小さい弾丸と質の悪い火薬。ライフリングが施されていない以上仕方のないことではあるが、これではどうしても一定以上の正確性は得られない。だからこそ歴史上ではそもそもが炸裂音を武器とし、当てるにしても数を揃えての一斉射撃でその正確性を補ったのだから。
「弓も、どうでしょうね。矢は曲線を描いて飛んでいくので慣れれば味方を越えて狙えますけど、動いている相手は初めてなのでピンポイントに合わせるのが難しいです。アクションにアシストがあるといってもきっちりあてるにはもう少し時間はかかるかもしれません」
あれ、弓も似たり寄ったりか。どうもないものねだりの精神が顔を出してしまっていたみたいだな。どの武器や戦闘スタイルにも一長一短があるからこそパーティーの組み合わせやビルド次第で様々な特色が出る。そう言う事なんだろう。
「そういや魔法はどうなんだ?当てにくいとかあるのか?」
「防がれる、避けられるといったことは当然ある。それでも基本的には単体対象の魔法ならターゲットできてさえいれば勝手に当たるよ。範囲魔法は位置を自分で決めて使う分、キャストタイムを考えて使わないとそれなりの確率で外すがね。単体系もマニュアルで位置指定や軌道指定して使えるから、その辺は結構便利に出来ているな」
他職の話は面白く会話も弾むが、ボアは待ってはくれない。それでも律儀に1匹ずつ出てきてくれることが幸いし、森に到着するまでに合わせて6体のボアを仕留めることになった。
そう、着いた。ついに俺は、夢にまで見た森に到達したんだ。




