第43話 ネオンが見た真実
秋の叙勲式出席のための休暇届を学園に提出し、その間に古代魔法遺跡の探索を本格的に進める。
王都との往復は計14日間。これを前半と後半にわけ、前半に上手くいけば魔法障壁の突破まで進め、後半の7日間を使って内部の探索をじっくりと行う計画だ。
その前半戦、まず俺・マール・フリュの3人のチームとそれ以外全員のチームの2つに分け、平行して3つの祭壇の攻略を進めていき、3日目に合流するために一度プロメテウス城に集合することになっている。
さあ、クエスト再開だ。
俺はマールと2人でエッシャー洞窟に来ていた。
「まさか半年後にまたここに来るとはな」
「あの時は、サーシャに少佐、キースもいたわね」
キースたちダンジョン部のみんなとは、夏休み以来あまり話をしていないな。どうしているだろうか。
「でも今日は二人きりって、なんかデートみたいね」
マールが楽しそうに笑ってる。
今回の目的地は入口側の祭壇なので、この前みたいな魔獣の出るエリアには入らない。あの毒虫の沼にも行かないのだ。
そして観光地化したエッシャー洞窟は、実際にデートスポットとして利用されているので、マールの言っていることは、あながち間違ってはいない。
「祭壇は一応立ち入り禁止エリアにあるので、魔法協会に行ってこの前の研究者にお願いしてみよう」
「じゃあ、あっちの建物だね」
マールが俺の腕を引っ張って、洞窟に隣接する魔法協会の事務所に向かって行った。
「あの時は君たちのお陰で助かったよ」
前回のクエストで顔馴染みとなった研究者が随行することで、祭壇の調査の許可がおりた。
研究者によると、この間通った洞窟内は整備が終わっており、今は安全に通り抜ける事ができるようになったらしい。
「ここだ」
祭壇のある石室に到着した。
あの天井の縁取がないか、天井近くを素早く見渡すが、ここにはどうやらないようだ。
他に怪しい壁画がないか一応チェックするが、特に目につく物はない。
早速マールと二人で祭壇の中に上半身を突っ込み、奥のスクリーンを起動させた。
「あ、見て見て。この記号ってクレイドルの森ダンジョンの祭壇にあったよね。上から2番目の」
「そうだな。あ、画面が切り替わった」
これは数学の問題か。
図形のみで表され説明文が一切ないが、平面座標(1、*)の中心0に単位円が描かれ、180度の角度が示されている。
その図の右側には、例のビット表記の数字が並んでおり、
7◻️4○3
5◻️5△1
8◻️2☆3
0◻️記号2☆*△記号1○1
と表示されていた。記号2はエッシャー洞窟を示すもので、記号1はどこなのか、まだわからない。
古代魔法文明は、数学の問題を通して、我々に自分達の遺産を受けとる価値があるのかをテストしているように見える。
「マール、ここはもうOKだ」
「え、もう終わり?」
「ああ。ただ時間が余ったので、魔力回復ついでにどこか遊びに行くか」
「じぁあ、何かおいしいもの食べに行こうよ」
「いいね。マールは何が食べたい?」
「アゾートが好きなものなら何でもいいよ」
さっきから祭壇の中で、何かをピカピカ光らせてはしゃいだり、デートの予定を相談している二人に、研究員(彼女なし)は心の中で毒づいた。
何しに来たんだ、このバカップルは。
別動隊はフィッシャー辺境泊領にあるとされる古代魔法遺跡を探すために、領都エーデルのギルドに来ていた。
今日はクレイドルの森ダンジョンではないため、オッサンたちは来ていない。また、カイン、サーシャ、ユーリは都合が合わないらしく、今回の王都の秋の叙勲式は不参加だ。
フリュオリーネは一人王都で、祭壇の調査許可を得るために、魔法協会とシリウス教大聖堂の根回し。
少佐はプロメテウス領の銃装騎兵隊を率いて、引き続き盗賊の討伐作戦に駆り出されている。
そのためメンバーは、私とダン、セレン姉様、パーラ、アネット、そして私の親衛隊である。
「ネオン。ギルドで調べてもらったが、この辺りでは古代魔法遺跡に関係するダンジョンや神殿は見つかっていないそうだ」
「だとすると怪しいのは、未到達エリアが残っているこの2箇所のダンジョン。でも、あの地図のマークからは少し外れている気がする」
「マークの場所には何があるの?」
「廃れた街が一つ。念のため先に見に行ってみましょうか」
「ついた。この街だ」
私たちは、城壁に守られた大きな街に来た。しかし全体的に建物が古く人影も疎らだ。
「あの建物は?」
「あれは教会かな、かなり大きいな」
「行ってみよう」
