第65話 新生徒会スタート
冬休み明けの放課後、生徒会選挙の投票が終わり、舞台では新生徒会メンバーの挨拶が今行われている。
本当は俺も生徒会メンバーなので挨拶をしなければいけないのだが、とてもじゃないが舞台に戻る勇気がない。
それは、俺がプロデューサーという謎の役職だからという訳ではなく、大変な事実が発覚してしまったからだ。
そう。俺は全く自覚せずにフリュにプロポーズをしていたのだ。しかも本人にだけではなく、夏の内戦の話し合いの際に、ダリウスのいる前でアウレウス伯爵に直接言ってしまった。
さらには冬休み前の生徒会選挙の演説会で、全校生徒の前で、公開プロポーズまでしてしまったのだ。
フリュが真っ赤になって恥ずかしがり、舞台裏に逃げてしまったのも当然のことだ。知らなかったとは言え、これは恥ずかしすぎる。
今や全校生徒にとって、俺とフリュが婚約者であることが既成事実となってしまった。
先ほどの聴衆の反応でも明らかだが、フリュの人気が急上昇している矢先の発覚に、俺へのヘイトは尋常なものではなかった。
いや問題なのは、そこではない。
あの夜のセレーネとの約束のことだ。
俺はセレーネとの関係をダリウスに絶対に認めさせると、セレーネと約束したばかりなのに。
セレーネとの約束を違えるつもりは俺にはないが、彼女に何と言えばいいのか、言葉が見つからない。
じゃあ、フリュに何か言えるかと言うと、やはり言葉が見つからない。
度重なる婚約破棄や公開断罪、酷い目に会い続けたフリュがやっと見つけた居場所が、俺の隣なのだ。
フリュの居場所を奪って俺から遠ざけような身勝手な行動は、絶対にしたくない。
・・・俺はどうしたらいい。
とにかく俺はこの衝撃の事実を相談するため、学園をこっそり抜け出し、プロメテウス領の両親の元に戻った。
貴族の子弟は、自分で勝手に結婚相手を決めてはならず、両親に決定権があるからだ。
きっと驚くに違いない。そして叱られるだろう。
「ダリウスが夏にそんなこと言ってたな」
「え、知ってたの?」
「まあな。やはりお前わかってなかったんだな」
「・・・うん」
「フリュちゃんがお義父さま、お義母さまって呼んだり、伯爵が婿殿と呼んでいた理由はなんだと思っていたんだ」
「冗談で言っていると思ってた。いつも同じ冗談を言ってるから、そのうちツッコミを入れるのが面倒になって、いつの間にか気にならなくなっていた」
「バカだね、あんた。セレーネの事ばかりで、周りが全然見えてないんじゃないの。フリュちゃんのこともちゃんと見てあげなさい」
「言葉もない。でもセレーネの事はどうしたらいいんだ」
「セレーネはフェルーム家の次期当主だから、ダリウスには何を言っても無駄だぞ。それよりちょうどいい。お前に話しておきたいことがある」
「話って?」
「セレーネの婚約者として、お前の弟のアルゴを考えていたのだが、そうもいかなくなった」
「えっ、アルゴはまだ13歳じゃないか。セレーネとは年の差もあるし、アルゴは絶対にダメだ」
「お前は5歳で婚約してたし、お前がアルゴの婚約者を決める訳でもないだろう」
「それはそうだが。あれ? アルゴがダメになった話だったね」
「ジルバリンク侯爵から、アルゴと侯爵家の娘との婚姻の申し入れがあったんだ」
「侯爵からはうちの年頃の娘が欲しいと聞いてたけど。妹のリーズではダメだったのか」
「最初はそういう話を貰ったのだが、考えてもみろ。うちはつい最近まで騎士爵の分家だそ。その娘がいきなり侯爵家の嫁になってもうまくいくはずがないではないか。だからこちらからお断りした」
「確かにそれもそうだな」
「それでもうちとの縁が欲しいと侯爵が言うから、うちが嫁を貰うことにしたのだ」
「その相手がアルゴだと」
「そうだ」
「アルゴのことはわかったが、セレーネはどうなるんだ」
「他の分家の息子か、上位貴族の中から魔力の合う男を見つけ出して結婚させるそうだ。あれだけの容姿だ、希望者は山のように殺到するから、相手が決まるのは時間の問題だな」
