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Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
8章 猟師の冬は北を見据えて
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感想と雑談

 さて、映像は終わったわけだが、誰も口を開かない。なんかこう、ちょっと知ってる漫画が映像化されて、それが予想をだいぶ超えるくらいには金をかけた映画の予告編を見た後みたいな、いや違うか。まあ、わかることは一つだ。


「はは、ゲームジャンルどっかいってら」

「そこじゃねえだろ!お前の目は節穴か!」

「やっばい!完全に映画!」

「本っ当にかっこよかった!」

「ねえぇ!あたしの出番少ないってぇ!もっと見せ場あったから!」


 俺の言葉が口火になってしまったらしい。富士が、鉄心が、アイラが、アキラが、口々にまくしたてていた。はは、一人だけ方向性が違いやがる。

 そこまで騒ぐタイプじゃない楓やミリエルも二人で楽しそうに話している。


「私としては非常に満足だな。映像としては我々の活躍もそうだが、本部からみた戦いという視点で再構築している部分が大きいな。そう考えると祈祷師へのラストアタックあたりの見せ場はカットされているのも十分理解できる」

「うっさ!うるっさ!自分は格好つけて合成魔法(オリジナル)披露してるもんね!満足だよね!」

「俺も十分満足というか、こうしてみるとまだまだ動きの無駄が多いというのがわかって…」

「はいはいはい!武術オタクは他所でやって!ねえ、楓!ミリエル!ひどいと思わない?」


 クランメンバーのかけあいにからからと笑っていた楓は突然振られて首をひねる。


「え?アキラの魔法剣舞も素敵だったよ?」

「私も、かっこよかったと、思います」

「そう?やっぱりそう思う?」


 褒められるとすぐに機嫌がよくなるあたり、いつものじゃれあいってところか。


「それにしても、前にもスキルの集中がかなりいいって聞いたけど、あんな感じになるんだね」

「いや、あれはかなり誇張されてるぞ。実際は音がかなり遠くなって、敵が遅く見えるってくらいだから」

「本当に誇張されてるな。あれ見てスキルとるやつ絶対いるだろ」


 富士があきれているけどその通りだよな。運営さん、あとで怒られても知らないよ。


「そういえば、カイってなんであんな戦闘の中でずっと冷静でいられるの?あたしなんでアドレナリンがドッバドバ!そんな考えて動くとか無理なんですけど」

「はは、確かに!アキラは戦闘が長引くとすぐ突っ込みはじめるもんな」

「黙りなさい、その口縫い付けるわよ。言っとくけど、あたしの昔の家庭科の成績はお察しのとおりよ!」


 なかなか聞かない脅し文句だな。

 漫才のような軽口を叩き合う様子を見ながら、頭の中ではもう一人の自分が首をひねっている。あれが、冷静?


「そんな冷静だったか?どっちかというと考える間もないくらい必死だったんだけど」

「あの戦場で常に敵味方の様子を把握して、過不足なくアイテムを供給して、合間に火力も出す。生産職目線だとさ、脳みそどうなってるのとは思うよね」


 褒められているのはわかるが、火力も出す、ね。


「どうしたもんかねぇ」


 そういえば、映像で見返していて気になることがあったので、この際聞いてみることにした。


「ヨーシャンクの風雷陣って魔力消費少ないのか?あの規模の魔法を使えるMPを残していたようには見えなかったんだけど」


 ヨーシャンクはわずかに目を見開き、嬉しそうに頷く。


「そうだな。あの時の残りMPでできたのは、竜巻と最初にかなり弱めた雷魔法を取り入れただけだ」

「は?何言ってんだ。ありゃ全力に近い出力だっただろうが」


 なぜか俺ではなく、富士が首をかしげている。

 それにしてもだ。MPが不足していたなら本来は魔法自体が使えないはず。


「外付けの魔力供給アイテムを持ってるとか?」

「私は持っていないが、いいところをついている。お、黒べえがわかっていそうだ」


 突然話を振られた黒べえは、驚いた表情を見せながらも、小さな声で考えを話してくれた。


「たぶん、魔法は話の通りに発動して、不足している雷魔法は外付けの魔法で補ってる」

「そんなことできるのか?」


 ヨーシャンクは満足したように頷いた。


「ああ。正式に名前がついているわけではないが、魔法職の間では連結魔法(コネクト)と呼ばれている。魔法と魔法石の相性については最近検証が進んできたところだ」


 その後の説明を簡単にまとめると、魔法が同属性同系統の魔法石と合わさると、魔法石のエネルギーを吸収して発動魔法を強化できるということらしい。

 目からうろこの考え方だった。これは、応用すれば俺の戦闘にも生かせるかもしれない。思いついたことを口にすると、ヨーシャンクがわずかに目を細める。驚きの余韻が場に漂う中、会話は次の話題へと自然に流れていった。


