優しい思い出 2
過去、二人はエルセの前ではいつだって仲良しという顔をしていたし、お互いにそんな不満を持っていたなんて想像すらしていなかった。
だからこそ、二人が結婚の約束をしていたという話も気にしてしまったのだから。
「はっ、どの口がそう言うんです? できないことを言い訳に長時間一緒にいたくせに」
「弟子が師匠に教えを乞うのは当たり前のことだろう」
フェリクスとイザベラの謎の口論はエルセへの愛情からくるものだろうし、気持ちはすごくすごく嬉しい。
けれど今も昔も大切な二人に、言い合いをしてほしくはない。どうにか気持ちを尊重しつつ止める言葉を必死に考えていると、先に口を開いたのはルフィノだった。
「お二人とも、どうか落ち着いてください。彼女が困ってしまいますよ。どちらもエルセのことを大事に思っていたのは伝わっているでしょうし」
「ル、ルフィノ……!」
いつも二人はルフィノの言うことは聞いているし、救世主だと胸を打たれたのも束の間、なんとフェリクスとイザベラはきっとルフィノを睨んだ。
「そもそも私はルフィノ様が誰よりも妬ましかったんです! いつもエルセ様に頼られて、支えてあげる力もあって大人で、一番良いポジションでしたよね」
「ああ。俺も同じ気持ちだった」
「やっぱり? お二人が一緒にいると、入り込めない世界もありましたよね?」
「分かる。自分が空気になった気さえした」
「…………」
なんと今度は仲裁に入ったルフィノへ飛び火してしまい、フェリクスとイザベラが分かち合うという急展開を迎えた。
困惑する私とは違い、ルフィノは変わらず穏やかな笑みを浮かべている。
「そうですか? 僕は仕事を通じての関わりが多かったので、エルセと気軽に関われるお二人が羨ましかったですよ。結局みんな無いものねだりだった、ということでしょうね」
「…………」
「…………」
綺麗にまとめた後、ぱんと軽く両手を叩き「食事が冷めてしまう前にいただきましょう」と微笑む大人なルフィノに、二人はぐっと黙り込む。
その姿はなんだか子どもの頃と重なって見えて、思わず笑みがこぼれた。
「ふふ、ありがとう。懐かしくて嬉しくて、温かい気持ちになったわ」
エルセ・リースはこんなにも愛されていたのだと、改めて知ることができたのだから。
私がにこにこしてしまっていると、つられたようにイザベラもふっと笑う。
「言いたいことが言えてスッキリしました。これでもう不満はありません」
「ああ、そうだな」
フェリクスも微笑んでいて、胸を撫で下ろした。
「イザベラはデラルト王国に戻った後、どうするの?」
「そうですねえ……聖女としての仕事をしつつ、結婚相手を探そうと思います。今の私ならよりどりみどりでしょうし、お父様が妙な相手を決める前に良い男性を見つけないと」
当然のようにそう言ってのける、自信に満ち溢れたイザベラは素敵だと思う。
どうかイザベラに良い出会いがありますようにと、祈らずにはいられなかった。
◇◇◇
それからは四人でお茶をして、イザベラと私の部屋にてベッドに入った。
ちなみに転移魔法陣の前で別れる際、フェリクスが「妙なことはするなよ」と念を押して、イザベラに笑われていた。
「こうして誰かと眠るなんて、子どもの頃以来です。今日はたくさん我が儘を聞いてくださってありがとうございました。ティアナ様とたくさん一緒に過ごせて嬉しかったです」
「私もよ。ありがとう」
今日一日、イザベラのお蔭で本当に楽しかった。くだらないことで笑ってはしゃいで、普通の女の子になったみたいだった。
イザベラは私の背中に腕を回し、胸元に顔を埋める。
「……ティアナ様、最初にたくさん酷い態度をとってしまってごめんなさい」
「ううん、気にしていないわ」
「ルフィノ様から聞いたんです。ティアナ様はずっと『イザベラは良い子だから大丈夫だ、いつか分かってくれる』と言ってくれていたって。それがとても嬉しくて、罪悪感が止まらなくなって……」
「もういいの。それくらいエルセを大切に思ってくれていたってことでしょう?」
声を震わせるイザベラの背中に、私もそっと腕を回した。
イザベラが心から反省していることも、もう二度と誰かを傷付けたりはしないことも分かっている。
「……帰りたくない、なあ」
小さな声でそう呟いた彼女の肩は震えていて、泣いているのだと分かった。
──イザベラ自身は「まだ帝国にいたい」「最後まで一緒に戦いたい」と言ってくれた。
けれど既に「呪い」は解けたと国内外に伝わり、彼女を心配するデラルト王国からも帰ってくるよう催促がきている。
それと同時に、ファロン王国からも一通の手紙が届いた。
『……神殿への招待? 白々しいにも程があるわ』
シルヴィアから私へ宛てた手紙には、神殿へ私を招待したいということが綴られていた。
コミックス発売5日目です!
どうぞよろしくお願いします( ; _ ; )/~~~♥




