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Subjects Runes ~高速詠唱と現代知識で戦乱の貴族社会をのし上がる~  作者: くまひこ
第4章 王国の剣メルクリウスの帰還

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第84話 騎士学園の卒業パーティー(後編)

卒業パーティーの続きです。


無駄に長くなってしまいましたが、笑ってお読みいただけると幸いです。


 観衆を余り待たせてはいけないので、このまま進めるしかない。


「さあ、まだまだ登場しますよ。続いてはエントリーナンバー5番。フリュオリーネ・メルクリウスさんの登場です。どうぞ~」


 フリュがゆっくりとステージに登場する。


 彼女が着ている衣装は・・・こっこれは、まさかのゴスロリ。西洋風に見えて、実は日本独自のファッションだ。


 黒が基調のかわいいフリルで飾られた豪華なドレスから、白い手足がスラリと伸びている。


 人形のように整いすぎた顔、軽くウェーブした金髪縦ロールはいつものフリュであり、特に何も手を加えていない。


 素である。


 だが、ゴスロリの衣装を着ただけで、フリュの姿はもはや人というよりは、等身大のフランス人形だ。


 ある種の方向性において、究極の美がそこにあった。




 しかし似合いすぎているな、フリュのゴスロリ。俺はエルフしか思いつかなかったが、セレーネにはフリュがこういう風に見えているのか。


 いや違う。これは俺がセレーネに着せようとイメージしていた衣装に近い。そう、吸血姫の真祖として。


 セレーネは自分がこれを着たくないから、フリュに着せたのではないだろうか・・・いやさすがにそれは考えすぎか。




 会場はどよめきに包まれて、特に女子生徒の一部からはまるでカリスマモデルを見つめるかのような視線を感じる。おっと司会を忘れてた。


「こ、これはまた、見事なゴスロリファッションですね、フリュオリーネさん。さて二コラ二等兵は、このコスプレについて、どうみますか」


「はい、アゾートP。フリュオリーネさんとゴスロリとの驚異のシンクロ率は、彼女が人を超えた神に近い存在へと変わっていくかのようです。こんな嫁がいるアゾートPが大変うらやましいです」


 嫁。


 この二コラの不用意な発言で、最近急速に拡大を始めたフリュオリーネ派の男子生徒や、フリュをカリスマモデルと崇める女子生徒の両方から、俺にヘイトのオーラが叩きつけられた。


 どうやら、男女両方の生徒たちから俺は嫌われたようだ。


 非常にまずい展開なので、ここは巻きを入れる。





「ふ、フリュオリーネさん、見事なコスプレをありがとうございました。皆様、盛大な拍手をお願いします。続きましてエントリーナンバー6番、マール・ポアソンさんです。どうぞ~」


 ステージに登場したマールは、パステルカラーのコスチュームに魔法のステッキを握り締め、いきなり光属性魔法を会場全体に放った。



  【ぱぷりか ぽぷりか ぴかるんるん ミラクルライトで きらめき ときめき チャームアップ】ライトニング



 会場には、マールが放ったライトニングの特殊効果により、星屑やら流星やらがキラキラと舞い散っていた。


 こ、これは日曜朝にやっている少女向けアニメ、魔法少女のコスプレだ。


 しかし、これは非常にまずい。


 マールは言動こそ子供っぽいのだが、そのスタイルは大人の女性として完成されつつある。つまり、そんなマールが魔法少女の衣装を着ると、いろんな部分がまずいのだ。詳しくは言えないが。


 しかし会場は大興奮だ。


 特に一部の男子生徒が熱狂している。


 今日この瞬間に、大きいお友達がどれほど誕生したのか、正直考えたくもない。


 い、いかんいかん、司会を忘れていた。


「ま、ま、マールさん、そのコスプレは再現度も高く大変素晴らしいのですが、マールさんが着るといろいろと目に毒ですね。さて二コラ二等兵は、このマールさんのコスプレをどう感じましたか」


「・・・・・」


「二コラさん? お~い二コラ、返事しろ。おまえはただのしかばねか? こっちの世界に戻っておいで~。ダメだこいつ・・・帰ってこれなくなってしまった。はい、マールさんでした。多大なる拍手をお願いします」