「おい、カイ」


 ちょっと目の据わった富士が俺の肩を掴む。


「今回は随分と活躍したようだな。羨ましい」

「日本語どうなってる?」

「俺はいつだって正常だ。羨ましい」


 こういうので取り上げられるのってすごい好きそうなのに、予想よりリアクション薄いと思ったら、一周回って富士は壊れてしまったらしい。

 ならば、こうだ。


「なんか昨日からフレンドというフレンドからすごい連絡くるんだよな。公式映像が来る前からもきててさ、騎士団とか本部とかでも話題になっちゃってるみたいで」

「あ゛」

「またきた」


 ありがとうリュドミラ、完璧なタイミングだ。お、目が面白いくらい吊り上がった。よし、もう一押ししてみよう。


「そういやチャット報告ではクエスト内容しか出さなかったけど、俺の森ルートのパーティーにエルフが追加されました。あと、装備由来のユニークかもしれないクエストも生えました、と」

「は?いつの間に新しい種族に、はあ⁉ユニっ、はあ⁉」


 おお、今度は小刻みに震え始めた。

 さて、こうなるとどこまでいけるか茶化してみたいところだが、この隙を絶対に見逃さない奴等がいることを忘れてはならない。


「そうだった!あたしはお城のお偉い人の奥様から、演舞を見せないかって勧誘来たわ!衣装どうしましょう?」

「ふむ、私は騎士団の魔法部隊から連絡をもらったよ。ともに魔法研究をしたいとのことだ。もしかしたら新しい魔法の発見やユニーククエストにつながるかもしれない」

「…」

「すごい、VOLってハニワ顔が実装されてたんだ」


 楓が妙なところに感心しているが無理もない。怒りのオーラ型微細動系ハニワ人間とかなかなか見ないぞ。

 さて、どうなるかとみていると、不意に富士の揺れがぴたりと止まった。


「ふは、ははは」

「あ、壊れた」


 おお、目は据わり、血走っている。


「カイ、見てろよ」

「お、おう」

「これは、絶対だ。俺たちはセントエルモで公式映像に載る活躍をする!」

「「「「「え?」」」」」


 セントエルモの面々の声がきれいにハモッたな。いや、あれだけ煽ればこうなることはわかるだろうに。


「こうなった富士は厄介だぞ~。幸運を祈る」

「あはははは、カイさんが火種に油を注いで逃げた!」


 こうして、賑やかな声に包まれながら公式映像の観覧会は終わった。


 ヨーシャンクに声をかけて小部屋を借りる。俺と鉄心がいるだけの部屋は物音一つなく、空気が重くなったようにも感じる。


「さて、話を聞こうか」

「そうだね。カイはマナウス周辺調査の時に知り合った騎士を覚えてる?」

「騎士?ガイルのことか?」


 少し前にも思い出すことがあったけど、まさかここでガイルの名前が出るとは。確か北に調査に向かってたはずだけどなにかあったのだろうか。


「うん。今日騎士団の人が来たんだけど、ガイルが行方不明になっていたらしい」

「穏やかじゃないな」


 さっきまでの話との落差が大きすぎる。


「そのガイルの居場所がわかったみたい」

「場所は?」

「森ルートの数か所先の拠点候補地。騎士団からの依頼はガイルの処刑阻止と救出。戦力は、カイのパーティーのみ」


≪騎士ガイル救出作戦≫

場所:マナウスの森北部

時間制限 48:29:18

必要成果:騎士ガイルの救出

特殊制限:挑戦可能数1回

     パーティー編成5人以下

納品アイテム:なし

想定モンスター:亜人種、モンスター類

報酬:3000p


 背筋を、冷たいものが走り抜けた。

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― 新着の感想 ―
ファーwww 何だこのクソ重たいクエストはw
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