第91話 カリキュラム3(王国社会、魔法実技)
騎士学園に入学して一週間がたった。
そして私はクロリーネ様とともに、お兄様たちが所属するダンジョン部に入部した。
冒険者ギルドにはギルド協定というものがあり、上級貴族はギルド登録ができない。最初はクロリーネ様の登録を拒否されたけれど、アルゴの婚約者だと伝えたら中級貴族扱いにしてもらい、無事登録が完了した。
ついでに、アイル以外のクラスの男子11名も入部した。お兄様が言うには、去年もセレン姉様目当てで上級クラスの1年男子が10人入部したらしいけど、結局一人も残らなかったらしい。
最早、毎年の伝統行事のような扱いだ。
クラスでは一応、友達と呼べる人はできた。同じアウレウス派閥の男爵令嬢、ターニャ・ボルコフ様。もちろんすぐに、お兄様に自慢した。もうボッチとは呼ばせない。
でもまだ少し溝があって、完全に打ち解けるまでには至っていない。
きっと、私の回りにいる男子たちのせいだと思う。
朝もこの人たちが女子寮の前で私を待ち構えていて、私が他の女子生徒に話しかけようとしても、横から邪魔をされて上手く友達が作れないのだ。
いい加減にして欲しい。
クロリーネ様は、毎朝お兄様が迎えに来て一緒に学園へ連れて行ってくれている。ジルバリンク侯爵からも頼まれているからか、お兄様は約束を律儀に守っているのだ。
クロリーネ様はお兄様の事が好きだから、登校時はいつもお兄様の右隣を歩いていて、とても幸せそうだ。
本当はそこはネオン姉様の指定席だけど、ネオン姉様は学園では男装しているためお兄様にはあまり近づかない。クロリーネ様の行動を苦々しく思いながらも黙認しているのだ。
ちなみに左隣はフリュ様の指定席になっていて、お兄様の左腕をしっかり掴んで離さない。
そんなお兄様は、朝から公爵令嬢と侯爵令嬢に挟まれて、鼻の下を伸ばしきっている。
私の気も知らないでいい気なものである。
今日の午前中の授業は社会だ。
王国の歴史を大まかに振り返るらしい。
『王国社会』
○アージェント王国史
王国歴
1年 建国
アージェント王家、クリプトン公爵家創設
3年 建国の勇者パーティーの聖女クレア・ハウスホーファ、シリウス教国の大聖女に就任
50年 アウレウス公爵家創設
78年 シュトレイマン公爵家創設、以後3大公爵家の血縁者から歴代アージェント王が誕生する。
130年前ごろ 大陸にシリウス教の新教派が誕生
215年 神聖シリウス王国建国
248年 アイザック王の政変。アイザック王が王太子を暗殺し王位を簒奪。
280年 アイザック王死去。クリプトン家からテリー王即位。これより、アージェント王国クリプトン朝が始まる。シリウス教・新教を国教化。
300年ごろ 神聖シリウス王国全盛期。大陸各地で新旧教徒の対立激化。王国内も新旧教徒の対立が頻発。300年代前半は停滞の50年前とも呼ばれる。
318年 シリウス教国が鎖国。他国に対し、シリウス教の宗教儀式以外のあらゆる政治的交渉を持たない。
350年ごろ 神聖シリウス王国の衰退が目立つ
360年 アージェント王国王政復古。アウレウス、シュトレイマン両公爵家がクリプトン王家を打倒。以後両家からアージェント王が王位につく。クリプトン家は侯爵家に降格
375年 シリウス教国との国交回復。旧教の再国教化。戴冠式の大聖女の参列が復活。ただし現代においてもシリウス教国の鎖国令は継続
400年ごろ 神聖シリウス王国分裂。各民族ごとの中小国家群に
410年ごろ ブロマイン王国が勢力を拡大
431年 ブロマイン王国は、ブロマイン帝国に改称。この後大陸各地への侵略戦争を開始する
470年 現在
○ 建国の勇者パーティー
アージェント侯爵家三男、ラルフ・アージェント(勇者)
クリプトン伯爵家長男、セシル・クリプトン(魔剣士)
ガゼル・オクトパス(戦士)
クレア・ハウスホーファ(大聖女)