 マールは早くステージから追い出さないと、まずいことになる。


 観衆の野太い声援がこだまする中、後ろのスタッフから俺に伝言が手渡された。





「ただいま情報が入りました。この後のセレーネ会長のコスプレは、まだ準備ができていないようですので、先に風紀委員会によるコスプレをご覧いただきたいと思います。それでは風紀委員会のみなさん、どうぞ~」


 すると俺の合図とともに舞台の奥が突然動き出し、大階段が登場した。


 かと思えば、舞台袖の両サイドから黒の燕尾服を着たネオン親衛隊たちが踊りながら登場。


 さらに大階段の上からは、男装した王子役にエスコートされて、姫の衣装を着たネオンがゆっくりと下へ降りてきた。


 ヅカだ。


 女性のみによる例の歌劇団だ。確かにこれは、世界に誇る日本文化に間違いない。


 舞い踊る13名の乙女たち。ネオンの無駄に高い演技力が、この歌と踊りに遺憾なく発揮されている。


 会場の女子生徒たちから大歓声が巻き起こり、失神して運ばれていく女子生徒も少なくなかった。




「これはまた見事なミュージカルを披露していただきました。二コラ二等兵にはこういうコスプレはどのように映りましたか」


「そうですね。マールさんほどの萌えは感じませんが、芸術性が高く見ている者を引き付ける魔性の魅力があります。特に姫役のセレーネ会長が美しすぎます。反則ですよあれは」


「ニコラ二等兵。あれはセレーネ会長ではなく、飛び入り参加のネオンですよ」


「「「えっ?!」」」


 俺から見ればネオンは普通にドレスを着て踊ってるだけなので、これのどこがコスプレなんだよと、ツッコミの一つや二つ入れたいところだが、みんなからすればネオンは男子生徒であり、女装をして姫役を見事に演じきっているように見えるのだ。


 つまり、これを男子の立場から見れば「あれ、俺は男子生徒に萌えを感じてしまった。ひょっとして俺、そっち系もありなのか」となり、女子の立場から見れば「本物の女の子よりも美人で、歌もダンスも完璧なネオン様、素敵」となっているに違いない。


 変な世界の扉が開かれたのか、男子生徒からも女子生徒からも悶々とした空気が溢れだし、会場全体を覆い尽くした。


 俺はもう知らん。





「さて、ようやく準備が整いました。これが最後、エントリーナンバー7番、セレーネ・フェルームさんです。どうぞ~」


 ステージに登場したセレーネを見た瞬間、俺の体に衝撃が走った。


 ま、まさか!


