表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/63

世界各国の反応



◆◆◆アメジスト王国の場合:


 アメジスト王国の国王はその報を受けるなり、声をたてて笑った。


「あはははー。馬鹿だなサウスフィールド王国は! そんな名ばかりの伯国など作ってどうしようというのだ?」


 多くの国の反応がこんなものであった。名前にも上がらない中小国では特にそうだ。

 最も代表的な意見としては大陸の西にあるアメジスト王国であろう。


 アメジスト王国はサウスフィールドの西側と隣接し、それなりに交流もある国家でもあった。

 アメジスト王国の南側も海に面しており、サウスフィールドと同様に時間を掛ければ船で旧南部魔王国の大陸に行くことができる。


「ならば我々もあの大陸の伯国を立てて名乗らせれば良いだろうか?」


 そう笑う国王を宰相は諫める。


「それはおやめ下さい」


「なんだ宰相? 何か問題でも? 伯爵として立てられた男は貴族ではあるが、学園の庭師というか――要するに用務員であろう? 完全なる捨て駒であろに」


「捨て駒であるからこそ、いかようにも使い手があるのです。ここでかの大陸を同じように伯国としてみましょう。そうすればサウスフィールドとの関係は地に落ちまする。そうなれば貿易なども――」


「ふむ。それはいかんな。ならば――、そやつは学園の用務員とかいったか? であるならその学園に女でも潜り込ませ、傷ものにされたとか訴えて取り込むとかどうだ? まぁ爵位は名目だけかもしれんが、さすれば、かの大陸は我々のものとサウスフィールドにも認証できよう」


「貴族の学園ですぞ? ホンモノの貴族を送り込むのはさすがに――」


 サウスフィールド王国は歴史のある国家であり、学園には名門として多数の貴族が生徒として通っていた。その貴族はサウスフィールド王国からの貴族が多数を占めるが、そこは名門の学園である。少数ながら国外からの留学生の姿もある。

 つけ入れようと思ってできない話ではなかった。


「なにもホンモノの令嬢を送り込む必要はあるまい。そこらの女を養女にするとかで十分なのでは? それこそ我が国の暗部にもそういうのが得意な連中がいるだろう?」


「養女といえど学園に入学した以上、貴族は貴族です。逆に乗っ取りの調略に使われたりしないでしょうか?」


「それもそうだな――、ならば――」





 アメジスト王国の策謀の闇は常日頃からひそかに、そして確実に広がっていった――





◆◆◆パラチオン王国の場合:


 サウスフィールド王国の上にあるパラチオン王国は、今代4代目を就任したジエチルパラニトロフェニルチオホスフェイト国王が納める国家の一つである。


 そしてパラチオン王国は属国である聖ピーチ魔王国の一国を保有する大国でもあった。


 まぁ実際のところ、聖ピーチ魔王国は魔族が住む魔族領の領域にその国境を広げており、パラチオン王国としてはいささか属国の枠を超え持て余している状態でもあるのだが、しかし臣下の礼を取り、形ばかりではあるものの従属をしていることには違いないため、結果的に外交としては周辺国に対して強い発言力を持つ国となっていた。

 そして聖ピーチ魔王国が属国であるが故、かの国から例の映像器が送られてきており、それを見たパラチオン王家の面々は頭を抱えることになるのであった。


 実際その王家の面々には国王の他、その国の王太子しかいない訳だが。

 そこは秘匿すべきものは秘匿すべしという家訓に基づく賢明な対応であったといえよう。こんなことが公になれば国全体が大荒れになるに違いなかった。


「さて、魔王ラララによる世界征服宣言か。なんだこれ?」


「父上、あからさまに臭いますな」


「あぁ臭うな。そして先ごろのサウスフィールド王国のアヤシイ動き。どういう意味を持つ? 分かるか?」


 パラチオン王国には、この映像器とともにサウスフィールドの情報も同様に入ってきていた。


「あからさまな懲罰人事と見せかけてー、サウスフィールド王国は、かの大陸の魔族の面々を取り込もうとしているのではないでしょうか?」


「そうなれば聖ピーチ魔王国に続く、第二の人を巻き込んだ魔王国が出来る訳だが――」


「おいおい、我が息子とはいえ、聖ピーチ魔王国が魔族に通じる国だとでも言いたいのではあるまいな? だから『第二』の人を巻きこんだ魔王国では断じていない。いうならば初の――と言うに相応しいだろう」


