第79話 アリアドネの糸(追記版)
最初のバージョンとストーリーは変わってませんが、ダイジェストのようだという読者様からの貴重なコメントがございましたので、全体的に情報量を増やして、分かりやすくしてみました。
読み直していただかなくても特に問題ありませんが、お時間あるときに流し読み頂ければ幸いです。
ネオンを必ず助け出すと決意した俺は、まずはカインとともに自分も時間遡行をする必要があると考えた。
カインの話を聞く限り、ネオンの足跡を追うためには、バートリー城地下神殿の転移魔術具が必要そうだ。
だが、カインが前回の時間遡行の影響から回復するまで時間がかかるため、ひとまず、ネオンの身に起きたことをダリウスたちに伝えておくことにした。
プロメテウス城では、両親にネオンを助けるためしばらく学園を休むことを告げた。時間遡行については全く関心がなかったようで、とにかくネオンのことを責任を持って助け出すよう念を押されただけだった。
母上からはいつものように魔石を大量に持たされた。持っておいて損はないからというが、結構重くて荷物になるんだよな。
フェルーム城では、過去の世界にネオンが消えた事をダリウスに説明すると、やはり時間溯行は信じなかったものの、ネオンの安否をとても心配していた。
誰も信じないな時間溯行。
おれ自身も、半信半疑だったからな。
最後に学園に飛んで休暇届けを出しつつ、セレーネにも事情を話した。
セレーネは自分もついていくと譲らなかったが、セレーネを連れていくとまたダリウスがうるさいし、万が一の事を考えてここに残っておいた方がいいと説得した。
その代わり、俺は当分生徒会の運営や卒業パーティーは手伝えそうにないため、それら全てをセレーネにお任せした。
できる準備を終わらせて次の日、体力もすっかり回復したカインを連れて、時間遡行を行った。
「ここが過去のバートリーの街か」
初めて見る過去の世界。
現代では人も少なく寂れたあの街も、ここは多くの人で賑わい、廃墟のようだった建物も真新しいものに置き換わっていた。
すげえ・・・これが時間溯行か。
実際に体験すると、これまでタイムリープに懐疑的だったこの俺も自然と納得してしまう。
たがネオンが言っていたような、敵に囲まれている緊迫感は特になく、いたって平和な空気が流れている。
・・・ネオンが転移した時点よりも、前の時間軸に来てしまったのかもな。
「よしカイン、早速バートリー城の地下の魔術具を使って、ネオンと同じように転移したい。案内してくれ」
俺たちはバートリー城に潜入し、地下神殿からの魔術具で転移してみたのだが、
「ここはどこだ?」
「バートリー城の裏庭だな・・・」
「ネオンみたいに王都アージェントに転移しなかったのはなぜだ?」
「普通はここに転移するから、ネオンの場合が特殊だったんだよ」
「そうなのか・・・」
なぜか転移はうまくいかなかった。
俺の思惑は外れてしまったが、せっかく時間遡行をしたのだからやれることをやろうと、街中をくまなく歩いてネオンの痕跡が残っていないか調べ回った。
だがその日は手がかりとなるものが何もみつからず、時間溯行の魔法が解けて現代に帰還した。
現代に戻った俺は、この前のカインと同じように時間遡行の反動でしばらく眠り続けたが、次の日の夕方になって体力が回復すると、再びカインを連れてすぐに過去にダイブした。
実は前日の時間遡行の際、ちょっとした実験をしていた。
俺とカインが木の幹にそれぞれ傷をつけたのだが、今日そこに行ってみると、俺がつけた傷は木の幹に残ったが、カインのつけた傷は完全に消えていた。
この事から、俺はネオンと同様に過去に干渉できること、時間遡行した先の時点がいくらか未来に経過していることがわかった。
この違いには何か意味があるのか?
