第45話 3つのキーワード
3つのキーワードの解答編です。
フィッシャー領の問題と解答はわりと近くに書いてありますので、問題を解きたい読者の方は、スクロールにご注意いただければと思います。
「ネオン気がついたか」
クエストを再開して4日目の朝、眠り続けていたネオンがようやく目を覚ました。
「アゾート、ここは」
「俺んちのお前の部屋だ」
プロメテウス城3階にネオンがせしめた部屋には、セレーネと母上がネオンの看病のために付き添っていた。
「目を覚まして良かった」
みんなホッとした表情で嬉しそうだ。
「まずは飯でも食って、ゆっくり休んでろ」
ボーッとしていたネオンは、しばらくはボンヤリと窓の外を見ていたが、少しずつ意識がハッキリしてくると、突然ガバッと起き上がった。
「すごいことがあったんだよ」
「つまりお前が過去にタイムスリップして、俺達のご先祖さまを助けてフェルーム家を立ち上げたと」
ネオンがコクコクうなずく。
時間を超越する魔法が存在するとは、聞いたことがない。
転移陣も厳密には瞬間移動ではないため、光の速度は超えていない。相対性理論は成立している。
「タイムパラドックスの問題はお前も知っているよな」
「過去を改変したことで未来の出来事が大きく変わってしまう矛盾でしょ」
「そうだ。ほんの少しでも過去に影響を与えると、バタフライ効果によって、全く異なる未来になる可能性だってある。仮に過去にタイムスリップしたことが本当なら、お前が帰る未来は俺達のいるこの世界とはまるで異なる世界だということだ」
「そんなこと言われなくたって、私も分かってるよ。でも実際に起きた事なんだから。こんな嘘を言ってもしょうがないでしょ」
「それはそうだが。例えば夢や幻覚を見ていたとか」
俺が考え込んでいると、セレーネが思い出したように呟いた。
「ネオンが部屋を出ていった時、警戒中の私たちを強制的に眠らせていたから、何らかの魔法が作用したのは間違いないと思う」
「夢や幻覚であれば方法は分からないが可能性はある。では鍵をどこで手にいれたかと言うと」
「だから過去のご先祖さまから託されたんだって」
「・・・・・」
「じゃあ、なんであの鍵はフェルーム家の私たちにしか使えないの。なんで遠く離れたあの神殿がフェルーム家と関係があるのよ」
ネオンがまくしたてる。
「それはわからない。母上は何か知ってる?」
「いいえ、何も。私たちのご祖先がどこからきたのかも伝わってないからね。突然ボロンブラークに現れて、騎士爵位を賜ったこと。フェルームの血を絶さないように当主の魔力と血統を特に重んじたことぐらいね。あなたとセレーネが早くから婚約させられたのも、そのためよ」
「結局、ネオンの話を裏付けることも否定することもできないな」
「だったら信じてよ」
「そうだな。タイムスリップはさておき、フェルーム家のご先祖さまとそのフィッシャーの神殿は深い繋がりがあるらしい」
「あそこはフィッシャー辺境伯領の旧領都でバートリーというそうよ」
「バートリー・・・(カインの家名が確か)」
そういえばカインは今回は参加を見送ると言っていたが、何か関係があるのだろうか。
「今日はゆっくり休んで、ネオンの体調が良ければ明日の朝、その神殿に向かうことにしよう」
翌日、体調が回復したネオンを連れて、俺たちは再びフィッシャー領の神殿にやって来た。
「じゃじゃーん。ここがワレが見つけし地下神殿だ。どや」
ネオンがどや顔をしている。
寂れた旧領都の中心にそびえ立つ古い教会。その地下深くに隠された古代魔法文明の神殿は、フェルーム家のみが使える鍵でのみ入ることが許される。
俺も鍵を使用することができたのだ。
中は他の神殿と同じ構造であり一番奥に例の祭壇がある。
異なることといえば、祭壇の横で赤いオーブが怪しく光輝いているということだ。
「では、ワレの祭壇を調べようぞ、アゾート君よ」
「じゃあ早速、祭壇を調べるか。マール行くぞ」
「おう!」
「ワレを無視するな!」
「マールやったぞ。ここは記号3の祭壇だ、助かった」
「本当だ。よかったね、アゾート」
「ああ。だがこの問題は何だ」
祭壇のスクリーンには、ただの数字が並んでいるだけだった。
1 0 1 2 2 2 3 4 3
4 5 4 5 6 5 6 6 6
8 ◻️ 8 14 ◻️ 14 13 ◻️ 13
26 ◻️ 26 20 ◻️ 20 11 ◻️ 11
数列の問題か。徐々に数字が大きくなっていくが単純に増加しているわけではない。
階差数列、群数列、なんだろう?
