第90話 2年生スタート
新章スタートです
引き続きよろしくお願いいたします
今日から新学年だ。
入学式終了後、俺たちは自分の教室に戻り、授業の代わりにオリエンテーションを受ける。
いつものように教室の後ろの席に座っていると、クラス担任のシュミット先生の代わりに、学園長のサルファーが入ってきた。
「今日からこのクラスの担任をすることになった、学園長のサルファーだ。みんなよろしく頼む」
一体どういうことだ。クラスメイトもみんな困惑しているので、俺が代表して確認する。
「サルファー、シュミット先生はどうしたんですか?」
「先生には、もとの魔法実技の指導に専念してもらうことになった」
「それはわかったが、学園長がクラス担任をするなんて聞いたことがありません」
「そもそもこの学園には、このクラス以外にクラス担任は存在しない。だから誰がやっても同じだ」
そういえばそうだったな。
「さてこのクラスに転入生だ」
「またかよ」
いったいこのクラスに何人、転入生が入ってくるんだよ。
俺がそう思っていると、前の扉から入ってきたのは、俺のよく知っている男だった。
「騎士クラスAから転入してきたカイン・バートリーです」
「・・・なんで?」
クラスメイトたちも意味がわからず、ざわついている。
「はい、みんな静かに。今から説明するぞ。このカイン君は母方の騎士爵家の子弟として入学してましたが、実はフィッシャー辺境伯家の三男であることを公表したため、このクラスへの編入が決まりました」
「「「えーーーーっ!」」」
「カインって、辺境伯家の三男だったのかよ」
「どうりで剣術がケタ外れに強いと思ったよ」
みんな大騒ぎである。
確かに俺も初めて知ったときは、何でお前がってビックリしたもんな。
だが、腑に落ちないこともある。
「サルファー、カインの本当の身分がわかったとして、このクラスに編入する必要性がわからん。騎士クラスAのままで問題ないじゃないか」
「簡単なことだ。管理しやすいからだ」
「管理?」
「このクラスは、はっきり言って寄せ集め集団だ。ダーシュたちは本来なら2年上級クラスだし、フリュオリーネに至っては3年生だ。お前だって学生のくせに男爵で領主までやっているし、辺境伯家の令息のカインもここに集めておいた方がいろいろ楽なのだ。定期試験とか大変なんだぞ」
「試験の手間とか、そんな理由で集められても、騎士クラスBはかなり手狭なんだけど」
「これは決定事項だ。それにいつも追試のアゾートに、試験について文句を言う資格はない。あとは学級委員長のお前が面倒をみてやってくれ」
追試のことを言われるとキビシイな。というか、2年も俺が学級委員長なのか。
「おいアゾート。俺の席はどこだ」
カインが催促している。このまま立たせているのもダメなので、もう早く席を決めるか。
「カイン、自分のクラスから机と椅子を持ってきて、一番後ろのパーラの右隣にでも座ってくれ」
「わかった」
そして、カインがパーラの隣に机を移動させた後、パーラとコソコソ話を始めた。なんだ?
