集合
毎度更新期間がかなり空いてしまいすみません。なのに久々の更新が助走回という・・・
次話はなるべく来週中には更新できるようにしたいと思います
明くる木曜日、俺はハンドメイドのレストランの厨房で、ひたすらに芋の皮を剥いていた。
今日はウェンバーたちは別行動だ。ログイン時間が短めの中でもインしたのは、セントエルモかハンドメイドの手助けでも、と考えたのともう一つ。今日は楽しみがある。
ちなみに厨房で働いている理由だが、全体に連絡を入れたらアイラからの猛アピールがあり、依頼を受けることになったからだ。このままではイベント期間を大量の携帯食料の作成で終わりかねない、という主張に周囲が押し負けた形だな。
「うい、こっちの木箱終わったぞ」
「ありがとう!それじゃあ今度はこっち!火を通した芋をマッシュして、あっちの生地に混ぜて!で、粗熱が取れたら型に押し込む!」
「あいよ~」
ふむ。素材の名前はあれだけど、メイクイーン系の芋に小麦粉に卵、いくつかの木の実とドライフルーツを合わせて焼き上げるクッキーか。いや、糧食だからレーションか。甘味をドライフルーツに依存する素材の味を生かした味わいだな。
そんな作業を続けながら、ぽつぽつと雑談を続けていた。
「へえ、それじゃあ森のルートは停滞気味なんだ」
「俺としてはあまり感じないんだけどな。プレイヤー全体のクエスト達成率が落ちてきてるらしい。というか今は押された戦線を騎士団に支えてもらってる」
「やっぱりどこでも色々あるんだね」
軽い溜息をつきながら、アイラがぽつぽつと話を始めた。
「ここ3日くらいかな。騎士団からの依頼で保存の効く食料の大量発注が続いてて。でも、まだイベントは折り返し前だよ?」
「確か検証勢的には現状の食料だけじゃ最後までもたない想定って話しだったか。実は想定よりも食糧事情が厳しいとか」
「フレンドと話したんだけど、小麦はタイア産。木の実とフルーツはマナウスの森産、卵はマナウス内の養鶏から。他のところにきてる依頼も近場でとれるものばっかりで作ってるのが気になるって」
遠くの補給になにか不都合でも起きて、間に合わせの食料を増産でもしてるのか?もしかしたらこの辺は行商とか商人型のプレイをしているプレイヤーにでも聞くほうが早そうだな。
話しの流れはその後、ハンドメイドの近況に移った。鉄心、ウッディ、黒べえの3人は元々の予定通り純粋制作ベースで活動を続けているそうだ。青大将は昨日から森ルートに入り、最前線の拠点で料理を提供している。俺とは入れ違いになったが、いずれ会えるだろう。
「錦は忙しそうだけど、まだ本部に詰めてるのか?」
「うん。本部が出した方針からもう少し細かな作戦を考えたり、生産職として防具関連のクエストをこなしてるみたい」
どいつもこいつも楽しそうで何よりだ。
「そういえば、今日って11時位にセントエルモのクランハウスに集まるんだよね。情報交換はするとして、今日配信の公式まとめ映像の事前閲覧禁止ってなに?」
そう、俺が今日インした目的の半分、それが俺、セントエルモ、ハンドメイドを集めた公式映像の観覧会だった。今日の朝、ヨーシャンクからの連絡が発端だ。
『富士の初見リアクション百面相を見たくはないだろうか?ちなみに不参加でも我々は実行を決めている』
『日時を教えてくれ。なにがあっても駆けつける』
この短いやり取りで、今日は遠足前の子どものような心持ちで過ごさせてもらった。富士への釘差し。観覧希望者のスケジュール調整など、一手に引き受けてくれたヨーシャンクには感謝しかない。
ちなみに、富士のリアクションは脇に置くとして、単純にみんなで公式まとめ映像を見たい勢。連絡こそかなり頻繁に取りあっていたが、ここらで顔を合わせて細かい情報を突き合わせたい勢。とみんなの思惑が重なり、結局は全員が集まることとなっていた。
