第50話 学園サボりすぎアゾートの猛勉強
日常回です
生徒会長選の握手会を終えて、俺は久しぶりに寮の自室に帰ってきた。
部屋に入るなり、今まで大人しくおぶさっていたネオンが、急にぶつくさ文句を言い始めた。
「疲れたぁ。握手会なんて生徒会長選の何に役に立つの。バカバカしいからやめようよ」
「フリュは効果があるって言ってたぞ」
「また、あの女か。セレン姉様に気をとられてたら、いつの間にかすっかりメルクリウス家の一員みたいな顔をして。あいつを甘く見てた」
「そんなこと言うなよネオン。フリュは何も悪いことをしていないのに伯爵家から絶縁させられて、修道院以外にもう行くところがないんだから。かわいそうなんだぞフリュは」
「ぐぬぬぬぬ。そうやってアゾートの家族にもうまく取り入ったに違いない。私もプロメテウス城に部屋をもらったし、これからはなるべくそちらで過ごすようにしなければ」
「ネオンは来なくていいよ」
ネオンが来ると余計な騒動を起こすし、変に巻き込まれて母上に怒られるのはもう御免なのだ。フリュはそんなことを絶対にしないので、とても助かる。
そんなことを考えていると、ネオンが急に思い出したように、
「あ、そうだアゾート。明後日は前期期末試験の追試だけど、勉強は大丈夫?」
「え?」
俺たちが秋の叙勲式に行っている間に、前期の期末テストが終了していた。それで試験を受けていなかった俺たちは追試を受ける必要があるのだが、それが明後日だったとは。
「やばい!学園をサボりすぎてて、どこが範囲かすらもわからない。ネオンお前わかるか?」
「もちろん。だって最近放課後は親衛隊のみんなと一緒に勉強会してるからね。アゾートは1週間も学園をサボって、あの女とイチャイチャしてたから、いい気味だよ」
「イチャイチャなんかしていない。領主の仕事をしていたんだ」
しかし不味いな。
これでは剣術の闘技大会に続き、座学でもネオンに遅れをとってしまう。
ネオンの先生としての俺の立場が・・・。
「ネオン頼む。試験範囲だけでも教えてくれ」
俺が頼むと、ネオンはため息を一つついた。
「もう仕方がないなアゾートは。試験範囲だけじゃなくて、勉強も教えてあげるよ」
「本当かネオン。恩に着る」
「別に恩なんて感じなくていいよ。だってアゾートは私にいろんなことを教えてくれた先生だからね。・・・ねえアゾート。どうして私が実技でも座学でも、アゾートと同じ成績なのか知ってる?」
「え、理由なんてあるの?」
「アゾートの隣でいつまでも肩を並べていたいからだよ。私すごくがんばってるんだよ。魔法だって剣術だってアゾートのいないところで特訓してるんだ」
「そうだったのか」
「だからこの前言ってくれた言葉、すごくうれしかった」
「言葉って?」
「クレイドルの森ダンジョンの13層で言ってくれたでしょ。「お前は俺の分身だから、お前を誉めると自画自賛になって、俺が恥ずかしい」って。あれは私にとって最高の誉め言葉なんだよ」
ネオンはそう言って、少し恥ずかしそうにうつむいた。
いつもは憎たらしいネオンだが、俺と二人きりの時は素直で女の子らしい一面を見せるのだ。
ただなんか変な気持ちになるので、この部屋にいる時だけはやめて欲しい。
「そういえばアゾートっていつも1位を目指してるよね。私ががんばっている理由を教えてあげたんだから、アゾートのも教えてよ」
「俺が1位を目指す理由か」
少し頬を染めたネオンが、上目遣いで俺を見つめている。
「理由か・・・そうだな、ネオンにだけは負けたくないからだ。俺はネオンの先生だし、プライドだってある。まあ今はお前のことは、手強いライバル見たいに感じているけどな。1位だったら少なくともお前に負けることはないからな」
「ライバルか・・・うん、今はそれでもいいや。理由も聞けたし、そろそろ勉強始めよっか」
翌朝、教室の自分の席で試験勉強をしていると、フリュが俺の前にやってきた。
「明日の追試の勉強ですね。もしよろしければわたくしが教えて差し上げましょうか」
「本当か? それは助かるよ」
フリュは2年生なので既にやった内容だし、そもそも学年一位の才女である。
俺がそうお願いすると、フリュはダンの方に向かって言った。
「そういうことですので、今日一日わたくしと席を交換していただけませんか」
広げた扇子で口元を隠して話すいつものフリュなのだが、なぜかダンはすっと立ち上がって「どうぞ」と腰を折って席を譲った。
なんでそんな丁寧な対応?