「くっ・・・そんなことは絶対にさせん」
「セレーネのことはもう諦めろ。お前にはフリュちゃんがいるじゃないか。美人で優秀で魔力も家柄も最高だ。お前には勿体ないとほどの嫁だぞ。それにネオンはどうするんだ」
「なんでネオンが出てくるんだよ」
「セレーネとの婚約が解消された時、ネオンがダリウスに了解を得たって聞いてるぞ」
「あぁ、あの軽いやり取りは覚えてるけど、あれ冗談じゃなかったのか? それにフリュがいるのに?」
「どうせネオンはお前以外の誰の言うことも聞かない暴走娘だ。ダリウスも扱いに困り果てているから、お前が一生面倒を見てやればいいじゃないか。とにかくセレーネは諦めろ。それより今週末、その侯爵家のご令嬢との顔合わせなんだ。お前も都合があうなら出席しておけ」
「色々と納得いかないが、アルゴの事はわかったよ。父上たちに任せてあるとはいえ、魔導結晶が発端だから俺にも責任あるわけだし、顔合わせには出るよ」
次の日の早朝、授業が始まる前に生徒会役員の初会合が行われた。
俺は会議が始まる前に早めに生徒会室に来て、セレーネにフリュとの件を潔く謝ったのだ。セレーネはため息をつきながら、
「実はつい最近フリュさんから聞いて知っていたの」
「そうだったのか。でもこの前の夜の約束は絶対に守る。俺を信じて待っていて欲しい」
「アゾートとは長い付き合いだし、そこは信じてるわ。それに私もお父様を何とか説得してみる。でもアゾートって魔法については頭がいいのに、異性関係になったとたんバカになるよね」
「俺も今回の事でさすがに自覚した。昔、ラノベの鈍感難聴系主人公を見て、何やってんだコイツといつもバカにして見てたんだけど、まさかこの俺が鈍感主人公みたいになことをやらかすとは」
「私はそういう本を読んだことがないから知らないけれど、アゾートを見てたらどんな主人公なのか大体想像がつくわね」
「・・・それは言われたくない言葉トップ3だな。ちなみに俺が一番嫌いな言葉は『え、なんだって?』だ。その言葉だけは絶対言わないように、常に心掛けている」
「そ、そうなんだ。がんばってね。ところで、私の事はもういいから、フリュさんのこともちゃんと気にかけてあげて」
「そうだった。俺はフリュにも言っておきたいことがあったんだ」
「・・・はい」
セレーネとともにフリュにも早めに生徒会室に来てもらっていたのだが、フリュは先ほどから、ひどく怯えていた。
「・・・俺はあの言葉がプロポーズを意味しているとは知らず、フリュには大変失礼なことを言ってしまった。とても申し訳なく思っている」
「・・・・・」
「もちろん嫌なら断ってもらって構わないのだが、フリュに側にいて欲しいという俺の気持ちは本当なんだ。最低なことを言っている自覚はあるけど、もしよければ今まで通り俺と一緒に居てくれないか」
「・・・プロポーズの意味を持っていることを隠していて申し訳ありませんでした。言ってしまったら、もうお側に居させてもらえないかと思い、言い出せなかったのです。それでもプロポーズしてもらって私は嬉しくて、ついアゾート様のご両親のことをお義父様、お義母様と呼ばせて頂いたりとても幸せだったのです。でも結局アゾート様にご迷惑をおかけして、私はもうどうしていいのか」
フリュが大粒の涙をぽろぽろと流し始めた。
「泣くなフリュ。お前は何も悪くない。鈍感な俺がお前を追い詰めてしまったんだ。許して欲しい。フリュはこれまでどおり自由にしてくれていいんだから」
するとフリュは静かにこくりと頷いた。
「あの~、そろそろ生徒会を始めたいのだけど、そういうのは家に帰ってからやってくれないかな」
生徒会副会長のアネットだ。
そしてここ生徒会室には、いつの間にかメンバーが全員揃っていた。
「あの・・・どこから聞いていたの?」
「フリュオリーネさんに『俺と一緒に居てくれないか』と言ってるところ・・・そういうのは家でやって」
「・・・はい、失礼しました。家でやります」
