第86話 王宮での表彰式
領地運営に忙しい日々を過ごした春休みの序盤も過ぎて、いよいよ明日、古代魔法都市ジオエルビムの発見に対して、王国と魔法協会の両方からの表彰式が執り行われる。
それにあわせた形で本日、カイレンおじさんとリシアおばさんが、アウレウス伯爵から騎士爵に叙されることとなったため、俺たちは今からアウレウス伯爵邸へ向かう。
ちなみに今回の式典に同行するのは、マール、フリュオリーネ、ネオン、クロリーネの4名。両親は留守番だ。
本当はパーティーメンバー全員が行ってもよさそうなものだが、王国からは俺とマールの功績が特に認められて、このような形となったのだ。
実際マールのライトニングがなければ祭壇の端末も起動せず、ジオエルビムが発見されることもなかったのだから王国もよく見ている。いや、ジルバリンク侯爵の進言だな。
フリュとクロリーネは実家への帰省も兼ねているが、ネオンがついてきたのは、アウレウス伯爵にネオンとのことを許可してもらうためだ。
自分で言うのもなんだが俺は妹のリーズと同じ優等生タイプだから、こういう根回しはキチンとしている。出席日数がギリギリで毎回追試を受けているのは、たまたまだ。
俺たちは、プロメテウス城の転移陣に魔力を込めて、アウレウス伯爵の屋敷にジャンプした。
伯爵邸につくと、クロリーネは明日の表彰式で合流する約束をして、そのまま実家のジルバリンク邸に帰っていった。また、マールは使用人に連れられて先に客間の方に通されていった。
残る俺たちは3人は、応接室に通されてアウレウス伯爵と面会をする。すでに伯爵は応接室に来ており、俺はフリュとネオンともに、すすめられるがままにソファーに腰を下ろした。
「それで婿殿、今日の用件は何かね」
言葉は柔らかいが、相変わらず鋭い視線で俺を見ている。
アウレウス派の中でも裏工作を担う謀略家であり、我が軍総参謀長フリュオリーネの父親、アウレウス伯爵である。
俺の用件など、俺がネオンを連れてこの部屋に入った時点で、全てを察していることだろう。
ゴクリ・・・
「じ、実は、ここにいるネオンを婚約者として認めて頂きたく、ご報告に参上つかまつりまして、その、はい」
噛んだ。
「ほう、その娘は去年の夏に一度ここに来たことがある者だな」
フリュそっくりの、伯爵の氷のような視線が俺を射ぬく。
「そ、そのとおりです」
「うむ。実は婿殿がメルクリウス一族であると気がついたのは、そこの娘の容姿が伝承どおりだったからなのだ。男装をしていたが、女子であることはすぐにわかった」
「そ、そうでしたか。それで、事情があって彼女との婚約を許可頂きたいと思い、」
ギロリ!
ゴクッ・・・
「別に構わんぞ」
「え、いいんですか」
「同じ派閥内の中級貴族家同士の婚姻だから、特に問題はないな」
「ホッ」
「それにメルクリウス家にメルクリウス一族が増える分には一向に構わん」
「え、メルクリウス一族が増えるのは、いいことなんですか」
「当然だ。折角メルクリウス家を再興しようとしているのに、お前の家族だけでは少なすぎる」
「再興・・・やはり伯爵はメルクリウスの正体をご存知なので」
「ほう。婿殿はようやく自分達のルーツに気がついたようだな」
「・・・メルクリウス公爵家」
「王国最大の禁忌事項だ、今は口にするな。そのうち話す」
「禁忌事項・・・わかりました」
「よろしい」
「先ほどの件ですが、メルクリウス一族なら、もう一人増えても構いませんか」
「他にも誰かいるのか?」
「はい、ここにいるネオンの姉・セレーネです。ただ彼女はフェルーム家の次期当主に決まっていて、ダリウスからの許可が出てませんが、何とかしようと思います」
「・・・フェルーム家次期当主か」
「そうです。現在のフェルーム一族では、最強火力バカと誰もが称賛する天才です」
「それが称賛の言葉なのか解らぬが、よかろう。それでダリウスから許可を得る目処はたっているのか」
「・・・いえ、まだ。ただ必ず許しを得てみます」
「許しか・・・婿殿は少し優等生過ぎるな」
「優等生すぎる・・・」
「私がいい方法を教えてやろう」
「方法があるのですか? 是非!」
「奪い取るのだよ、力ずくで」