そして教室のみんなも固唾を飲んでその様子を見守っているし・・・。
そうしてダンと一時的に席を入れ替わったフリュは、俺と向かい合わせで手取り足取り教えてくれた。
フリュの説明は分かりやすく、メチャクチャ勉強が捗った。これならイケる。ネオンとの1週間分のハンデをここで一気に挽回できる。
集中力が増し周囲の雑談も聞こえない。目は教科書の文字だけを追いかけ、耳はフリュの声しか聞こえない。
完全にゾーン状態に入った。
日本の大学受験を乗り切った、真の受験戦士の実力を思い知るがいい。
「あの二人、結局一日中向かい合って試験勉強してたな。先生もフリュオリーネ様を怖がって、授業中に注意したりしなかったしな」
「このクラスに転入してきたころは少し遠慮がちだったけど、最近のフリュ様は以前のような風格が戻ってきた気がする」
「でもこうしてみると、この二人本当に仲がいいな。夏休み前にいがみ合っていた姿が嘘のようだ」
「モテない同盟としては大歓迎だな。これでセレーネ神とマール姫は我々のものだ」
アゾートの席の周りでは、ダンとモテない同盟たちが二人について勝手なことを言っていたが、そんな会話もアゾートに耳には全く届いていなかった。
そして追試の日。
俺たちだけ午前中の授業を休講にして、全教科の試験をまとめて行った。
俺は無理矢理詰め込んだ知識を答案用紙にぶつけた。なんとか試験範囲の勉強は終えたのだが、ネオンに勝てるかどうかは正直怪しい。
だがネオンだって、学園をサボってクエストをしていたのは同じ。
あいつも満点なんて取れないはずだ・・・きっと。
午後は剣術実技の授業だが、俺たちが学園に戻って全員揃ったので、後期のコース分けのための実技試験を行うことになった。
例年は闘技大会を行うのだが、例の2年生魔法団体戦でのセレーネへの不正問題があったため、全学年で闘技大会は当分開催されないからだ。
実技試験は入学時に行ったものと同じで、講師の前で簡単な手合わせをして、成績をつけていく。
結果、トップクラスの俺たちには順位に変動はなかったのだが、
「おい何なんだよ、あいつらの強さ」
「なんで女子なのにあんなに強いんだ。動きがまるで違う」
「あいつらとは戦いたくない。心が折れる」
まわりの男子生徒たちを絶望に追い込んでいたのは、ネオン親衛隊だ。
夏休みからずっと俺たちとともに行動し、少佐による真夏のブートキャンプから始まり、内戦の怒涛の連戦をくぐり抜け、新学期に入ってからもクレイドルの森ダンジョン13層攻略から、王都帰還時のソルレート騎士団との遭遇戦に至るまで、すべての戦いに常に彼女たちはいたのだ。
皆勤賞である。
歴戦の勇士の風格さえも漂わせながら、その動きは騎士というよりは、米軍の兵士のようであった。
どこへ向かっているんだ、ネオン親衛隊。
「ねぇアゾート。私もギリギリ上位コースに残れたけど、親衛隊のみんなには抜かされちゃった。私も親衛隊に入った方がいいのかな。クラスの女子で入ってないの私だけだし」
マールが心配そうに俺に駆け寄ってきた。すると横にいたダンが、
「マールは親衛隊には入れないぞ」
「え、なんで?」
「お前にだけは知らされてなかったが、ネオン親衛隊はもともと、マールとネオンをくっ付けないようにするためのクラスの女子連合だったからな。入会条件にもちゃんとそう書いてあるぞ」
「えーーーーっ、そうだったの? 知らなかった。でももうそんな心配しなくていいのに」
「なんで?」
「だって・・・」
チラッと俺の方を見るマール。
「いやアゾートにはフリュオリーネ様がいるだろ」
「それとこれとは関係ないの。大事なのは私の気持ちなんだから」
「・・・まあいいけど、とにかくマールだけは親衛隊に入会できないんだよ。設立当初とは全く違う組織になってしまったが、敵国条項は残ってるからな」