「なにをいまさら。あの聖女ピーチが単にゴブリンの魔王を制御しているとでも言いたいわけですか? あの聖ピーチ”魔”王国が。だいたいこの映像を入手していること自体、どこまで我が属国は魔族と通じているのやら――」


「さぁ? そこまでは知らぬな」


「いっそ父上。いまから”魔”王国であることを糾弾して――。かの属国を直轄領にするとか――」


「それはやめておけ。それをして聖ピーチ魔王国に我が国軍が勝てるならともかくな。藪を突いて独立されても困る」


「ぐぬぬ……」


 聖ピーチ魔王国は美少女の擬人化したゴブリンの魔族を多数擁しており、人類国家として戦闘力の面では最大級の戦力を保有している。

 聖ピーチ魔王国が独立をしないのは単に初代のピーチ姫がパラチオン王国の貴族であったことと、対人類側との軋轢を嫌ってのことである。

 その軋轢とパラチオン王国からの要求を天秤に掛けて後者の方が大きくなるのであれば、あっさりと独立するだろうということは、聖ピーチ魔王国を含む周辺国すべてが共通する認識であった。


「ともかく、魔族領からの産物は我が国の繁栄には必須だ。それにある程度こちらを尊重してこんな情報まで寄こしてくる。利用できるうちは利用するべきだ」


「しかし――」


「ともかく、しばらくは静観するしかあるまい。この魔王ラララと共に映っているこの男が何者か、まずは調べる必要はあるだろうが……」


「それはそうですが――」


 パラチオン王国は属国を抱えているだけに難しい舵取りを迫られるのであった。







◆◆◆聖ピーチ魔王国の場合:



 事情を知る聖ピーチ魔王国の首脳陣は、主国のパラチオン王国より事態を深刻にとらえていた。


「あからまさすぎるわ。あまりにあからまさすぎるではないかしら?」


 聖女、ピーチ姫は会議の中で渡された文書を思わず握りしめる。

 それに答えるのは《強欲之魔王たる》魔王リナだ。

 その表情は「なにやってんの? 魔王ラララ」であった。


「このラララ魔伯国の侯爵って、要するにこの世界征服宣言をしたおっさんでしょう? その平民の娘って、絶対魔王ラララだよね。そうでなければラララ魔伯国なんて名前はつけたりしないだろうし」


 仰々しい名前に反して、魔王リナの容姿は可愛らしい擬人化されたゴブリンの美少女である。

 さらにその戦闘力は魔王の名前に相応しいことは一筆述べておく必要があるだろう。

 巨大な鉄剣を振るう姿はまさに圧巻である。


「――なるほど。つまり魔王ラララはサウスフィールドの貴族の学園で3年間いちゃいちゃして、貴族の地位を得たら地元にいる配下のルーミートたちを率い、世界に対して侵略戦争を始めちゃおうというストーリーラインかしらね?」


「そうなるのでしょうね」


「つまりは何? サウスフィールド王国は既に魔王ラララに取り込み済ってこと? さすがは《怠惰之魔王たる》魔王ラララね。――どこが怠惰なのかしら?」


「《怠惰之魔王たる》とかいう呼称はウィンドウシステム側が勝手につけるからね。ゴブリンの魔人である私に言われてもそんなの分からないわよ。私の《強欲之魔王たる》魔王リナも意味が分からないし――」


 魔王リナは、きびだんごうを始めとした人類料理に強欲なのを棚に上げ、ウィンドウシステムについて批判した。


「――と、ともかく、サウスフィールドは魔王ラララに取り込まれたと考えた方が良いかもね。宰相! それで次の展開はどう読む?」


「おそらくその平民の娘――魔王ラララと思われる――が卒業するまでは動きはないでしょうね。その後はどうなるか……」突然呼ばれた宰相はすぐさま答えた。


「でもいいご身分よね。学生時代を男といちゃついて過ごすとか。わたしもそんな学生時代を過ごして見たかったわ。あー。男とか食いまくったかったなー」


「さすがに聖女さまのご身分で学生時代に男漁りはやめていただきたのですが……」


「え? いまなら良いの?」


「なおのことダメです!」


 こうして聖ピーチ魔王国の会議はどんどんとヒートアップしていく。

 そして聖ピーチ魔王国の首脳陣は考えられそうなサウスフィールドの方針をリストアップしていった。


・案1:サウスフィールドから東征:魔王領を攻略する。

・案2:サウスフィールドから西伐:アメジスト王国に侵略戦争する。

・案3:サウスフィールドから南征:海を超えた旧南部魔王国の大陸を制圧して国力を増進させる。

・案4:サウスフィールドから北伐:魔王リナを退治するため聖ピーチ魔王国に対して侵略戦争する。


 東西南北どの案にしても、どれもありそうでまとまりそうにない。


 南の大陸――つまり魔王ラララの本拠地を制圧するのは一番ありそうな案だが、魔王ラララ本人が主導するのであれば、さほど混乱なく速やかに治まる可能性が高い。距離が遠いため時間が掛かるだろうが、どのくらい掛かるかまでは予想ができそうになかった。