「・・・アホなプロデューサーは置いといて、さっそく生徒会の第一回会合を始めます。最初の議題は3年生の卒業式パーティーについてです。今年は例年以上に盛り上げていきたいと思いますので、会長のセレーネさんから方針を示して頂きます」
「そうね。去年は立食形式のランチとダンスパーティーだけでしたが、今年はもう一つ出し物を増やしたいと思います。何かアイディアのある人はいませんか」
「はい!」
「ニコラ二等兵、発言を許します」
「当校の最強のアイドルユニットを決める闘い、その名もボロンブラーク・アイドル・コンテストはどうでしょうか」
キメ顔のニコラの頭を、俺は思いっきりはたいてやった。
「なんでお前が生徒会にいるんだ。もう家に帰れ」
するとニコラがドヤ顔で、
「主殿は投票後、こそこそと家に帰ってしまわれたから知らないだろうが、僕も生徒会役員に選出されたのだ」
「え、なんだって?」
しまった! 思わず俺の一番嫌いな言葉を使ってしまったじゃないか。ぐぬぬニコラめ。
「選挙結果は一応僕の勝利だし、全校の男子生徒からの絶大な後押しもあったので、僕も生徒会に入れてもらうことが決まったのだ。だが適当な役職がなかったから、セレーネ会長から『二等兵』という役職を任されたのだ」
「お前が勝ったのはわいろが効いただけだろうが。しかし俺が実家に逃げ帰った時に決定されたことなら仕方がない。わかった認めよう。だがお前は二等兵。プロデューサーの俺の指示には従ってもらう。いいな」
「任せてもらおう、主殿」
「ニコラ二等兵のアイディアの他に何かありますか」
「『愛の告白』選手権はどうでしょうか」
恋愛脳のパーラらしい発想だ。
「恋愛脳のアゾート様にならって、全校生徒の前で好きな異性に告白する大会です。現チャンピオンのアゾート様よりも恥ずかしい告白ができれば勝ちという、極めてシンプルなバトルですがいかがでしょうか」
パーラに恋愛脳扱いされる俺って一体。
司会のアネットがグダグダになってきた議論に巻きを入れる。
「それはパーラがダンに同じように告白して欲しいだけでしょう。そもそもあれより恥ずかしいことが言える人なんか絶対にいないので、またアゾートが優勝するだけよ。卒業式までまだ時間はあるから、他にアイディアがあれば後日お願いします。次に、昨日捕まえた不正貴族はどうなりましたか」
するとサーシャから報告があった。
「あのあと生徒指導室に全員連れていき、私から彼らを説得しておきました。ニコラさんが失脚してこちらに取り込まれたので、もう彼らに巻き返しが不可能なことは理解してもらったし、表だった反抗はないでしょう。あとは彼ら自身が自分のプライドと現状にどう折り合いをつけるかだけなので、私たちにできることはありません」
さすがサーシャ。委員長キャラだけのことはある。
「じゃあ下級貴族の不満分子も落ち着いてくれるかしら」
「もともとセレーネへの扱いが酷いことが発端で騒いでいたし、セレーネが生徒会長になったことで、彼らの不満は概ね解消できてるので、こちらも表だった反抗はないでしょう」
「ではこれで、学園の問題は片付いたと考えて良さそうね」
「ええ。あとは新入生を迎え入れるだけ。これからは前向きな活動をして、楽しい学園を作っていきましょう」
「新入生か。どんなやつらが入学してくるんだろうな。ちなみに俺の妹が入学するぞ」
「リーズちゃんでしょ。楽しみね」
「マールはリーズと仲良かったよな。面倒見てやってくれ」
「うん、任せてよ」
「となると問題はシュトレイマン派の上位貴族にどんなやつが入学してくるかだな」
こうして、新生徒会は順調に滑り出した。
生徒会長 セレーネ 2年 アウレウス派
副会長 アネット 1年 中立派
副会長 パーラ 1年 シュトレイマン派
書記 サーシャ 2年 アウレウス派
会計 マール 1年 中立派
顧問 フリュ 2年 アウレウス派
二等兵 ニコラ 2年 シュトレイマン派
プロデューサー 俺 1年 アウレウス派
各派閥勢力は4:2:2
この新生徒会で、学園はどうなっていくのだろうか。