ロバート・サクラメント(大魔導師)
シシリア・リズム(大魔導師の弟子)
アージェント王国史と、お兄様たちと時間溯行した際に最前線でご先祖様たちから聞いた歴史。
歴史は明らかに改竄されている。
一番わかりやすいのは、メルクリウス公爵家とバートリー辺境伯家の記載が完全になくなっていること。
それとアイザック王ではなく、バーン王が政変を起こして新教を国教化した。つまり248年~280年の記載がおかしい。バーン・アージェントはクリプトン家の血筋だし。それ以降の歴史もところどころ違和感を感じる。
ご先祖様たちは、メルクリウス家とバートリー家を建国の勇者パーティーの子孫だと言っていた。
でもそんな記述はどこにもない。
建国後に行方をくらましたとされるガゼル、ロバート、シシリアの3人。実は歴史から抹消されたメルクリウス家とバートリー家だとしたら、こうなるのだろうか。
ガゼル・バートリー(戦士)
ロバート・メルクリウス(大魔導師)
ただし、シシリア・リズムだけは正体が謎のままね。
というか昔から思ってたけれど、この人の「大魔導師の弟子」って称号、一体何なのよ。
ふざけてるの。
昼休みはお兄様たちとランチだ。
ボッチ飯よりはましなので、一週間たった今も続けている。私の親衛隊のみんなも一緒に食事をとるため、このテーブル付近は男だらけになる。
お兄様はAAA団の監視の目があるため、昼休みは相変わらずセレン姉様やマール先輩を含めた生徒会役員との接触を控えている。セレン姉様がサルファーに文句を言ったらしいが、そんなことで挫けるサルファーではないらしい。アホくさ。
だからいつも一緒にいるのは、フリュ様とダンさん、パーラさん、そしてたまにカイン様が来られるのだ!
ここ重要だからもう一度言うね。
なんとあのカイン様と食事ができるのだ。まだ2回だけど。
お兄様と食事をする最大のメリットね。でもお兄様にも私と食事をするメリットがあるようで、私の親衛隊に囲まれていると、AAA団が近づいてこないから気楽なんだって。
持ちつ持たれつの関係ね。
午後は魔法実技だ。
ゴダード先生が魔力を測定する魔術具を持って来て、呼ばれた人から順番に測定する。
ちなみにゴダード先生は40代の女性で、ボロンブラーク伯爵の家臣であるゴダード子爵の奥さんだ。
そういえばこの奥さん、魔法協会の研究員だったわ。
「それでは最初にクロリーネさんからお願いします」
先生に呼ばれてクロリーネ様が魔術具の水晶に手をかざす。すると、緑、黄、白の三色の光が輝いた。
「クロリーネさんは、風、雷、光の3属性で魔力が200です。素晴らしいわね」
「わたくしもこの3つの属性が気に入っておりますのよ。先輩がほめてくれたから・・・」
「あらあらまあまあ、クロリーネさんはひょっとしてその先輩が好きなのね? 婚約者の方かしら? 若いっていいわね~」
「ち、ち、ち、ち、違いますわ。ただの先輩です! そんな好きだなんてこと、あるわけがないじゃないですか!」
「あらそう? でもお顔が真っ赤よ~、うふふ。じゃあその先輩が誰なのか、先生にだけこっそり教えて」
・・・授業中なのに、なぜか恋ばなが始まってしまった。しかもあれ、お兄様のことよね。いろいろと不味いので、授業を進行させなくちゃ。
「先生、まだ一人目です。早く次の測定をお願いします」
「あら、リーズちゃんね。大きくなったわね~、おばさんのこと覚えてる? マーサよ、マーサ・ゴダード」
「お久しぶりです、マーサおばさま。それより早く測定を」
「あら、じゃあ次はリーズちゃん、やってみる?」
「はい」
私が水晶に手をかざすと、赤と茶色の光が強く輝いた。
「あら、リーズちゃんは火と土の2属性。お兄様と一緒ね。魔力も140もあるわ。すごいわね~」
小さいときからお兄様に鍛えられたからね、えへへ。
すると私の親衛隊が私の回りに集まってきて、私のことを褒め称え始めた。
恥ずかしいからやめて!