「俺たちもかなり楽しくやらせてもらってるからな。簡単に言うと、身内にちょっとした自慢をしたいって感じさ」
「いいねえ!私もとっておきの自慢があるの!」
聞いてほしそうな様子ではあるが、話すのは全員が集まってからと決めているらしい。軽く話を振ってみたが、アイラは満面の笑みを浮かべるだけだった。
その後は雑談をしながら調理に没頭していった。やってみるとわかるけど、この作業はなかなかしんどい。材料が詰まった山積みの木箱が、作業の終わりのなさをひしひしと伝えてくる。
「そろそろ時間だね。今日はありがとうカイさん!本っ当に助かったよ!」
「ああ、また時間ができたら手伝うよ」
正直あまり手助けをできた実感はないけど、誰かと作業ができるってだけでも案外楽しかったりするものだしな。
そんなことを考えながら厨房を出ると、鉄心とウッディが待っていた。奥には黒べえの姿も見える。ウッディはいつも通り柔和な笑顔で片手をあげた。
「や、カイ。待たせてすまない。というかアイラの手伝いをしてくれてありがとう」
「ははは。苦労をしてるアイラには悪いけど、単発のクエストとしてならあれはあれでなかなか面白かったよ」
「さ、それじゃあ遅れないように行こうか」
鉄心は話を切り上げて歩き出す。隣を歩いていると、小さな声でポツリとつぶやいた。
「集まりが終わったら、少しだけ時間が欲しいんだ」
「構わないが、他には話さないほうがいいタイプのものか?」
問いかけに鉄心は微かに頷いた。が、自信がないのかなんとも言えない表情をしている。
「話したらどうなるのかがわからないんだ。とりあえず、急いだほうがいいのだけは確かな情報」
「了解した。集まりの後に富士のとこの個室でも借りよう」
「ありがとう」
話は終わりとばかりに明るい笑顔をみせた鉄心は、道中で最近の面白鍛冶エピソードを教えてくれた。なんだよ、全身金属の着ぐるみの発注って。錦と合作で作り上げたらしいが、かすかな噂で、中央の戦場でキリンとダチョウの着ぐるみアーマーのプレイヤーが猛威を振るっているらしい。そんな噓みたいな本当の話を聞いている間にセントエルモのクランハウスに到着した。
「よお、来たな」
「おう、来たぞ」
クランハウスに訪れるときは楓や東雲、ヨーシャンクなんかが出迎えてくれることが多いんだけど、わざわざ富士がくるあたり、何かを察してるのかもしれない。そんなことを考えていると、富士はニカっと笑顔を見せた。
「わざわざ招集までしてんだ。おもしれえことやったんだろ?マジで楽しみにしてきたぜ!ちっくしょう!俺もインできてたら絶対参加してたってのによ!」
バシバシと背中をたたきながら豪快に笑う富士を見て、奥のヨーシャンクがにやりと口角をあげた。東雲は鉄仮面のように表情を固めるが、アキラはすでに顔がにやけている。
まったく、友人が公式で取り上げれられたなんて知ったら、富士の性格上どう考えたって火が付くにきまってる。結果的には自分達が忙しくなるのなんて目に見えてるってのに、本当にいい性格したやつらだよ。
早く反応を見てみたい気持ちはあるが、楽しみは最後にとっておいてまずは情報の整理だ。この手の話題は錦とヨーシャンクが仕切ってくれている。
「さて、集まったなら始めてしまおう。今回はちょっと細かいところも含めて、ここまでの情報の共有と今後の方針の確認をしたいと考えている」
「うむ。まずはハンドメイド、続いて戦場の各ルート別の情報を共有したいところだな」
「じゃあまずは俺達から。鍛冶関係だと・・・」
伝えたほうがいい情報を交えて短く情報を共有し、気になる点はどんどん確認していく。