 その予想の最短は3年後だ。旧南部魔王国の魔物たちを完全に支配し侵略の準備に掛かる期間としての見積もりが、その学園に通っている3年である可能性がある。魔王ラララの支配する魔物として特に有名なものはルーミートだ。あの映像器の一件から見ても現在この時点で、すでに多くのルーミートたちをその支配下に入れていることが見て取れる。


 アメジスト王国はサウスフィールドの西にある国家である。

 貿易を行っており、さほど優先順位が高そうには見えない。

 それと比べると――、サウスフィールド王国の北に位置する聖ピーチ魔王国は関係性が比較的悪く。想定される確率としては大きいものがあった。

 サウスフィールド王国と聖ピーチ魔王国は互いに魔族領を東に抱えているという共通点があるものの、その半面その程度の関係しかない。

 サウスフィールドは勇者を祖先に持つ国である。現在の王子も《勇者》クラスを擁しているとのことであり、その《勇者》が魔王を擁するような国に対し、良い感情を持つようなことは普通に考えてないだろう。

 そして、サウスフィールドにとって魔王ラララを有することは《勇者》がいることと矛盾しない。なぜなら魔王ラララは先祖の勇者が下した相手なのだ。「次は魔王リナ、お前だ」とばかりに攻めてくることは、最もありえそうな展開だった。



 ――そんな喧々諤々とした議論を首脳陣がしているなか、一人の兵士がさらなる悲報を告げてくるのであった。


「申し上げます!」


 一斉に首脳陣が突然入ってきた兵士の方に振り向く。

 一介の兵士はたじろいだが、しかし報告をしないという選択肢はなかった。


「殿! ≪暴食之魔王たる魔王≫ベルが、この王都を目指し進軍しているとのこと!」


 それは、魔王領からの新たなる魔王の侵略を知らせる内容であった。



 ≪暴食之魔王たる魔王≫魔王ベル――


 人類の生息圏内を縮める存在として知られる彼女は、過去から人類と戦う存在であり、魔王領から領地を奪い拡大策をしている聖ピーチ魔王国としては、天敵ともいえる軍勢の一つである。


「まことか! その数はいくつだ――」


「その数、120万オージスとのこと(*1)」


「ひゃ――、120万だとぉぉ!」


 思わず宰相が悲鳴をあげる。


「そ、そんな……」


 いくら強大な魔王、《強欲之魔王たる》魔王リナを擁する魔王国とはいえ、数の暴力にはどうしようもなく――



====================================

(*1)オージスとは:

 説明しよう。オージスとは数を数えるときに使われる単位である。匹/頭/人/柱など数の単位を当てる時に、『魔人と魔物を合わせた数として人や匹はおかしいよなぁ。本来は、魔人は1柱2柱……、魔物は1匹2匹……、が正解なんだろうけど……』と、結局どの単位を当てるのが適切か分からなくなった《さくしゃー》なるナゾの人物が、この世界独特の数を数える単位として設定したものである。戦闘時の数単位として便利に使うことができる。類似語にソーケンなど。






◆◆◆ノーザントロフ神奉国の場合:



 ノーザントロフ神奉国は水と商売の神であるウィンディーネを信奉する宗教国である。

 ウィンディーネの上にはさらに主神カーキンがいるが、直接主神を(たてまつ)るのは恐れ多いということで、水神ウィンディーネが信奉されているのだ。


 水は工業用、農業問わず多くの個所で使われているものであるから、商売の神とは親和性が高く、他の、例えば火と(こうつう)安全(あんぜん)を願うフェニクスや、風と飛躍(ひやく)を願うマーミヤ、大地と学業(ぎょうせき)を願うミチザネなどと並んで人気があった。


 そんな宗教国家ではあるのだが、そんな情報を得て出た意見は、




「そんな遠いところの国家の話など、知らんがな」




 ――であった。




 周辺国とは程遠い北の大地の国家である。

 そうなるのは仕方がないだろう。


 それはまるで、香川県が日本のどこにあるのか分からない山梨県民のような反応であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