第63話 エピローグ
最後に第53話~57話あたりの進軍マップを乗せてます。
「この冬休みの間にメルクリウス家、フェルーム家とソルレート家の間で戦争があったのはご存じのかたもいらっしゃると思いますが、その結果については仮決定の段階でありまだ一般には公表されていません。そこで当事者である我々からご報告いたしますと、ソルレート家は敗れて爵位をはく奪、ニコラさんは平民の身分に落ちました。つまり生徒会長選の立候補者の中でなお資格を有するのはセレーネさんただ一人。したがって、ここにセレーネさんの勝利が確定しましたことを宣言するものです」
構内が依然として騒然としたままだ。ソルレート家が爵位を失ったと突然言われても、すぐには信じられないのも当然だ。
だが構内のざわめきを無視して、セレーネによる生徒会長の就任挨拶が始まった。
「生徒会長に選ばれました、セレーネ・フェルームです。まずはじめに公約どおり当学園に風紀委員会を設置し、上位貴族の下級貴族に対する理由なき不当な命令を厳しく取り締まることと致します」
セレーネの宣言に、上位貴族からの激しいブーイングが巻き起こる。
「一方的に戦争の結果をおっしゃられても、証明するものはございますのでしょうか」
「公表はまだですが、裁判所に直接お問い合わせいただければ、事実であることが証明できます」
セレーネの毅然とした態度に、ソルレート派の上級貴族たちが、どうやら本当のことらしいとざわめき始めた。なおも反論が続く。
「仮にソルレート家が爵位を失ったというのが事実であっても、セレーネ様は選挙で負けたという結果を重く受け止めるべきです。実質的に選挙に勝利したニコラ様の公約は学園の過半数の生徒が望んだものであり、これを取り入れるべきと存じます」
上位貴族令嬢が反論すると、
「そうだそうだ!アイドル学園を作るべきだ」
モテない同盟が同調の声を上げる。
「うるさいですわね! 懲罰委員会を作るのであって、アイドルは関係ございません」
「確か9人のアイドルユニットだったっけ、その懲罰委員会」
「いや風紀委員会じゃなかったっけ? そのアイドルユニットは」
「きーっ! アイドルなど関係ごさいません!」
構内の生徒どうしで言い争いが始まった。
しかし俺がマールたちクラスメイトに教えたアイドルという概念が、まさかここまで急速に広がるとは驚いたな。
だが、ここからだ。
俺はセレーネの横に立ち、風紀委員会のメンバーを発表した。
「みなさまお待たせしました。これから風紀委員会のメンバーを発表します。なんと12名の美少女ユニットです」
「12名の、美少女、ユニットだと」
「ニコラの公約よりも3名増えた!」
俺の発言にヒートアップする男子生徒達。
「風紀委員会はこの人たちです。カーラ、アン、エミリー、ローラ、ミミー、メアリー、ケイト、シェリー、サーラ、ノーラ、セシル、ナンシー、壇上へ」
一列の見事な行進で壇上へ上がって行く風紀委員会の美少女たちの登場に、大興奮の男子生徒たち。
それとは対照的に、騎士クラスBの男子生徒たちだけは、なぜか絶望の表情で壇上を見ていた。
「早速ですが、今から彼女達に不正貴族どもを取り締まって貰いましょう」
「「「え?」」」
「今から読み上げる貴族は不正貴族です。フリュお願い」
フリュが読み上げたのは、パーラを除くシュトレイマン派の全上位貴族と大半の中立派上位貴族の名前だった。
罪状は、本生徒会選挙における不正投票の下位貴族への強要。収賄の証拠が全て整っており、先ほどの記名投票の用紙と合わせて、反論の余地のないものとなっている。
「あなたたちは二コラ様が生徒会長の資格を喪失したことと知ってたのに選挙戦を継続させ、わざとわたくしたちに投票をさせましたわね」
「投票は旧生徒会が実施するもので私たちがどうこうする資格はございません。裁判所からの正式な公表がまだなので、生徒会が規則通りに投票を実施しただけでしょう」
「そもそも、わいろをもらって何が悪い。こんなの誰でも多かれ少なかれ同じことをやっている、必要悪だ。処分はやりすぎじゃないか」
「今さら何をおっしゃっているのですか。権力者が邪魔な貴族に適当な罪状をつけて処分することなど、貴族社会の常識です。あなた方はそんなことも学んでいらっしゃらなかったのでしょうか? しかも今回はわざわざ証拠もすべて揃えて差し上げたのですから、あなた方も諦めがつくのではないかしら」
「そんな無茶苦茶な。そもそも私たちはあなたたちの勝利を認めていません。選挙結果に従いなさい」
「貴方たちは大きな勘違いをしていますね。貴族の選挙は投票という形式をとっているものの、基本は権力闘争。これを最終的に征するのは弁論でも金権でもございません。武力です。戦争でニコラさんのご実家を滅ぼしたのですから、私たちが生徒会を支配するのは当然のことでしょう。それでも文句のある方は武力で語り合いましょう」