「あらまあ、リーズちゃんは美人さんだからすっかり人気者ね。セレーネちゃんといい勝負よね」
「マーサおばさま、そんなペースだと授業中に全員分終わらないので、早くしてください」
「はいはい、おー怖わ」
全く、この奥さんは一度話し始めると長いから。
結局、その後も無駄話をはさみつつ測定が行われたため、授業時間を大幅に超過して全員の魔力測定が終わった。
上級クラスだけど全員が魔力保有者というわけではなく、8人が無属性で魔力が10未満、8人が1属性で平均魔力が40程度だった。
残り8人が強力な魔力保有者だが、その結果は以下の通りだ。
クロリーネ・ジルバリンク(風、雷、光 200侯爵)
アイル・バーナム(火、風、光 160伯爵)
カレン・アルバハイム(水、風、土 150伯爵)
リーズ・メルクリウス(火、土 140男爵)
ロック・ガーランド(風、土 110子爵)
ザック・ホワイトハット(火、雷 100子爵)
リナ・フォックス(土 80男爵)
エリサ・フォックス(土 80男爵)
こうして見ると、セレン姉様が1属性で魔力が200というのが、いかに破格の数値だったかがよくわかるわね。
私はお兄様やネオン姉様に一歩及ばなかったか。でも、二人の伯爵家に近い数値だし、これからだよね。
クロリーネ様はさすが侯爵家。魔力200は本来は4属性クラスの魔力なのかな?
俺はソルレート領への侵攻作戦の進捗確認を行うため、男子寮の部屋にネオン、フリュ、そしてセレーネを集めた。
今日はガルドルージュから得た情報を、ネオンから報告してもらう。
「セレン姉様もいるから、簡単に復習するね。まず、ソルレート革命政府は領民から選出された代表者による議会制民主主義。その議長が領主のような立場になる」
「民主主義! そんなものがこの王国にあるの・・・」
「大陸全体をみれば、民主主義をとった国は過去にいくつかあったと思う。今はみんな滅んだけど。それから軍事力について。領民から徴兵した民兵が中心で総兵力はおよそ2万。ただし、武器は量産品の剣や槍などで、魔法戦力は大したことがないようよ」
「ほとんどが領民なので、この兵力とは直接対決を避けよう。下手したら大量虐殺の汚名を着せられる」
「それがいいと思う。ただし革命軍の本体は別。あれはかなり強力な魔導騎士ね。どこかの貴族、ブロマインの帝国貴族が偽装しているのかも知れないね」
「それは腕がなるわね」
「話を先に進めるね。2万人の民兵をどうやって徴兵したかというと、徴兵に応じることと引き換えに民衆には配給が行われているの。かなりの食糧や生活必需品が無償配布されている」
「どこからその物資を得ているのかがポイントだな」
「あとは洗脳ね。飴と鞭をうまく使って、新教徒へと改宗させたり、領民同士を監視させたりして治安を維持している」
「ブロマイン帝国もそういう方法で新教を拡大してるのだろうか」
「ここまでは、既にガルドルージュから報告があった内容をまとめたものだけど、最近わかったことも伝えておくね。フリュオリーネから言われたとおり中立派の領地を調べたら、食糧などをソルレート領へ提供する組織の尻尾をつかんだ」
「本当か! やはりクリプトン侯爵か」
「ううん、シャルタガール侯爵領の地下組織だよ」
「シャルタガール侯爵領・・・近いな。だが、ソルレートと帝国の位置関係を考えると、納得感があるな」
「アゾート、シャルタガール領ってソルレートの東側よね」
「ああ、ソルレート伯爵支配エリアのさらに東側。シャルタガール侯爵支配エリアと呼ばれる地域で、アージェント王国の南東の端。東側の国境は、南方がシリウス教国とそして、山脈を挟んで北方がブロマイン帝国と接している」
「アゾート様、シャルタガール侯爵支配エリアにはクレイドルの森ダンジョンがごさいますね」
「ああ、それからエリアの南西端には、俺たちも何度か足を運んだポアソン領、マールの実家がある」
「じゃあマールのご実家が革命軍と関わりを持っている可能性があるの?」
「可能性がないわけではないが、俺は別の誰かだと思う。それに、シャルタガール領だけでは、帝国とのラインが完結しない。あともう一つ領地をまたぐ必要がある」
「フィッシャー辺境伯領ね」
「ネオン。引き続き、シャルタガール侯爵領と、フィッシャー辺境伯領を重点的に当たってくれ」
新章がスタートして、登場人物も増えてきたので、人物紹介のページを作りたいと思います。
こいつ誰だっけ、とすぐに確認できるようにしますので、お待ちください。