「カインは何回か時間遡行をしたことがあると言っていたよな。その時の様子を教えてくれ」
「俺が母上たちとここに来た時はいつも同じ時点だった。出会う人も同じだし、違う受け答えをすれば異なる会話に発展するのだが、次に来た時は俺たちのことを忘れていて、また同じ会話から始まる」
「昨日の時間遡行はカインたちが来たことのあるいつもの時点。だが今日来たここは、昨日実験した時点よりも未来に来ている」
「そうだ。こんなことは始めてだ」
「もしかしたら、過去に干渉できる俺が一緒にいるからかもしれないな」
時間の流れはおかしくないのだが、ネオンみたいに転移する度に全く異なる時間軸に飛ぶ訳ではないのか。
「カイン、この前たしか、メルクリウスやバートリーに関係するいくつかの重要なシーンに転移した話を俺にしてくれたよな。行った場所と時系列をもう一度教えてくれ」
「①王都・旧教徒処刑場、②王都・前庭、③バートリー騎士学園、④メルクリウス城、⑤バートリー城、最後に⑥バートリー教会とその城外の戦場6回。時系列はおそらく②③①④⑤⑥の順だ」
「途中②と③が過去に戻っているのか。場所と時間を変えてストーリー仕立てで転移させているとなると、何か人為的な意志が働いていることになるな」
このストーリーを見せたかった者の存在
時間遡行を可能にする教会の神具と教会の地下神殿
バートリー城の地下神殿と転移魔術具
・・・ジオエルビム
少なくともメルクリウス一族は、地下神殿を継承しており、ジオエルビムと何らかの繋がりがある。時間遡行を可能にする神具の使い方もある程度知っている可能性が高い。
つながりは分からないが、無関係とは思えない。まずはジオエルビムに行ってみるか。
この時代にもジオエルビムは存在するが・・・一から攻略している暇はない。
現代のジオエルビムに一度向かうべきか。
「カイン、時間遡行から強制的に戻る方法を知っているか」
「ああ。この時代の教会の神具に血を捧げればいい」
俺たちは一度現代に戻り、転移を何度か繰り返して、ジオエルビムの魔導コアまでたどり着いた。
「アゾート、ここはどこなんだ」
「お前は来たことがなかったか。ここはジオエルビム中央搭の魔導コアだ。これからそこにある白いオーブに触れてみる」
「なにが起こるんだ?」
「わからん。この前は変な記憶が頭に流れ込んで来たので、今回も何かヒントになる情報が引き出せないか試してみるんだ。とりあえず触れてみる」
俺はそっとオーブに手を触れた・・・しかし、しばらく待っても何もおこらなかった。
「どうしたんだアゾート。何も起こらないぞ」
「うーん、ここじゃなかったのかな」
時間溯行が古代文明と繋がりがあると思ったので、一番怪しいここに来たわけだが、別に俺にも確信があるわけではなかった。
だが真面目に考えてみると、時間溯行を引き起こしている教会の神具やバートリー城の転移魔術具の使い方を調べるのは、間違ったアプローチではないはずだ。
「カイン、俺はしばらくジオエルビムに残るよ。ここで調べ物をしたい。しばらく学園で待っていてくれ」
「わかった。だがネオンを助けたい気持ちはお前と同じだ、何かわかったら、必ず声をかけてくれよ」
「もちろんだ。その時はまた迎えに行く」
それからしばらくはジオエルビムの管理室の端末を使って、遺物に関する情報を調べる日々を過ごした。
調べていくうちに、例の神具はやはりジオエルビムの遺物であることはわかった。
だがこの端末の中には、この神具の使い方つまり時代の設定方法などの詳しい情報がのっていないのだ。
断片的に日本語の記載が混ざっているため、それを手掛かりに解読を進めているのだが、基本的には古代語でかかれているため、解読に時間がかかりすぎる。
うーん、行き詰まった。
何か他にヒントがないか、もう一度過去に時間溯行しようと思い、カインを呼びに学園に戻って来た。
しかし今は授業中。
俺は授業なんて受ける気にはならず、しばらく校舎の外から授業の様子を眺めていた。
ジオエルビムでこんを詰めすぎて疲れているからか、何もやる気が起こらなくなった俺は、そのまま寮の自室に帰り、誰もいない部屋で一人ベッドに寝転がった。
隣にはネオンのベッドがある。
それを見つめながら、俺はボソッと呟いた。
「ネオン、俺はどうしたらいいんだろうな」
