第48話 ソルレート伯爵の災難
すみません。
今日の話はオッサンばっかりでてきます。
明日がんばります。
盗賊団に偽装したソルレート騎士団を退けた俺たちは、ようやくプロメテウス城に帰還することができた。
ソルレート伯爵によるあからさまな通商破壊を目の当たりにし、今後の対応を協議するため、サルファー以下主要メンバーがダイニングホールに集まった。
対応の柱としては、プロメテウス領を往き来する商人の安全を守るため、プロメテウス騎士団による主要街道の警護活動や隊商がギルドに護衛のクエストを発注する場合の補助金の拠出が決まった。
また、ボロンブラーク伯爵支配エリアの各家もプロメテウス領をサポートし、派兵も含めた軍事支援を惜しまないこととなった。
そして会議の終わりに、先ほどのフリュオリーネの作戦指示についての全容を説明するよう、サルファーから要求があった。
フリュオリーネは、サルファーからの求めに応じ、プロメテウス領東側の地形図を使って説明を始めた。
「まず敵軍は、我々のプロメテウス領帰還を待ち構えて、城門を中心に北東南の半円形の陣をとっていると想定しました。今回敵と遭遇したのは半円の北側にあたり、我々は街道沿いに北へ逃走することで、西の山岳地帯を越えるルートで帰領すると敵に意識させ、敵陣を北西の山岳沿いにシフトさせました」
「確かに西の山岳地帯のルートに逃げ込みたくなるな。僕もそれを考えていたから」
「次に、アネットさんを通じてプロメテウス騎士団を出撃させましたが、北西方向に戦力をシフトさせた敵軍は南側の兵力を相対的に手薄にせざるをえないため、両軍が衝突した際には敵陣半円の南側が押されるかたちになります」
「普通はそうなるな」
「結果、敵陣形は南側が押され全体的に北に伸びた扇形の陣形に変わっていき、南側にプロメテウス領への通路が開きます。ただ我々がそちらへ回り込むには、敵陣東側の部隊が邪魔になります。ここは回廊が狭くなっているため敵に見つからずに通過することは困難です」
「お前はこの辺りの地形をすべて頭に入れているのか」
「はい大体は。そこで我々はアドリテの街を利用しました。ここはソルレート内陸部への通商ルートで、今回の作戦エリアからは少し離れています。ただこのルートを南に外れれば、少し遠回りになりますが、南側の長い丘陵地帯の東側つまり戦場の裏側に出ます。ここは木も多く大規模な軍隊の東側への展開が阻害されますので、そこを我々が移動手段として利用いたしました」
「・・随分と走らされたからな。馬も疲弊しておった」
「一方、プロメテウス騎士団の規模と火力から、緒戦で敵軍を押し返す速度は大まかに想定できており、敵軍の左側面がアドリテの街から南に続く丘陵地帯の南端まで後退するタイミングはほぼ予想がついておりました。だから我々はうまく時間を合わせて丘の陰から敵を強襲することで、敵左翼の向こう側で接敵しているプロメテウス騎士団と合流が果たせた訳です」
「たまに空を見てたのは、タイミングを計っていたのか。プロメテウス騎士団がおとりのように使われてるのが少し気になるが、まあいい」
「合流したあとは逃げの一手でしたが、わざと敵の感情を逆撫でして突出する集団をうまく作り出し、捕まるギリギリの距離を保ちつつ、敵を城門の前まで引きずり込みました」
「ただ逃げてたわけじゃないのか?」
「はい。私がしんがりの皆様の魔法の威力を存じておりましたので、使用する魔法を細かく指示させていただき、敵騎士団の速度を調整いたしました」
「・・・え?」
「そして領内に帰還後は、まんまと誘い出された敵軍の殲滅作戦に移行します。あらかじめ用意しておいた大砲と、アゾート様の銃装騎兵隊等の銃弾による集中砲火です。以上が先ほどの作戦行動の全容でございます」
「・・・・・」
「サルファー、他に質問がなければ会議は終わりだ」
「いや、うむ、ないな」
会議終了後は、フリュのまわりを当主たちが取り囲み、彼女を質問責めにしていた。