教会の中に入ると大きな礼拝堂があり、奥の祭壇にはこの宗教の神であるシリウスの像が祭られていた。
祭壇には花が飾られており、街の住人が普段訪れているのが分かる。
「完全に廃墟という訳ではないのか」
古びた神具がいくつか並べられており、価値がないのだろうか盗賊に荒らされずに残っている。私は、何か仕掛けがないか、神具を一つ一つ調べていった。
「ネオン様、手から血が」
気がつかないうちに指を切ってしまったようだ。アネットが丁寧に手当てをしてくれた。
「何処かに隠し通路とかないのかな」
「祭壇の裏とか怪しいところを探したけど、特に何もないな」
セレン姉様や親衛隊のみんなも手分けして、その辺にいる住民から聞き取り調査をしたけど、手がかりになりそうな情報はなかった。
「ここじゃなさそうね。他の場所に行ってみましょうか」
セレン姉様がみんなを連れて教会を出ていくので、私もついていこうとすると、後ろから私を呼び止める声がした。
ここの神父さんだ。
私は念のために古代魔法遺跡に関わる情報がないか、神父さんにたずねた。
結論から言えば、シリウス教は一神教であり古代の女神を祭るような祭壇はないとのことだが、この場所は古くから聖地として魔力に満たされた土地だったらしい。
今も多くの信者がこの教会に滞在しており、病やケガを癒すために、教会の地下で暮らしているとのこと。
私は神父さんに連れられて地下に降りて行った。
「すごい。街のようですね」
地下街と呼べるほど多くの部屋に信者たちが暮らしており、大広間では走り回る子供たちがいた。
「王都で弾圧を受けた者たちです」
「弾圧・・・」
「政変で王様が変わり、古いしきたりを尊ぶ信者を弾圧し、新しいしきたりに従わせようと。古いしきたりを捨てきれないものは処刑されるため、この地に逃げてきたのです」
「処刑って、王都では今そんなことになってたんですか」
「はい。ここは辺境伯領で王国から一定の自治が認められているため、こういった者たちが集まって来るんですよ」
私は神父さんに連れられて、医務室のような場所に入っていった。
「この人は?」
ベッドには全身ケガとやけどだらけの男が横たわっていた。
「我々を王都の軍勢から守ってくれている、この街の騎士様です。もしよければ、医薬品を分けて頂けないかと思い、ここにお連れしました」
その騎士は私に気がつくと、震える手を指し伸ばして助けを求めてきた。私は騎士の手をつかみ、彼のケガがよくなることを祈った。
「あいにく手持ちはないのですが、必要なものがあれば購入して来ますので教えてください」
神父さんは大喜びして医薬品のリストを紙に書きとめ、私はそれを受け取った。
神父さんが教会の外まで私を見送りに来てくれた。
そこにちょうどいたダンたちに、神父さんを引き合わせようとすると、
「ネオン、なに独り言を言ってるんだ。気持ち悪いな」
「何に言ってるの。この神父さんと話をしていただけだよ」
「神父なんかどこにもいねえぞ。そもそもこの教会にはもう長い間誰も住んでいないらしいし」
「そんなことはない。だってほらそこに」
あれいない。
「きゃあっ、ネオン様!」
「うわっ!なんだよそれ」
みんなの様子がおかしい。
「どうしたの、みんな」
「どうしたのじゃないよ。おまえ、その額どうしたんだ。不気味な紋章が浮かび上がってるぞ」
「え?」
私はみんなに先ほどの神父さんとのやり取りや、地下に逃げてきた人たちの話をした。
「そんなはずはない。聞いた話だと、この教会には200年以上誰も住んでないそうだ。俺もさっき地下室を見てきたけど、ただの廃墟だったぞ」
え?
「じゃあ、神父さんから渡されたこのリストは」
さっきまで持っていたリストが消えている。
「まずいな。ネオンに呪いのようなものがかけられている。とにかく一度この街から出よう」
「そんな」
私だけが街から出られなくなっている。魔法の障壁で引き戻されてしまうのだ。
結局、アネットとパーラをプロメテウス城に戻して救援を呼び、私たちはこの街の宿屋でその救援を待つことになった。
宿屋では私を取り囲むように、セレーネとダンが宿の外を、親衛隊が部屋の内と外を徹夜で警戒する。
私はいつの間にか眠ってしまっていた。
妙な気配を感じたためベッドから起きようとすると、私の枕元に一人の男がいた。
全身ケガとやけどだらけのその男は、真っ赤な目で私を見下ろしていた。
とっさにバリアーをはったが、男はそれをすり抜けて私の腕を掴む。
「っ!」
親衛隊に助けを呼ぼうとするが、彼女たちはすでに全員床に倒れて伏している。
殺される!