つい最近まで、ここにアイツがいることが当たり前だったのに、今はこの世界のどこにもいない。
寂しいな。
心にぽっかりと穴が開き、俺の視界が涙で歪んだ。
そのまま眠ってしまったようで、いつの間にか次の朝になっていた。
十分な睡眠をとったからか、やる気だけは出てきた。
よし、やはりもう一度ジオエルビムに戻って、神具の調査の続きをしよう。
転移する時点を自分で設定できるようになれば、タイムパラドックスを阻止しに行けるから。
そう思って、クローゼットから着替えを出そうとしたら、
「なんだこれは」
クローゼットの中には、見たことのない女性用の制服がかけてあった。
騎士学園の制服のようだが、うちの学園のものとはデザインが違う。
そういえば、過去のバートリー騎士学園に行った話もカインがしていたが、ネオンはその学園の制服を持って帰って来てたんだな。
ネオンのことを考えると、また俺の目から涙が零れ落ちた。
普段はうっとうしいやつだと邪魔者扱いすることもあったが、その分余計にいなくなった時の寂しさが強くなる。
ダメだな俺は。
俺はネオンの制服を抱きしめて涙を拭いた。だが、
・・・なんだこの固いものは。
バートリー騎士学園の制服のポケットに手を入れると、中からはネオンが大切にしていたあの地下神殿の鍵が出てきた。
ネオンがご先祖様から預かったというこの鍵は、いつもネオンが肌身離さず持っていたので、ネオンとともに過去の世界に失われたものと、俺は思い込んでいた。
だがネオンはこの鍵を、ちゃんとこの世界に残しておいてくれていた。
俺はまだ、あの地下神殿を調べきれていない。
そう、あの祭壇だ。
ジオエルビムの端末には古代文字による情報しかなかったが、あの祭壇は時間溯行の神具のすぐ近くにある端末なんだから、ひょっとしたら俺が読める文字で記載されているかもしれない。
ダメもとでも、調べる価値は十分にある。
俺は寮を飛び出し、通学途中のマールを捕まえてボロンブラークギルドへ走った。
「アゾート待てよ。俺も行く」
「おう! カインも急げ」
カインも加わり俺たち3人は急ぎ旧バートリーの教会地下に向かった。
メルクリウスの鍵を使って、教会の地下神殿に来た俺たちは、いつものように俺とマールが祭壇の中に体を突っ込んで端末を操作した。
「マール、さっき上で見せた教会の神具と同じような絵があったら教えてくれ」
画像ファイルの検索はマールに任せ、俺は端末を操作して遺物のリストを表示させた。ジオエルビムの管理室の端末で、俺も大分操作方法がわかってきた。
古代語さえ分かれば完璧なんだが、とりあえず日本語表記を見つけ次第片っ端から読んでいく。
「アゾート、この絵が神具に似てると思うけど」
「本当だ。この神具は・・・この古代語の文字、さっき俺が読んでいた日本語混じりのテキストにも同じものがあったな」
俺は関連するテキストを集めて、古代語の説明文の内容を推測する。たぶんこんな感じ。
「分かったことは、教会の神具はやはり時間溯行の魔術具で、バートリー地下の魔術具はその子機だ。転移先の時代の設定が可能。特定の対象者だけに適用されるモードとそれ以外のモードの2種類あるらしい。ただし、その機能を設定する呪文がわからない。古代語で記載されていて俺には読めないかも」
「うーん。だったらそこのオーブに触れてみるとか?」
「・・・それもそうだな」
俺はどうも難しく考えすぎてしまっていたようだ。マールのいうとおり、呪文の詠唱が聞こえてくるオーブがすぐ近くにあるじゃないか。
こういう時、俺とは発想の異なるマールの意見は、大変役に立つのだ。
さっそく俺はオーブに手をあてた。
・・・しかし以前と同様に、火属性の呪文が頭に流れ込んでくるだけだった。やはり、真面目に解読を進めた方が良さそうだ。急がば回れ。
「じゃあ、あの神具をここに持ってきてオーブに触れてみるとか?」
「・・・それもそうだな」
どうやら俺は、焦っていたようだ。
こういう時、俺とは発想の(以下、略)
俺たちは神具を地下神殿まで運び込み、片手で神具に触れながら、もう片方の手でオーブに触れてみる。すると頭の中で、例の声による神具の説明が始まった。