 セレーネが着ていたのは和服。


 そう、明るい色の振袖だ。


 黒く染めた髪にかんざしをつけて、桜色の扇子を手に舞い踊るセレーネは、見事な日本舞踊を披露していた。



 これぞ日本文化の神髄。



 観月せりなさんって、ひょっとして京都のガチのお嬢様だったのではないのか。



 中世ヨーロッパ風のこの異世界にあって、セレーネがもたらした美はまさに異次元。


 ゴッホやルノアールをはじめとする印象派の巨匠たちに多大なる影響を与えた、正真正銘のジャポネスク


 セレーネの私物であろう軍用魔術具から奏でられる格調高い和の調べも、この世界の楽器では決して出すことのできない初めて聞く音色のはずだ。


 左脳で聞く西洋音楽に対して、右脳で聞く日本伝統音楽。そのギャップに酔いしれた観衆が、セレーネの見事な日本舞踊と相まって、遥か精神世界に旅立ってしまったようだ。



「以上、生徒会によるコスプレでした。最後に盛大な拍手をお願いしいます」


 俺の締めの言葉は誰にも届かない。


 観衆はあまりのカルチャーショックに、もはや脳の処理を止めていたのだった。





 なお、後日行った人気投票の結果だが、優勝は見事な日本舞踊を披露したセレーネに輝いた。


 芸は身を助けるともいうが、他のメンバーのコスプレに比べて、自分だけ明らかにいいとこ取りをしており、やりかたが汚いと批判する向きもあった。


 その批判の急先鋒であったネオンは惜しくも2位。女性票を多く獲得し、かなりの僅差であった。


 でもネオンの方が汚いと俺は思う。


 だってヅカじゃん。


 お前は普通にドレスを着て踊ってるだけじゃん。


 他のコスプレイヤーたちの惨状を見ろよと。


 サーシャ、ユーリ、フリュはまだましだ。


 アネット、パーラ、マールの3人は、本当に気の毒で仕方がない。




 パーラについては、ヤンデレという概念がこの世界にはないと思われるので、黙っていればわからない。


 だがマールとアネットは完全にアウトだ。


 ただそんな彼女たちにも独自のファン層が現れ、その後生徒会の人気を不動のものとしていくことを、先に記しておきたい。





 生徒会によるコスプレ披露も無事終了し、この後は普通のダンスパーティーだ。


 パートナーを探してダンスを踊るという定番企画。卒業生も在校生も、ここぞとばかりダンスを楽しんでいる。


 そのようすをボンヤリ眺めていたら、卒業生代表のサルファーが俺の方にやってきた。


 挨拶でもしておくか。


「卒業おめでとうサルファー。これでお別れですね」


「そんなことはないぞ、アゾート。来年度も引き続き、君と顔をあわせることとなる」


「ま、まさか留年・・・したのか、お前?」


「失礼なことを言うな、留年なんかするか。僕は次の学園長だよ、この学園の」


「いやお前、卒業したら伯爵位を継ぐんじゃなかったっけ」


「その予定だったのだが、父上の容態も少し安定してきたので、もう少し僕の成長を見てからでも遅くはないということになったのだ」


「・・・それ、バカにされてるんじゃないのかサルファー」


「・・・キミの従兄弟のダリウスが父上に進言したからこうなった。どうしてくれるんだ」


「そ、そうか。まぁ頑張ってくれよ」


「まあ前向きに考えれば、とりあえずもう1年チャンスをもらえたわけだ。これでまたセレーネにアプローチができるな」


「お前はまだ諦めてなかったのか。俺のセレーネは絶対に渡さん」





 俺とサルファーがセレーネの事で醜い争いをしていると、当の本人がこちらに向かってきた。


「アゾート、私の日本舞踊どうだった? まだ振袖のままで少し動きにくいけど、私とダンスを踊ろ」


 するとサルファーが、


「セレーネ! さっきは素晴らしい歌とダンスをありがとう。その黒い髪もとても似合っているよ。お礼に僕とダンスを踊ってくれ」


「サルファー、それはお礼になってないと思うわ。それに私はアゾートと踊るから」


 そこへお姫様モードのネオンが現れて、


「アゾートはこのわたくしと踊るのです。セレン姉様は邪魔よ。さあ、そこのサルファーとあっちで踊ってなさい」


 そういって俺の右腕にしがみつく。


「アゾート様。わたくしとも踊っていただけますか」


 ゴスロリ人形のフリュが俺の左手を掴み、俺にエスコートを促す。


「アゾート・・・みんなと踊った最後でいいから、私とも踊って。・・・私ずっと待ってるから」


 マールがセレーネの横に並んで、俺を見つめている。ただその魔法少女のコスプレは、早く着替えてきて欲しい。いろいろとまずいことになってて、目の毒だから。




 だがしかし。


 俺は今モテている。


 これは久しぶりに感じる、異世界ハーレム展開!


 まあ俺も一生懸命がんばってる訳だし?


 たまにはこういうことがあっても許されるよね?


 俺がデレッと表情を崩していると、セレーネが怒り出した。




「アゾート! 私のことはどうするのよ。いつお父様を説得してくれるの!」


 振り袖姿のセレーネの体から、赤いオーラがゆらゆらと立ち上がる。


「ふん無様ね、セレン姉様。お父様はこのわたくしをアゾートの嫁に決めたわ。あなたは負けヒロインとしてそこで指をくわえて、わたくしたちのダンスを眺めていればよろしくてよ」


「どういうことよ、アゾート! 私そんな話聞いてないわ」


「しまった! セレーネに言うの忘れてた。違うんだ、これには訳があって、後でちゃんと説明しようと思っていたんだ」


「なんだ君はネオンを選んだのか。それなら僕がセレーネを幸せにするよ」


「そういうことだからセレン姉様。サルファーとお幸せに」


「バカやめろネオン、話が拗れる。それにセレーネを挑発するんじゃない」


「へぇー、ネオン・・・いい覚悟ね。アゾートには後でゆっくりと話を聞かせてもらうけど、まずはネオン、あなたを血祭りにあげてあげる。表へ出なさい、勝負よ!」


「望むところよ、今日こそ返り討ちにしてあげる。受けてみるがいい、私のギャラクティカ・エクスプロージョン・スーパーノヴァを」




 二人がにらみ合いながら、庭園の方に駆け出して行った。本当にやる気だ!