生産職関連だと、やはり想定された通りの素材系アイテムの高騰が問題らしい。イベント前に比べて価格はすでに2倍近い。希少なものは5倍の値段に跳ね上がっているものまであるらしい。とはいえ、以前のイベントでこの手の価格上昇は経験済み、以前ほどの混乱はないようだ。ただし、今週末を超える頃から在庫が怪しくなりそうなものもあるようで、平日の間にその手のアイテム調達をクエストにして可能な限り貯蓄しているようだ。
アイラが話していた大量の食料作成は、みんなも疑問に思ったらしい。それについては錦が情報を補足してくれた。
「保存の効く食料の作成だが、大きく二つの問題が起きて調達が必要になったという経緯がある。一つは一度築いた前線拠点のいくつかが敵に落とされたことだ。当然運び込んだ食料、装備の耐久アイテム関連を相当量失っている。この辺りの輸送計画には私も一枚噛んでいた。私がもう少し頭を回して入れば損失を大きく減らせていたものを」
さらっと言ってるが、リアルでいうなら兵站計画の一部に立案から参加ってことなのだろうか。どれだけ信頼されてるんだよ。正直言って錦、お前が一番別ゲーやってるのかもしれん。
「ま、まあそれはいいとして、驚いたのはこの辺の物資量の変化だね。この手のゲームじゃ信じられないけど、しっかりと、正確に物資の総量が目減りしたらしい。そんなところリアルみたいに作りこまなくても成り立つだろうに、本当にちゃんとしすぎてる運営だよ」
ウッディが笑いながら続けるとハンドメイドのメンバーや楓、ミリエルなんかが頷いている。
「失ったものは戻らんからな、あとはこれ以上拠点を失わないように作戦を考えていくだけだからそれはいい。目下の問題はこちらだ。簡単にいうと物資輸送を担当している行商や商人が襲われている。これまで動かした物資のうち、5%近くを失った。これに関しては口外禁止で頼む」
荷車や馬車みたいなものを使えば相当量の荷物を載せることができる。それを考えると1割ってのはかなり危機感を煽られる数字だな。まったく、本当に嫌な戦術をとってくれる。
「狙われているのはどのあたりだ」
「基本的には往復で1日はかかる距離だな。南ならタイアの次か、その次の町といったところだ」
ちらりと富士がこちらを見る。
「俺の妹が南方面の輸送クエストに参加している。そいつは護衛がついてるから大丈夫かとは思うが、詳細な情報はいるか?」
「あら、カイって妹ちゃんいるの?なんか、すごい世話焼きっぽいわ~。とりあえず今度紹介しなさいよ」
「なんでだよ」
離れた町の商人の情報はプレイヤー間の掲示板のやり取りはあれど、文字由来の情報伝達だと細かな話までは聞けていないらしく、後日連絡を取ることとなった。
生産関連の話が終わると、次はそれぞれの戦線の話だ。俺からの話題は森ルートのプレイヤーだけが苦戦し始めている戦況と、以前のクエストで見つけたよくわからない祭壇についてを伝えている。これについては祭壇の効果が影響してるのはほぼ間違いなさそうだけど、効果がわからない以上は調べ続けるしかない類のものだ。
草原ルートはメインのメンバーがいないため報告なし。川辺ルートは特定のパーティーとは組まずに即席で組んでのレイド戦を繰り返しているらしい。
「まあ、聞いた感じじゃ俺たちの戦果が一番高かったんだけどなあ」
そう言って富士はにやりと笑って俺を見ている。まったく、少し硬めの話し続けたからちょっと飽きてきたな。
「ふふ、まあいいか。錦、今後の方針を話す前に俺たちの最大の戦果をご覧に入れてもいいだろうか」
「構わんぞ。ネタバレするつもりはないが、本部でも大層話題に上がっていたからな」
ヨーシャンクが何やら手元でウインドウを操作すると、VOLのロゴが立ち上がった。
「マジで公式乗ったのか?」
それはそれは嬉しそうな、それでいて少しだけ悔しそうな表情で富士がつぶやいた。