フリュとの関係を誤解されている点は気になるが、ブスッとしているマールをフォローしておこう。
「マールは親衛隊よりも切り札の方が向いているよ。パルスレーザーとか、祭壇の調査とか、マールだけが持っている特技にこれまでどれだけ助けられたことか。マールがいないと俺は何もできなかったんだから、自信を持て」
「うん、わかった! アゾートのために私がんばるね」
マールは機嫌を直してくれたが、ダンは俺を心配そうに見つめた。
「お前のそういう所が俺は心配だ。いつか女に刺されるぞ」
「そんなことはないだろう。それよりも気になっていたんだが、なんでみんなフリュのことを「様」をつけて呼ぶんだ」
「そりゃお前には「嫁」って感じでいつも寄り添ってるフリュオリーネ様も、俺たちには「女王」って感じのオーラが出ていて、思わずひれ伏したくなるんだよ。だから「様」をつけている」
「そ、そうなのか・・・」
翌日、前期の成績が発表された。
学科の順位と、実技も入れた総合順位だが、
「どちらも2位だと・・・」
ネオンに負けた。
あいつ昨日の追試で全科目満点を取りやがった。
中間テストでは、俺もネオンも全科目満点だったので勝負はつかなかったが、期末テストの差がそのまま順位に反映された形だ。
実技では、魔力は全く同じだったものの、闘技大会でのあの屈辱的な敗戦が決定的だった。
「お前ら、あれだけ学園をサボっておいて、よく1位とか2位とか取れるよな。真面目に学校に来てる奴らがグレるぞ」
ダンが呆れ返っていると、ネオンが得意のドヤ顔でゆっくりとこちらに歩いてきた。
「これはこれは2位のアゾート君。女とイチャついてばかりいるから、頭が悪くなってしまったようだね。このままこの順位が定着してしまわないか、僕は心配だよ」
くっ、何も言い返せない。
屈辱にうち震える俺を見下ろしてドヤるネオン。そこへ、
「それはどうかな? ネオン君」
「誰だ?」
「俺たちだよ」
「ダーシュにアレン・・・」
「後期の成績は、俺たち元上級クラストップ5も含めたものになる。そう簡単に1位が取れると思うなよ」
そうなのだ。途中から騎士クラスに転入してきた彼らは、前期の成績を上級クラスで集計されていたのだ。しかし後期は俺たちと同じ騎士クラスで集計するため、ライバルが増えるのだ。しかもこいつらは強力な魔力保有者だ。
「そうだったな。確かに簡単な相手ではないが、相手にとって不足なし。むしろ闘志が沸いてきた」
俺は獰猛な笑みをダーシュたちに向ける。ダーシュたちも笑みを返してくる。
後期の成績バトルは熱い戦いとなるだろう。
「アゾート様のおっしゃる通りです」
フリュだ。
「ネオンさんには、もう簡単に1位は取らせません。わたくしがアゾート様をお支えして、この騎士クラスBの頂点に立っていただきます。わたくしの成績も後期からは騎士クラスBで集計されますので、二人で1位と2位を独占致します」
え?
フリュの成績も1年生騎士クラスBで集計されるの?
2年生でダントツトップの彼女の成績が?
俺とネオンとダーシュたちの間で、あれだけ立ち込めていた熱い闘志が、一気に雲散霧消した。
そんな学園での日常が過ぎていき、秋の叙勲式から既に1か月以上が経ち季節は冬に移り変わっていた。
学園では前期が終了して授業は既に後期に入っており、俺は古代魔法文明のクエストにいつでも行ける準備を整えつつ、アウレウス伯爵からの連絡を待っていた。学園をサボる気満々である。
そして突然、事態が動き出した。
夏休みにダンが何気なく見つけ、学園をサボりながらみんなで進めてきたこのクエストが、王国を揺るがす大事件にまで発展してしまったのだった。
次回から本章ラストへ向けてストーリーが進みます
ご期待ください