私は男に向かって魔法を放とうとしたその時、
「待て!彼女たちは眠っているだけだ。攻撃の意思はない。君に話がしたいのでついてきて欲しいだけだ」
男の目に殺意はない。
よく見ると昼間教会のベッドに横たわっていた男だ。この呪いと関わっているのなら、話ぐらいは聞いた方がよさそうだ。
私は魔力を全身に巡らせて警戒しながら、男についていくことにした。
扉の外でも親衛隊が、宿の外ではダンやセレーネ、さらには辺りの住人たちもが眠らされている。
人っ子ひとりいない街を男と二人、教会へ向かって歩いていく。
「待ってネオン! 行かないで!」
教会の地下に降りる扉の前で、私は呼び止められた。
「そこから先に進むと危険だやめろ」
セレーネとダンが眠りから覚め、私を追いかけて来たのだ。
扉には私の額と同じ不気味な紋章が浮かび上がっており、開け放たれた扉の中は魔法障壁により、中の様子がわからなくなっている。
「俺を信じてついてきて欲しい。頼む」
男が私に懇願する。嘘をついているような目ではない。
それにこの目、どこかで見たことのあるような。
私は思いきって、扉を通り抜けた。
「待ってネオン!!」
熱い。
ここは外?
街が燃えている。
「王都の軍勢が攻めてきたのだ」
逃げ惑う街の住民たちがどんどん教会の地下室へ入っていく。
「セレーネやみんなは?」
「ここにはいないが無事だ。それよりついてこい」
男は城門の方へ向かって歩いて行った。私もそれについていく。
男と二人、城門の砦へ登り街の外を見渡す。そこではまさに2つの軍勢が戦っている。
街を守る軍勢が明らかに劣勢。全滅させられるのに、それほど時間はかからないように見える。
だが、魔導騎士から放たれる強力な魔法が、敵の軍勢を一気になぎ倒していく。
あの魔法は。
「あれは爆裂魔法エクスプロージョン。われらメルクリウスの得意とする魔法だ」
メルクリウスの騎士たちが劣勢の戦場を何とか押し返そうとしている。
まるでセレン姉様が何人もいるかように、騎士たちが強力な魔法を撃ち放つ。
だが多勢に無勢。
魔力もいつかは尽きる。
その時が最後なのだ。
「君に頼みがある。この二人を逃がしてやってはくれないか」
城壁のすきまに隠れていた若い男女が、私の前に姿を現した。
女は私と同じ白銀の髪に赤い目をしている。そしてお腹がふくらんでいた。
「わかった。私に任せて」
「すまない。できれば王都のやつらの目に触れない、どこか辺地に送り届けて欲しい。この二人は我ら一族の最後の希望なのだ」
私はこくんと頷く。
「これは教会の地下のさらに下に眠る神殿につながる鍵だ。我らメルクリウスの先祖が代々そこを守っている。この鍵を君に託す。我らが子孫よ」
私は鍵を大事に握りしめ、二人を連れて走り出した。
「ここは?」
女はキョロキョロと辺りを見渡す。
「ここはギルドだよ。いまから転移陣を使ってあなたたちを逃がす」
「無駄よ。王国のどこに飛んでも、必ず探しだされる」
女は悲しそうにうつむいた。
だけど私は知っている。
この二人が必ず助かるただ一つの場所を。
「いいから私を信じて」
私は二人をなんとか説得し、転移陣に魔力を込めた。
「プロメテウスへ」
「ここからずっと西へ行くと、ボロンブラーク領がある。そこの領主は中立派で、事情を話せばきっとあなたたちをかくまってくれるはず」
私の必死の説得が通じたのか、二人は西へ向かうと約束してくれた。
「あなたの名前を聞いてなかったわ」
私の名前は・・・、
「ネオン。ネオン・フェルームです」
「フェルーム・・・」
二人が去っていくのを見送りながら、私は意識をうしなった。
その後のことは覚えていない。
「ネオン!ネオン!しっかりして、ネオン!」
セレーネの声がする。
目を開けるとどうやら教会の中のようだ。
「ネオンよかった、無事で」
セレーネが私を抱きしめて泣いていた。
「額の模様も消えたようだな。しかし驚いたぞ。気がついたらお前、そこに倒れていたんだぞ」
ダンが心配そうに私を覗き込んでいる。その後ろには親衛隊のみんなも。
そうだ鍵!
「教会の地下深くに、メルクリウスが守る神殿が隠されてる!」
「メルクリウス? アゾートが何か隠しているのか?」
「そうじゃなくて、この鍵を見て」
私はみんなに鍵を見せた。
鍵が赤く光っている。
「それが地下の神殿へ続く鍵なのか」
私は大きく頷いた。
「これはすごい」
教会の下には、確かに神殿が隠されていた。
その最奥には、古代魔法遺跡のものと思われる例の祭壇があった。
「やったな、ネオン」
私が見つけた祭壇だ。
私に託された祭壇と神殿とそしてその鍵。
ここにどんな秘密が隠されているんだろう。
「じゃあ、一度プロメテウスに戻ろう。マールと合流しないと調査ができないからな」
いつの間にか、私の額から紋章が消えていた。