フリュがまさに悪役令嬢といった様相で壇上から上位貴族たちを見下し、片っ端から反論していく。
上位貴族が束になっても、所詮フリュの敵ではなかった。
フリュの主張はさすがに言い過ぎのような気がするが、この戦乱の貴族社会では、最終的には武力勝負になってしまうのも事実。
折角のいい機会なので、邪魔な貴族どもはここで一掃しておくのもいいだろう。
今は封建主義社会であって、民主主義社会ではないのだから。
そして、新生徒会長としてのセレーネの最初の指示が飛ぶ。
「風紀委員会はそこの不正貴族どもを捕らえよ」
「「「はっ!」」」
逃げ出そうとする令嬢たちと、捕まえてもらえることに期待に満ちた表情の令息たち。
しかし、次の瞬間に場の空気は一変する。
逃げ出そうとする令嬢たちに向けて、風紀委員は威嚇射撃を行ったのだ。
パン! パパパパッ! パン!
威嚇射撃により木っ端微塵に砕け散る窓ガラス。
令嬢たちは恐怖でその場に腰を抜かし、立ち上がることができなくなった。
その隙に親衛隊は、何が起こったのか理解できていない令息たちに飛び付き、素早い動きで次々と拘束していった。
「全不正貴族どもの身柄を確保! これから収容所へ連行致します」
「よし、連行しなさい」
上位貴族たちを連行していく風紀委員会を見て、俺は思った。
威嚇射撃で脅かすだけって聞いてたけど、ここまでやるって話だったっけ?
これじゃあ風紀委員会というよりは、3という字の入ったどこかの帝国の親衛隊だよ。
そもそも、収容所ってどこだよ。生徒指導室のことか?
静まり返った講堂で、議事はさらに進む。
「遅くなりましたが、これから新生徒会のメンバーを発表します」
そう言えば、俺も何かの役職につくとは聞いていたが、まだちゃんと聞いてなかったな。
セレーネはメンバーを発表していった。
生徒会長 セレーネ・フェルーム
副会長 アネット・マーロー
パーラ・ウェストランド
書記 サーシャ・ヴェッセル
会計 マール・ポアソン
顧問 フリュオリーネ・メルクリウス
プロデューサー アゾート・メルクリウス
・・・え? 生徒会でプロデューサーって何?
俺、聞いてないんだけど。
そして新生徒会のメンバーが壇上に勢揃いしたとたん、会場が歓声で爆発した。
「うおーーーー! 本物のアイドルユニット、来た!」
「我らが月の女神、セレーネ様、最高!」
「美人過ぎる生徒会顧問、フリュオリーネ様!」
「くたばれアゾート!」
「マール姫かわいい!」
「アネット様~ くっころ女騎士さま~!」
「邪魔だアゾート!」
「パーラお嬢様~、サーシャ委員長~、僕を叱りつけて~」
「全員にフラれろ、アゾート~」
ところどころで、俺へのヘイト発言が混ざってるんですけど・・・。
しかし凄い人気だな、このメンバーは。
セレーネたちも、ノリノリで手を振ってるよ。
意外なのが、フリュの人気がすごく高いことだ。もともとセレーネに勝るとも劣らない容姿だし、最近は色々な表情を見せるようになったから、きっと再評価されたのだろう。
それとアネットがくっころ女騎士キャラで人気だったことだ。パーラと同じ子爵家令嬢でありながら、性格は正反対。さらっとした物言いと強さを追求するスタイル。言われてみれば確かに女騎士だ。
パーラとアネットが副会長なのは、おそらく派閥のバランスだな。前生徒会もそうだったから俺にでもわかる。
だが、どうしても分からないことが一つだけある。隣にいるコイツの存在だ。
「おい、ニコラ。どうしてお前が生徒会のメンバーと一緒に手を振ってるんだ。お前は負けたんだから、もう家に帰れ」
ニコラはふてぶてしくも、いつのまにか俺よりもセレーネの近くに立ってやがった。
「ニコラ~! 偉いぞ~ よくぞアイドルユニットを完成させた~!」
観衆のニコラコールが憎たらしい。
プロデューサーの俺よりも、ニコラの方が高評価なのが、納得いかない。
「のうアゾートよ」
「なんだよニコラ」
「僕ももう一年この学園に残って、この生徒会メンバーと学園生活を送りたいのだが」
「勝手にすればいいじゃねえか。というか、お前は生徒会メンバーではないんだが」
「そうではなくて、僕は平民になってしまったので学園には居られなくなったのだ。だが、ここが折角アイドル学園になったのにこの学園を出ていくことになるのが辛いのだ」
「前提として、ここは1ミリもアイドル学園になってはいないのだが、そうか。お前は学園をやめることになるのか。これでお別れだな」
「そこをなんとかしてほしいのだ。僕はまだこの学園をやめたくない。僕をこの学園に残してくれ!」
「いや何でそれを俺に頼むんだ?」
「フリュオリーネ様も平民なのに、アゾートが後見人として、この学園に残しているからに決まっておろうが」
「だってフリュはメチャクチャ優秀で、その実力を勿体ないと思ったからだ。お前はバカだから、全然勿体なくない」
「そんなことはないぞ。聞こえぬのか、この観衆が求めているものを」
観衆が求めているもの?