「奪い取る・・・力ずく・・・」
「そうだ。フェルーム家を丸ごと奪い取り、メルクリウス家に統一させるのだ。そうすれば、次期当主のセレーネも自動的にお前のものだ、違うか?」
「っ! し、しかしフェルーム家を滅ぼすなんて、そんな」
「何も戦争で滅ぼすだけが方法ではない。一番簡単なのは、婿殿が伯爵位を目指すことだ。ちょうどソルレート伯爵がいなくなって、一つ空位になっておる。シュトレイマン派が後任を指名しようと、新教徒革命軍の鎮圧に手を出しているがまだ成果は上がっていない。婿殿が先に成果を上げて、王家から叙任されろ。そうすればメルクリウス男爵家がフェルーム子爵家を吸収して、伯爵家の条件も満たされる。どうだ」
「俺が伯爵位を目指す・・・そういうことか」
「ところで確認だが、正妻は当然フリュオリーネだよな」
アウレウス伯爵が冷たく俺を見据えてくる。
こ、恐すぎる・・・
俺はみんなが一緒にいてくれれば、誰が正妻かなんてあまり興味がない。それにフリュはアウレウス公爵家一族だから、きっとその方がいいのだろう。
「そ、そのように考えてます」
「なら結構」
伯爵との相談が終わり、使用人からカイレンとリシアの到着の連絡が入ったので、伯爵とともに謁見の間へと移動する。
謁見の間には正装した二人が既に控えており、騎士爵の授与式も粛々と進んだ。これで二人とも騎士爵に昇格したのだが、フェルーム姓のままという訳にもいかないため、新たな姓も賜った。それぞれの治める地名にあやかり、
カイレン・ヴェニアルメルクリウス騎士爵
リシア・セルバメルクリウス騎士爵
となった。その後は盛大な晩餐会だ。
俺は美しいドレスに身を包んだフリュとネオンをエスコートし、カイレン、リシア、マールを引き連れてアウレウス邸のダイニングルームに用意された晩餐会のテーブルについた。
晩餐会には伯爵の主だった家臣たちも出席しており、ザッパ男爵の顔もある。
伯爵の近くの席には、その家族も座っている。つまりフリュの母上と兄弟たちだ。
そう言えばフリュからは伯爵以外の家族の話を聞いたことがないな。特に仲が良さそうな雰囲気もない。少し気にはなったが無理に聞き出すような話でもないか。
晩餐会も終わり、与えられた客間でネオンと明日の準備をしていると、フリュが俺の部屋に入ってきた。
「アゾート様、先ほどはお父様が余計な事を言って、申し訳ありませんでした」
「正妻の事か? 爵位を考えれば別におかしな話ではないと思うが」
「わたくしを選んでいただけたのは大変うれしいのですが、そちらの話ではなく伯爵位を目指す方の話です」
フリュが顔を赤くしながら、話を先に進める。ネオンが足を思いっきり踏みつけてきて、地味に痛い。
「あれは余計なことではないだろう。さすが伯爵だな。あんな方法があるなんて知らなかった」
「もうお父様ったら、アゾート様をうまく唆して・・・後で文句を言っておきますね」
「唆したって、どういうこと?」
「あの話で一番得をするのはお父様なんですよ。アゾート様が伯爵になれば、シュトレイマン派から伯爵位を一つ奪えて、私が正妻になることでメルクリウス家との関係はより深いものになります。フェルーム家を吸収するので、ボロンブラーク家からフェルーム一族を丸ごと引き抜くことにもなります」
「・・・確かに」
「それに、旧ソルレート領の革命軍を制圧して領地を平定すれば、当然その領地はアゾート様のものとなります。その場合、以前クレイドルの森ダンジョンの入り口で、ジルバリンク侯爵に交渉カードとして引き渡したソルレート領を取り返せることになります。派閥としては、監察局長のポスト20年分をただでせしめたことになるんですよ」
「・・・確かに」
「それでいて、あの面倒くさい領地の平定はアゾート様任せ。ついでに申し上げると、新教徒の革命軍がシュトレイマン派をあれだけ手こずらせるのは、大きな支援組織が後ろに控えていると見るべきです。外国勢力の存在とともに、王国内部にもバックがあると見るべきでしょう」
「・・・確かに」
「お父様も悪気はないと思うのですが、やることが極端で胡散臭いんですよ」