この四角部分の数字を答えればいいのだろうが、単なる数列の問題のはずがない。
異なる文明同士のコミュニケーション。
この答えには本質的な何かを問うメッセージが隠されているはず。
なのだが・・・、
答えが全く思い付かないため、いったん祭壇の外に出てみんなに相談することにした。
ネオン。この問題わかるか。
「こんなの簡単だよ」
「なんだと! 本当かネオン?」
なんでコイツ、一瞬でわかるんだ?
「たぶんこれクラーク数だよ」
「クラーク数か! 言われてみれば、なるほど」
これ数学ではなく、物理の問題だったのか。
「え?どういうこと、ネオン」
セレーネがネオンに説明するよう促す。
「今から順を追って説明するよ。まず下の方に並んでいる◻️の両端はどれも同じ数字で、3つの数字が1セットであると仮定する」
「上段の数列がヒントになっていて、3つの数字の組みが6セット、1~6まで並んでいる。異なるのは真ん中の数字だけ。ここに何かの意味がある」
「下の段も6セット。今度はバラバラで8 14 13 26 20 11」
「これはクラーク数の大きいものから順に並べた元素の原子番号だよ。順番に酸素、ケイ素、アルミニウム、鉄、カルシウム、ナトリウム」
「元素だとすると上の段の1は水素で、陽子が1つ、電子が1つ、中性子は0だ。つまり真ん中の数字は中性子」
「下の段の各元素の中性子数を答えればいいので、それぞれで最も安定している同位体の中性子数は8 14 14 30 20 12。これが答えだ」
「僕はクラーク数で気が付いたけど、他の方法でも解けるよ。要するに古代文明の誰かは、僕たちが元素について理解できているかを確認したかったんじゃないかな」
「・・・ネオン、お前よく中性子の数なんて覚えてるな」
「化学の問題で出てきた各元素の原子量から暗算で求まるよ」
「お、おう・・・」
コイツ、先生であるこの俺を超えてないか?
「ていうか、元素って火、水、風、土、雷、光、闇の7つじゃないの?」
マールが質問する。
「それは魔法を使用する上での設定で、実際には100種類以上ある」
あれ、このやり取り前にしたことあるな。
「そんなのどの教科書にも書いてないよ。この前の勉強会でアゾートも言ってたけど、そんなにたくさんあったら、もう元素とは言えなくない?」
この議論は、変なループに入るやつだ。止めなくちゃ。
「ま、まぁいいじゃないか、どっちでも。それよりも答えが分かったんだから、いよいよ魔法障壁の向こう側へ行けるかもよ」
「そ、そうよ。理系バカのネオンなんか放っといて、先に進んだ方がいいわね」
セレーネのフォローは、フォローになっていなかった。
「火力バカのセレン姉様に理系バカ呼ばわりされるいわれはないんですけど」
「バカにバカって言って何が悪いのよ」
「姉様なんかこの問題解けなかったくせに」
「アゾートも解けなかったじゃない。そもそもクラーク数なんてマニアックな知識、生きる上で全然必要ないじゃない」
「そんなことありませんよぅ。土魔法ウォールで使いますぅ。あ、姉様は火属性魔法しか使えない火力バカでした。めんごめんご」
「ネオン!表に出なさい、勝負よ」
「望むところ。クラーク数の力を思い知るがいい」
「ちょっと待て、ネオン! せめて赤いオーブに触れてからにしておけ!」
俺の忠告も聞かず、魔力をみなぎらせながら二人とも表へ出ていってしまった。
ちなみに成分は場所によって異なるし、そもそもここ地球じゃないから、クラーク数は参考程度にしかならないぞ、ネオン・・・。しかしなぜ古代魔法文明は地球のクラーク数をヒントに使った?