俺は耳をすませてみた。
「ニコラ! ニコラ! ニコラ!」
・・・・・
ニコラのドヤ顔が、これまたうざい。
こういう時は、
「サルファー。お前がニコラの後見人になってくれよ」
舞台袖で退任の挨拶のために控えていたサルファーに、ニコラの面倒を見るようお願いしたところ、
「嫌だね。敬意の欠片もないお前の言うことなど聞く義理もないわ! まあお前がセレーネのことを諦めると言うのなら、聞いてやらんこともないがな」
こいつ今朝のセレーネとのことを根に持っていやがる。
俺からサルファーに、コイツを押し付けるのは無理か。
その隙にニコラがさらに畳み掛けてくる。
「アゾートはフリュオリーネ様がかわいい女の子だから後援者になってあげて、僕は男だから後援者になってくれないんだな。どう思う、全校生徒のみんな」
「アゾートの女ったらし。すけべ」
「アゾートくたばれ~」
「フラれろ~」
くっ・・・みんな酷すぎる。
フリュも自分に関係する事だから、俺を助けられずにオロオロしている。
そして俺に策なし。
ニコラがこんな知将だったとは。無念。
「し、仕方がない。お前の身元も引き受けてやるよ。だが1年! この学園にいる1年だけだ。その間にちゃんと就職口を探すんだぞいいな」
「まあよかろう。それではよろしく頼むぞ、我が主殿」
くっ・・・憎たらしい。なんでこんなニコラを。
「しかしなんでこんなやつに俺と同じメルクリウス姓を与えなくちゃいけないんだよ、全く」
「いや流石にメルクリウス姓はいらぬぞ。僕はそんな趣味を持っておらんでな」
「趣味? どういうこと?」
「いや、そなたと男同士で結婚する気はないということだ。僕はかわいい女の子が好きなのだ。それともそなたは僕と結婚したいのか?」
「アホか! 気持ち悪い。じゃあなんでフリュはメルクリウス姓を名乗ってるんだ」
「それはそなたがフリュオリーネ様に求婚したからに決まっておろうが」
「いや、してないけど」
「冬休み前の生徒会選挙の演説会でしておったではないか。『俺は伯爵からフリュの後見人となるよう直接依頼され、フリュの貴族の身分はいずれこの俺が取り戻すことになっている』って」
「それは確かに言ったが、それのどこが求婚なんだ」
「平民の女性を貴族にする方法は、正妻にするか養女にするかのどちらかだ。お前がフリュオリーネ様を養女にすることはありえないから、正妻だな」
この瞬間、俺は全てを理解した。
俺はフリュにプロポーズをしていたのか。
しかも全校生徒の目の前で。
この話をした時の、周りの大人たちや上位貴族令嬢のおかしな反応の原因もこれだった。
アウレウス伯爵が俺のことを婿殿と呼ぶ理由も、何もかも辻褄がついた。
・・・メッチャ恥ずかしい。
俺は顔を真っ赤にして、逃げるように舞台裏に下がった。
これはフリュが顔を真っ赤にして恥ずかしがっていたのも頷ける。
キッツー。
会場の下級貴族たちも俺同様に今日初めてその意味を知り、新生徒会メンバーへの歓声に混じって、俺に対する怒号が会場にいつまでも渦巻いていたのだった。
第3章はひとまず終了です。
ここまでお付き合いいただきまして、ありがとうございました。
次回から新章スタートです。
ぜひご期待ください。