そしてカインがこちらにやってくると、ダンと少し話をして二人が席を入れ換えたのだ。
「ということでよろしく頼むよ、アゾート」
「お、おう。それよりダンは大丈夫なのか・・・」
「パーラがダンの隣がいいっていうから、かわってやったんだ。しかしあんな一途な女の子なかなかいないし、ダンも幸せ者だよな」
「・・・幸せ、なのか?」
俺には卒業パーティーのパーラのコスプレの衝撃が強すぎた。
だから心配しすぎなのかも知れないな。
きっとそうだ。
ひとまずカインの席が決まったので、あとは年間スケジュールの確認を行ったり、いくつかの書類を作ったりして、オリエンテーションは何事もなく終わりを迎えた。
昼休みにはまだ時間があるが、早めに休みにしてくれないかと期待していると、
「オリエンテーションは以上だ」
「よっしゃ、飯だ!」
「僕のクラス担任としての仕事はここまで。これからはもう一つの立場での活動を行う」
「というと?」
「AAA団、前へ集合!」
サルファーの号令のもと、クラスの大半の男子生徒が教壇のサルファーの後ろに整列した。
「モテない同盟のみんな、まさか!」
「そうだよアゾート。俺たちは今日からモテない同盟を改め、アンチ・アゾート・アライアンス、つまりAAA団の一員だ」
「裏切ったのか・・・」
「まさか。俺たちはもともとこんな感じだよ。いつも教室の中でフリュオリーネ様とマール姫に囲まれて鼻の下を伸ばしているお前には、もう愛想が尽きた。ここから反撃開始だ」
鼻息の荒いAAA団をバックに、団長のサルファーが演説を始めた。
「今団員たちの慟哭を聞いてもらったが、これは真実の声だと思う。そして僕の考えも聞いてほしい」
「・・・・・」
「生徒会のメンバーは、アイドルだ」
断じて違う。
「そのメンバーの6名中4名が、このクラスにいる」
確かに、集まってるな。
「風紀委員会12名も、すべてこのクラスの女子だ」
中身はネオン親衛隊だからな。
「そして、アゾートPが全員に手を出そうとしている」
「してねえよ!」
「現にマールとセレーネが手を出された。証拠はある」
「証拠だと?」
「この男はあろうことか去年の夏休み、マールの実家の海岸で、水着姿のセレーネとマールの両方と手をつなぎ、キャッキャウフフと波打ち際で戯れていたのだ」
「なぜそれをっ! ・・・い、いや、なんのことだ? 俺にはそんなことをした記憶が一切ない」
マールは隣で小さく首を振っているし、ネオンも特に怪しげな様子はない。親衛隊がそんな事を言うとは思えないし、サルファーに告げ口したやつは誰だ!
「ロエルだ」
「あっ!」
「その頃僕たちはフリュオリーネの軍に包囲されて、屈辱的敗北に涙していた。さらに当のフリュオリーネも、我が弟のフォスファーに監禁されて地下牢で屈辱的な扱いを受けていた。そんな時にこの男は・・・」
「ぐっ・・・」
まさか今になって、そんな昔の事を責められるとは。
教壇に並んだAAA団のメンバーたちは、サルファーの話を聞いて、俺の事を羨ましい、恨めしい、と睨み付けてきた。
こいつらがマール派なのかセレーネ派なのかは不明だが、とにかく全員の目が恨みに満ちている。
ふと、隣の席のマールを見ると、俺の後ろを見てガタガタ震えている。
え、後ろ?
とたん、とてつもない冷気が俺の背中を直撃する。
こ、こ、恐い・・・。
おそる、おそる、後ろを振り返ると、フリュが両手を握りしめてうち震えていた。あの扇子が今にも折れそうなほど反り返り、目には青の魔力が溢れかえっている。
「ま、待ってくれ。違うんだフリュ、俺の話を聞いてくれ。それにあの時はまだフリュとは婚約してなかったじゃないか」
「・・・ひとこと、わたくしにひとこと言って欲しかったのに。わたくしも昔の話を蒸し返すような愚かな事はしないのに。わたくしを信じていただけてなかったのでしょうか・・・」
俺に裏切られた。フリュの目は、そう俺に訴えかけている。
「フリュに余計な心配をかけたくなかったんだよ。信じていなかったわけでは決してないんだ」
俺は土下座をする勢いでひたすら謝った。そして、
「本当はこんな時に渡すつもりじゃなかったんだが」
そういって、フリュの左手にそっと指輪をつけてあげた。
「これは、超高速知覚解放ともう一つ、俺が考えた複合魔法・イオンバーストの二つの魔法を仕込んだ指輪だ。フリュにしか使えないオリジナルだよ。もしよければもらってほしい」
するとフリュの目からは青い魔力が消え失せて、呆然とした表情で指につけられた指輪を見つめていた。
「どうかな?」