あの二人は放っておいて、今度は赤く光るオーブの方に向かった。
「みんな、順番にこのオーブに触れて、何が起きたか教えてほしい。まずは俺からだ」
俺はそっとオーブに触れてみた
ZA,ZAZA---ZA, ZA
呪文が聞こえる時の、いつもの雑音が頭の中に響く。
火属性魔法の呪文が頭の中に流れ込む。
これは凄い。
鮮明な日本語の音声が頭の中で再生される。
これが古代魔法文明のテクノロジーか。
この声の主が、太古の昔の転生した日本人の声なのかな。
それはアナウンサーのようにきれいな女性の声だった。
で、結局何か聞こえたのは、ネオンの他は、火属性を持っている親衛隊の三人だけか。
どうやら、火属性の魔力保有者にしか聞こえず、ネオン以外の三人は音声がよく聞き取れなかったらしい。
ちなみにネオンは、セレーネに負けてボロ雑巾のようになって床に倒れている。
よく聞こえないが「私の神殿なのに先に秘密を調べてずるい。セレン姉様のバカ」とつぶやいているようだ。
どうせ勝てないんだから、ケンカなんかしなければいいのに。
宿で夕食をとった後、みんなで集まって今後の方針を立てた。
「明後日は王都に行くので、続きは秋の叙勲式の後にしようと思う。明日は、王都までのんびりジャンプし、中継地点で観光でもするか」
「「「賛成ー!」」」
この緩い感じが俺たちのパーティーだ。
それに魔法障壁が開いたとして、そのまま放置したくないのだ。
「ところで他の2つのキーワードは分かったのか」
「ああ、円周率と自然対数の底だ」
「なんだそれ?」
「説明すると大変なので簡単に言うと、最も美しい公式として知られるオイラーの公式だよ。この式の凄いところは、」
「わかった、それ以上は何も言うな。説明を始めなくていいからな」
「そうか残念だ。ところでネオン、俺は自然対数の底を覚えてないので、あとで計算しておいてくれ。たかが6ケタだ。頼むぞ人間計算機」
「それ人間という言葉がついてるだけで、人間扱いしてないやつだよね。でもアゾートの頼みじゃ仕方ないから、やってあげるよ。・・・2.71828、これでいい?」
「お前、本当に便利だな。サンキュー」
「なんなんだ、こいつらの会話・・・」
「でさ、王都の祭壇を見て思ったんだが、俺は魔法文明の遺跡を魔法協会には渡したくないんだ。祭壇を大聖堂の地下から無理やり移設したため、全く動かなくなっていた。もしフィッシャーの祭壇が1番目の神殿だったら、魔法障壁は突破できず永遠に進めなくなっていたはずだ。そんな奴らに遺跡を手にする資格はない。どうにかして魔法協会に遺跡を渡さなくていい方法が考えられないかな」
「難しいんじゃないかな。クレイドルの森ダンジョン全体が魔法協会の管轄になってしまっていて、魔法障壁が取り除かれたことがわかれば、俺たちとは関係なく中に入って調査を開始すると思う。そんな状態で俺たちが下手に邪魔しようものなら、王国から反逆罪に問われたりしないかな」
「そうなんだよな。魔法協会は王国の組織だから、ただの学生である俺たちなんか権力で従えさせることができる。俺も別に遺跡を独占したいわけじゃなくて、遺跡の価値を理解しない人間が、祭壇のように遺跡を壊していくのを止めたいんだ。ちゃんと話を聞いてくれる人がいればいいんだが」
「そういうことなら、お父様に相談してみるのが一番だと思います。叙勲式の時には話をしてみてはどうかしら」
「確かにその通りだ。相談に行こうフリュ」
その頃王都へ向かう馬上では、ソルレート伯爵がその太った丸顔をほころばせて、部下の報告に機嫌を良くしていた。
「ロディアン商会からまた穀物の持ち込みがあったのか。よくやっているではないか。どんどん買ってやれ」
アウレウス伯爵令嬢とボロンブラーク伯爵家の政略結婚により、中立派から敵対派閥への鞍替えが時間の問題だったお隣さんを牽制するために、これまでいろいろな嫌がらせ策を講じてきたが、突然の内戦発生と終結により、プロメテウス領が独立しボロンブラークとともにアウレウス派を表明した。
まさに電撃的だった。
慌ててとった策が、プロメテウスに対する関税の引き上げと、プロメテウス領の穀物をロディアン商会に買い占めさせることだった。
この二つで食糧危機を引き起こし、あわよくば領民に反乱を起こさせて、混乱させてやろうという目論見だ。
内戦の混乱も重なりプロメテウスでは売り渋りによる穀物の取引が激減したため、穀物をプロメテウスから流出させることはできていないが、価格高騰によって領民が食料不足に陥っており、伯爵の意図どおりには進んでいた。
しかしここに来てようやく、ロディアン商会がプロメテウスの穀物をソルレート領内に運びはじめ、作戦が上手く行ったことを喜んでいたのだ。
「よし次の作戦に移るか」
しかしアゾート・メルクリウスといったか、プロメテウスの新領主。
アウレウス伯爵のお気に入りだそうだな、あのふざけた名前の小僧。
叙勲式の場で、この目で見るのが楽しみだ。
次回は王都での叙勲式です。
アゾートの運命やいかに。