「このタイムリーパーは、ある特定の時点を設定することで時間溯行が可能になる装置で・・・特殊モードは一度設定するとその設定者以外その後の変更は不可能になります・・・一方、一般モードは設定を自由に変更でき、【リセット】と唱えて戻りたい時間を設定したのち【セット】と唱えれば終了です。設定を確認する場合は、モードを問わず【チェック】と唱えてください・・・」
俺はオーブから手を離し、みんなを見て言った。
「例の神具の使い方がわかった。これをうまく使えば、ネオンがタイムパラドックスを起こした時点に戻ることができる。だがここからは慎重な行動が必要だ。一歩間違えると自分たちも現代に帰れなくなってしまうからな。ネオンとつながった細い糸だが、なんとかこれを手繰り寄せよう」
俺たち3人は教会の奥に神具を戻して、ネオン救出作戦を開始した。
まずは、神具に手をかざし呪文を詠唱する。
【チェック】
手元に魔方陣が浮かび上がり、そこに特殊モードと一般モードの時間設定が浮かび上がった。
やはりだ。
ネオンが最初に時間遡行したのは、特殊モード。
俺たちが時間溯行したのは、一般モード。
つまり、ネオンは最初にご先祖様から鍵を預かった時から、特殊モードで意図的に転移させられていたのだ。
なぜネオンが。メルクリウスの血に反応するのなら俺も特殊モードで転移しそうなものだが、そうはなっていない。
つまり、この特殊モードを設定した誰かは、ネオン個人を特定していたということだ。
ひとまず俺は、特殊モードの最初の時間設定、つまり王国の大軍がバートリーに押し寄せる日時を書き写した。
よし次だ。
【リセット】
再び魔方陣が展開し、一般モードの空欄になった時間設定欄に先ほど書き写した日時を設定し、
【セット】
と唱えた瞬間、魔方陣がパアッと輝き、そして消えた。
「これでこの神具は、王国軍が押し寄せるあの日に繋がったはずだ。ここからがネオン救出作戦の本番。まずはカインの話に出てきた、教会地下の医務室にいるメルクリウス公爵という人と話がしたい。だがカインはここで待っていてくれ。今度はお前がタイムパラドックスを起こしてしまうからな」
「だが俺もネオンを救いたいんだ」
「大丈夫だ。この作戦がうまくいけば、お前はネオンのもとに再び転移するはず。その時にネオンを守り抜いてくれ」
「本当か、わかったよ」
「アゾート気を付けてね。絶対に無理しちゃダメだよ」
「わかってるよ。じゃあ」
俺は神具に血を捧げて過去の世界へと飛んだ。
教会の地下に入るとちょうどネオンが神父さんと何やら話をしているところだった。一番始めに時間溯行したネオンだ。
久しぶりに見るネオンの姿に少し目頭が熱くなりながらも、俺はネオンに見つからないように物陰に隠れ、ネオンが神父さんとともに地上に上がっていくまで、じっと潜んでいた。
しばらくして、神父さんが一人で地下に戻ってきた所を捕まえて、メルクリウス公爵の元まで案内させた。
「はじめまして、メルクリウス公爵」
俺はベッドに横たわっている公爵に挨拶をした。公爵は訝しげに俺を見ながら、ゆっくりと体を起こした。
「君は誰かね」
「俺は、さっきここに来ていたメルクリウスの少女の親族で、今から200年以上未来から来たメルクリウス家当主、メルクリウス男爵です」
「200年未来・・・メルクリウス男爵・・・」
俺を見る公爵の目が徐々に驚きの色を含んでいった。
「・・・男爵に聞きたい。メルクリウス一族は200年後にも存在しているのか」
「・・・存在はしています。だが誰も自分達の正体が何なのかを知っているものはいない。俺も含めて」
「ほう」
「これはネオンとともに時間溯行をした、カイン・バートリーから聞いた話からの予想ですが、ネオンが助けたというセシリア・メルクリウス、つまりあなたの娘がボロンブラークへ逃げ延びた後、子孫にメルクリウス一族の記憶を一切伝えなかったんだと思います」
「セシリアが・・・そうか。なるほど今の話はネオンから聞いた話とも符合するし、セシリアを逃亡させることも君は知っている。どうやら君もネオンと同じ未来からやってきたということで間違いなようだな」
「信じていただけてなによりです。それで公爵に一つお願いがあって来ました」
「何だね」
「今までネオンを、いろんな時代に転移させていたのは、公爵あなたですよね。今すぐこの計画を中止してください」