「・・・わたくしのために、作っていただけたのですか?」
「そうだよ、フリュの指輪だ。・・・気に入ってもらえたかな」
「・・・うれしい。わたくし本当はマールさんがうらやましくて、嫉妬でどうしようもなかっただけなのです。アゾート様を責めるような事をして、申し訳ありませんでした」
そしてフリュが俺の左腕に抱きついてきた。
「おいアゾート。教室の中でイチャつくのはやめろ。なんで僕やクラスメイト全員がお前ら二人のラブシーンを見せつけられないといけないんだ。家でやれ」
みると、クラスメイト全員がうんざりとした目で、俺とフリュを見ていた。
この二人は隙あらばイチャつく、どうしようもない恋愛バカだ、そういった目をしている。
ただネオンの目だけは、赤い魔力で燃えていたが。
「サルファー貴様、誰のせいでこうなったと思ってるんだ」
「お前の夏休みの愚行のせいだ」
「お前が余計なことを言ったからだ。サルファー表に出ろ、勝負だ! 丸焼きにしてくれる」
「まあ落ち着けアゾート。僕は何も君とフリュオリーネの仲を引き裂きたいわけではない。むしろ逆だよ。いいかアゾート。マールは今や学園で一番の人気アイドルだ。あのセレーネを超えて」
「え、そうなのか?」
「そうだ。今はマール、セレーネ、フリュオリーネの順に人気がある。以前の分断した学園が一つにまとまったのは、ひとえに彼女たちアイドルの存在が大きいのだ」
「そもそも学園を分断させたのは、お前が生徒会長の時だがな。まあいい、それで何が言いたい」
「お前の行動は、彼女たちアイドルのポテンシャルを損なっている。プロデューサーがアイドルを食って何になるんだ。また分断した学園に戻したいのか君は。違うだろ。だからアゾートには学園全体を考えて行動してほしい。そう忠告するために、少し荒療治をしただけなんだ」
「・・・それで?」
「僕たちも、アゾートが彼女たちと一切接触をするなとは言わないよ。彼女たちに嫌われたくないからな。たがらルールを設けよう」
「ルールだと?」
「ああそうだ。僕たちと君で時間と場所を分ける。そうだな、学園内では僕たちが、学園の外では君が、アイドルたちに接する事ができる、というのはどうだ」
「生徒会活動は?」
「それは例外として認める」
「そもそも俺に何のメリットがあるんだ」
「君の左腕をよく見るんだ。婚約者との仲が深まっているじゃないか。フリュオリーネ派には申し訳ないが、彼女は君のものだ。フリュオリーネ派には泣いてもらおう。まあ、彼らのほとんどはドMかつNTR性癖だから、むしろご褒美かもしれんがな」
「そ、そんなマニアックなやつらまでこの学園には存在するのか。しかも第3位の勢力って・・・しかし、サルファーのくせに一応理屈が通っているな。・・・仕方がない、しばらくはそれでやってみるが、あくまで様子見だがな」
「結構。では今日からスタートだ」
放課後、生徒会室でサルファーとAAA団のことを、セレーネに話した。
「・・・ということがあって、それで仕方なく昼はダンと飯を食ってたんだけど、リーズがなんか面白いことになっていて、うししし」
「笑ってる場合じゃないでしょアゾート。そんなAAA団の話なんか、まじめに聞く必要ないわよ」
「はい。申し訳ありません」
「私から後で、サルファーにきつく言っておきます。そんなことよりもアネット、フィッシャー騎士学園との交流試合はどうなったの?」
「夏休み前に開催する方向でおおむね合意。場所はフィッシャー辺境伯領のダゴン平原。戦場だ」
「それってまさか、ブロマイン帝国との戦場の最前線じゃないの」
「ああそうだ。実際の戦場でどっちが戦功をあげられるかを争うトーナメントだ。真の強者を決めるには、これに勝るものはないだろう」
「バカじゃないの! なんで学園のイベントを戦場のしかも最前線でやるのよ」
「もちろん志願制をとることになった。我こそはと思う強者のみ参加を許されるガチの大会だ。どうだ燃えるだろう」
「アネットに任せるんじゃなかった。フィッシャー騎士学園の脳筋と発想が同じだから、意気投合してしまって交渉にすらなってないんだ。サーシャ、アネットの交渉に付いて行ってあげて」
落胆するセレーネに俺はこそっと呟いた。
「悪くないよこのイベント。実はブロマイン帝国と直接対決する方法がないか考えてたところなんだ。受けよう」
「それって、例の・・・わかったわ。後でアゾートの作戦を教えて」
「ああ。だがこの件は内密に進めよう」
アホ回からのスタートですが、ソルレート侵攻作戦も平行して進みます
ご期待ください