父上が自分の娘のようにフリュを自慢しているのを横目に見ながら、母上が俺の方にやってきた。
「アゾートに相談があるの。ちょっとこっちに来て」
母上が俺を4階の当主部屋まで連れていった。
相談とは例の帳簿取引の件だった。
母上はあれからも継続的に売り続けているものの、ロディアン商会も負けずに買い続けており穀物価格は逆に上昇。
ロディアン商会は買い取った穀物をどんどんソルレート領内へ運び出しているそうだ。
「私はもう耐えられないわ。資金も残り少なくなってきたし、そろそろ終わりにした方が、」
「おかしいなあ。そんなに高値で現物を買っても処分に困ると思うんだけど。だってもうすぐ収穫だよ。まあ、資金が足りなくなると困るから、アウレウス伯爵から資金を調達しておいたけど」
「え、伯爵からお金を借りたの?」
「言ったでしょ、ここからは資金量の勝負だって。戦争のつもりでやっていかないと」
「これは戦争、か。そうね、私も気合を入れなおすわ」
「領民向けの不足分は兵糧を使って急場を凌ぐとして、今週は俺もここに残って母上と一緒に取引所に行くよ。サルファーは馬で帰るから、今週いっぱいは学園を休んでいるはずだし、休暇を延長しても問題ないはず」
「学園をサボるのはよくないけれど、そうしてもらえると私は助かるわ」
翌日、俺とフリュを残し、セレーネたちはギルドの転移陣で、サルファーやダリウスたちは騎士団を引き連れて、プロメテウス領を後にした。
そしてさっそく、俺は母上とフリュとともに、取引所にやってきた。
初めて足を踏み入れる取引所は、商人たちの熱気でむせ返っていた。
「すごい熱気だね。以前の閑散とした雰囲気とはまるで別物だ」
「最近はいろんな領地の商人も入ってきて、穀物を持ち込んできたり、他の商品の取引も行われたりしているのよ」
「それはいいことだよ。それにしても他領からも穀物が流入してるとは」
俺と母上と話をしていると、たくさんの商人たちの中から一人の男が俺の前に現れた。
「お前が領主のアゾート・メルクリウスか」
精悍な顔つきの中年男性は、ロディアン商会の会頭その人であった。母上とはすでに顔見知りらしい。
「派手に売ってくれているようだが、そのうちお前のところの倉の穀物が全て空になるぞ」
不適に笑う男に俺も笑顔で答えた。
「そんな大量の穀物をどうするつもりか知らないけれど、こんな値段でいいのならどんどん買ってくれよ。帳簿売り100枚!」
俺が声高に売り注文を出した瞬間、商人たちの熱気がさらにヒートアップした。
「せいぜい頑張って売ってくれよ坊主」
そう言ってロディアン会頭は去って行った。
ソルレート伯爵は、機嫌が悪かった。
ようやく王都からの帰還し、シュトレイマン公爵から頼まれたアゾート・メルクリウス男爵への妨害工作をどうしようか、嗜虐的な想像を走らせて楽しんでいたところを、陳情団の到来に邪魔をされたからだ。
「何だこの忙しいときに」
不機嫌な様子で謁見の間に現れた伯爵は、いならぶ商人たちを前にイラつきを隠さなかった。
陳情団の代表者が頭を下げながらも真剣な口調で、
「ただちにプロメテウス領への追加関税を中止して頂きたい」
「何かと思えば関税のことか。領地の政治に商人ごときが口を出すな!」
「聞いてください。これには理由があるのです」
商人たちが言うには、アウレウス派閥の全ての領が一斉に、ソルレート領からの物品に対し関税を大きく引き上げたのだ。
その理由がソルレート領によるプロメテウス領への追加関税に対する報復関税。解除の条件は、プロメテウス領への追加関税の停止だった。
商人の立場では、せっかく盗賊の襲撃などの危険をくぐり抜けてまで運んできた商品に、高い関税が上乗せされてしまうと、商品が全く売れず大変な赤字を出してしまう。
プロメテウス領への追加関税を停止すればすぐに報復関税をやめるという話だったので、伯爵の帰還を待って急ぎ陳情に訪れたのだった。
