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【コミック④発売】空っぽ聖女として捨てられたはずが、嫁ぎ先の皇帝陛下に溺愛されています  作者: 琴子
第2部 

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最後の呪い 1



 夜会での事件から、二週間が経った。


 無事にルフィノとイザベラは地下遺跡の呪いを解いて帰ってきてくれて、帝国内はさらに沸き立っている。


「……はあ」

「溜め息なんて吐いていると、幸せが逃げちゃいますよ」


 向かいでロッドを丁寧に磨くイザベラは、大袈裟に肩を竦めてみせた。


 イザベラの部屋に書類を散歩がてら渡しに来たところ、お茶を飲んでいかないかと誘われ、お言葉に甘えて今に至る。


 イザベラはとにかくロッドを大切にしていて、数日に一回は数時間かけて自ら磨くらしい。


「どうせあの侯爵令嬢のこと、気にしているんでしょう?」

「ええ」

「ティアナ様はお優しすぎます。私は終身刑でも良いと思いますよ」


 せいせいしたと言わんばかりに、イザベラはふんと鼻を鳴らす。


 ──夜会での一件によるザラ様の処遇は、禁錮二十年に決定した。


 ザラ様が目覚めた後に色々と聴取をしたところ、彼女が身につけていた真っ赤なブローチが呪いの原因になっていたそうだ。


 他者から譲り受けたものらしいけれど、そのことを話そうとすると、ひどく苦しみ呼吸ができなくなるのだという。相当強い制約魔法によるものだろうと、報告を受けた。


『皇妃様の化けの皮を剥がすためのもの、とだけ聞いていたそうです』

『……そう』


 悪意はあったものの、私の命を狙おうとしたものではなかったこと、彼女自身も被害者であること、そして私からのお願いもあり、かなり減刑される結果となった。


 とはいえ、年頃の若い女性が二十年も閉じ込められ罪人として生きていくのだから、とても辛く苦しいものに違いない。彼女ほど輝かしい人生を送ってきたのなら尚更だろう。


 その上、父親であるシューリス侯爵は「自分や侯爵家は無関係だ」「愚かな娘が勝手にしたこと」「勘当する」と娘を簡単に切り捨てたと聞き、やるせない気持ちになった。


「……間違いなく、シルヴィアの仕業でしょうね」

「どうして分かるんですか?」

「同じようになっている人間を何人も見たことがあるもの」


 ファロン神殿で何かを訴えかけようとするたびに苦しみ、そして二度と姿を見なくなった者達が大勢いる。


 きっとシルヴィアに良いように使われ、消されていったのだろう。


『けれど私、知っているんです』

『何をかしら?』

『──ティアナ様が「空っぽ聖女」だということを』


 過去の舞踏会での彼女の発言も、やはりファロン神殿の人間──シルヴィアから直接聞いていたに違いない。


 シルヴィアから聞いたのであれば、あれほどの確信めいた様子も納得がいく。


 今はザラ様の父であるシューリス侯爵にも、ファロン王国との関係を含めて話を聞くよう指示してある。


(本当に次から次へと、気が休まらないわ)


 やはりシルヴィアをどうにかしなければと、息を吐く。


「そもそもフェリクス様とティアナ様がいなければ、大勢の人が亡くなっていたかもしれないんですからね。命があるだけ感謝すべきです」


 イザベラの言うことは、きっと正しいのだろう。立場上、情けをかけすぎるのも良くないと分かっている。


「ありがとう、イザベラ。心に留めておくわ」

「はい。そんなティアナ様が私達は好きなんですけどね」


 難しいことは全部フェリクス様に丸投げしちゃえばいいんです、なんて言うイザベラに笑みがこぼれた。


「イザベラ様、いらっしゃいますか」

「どうぞ」


 そんな中、イザベラの部屋を訪れたのはルフィノだった。


「ティアナ様もいらっしゃったのですね。こんにちは」


 珍しくシンプルな貴族服の私服を身に纏っていて、今日は休みらしい。


 何か大事な用事があるのかもしれない、邪魔になっては困ると慌てて立ち上がると、ルフィノは首を左右に振った。


「ティアナ様にも聞いていただきたい話だったので、ちょうど良かったです。先日、イザベラ様と行った『バルトルト墳墓』についての調査報告書をまとめてきました」


 ルフィノは私に書類の束を渡し、イザベラの隣に座る。


(……相変わらず、よくできているわ)


 ぱらぱら軽く捲るだけで、優れたものだと分かった。


 先日の地下遺跡に続き、数日前にイザベラとルフィノは最後の呪われた地である『バルトルト墳墓』へ様子を見に行ってくれており、その時のことをまとめたものだという。


 ──バルトルト墳墓は帝国を建国した初代皇帝が眠る墓で、中央には大聖堂が建っている。


 民達もよく訪れて礼拝をし、私達聖女も神殿に入った後、必ず祈りに行く場所でもあった。


 だからこそ、この地に「呪い」を受けた際には多くの民達が悲しみに暮れたと聞く。


「正直、様子見と言いつつ、そのまま解呪して帰って来られたらと思っていたんですが……様子が変だったんですよね」


 書類に目を通す私の向かいで、イザベラは大きな溜め息を吐いた。


「変っていうのは?」

「辺り一体を浄化しようとしても、すぐに元に戻ってしまうんです」


 イザベラは結構な魔力を使って頑張ったのにおかしい、と頬を膨らませている。


 同行したルフィノから見ても不可解で、特殊な方法が必要かもしれないとのことだった。


(浄化できないならまだしも、すぐに元に戻るなんて……何故かしら)


 最近は皇妃として忙しくしていたものの、やはり一度私も足を運んでみる必要がある。


「その日、同時に調査していた同じ敷地内にある教会も、一瞬呪いが弱まったんです。すぐに元に戻りましたが」

「何もしていない教会も……?」


 教会というのはバルトルト墳墓の近くにあり、初代皇妃様が眠っている場所だ。初代皇帝は皇妃を深く愛したと言われており、生前から用意させていたんだとか。


 バルトルト墳墓で一箇所の呪われた地という括りになっているけれど、実際は教会も「呪い」に侵されているため、実際には二箇所の浄化をしなければならない。


「……もしかすると、連動しているのかもしれないわ」


 大聖女だった頃に一度、双になっている魔物を倒したことがある。


 特殊な魔物で片方を殺しても絶対に死ぬことはなく、二体同時に殺さなければいけなかったため、かなり手こずった記憶があった。


 力のある魔物で一体を倒すのにも相当苦労したというのに、本当にきっちり同時に殺すなんて至難の技だった。


(流石の私も魔力が空っぽになって、ルフィノからも魔力をいただいたっけ)


 その話をすると、二人もその可能性はありそうだと同意してくれた。


「一度、通信用の魔道具を繋ぎながら試してみましょうか」

「ええ、イザベラがいてくれるお蔭で同時に浄化することも可能だし、これまでと違って何度でもやり直せるもの」


 バルトルト墳墓には魔物が多いものの、近づけないほどではないそうだ。ルフィノやフェリクスがいてくれれば、私達も浄化に集中できるはず。


(けれど、何か嫌な予感がする)


 昔から私のこういう勘は当たってしまうため、気を引き締めなければ。


 そうしてフェリクスの日程も調整し、最後の「呪い」を解く計画を立てることとなった。


 

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【脇役の私がヒロインになるまで】

新連載もよろしくお願いします!

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