落ち着かないティータイム
本日からコミカライズが連載開始です!
詳しくはあとがきにて( ˘人˘ )
ある日の晩、私はフェリクスを自室に招き、お茶をしながら他愛のない話をしていた。
「やっぱりティアナが淹れる紅茶が一番美味しいよ」
「本当? 良かったわ」
最近はまたお茶に凝っていて、色々な茶葉をブレンドしてみては、好みの味になるよう試行錯誤している。
少量の違いで香りも味も変わるため、失敗も多い。けれどどこまでも奥深くて、楽しくもあった。
もちろんフェリクスに出すものは失敗できないし、彼の方はきっちり安定の分量で淹れてある。
「……あ、美味しい!」
今回は自分の分だけ変えてみたところ、想像以上に美味しくて、感激してしまった。
「ねえフェリクス、一口飲んでみてくれない? とても美味しく淹れられたんだけど、あなたも好きそうだわ」
「…………」
そうして隣に座るフェリクスにティーカップを差し出したところ、何故か彼は一瞬、固まった。
けれど少しの後「ありがとう」と微笑むと私からティーカップを受け取り、そっと口をつけた。
「本当だ。俺も好みだな」
「でしょう? 次はあなたの分もこれにするわ」
私も改めて飲んでみては、この分量をしっかり覚えておこう、なんて考えていた時だった。
「間接キスだね」
「えっ!? か、かんせ……けほっ、ごほ、っ」
フェリクスがそんなことを言い出したせいで、動揺した私は思い切り咳き込んでしまう。
確かに言われてみれば、その通りで。じわじわと顔が熱くなっていき、落ち着かなくなる。
「やっぱり何も意識してなかったんだ?」
「だ、だって……」
彼が子どもの頃はいつも二人で味見をしながら色々試していたため、無意識だったのだ。
今は年齢も立場も何もかも違うというのに、自らの行動に対して反省も後悔もした。
謝罪の言葉を紡げばフェリクスは「謝らないで」と言って、ソファの上に置いていた私の手を取った。
「俺ばかり意識していて寂しかったんだけど」
「…………っ」
「その様子を見る限り、そうでもないみたいだね」
何も言えずにいる私を他所に、フェリクスは続けた。
「もう一口もらっても?」
「だ、だめ!」
「ははっ、かわいいな」
フェリクスは慌ててティーカップを遠ざけた私を見て楽しそうに笑っており、悔しい気持ちになる。
「絶対に俺以外にはこんなことはしないでね」
「当然でしょう」
「それなら良かった」
私の返事に対し、満足げに形の良い唇で弧を描くフェリクスに、また心臓が跳ねてしまう。
(迂闊な言動に気をつけないと、身が持たないわ)
あの頃とは違うのだと、改めて思い知らされる。
結局しばらくドキドキは収まらず、快眠効果のあるお茶だったのに、その日の晩はなかなか寝付けなかった。