「フリュ頼む。すぐにあの2人を止めて来てくれ。あの2人を相手に戦えるのは君だけだ」


「ええ、あなたのために戦うわ。だって、生きることは戦うことでしょ?」


「フリュ?」


 そういって、フリュも二人を追って走り出した。


 何かにとりつかれたのか呪い人形のようなフリュが、セレーネたちに先制攻撃をしかける。


 いつの間にか、ダンスミュージックも止まって、全校生徒が3人の動向に注目している。




 ・・・3人の戦いが始まった


 学園の魔法防御シールドが発動して、庭園が火の海にこそならなかったが、魔法発動の対価として発生する衝撃波の余波が、俺たちの方にもビシバシと伝わってきた。


 和服で動きが制限されているものの、火力が桁外れの固定大砲、京美人セレーネ。


 魔力が3人中最強、5属性を誇り王位にすら手の届く王道魔力圧し、呪い人形フリュオリーネ


 電光石火で超絶技巧、驚異の機動力で捉えることがまず不可能、プリンセスネオン


 三つ巴の女の戦いは、まるでこの学園の頂上決戦の様相だった。




 会場からはこんな声が聞こえる。


「これは去年幻に終わったフリュオリーネ vs セレーネの最強決定戦じゃないか!」


「しかもセレーネが2人! どうなってるんだ」


「ひとりはネオンだよ。さっきアゾートが説明してただろ」


「卒業パーティーでまさかこんなプラチナカードが見られるなんて、この生徒会は最高だな」



 会場は大盛り上がりだが俺は・・・


 ・・・あの3人が恐すぎる。



「ま、ま、ま、マールどうしよう」


 俺は魔法少女マールにすがり付いた。


 恐いものは恐いのだ。


「・・・じゃあ、パルスレーザーで撃ってみる?」


「そ、そうだな。学園ならケガをすることもないし、ちょっとやってみようか」


 マールはレーザーライフルをセットして、三人の方に照準を向けた。





 最近魔力が急上昇したマールの放ったパルスレーザーは、固定大砲のセレーネを直撃して一撃で沈黙させてしまった。


 戦力バランスが崩れた残り2人の戦いは、フリュの圧倒的な魔力圧しの末、逃げ場を失ったネオンが氷付けにされて終了。


 王国の剣メルクリウス一族の敗北である。


 ショック状態から回復したセレーネはネオンを味方につけて、俺とマール、フリュにものすごい剣幕で怒り始めた。





「この学園でセレーネ、フリュオリーネと付き合える男は、アゾートしかいないな」


「二人とも超絶美少女ではあるが、戦闘力も超絶半端ねえしなあ」


「痴話ゲンカになれば、100戦100敗間違いなし」


「ネオンが実に惜しい。男じゃなければ、あの二人より断然付き合いたい」


「それな。ワンチャン、セレーネよりかわいいかも」


「でもあのフリュオリーネと互角のセレーネを、一撃で倒したのはマールだぞ」


「ひょっとしてマールが学園最強か。かわいいし、やさしいし、怪我したら治してくれるし、あの魔法少女のコスプレがたまんないし、俺マール派に鞍替えしようかな」


「あ、俺もそれ考えてたところだ」


「そうするとやはり、あのアゾートが邪魔だな」


「だな」


「よし、ここは俺たち男子で新たな組織、反アゾート同盟を結成しよう」


 卒業パーティーの裏側で、アンチ・アゾート・アライアンス、通称AAA団というしょうもない組織が密かに誕生した瞬間であった。 

後でセレーネにめっちゃ怒られるアゾートの姿は、次回ご期待ください。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 実際に魔法がある世界で魔法少女って普通じゃね?って突っ込みはダメなんですねわかります。 サルファーはもうネタですね。いい感じ出してます。 アゾートは本当にセレーネと結ばれる気があるのかと…
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