「別にアウレウス派閥のやつらなんかに、うちの商品を売らなければいいではないか」
「報復関税がかけられた商品は輸出目的で生産されたもので、これが売れなければソルレートの領民の生活が成り立たなくなります。何とぞ早急な対応を」
「ちっ。わかったわかった、考えておいてやる。もう下がれ」
陳情団と入れ替わるように、今度は騎士団が報告にやって来た。
王都への道中に指示した作戦の成果報告だ。
伯爵はこの作戦を嫌がらせ程度にしか考えておらず、騎士団の戦闘力を考えれば盗賊の真似事など失敗のしょうがないものと軽く考えていた。
だが指揮官の恐怖で青ざめた顔を見て、急に嫌な予感がした。
そして指揮官の報告は、伯爵の想像を超える酷い内容であった。
「騎士ばかり700騎も失ったとはどういうことだ」
指揮官の報告によると、ソルレート騎士団の中から400騎を盗賊に偽装させ、隊商への襲撃を行うため領内の街道沿いに分散していたところ、運悪く王都から帰還中のフェルーム騎士団と遭遇し、各個撃破の憂き目にあってしまった。
挽回しようと分散させていた騎士を集め、プロメテウス領の周辺で待ち構えていたら、プロメテウス騎士団とフェルーム騎士団の絶妙な連携で挟み撃ちにあい、まんまと隙をつかれて逃げられた上、城門の前まで誘い出されて集中砲火を浴びた。
結果、兵力の半数を失うこととなった。
「お前は何年指揮官をやっているのだ、この役立たずが! 衛兵、この無能者を捕らえよ」
謁見の間に控えていた衛兵は、騎士団の指揮官を拘束し地下牢へと連行していった。
(アウレウスもフェルームもどいつもこいつも忌々しい)
丸い顔をさらに真っ赤にさせ、ゆでだこのような顔で謁見の間を出ていこうとする伯爵を呼び止めたのは、同じような体形の男だった。
「兄上ぇ、相談があるのですが」
「この忙しい時になんだ」
伯爵の弟のデュレート卿だった。
「息子の二コラが学園の生徒会長選に出るのですが、選挙に勝てるように支援をお願いしたいのです」
のんきな弟に、伯爵の怒りが爆発した。
「学園なんかどうでもいいわ! お前の息子のことはお前が勝手にすればいいではないか。いちいちわしに相談してくるな!」
兄が怒っているのはいつものことだと気にしない弟は、兄の許可が得られたことを素直に喜んだ。
「それでは各貴族家に配る贈答品はこちらで選んでおきます。いや現金の方がいいかな」
「待て。たかが学園の選挙で、買収なんかする必要があるのか」
「うちのかわいい息子を支えてもらうための、派閥内に対するこれは気配りというやつですよ。もちろん中立派にもばらまいておきますのでご安心を」
「バカ、誰が心配なんかするか! お前によく似たあのバカ息子のために、金など使わん!」
「それだとアウレウス派の候補に負けてしまいますよ」
「ちっ。で、その選挙とやらの対抗馬は誰なんだ」
「アウレウス派のセレーネ・フェルームです」
「フェルームだと! あの成り上がり風情が・・・。おい、あいつらだけには絶対負けるな。なんでもいい好きなものを買え」
「さすが兄上。ありがとうございます」
俺とフリュは久しぶりに学園に戻ってきていた。
先週の穀物価格は一進一退の攻防が続き、高値付近でのもみ合いとなっていた。
さすがにそろそろ学園に戻らなければならなかったので、俺はアウレウス伯爵からの資金とともに、後のことを母上に任せて来た。
俺とともに過ごした一週間で、母上もどこか吹っ切れたようだ。
取引所でも「倍プッシュ」がどうとか、不穏な言葉を口ずさむまでになっていた。
そんな母上を城に残して俺たちは、プロメテウスギルドからボロンブラークギルドまで転移陣でジャンプし、その足で学園に登校したのだ。
しかし、久しぶりの学園で俺とフリュが見たものは、先に帰ったセレーネたちが進めていた選挙会長選「らしきもの」の、あまりの有様だった。
次回はちゃんと学園ものです。
オッサンも出てきません。
ご期待ください。




