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【コミック④発売】空っぽ聖女として捨てられたはずが、嫁ぎ先の皇帝陛下に溺愛されています  作者: 琴子
第2部 

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48/85

ベルタ村 2

本日コミックス2巻(超良いところ)発売日です!

※2話同時更新しています。



 ベルタ村の中は、ひどく静かだった。


 魔物の姿は今のところない上に、瘴気も赤の洞窟よりもずっと薄い。


 結界の中という限られた空間の中で時間をかけて、煮詰めるように呪いが濃く強くなっていることを想像していたため、予想外だった。


 フェリクスと私が並んで前を歩き、イザベラがすぐ後ろをついてくる。


「何よ、これ……こんなものがあっていいの……?」


 けれど初めて帝国の「呪い」を間近で目にしたイザベラは、青ざめながら口元を手で覆っている。これでも普通の呪いとは比べ物にならないほど強いものなのだから、恐ろしい。


 私も初めて目の当たりにした際、その禍々しさに呼吸をすることも躊躇った記憶があった。村の中には朽ちかけた家屋があるだけで、生物の気配は一切ない。


「……ここで、どれほどの命が失われたんでしょうね」


 時折、衣服だったらしい布が落ちていて、ここで誰かが亡くなったことが窺えた。命を落としても弔われることもなく、ただこの場所で朽ちていったのだろう。


 濃い瘴気は人や動物を腐らせ、骨すら残さない。


 ほんの少しの間だけ歩みを止めて跪き、目を閉じて両手を組む。そんな私を二人は止めることもなく、イザベラも静かに両手を組んだ。


(どうか安らかに眠れますように)


 今の私にできるのは、そう祈ることだけ。結界を張り続けてくれているルフィノを思うと、今は時間がないため、村人達を埋葬するのは全てが終わった後だ。


 立ち上がった私は二人に「ありがとう」と言うと、再び歩みを進めた。


「とにかく呪いの元凶を探しましょう」

「ああ」


 赤の洞窟の小箱のように、何か元になっているものがあるはず。そうして村の中を進んでいくうちに、少しずつ魔物が現れ始めた。


 硬そうな鱗を全身に纏う巨大な蜥蜴に似た魔物が一体、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。


「やっぱり魔物がいない、なんてことはないのね」

「そうみたいだね。少しだけ待っていて」


 地面を蹴ったフェリクスは剣を抜き、一瞬の間に何度も斬りつける。きっと私の目で捉えきれている回数よりもずっと多く、剣を振るっているのだろう。


 魔力を使わずとも彼の剣は魔物の身体を確実に裂き、紫色の血飛沫が舞った。


 少し遅れて大きな体が地面に倒れる鈍い音がして、同時にフェリクスは止めとして頭部を真上から剣で貫く。


 魔物は動かなくなり、フェリクスは無表情のまま剣を引き抜いた。圧倒的な強さに、感嘆の声が漏れる。


「行こうか」


 何てことのないような顔をして剣を鞘に収めたフェリクスは、小さく笑う。


 彼以上に心強い仲間はいないと心底思いながら、また一歩村の奥へ進んでいく。


 それからも赤の洞窟に比べると数は圧倒的に少ないながらも、魔物は現れた。


「このまま黙っていても具合が悪くなるだけだし、私も加勢しますね」


 そんな中、フェリクスだけでなくイザベラも的確に魔物の弱点を狙い、浄化していく。まるで軽い運動だと言わんばかりに、ロッドを掲げながら。


(すごいわ……!)


 この反応と判断の速さは才能だけではなく、彼女のこれまでの努力と、数多の魔物と戦ってきた経験によるものだろう。


 イザベラのロッドにある魔宝石も、攻撃補助に特化したものが多いようだった。


「俺が倒すから、ティアナは何もしなくていいよ」

「ありがとう、フェリクス」


 私も加勢しようとしたけれど、この後の浄化のために少しでも魔力や体力を温存するよう、フェリクスが気遣ってくれる。


 彼はイザベラにも同じように声をかけていたけれど、魔力量が多い彼女は「問題ないです」と一蹴していた。


「グルアアアア!」

「本当、うるさいわね」


 イザベラは自身の二回り以上大きな魔物を結界で抑え込み、動けないよう固定する。次に結界内を浄化し、魔物は崩れ、溶けるように消えていった。


 その様子を感心しながら見守っていると、イザベラは「はっ」と鼻で笑う。


「どうかしましたか? 何か気になることでも?」

「いえ、とても素晴らしいです! でも、この場合はより良い方法があって──」


 ちょうど同じ個体が近づいてきたため、私もまたロッドを向けて結界を展開する。


 先程のイザベラのものよりも簡易的な結界を展開し、同時に結界内の一部を魔法式で範囲指定して浄化した。

こうすることで魔物の弱点だけを浄化し、短時間で倒すことができる。


(久しぶりだったけど、上手くできたわ)


 やはり魔力量が増えたことで魔法を使うのも以前よりずっと楽で、速度も上がっていた。


「こうすることで魔力の消費も半分で済むし、広範囲にも展開する余裕ができるから、複数の魔物を相手にする時に便利で──」

「…………?」


 そこまで言いかけたところで呆然とするイザベラに気付き、ハッと口を噤む。


 ついイザベラの成長が嬉しくて、師匠面をして昔の感覚で教えるように語ってしまった。


(どうしよう、マウントを取る嫌な女だと思われてしまったら嫌だわ……)


 内心冷や汗をかきながら、イザベラの様子を窺う。


「……どうして」


 イザベラはひどく驚いた表情で、私を見つめていた。やはりファロン王国での私の印象が強く、困惑しているのかもしれない。



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【脇役の私がヒロインになるまで】

新連載もよろしくお願いします!

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