「フリュは間違いなく伯爵の娘だな、そっくりだよ。しかしセレーネの相談をしただけなのに、即座にそんな陰謀めいたことを思い付くなんて、さすがアウレウス派の裏工作専門家だ」
「わたくしは、あんな陰謀家ではございません!」
「伯爵の裏の真意を瞬時に見抜いている時点で、フリュも相当だとは思うが、それに全てが陰謀というわけでもないだろう。ソルレート領の問題は、領地の近さから避けては通れない問題だし、その延長上に伯爵位があるのなら自然な流れだと思う。得られた領地や爵位は自分のものになるんだし、これはむしろチャンスだ・・・伯爵にヒントをもらった形だが、俺は自分の意思でこの作戦に乗った」
「承知しました。アゾート様が本気なら、わたくしも全力を尽くします。そして必ずや伯爵位を我らの手中に収めましょう」
「セレン姉様のためというのが気に入らないけど、私も全力で協力してあげるよ」
「ああ二人とも頼む。とにかく目標は決まった。俺は伯爵になり、メルクリウス家を統一する」
次の日の朝、俺たちは王国からの表彰を受けるため、王宮の謁見の間に入場した。
去年の叙勲式でもここに来たのでこれで二度目だが、やはり俺の城の謁見の間とは何もかもスケールが違う、素晴らしく豪華な作りである。
今回表彰されるのは俺とマールの二人で、フリュとネオンはアウレウス伯爵とともに列席者の列に控えている。ジルバリンク侯爵やクロリーネの姿も見える。あそこはシュトレイマン派の貴族が集まっているようだ。
列席者は秋の叙勲式に比べて数は少ないが、王都に居を構える公爵以下の主だった貴族は、おおむね列席しているそうだ。
もちろんアウレウス公爵やシュトレイマン公爵も俺たちの事を見ている。
「緊張するねアゾート。私もう帰りたいよ」
「大丈夫だよマール。堂々としてればいいさ」
「どうしたの急に。いつもなら胃が痛いって、お腹を押さえているところなのに」
「さすがマールはよくわかってるな。確かに俺は胃が痛い。だが俺には明確な目標ができたんだ。今日がその第一歩、これからの俺を見ててくれ」
「これより表彰式を行う。この度、我がアージェント王国において、古代魔法文明の地下都市ジオエルビムを発見し、そこに遺された古代遺物の解明を行うなど、王国の魔法研究と考古学に多大なる貢献を行ったことを称え、ここに王国魔法章勲二等を叙勲するものとする」
「アゾート・メルクリウス、マール・ポアソン、前へ」
俺は颯爽と王様の前へ歩み出て、そして臣下の礼の姿勢をとった。
「アゾート・メルクリウスよ、つい半年前に男爵位を授けたばかりだが、この短期間でよくぞこれほどの貢献を果たしたな。遺物の中には人が空を飛ぶものや、大地を駆け抜けるものもあったと聞く。今後とも王国のために働くがよい」
そして、王様から俺に勲章が渡された。
「マール・ポアソンよ。今回の発見はそなたの光魔法があればこそ、なし得たことと聞く。アゾート・メルクリウスと常に行動を共にし、助手として重要な発見に多大なる貢献を行った。また騎士爵家でありながら、2属性を操るというその大きな魔力を活かし、今後とも王国の発展のために貢献することを期待している」
マールはガタガタ緊張しながらもスカートを軽くつまんで一礼し、王様から勲章が渡された。
あわせて、他のパーティーメンバーにも表彰や報償金が渡されることとなった。
王様の前から退出する時、列席者の中にアウレウス伯爵の姿が見えた。フリュとネオンを両隣に従えて、実に満足そうにこちらを見て頷いていた。その後ろには、カイレン、リシアの両メルクリウス騎士爵家をさっそく控えさせている。
その兄のアウレウス公爵が乾いた笑みを浮かべては、シュトレイマン公爵を軽く牽制していた。
この表彰式も派閥争いの一環なんだな。
会場に列席した王都の貴族たちは、俺たちのことを万雷の拍手でたたえながらも、隠し切れない困惑と驚きの表情とともに「メルクリウス」という言葉を、あちらこちらで口にしていた。
メルクリウス。
そう、この王都に再びメルクリウス家が帰ってきたのだ。
まだできたばかりの男爵家だけど、ここから俺はこのメルクリウス家を再興する。
これでいいんだよね、メルクリウス公爵・・・。




