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Subjects Runes ~高速詠唱と現代知識で戦乱の貴族社会をのし上がる~  作者: くまひこ
第2部 最終章 7血族の復活

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最終話 二人だけの結婚式

 慌ててフリュに駆け寄ると、ハンカチで彼女の涙を拭いてあげた。


「・・・泣いていたのかフリュ」


「ええ・・・でももう大丈夫です」


「せりなからはここで待つようにと言われたんだが、この状況は一体・・・」


 困惑する俺に、フリュはハンカチで目元を押さえながら事情を話してくれた。


「早朝にセリナ様がわたくしの部屋にお越しになり、明日の朝までアゾート様と二人きりで過ごせるよう、ご配慮をいただいたのです」


「せりなが・・・」


「アゾート様の籍に入って2年以上経つわたくしは、セリナ様や他の皆さまのような結婚式を開くことができませんので、その代わりにと・・・」


「彼女がそんなことを・・・」


「はい。わたくしはもう嬉しくて・・・」





 再び涙が頬を伝い落ちるフリュを見て、俺は前世のことを思い出していた。


 せりなが死んだ後、残されたディオーネをメルクリウス公爵家の跡取りに育てるため、せりなの侍女だったフリュを俺の後妻として迎えた。だが生きる気力を失なっていた当時の俺は、フリュとの結婚式を行う気にはなれなかった。


 そして今世のフリュも、貴族の身分に戻すため形式的に俺の籍に入れて2年が経過し、アウレウス公爵家の爵位や家格に見合った公式な結婚式を行う機会が失われてしまっていた。


 そんな不憫なフリュに俺は一つの提案をした。


「せっかくだから、二人だけで結婚式を挙げないか」


「二人だけの結婚式を・・・」


 その提案に喜びと困惑が入り混じった複雑な表情のフリュ。


「俺たちの思い出の場所で式を挙げるんだ。昔一緒に暮らしていたメルクリウス城のあった場所へ」


「マーキュリー城ですか。でもあそこは・・・」


「城が建て替えられてしまって今は見る影もないが、二人でよく遊びに行ったあの森は残っている」


「フェリシテの森! ・・・とてもうれしいご提案なのですが、わたくしウェディングドレスなど持っていません。ですので結婚式は・・・」


 フリュの寂しそうな顔を見て、昨夜せりなから渡されていた収納魔術具を思いだした。懐からそれを取り出して中を覗いてみると、俺は微笑みながらフリュにそれを手渡した。


「ウェディングドレスならここにあるよ」


 驚いたフリュが魔術具を起動させると、中から昨日せりなが着ていたのと同じデザインのウェディングドレスが出て来た。


「せりなはフリュのために、自分のと一緒に仕立てておいてくれたんだな」


「このような立派なものを。セリナ様、ううっ」


 せりなの心遣いに、涙が止まらなくなったフリュをそっと抱きしめると、そのまま転移陣を起動させてマーキュリー城へと飛んだ。






「あらっ? 突然実家に帰って来て、どうしたのですかフリュオリーネ。それにアゾート様まで・・・」


 今はアウレウス公爵家の居城となったマーキュリー城。俺たちの着替えのためにフリュの自室に向かおうとしたところ、廊下で義母殿にばったり遭遇した。


 目を真っ赤にはらしたフリュが大切そうにウェディングドレスを抱えているのを見て、心配そうに顔を曇らせる義母殿。


 結婚式を挙げられなかった自分の娘を不憫に思ったのだろうが、義母殿の心中を察したフリュがニッコリ微笑むと、


「お母様、セリナ様のご配慮で今日一日アゾート様と二人きりで過ごせることになりました。それで今から二人だけの結婚式を挙げることに」


「まあ結婚式を・・・よかったわねフリュオリーネ。実は昨日の式を見て、あなたが寂しい思いをしていないかとても心配でしたの。そう・・・それがあなたのウェディングドレスなのね」


「ええ。セリナ様が用意してくださったものです」


「では早速着てみましょうね。侍女長っ! 侍女長はいませんか! 誰でもいいから侍女を全員フリュオリーネの部屋に集めなさい!」






 フリュの部屋にアウレウス公爵家の侍女が集結し、今まさに新たな花嫁が誕生しようとしていた。


 そして既に着替え終えて隣の控室で待っていた俺の所に侍女長がやって来ると、フリュの準備が整ったことを伝える。


 少し緊張しながらフリュの部屋に戻ると、そこには目もくらむような美しい花嫁が立っていて、恥ずかしそうな表情で俺を迎えてくれた。


「・・・美しい。本当に綺麗だよフリュ」


「ありがとう存じます、あなた・・・」


 セレーネとお揃いのウェディングドレスを着たフリュだったが、その整った顔と煌めくような金髪が彼女の美しさをさらに際立たせていた。


 セレーネが月の女神だとすればフリュは太陽の女王であり、タイプこそ違うものの二人とも世界最高の美女だと言っても、誰も文句をつけられないだろう。


 部屋に集まった侍女たちもフリュのあまりの美しさに全員が息を飲み、連絡を受けてディオーネ城から急いで駆け付けたアウレウス宰相も、自分の娘の晴れ姿を見てとても喜んだ。


 そして弟のフォーグや公爵家の親族たち、さらには昨日の結婚式に参列した後マーキュリー城に滞在していたアージェント王国のアウレウス公爵とその家族までが次々とフリュの部屋に集まってきて、俺たち二人の結婚を祝福してくれた。


「義兄殿、姉上はとても口うるさい女ですが、末永く幸せにしてあげてください」


「もちろんだよフォーグ。フリュは前世から連れ添った古女房だしこれからも力を合わせて生きていくさ」


「そう言えば前世のお二人が我がアウレウス公爵家の始祖でしたね。余計な心配でした」


 そして腕を組んでうんうん頷くフォーグの隣では、フリュの従姉弟のエミリオが涙目で俺たちを見ていた。


「本当にお美しいです、フリュオリーネ姉様・・・」


「ありがとうエミリオ」


「ああ・・・どうして姉様は僕ではなくアゾート殿を選ばれたのだ・・・」


 エミリオはまだフリュのことを諦めきれていないようだが、それを見かねたフォーグが彼の頭を小突いて説教を始めた。


「アホかお前は! 義兄殿と姉上は前世からの夫婦でとても愛し合っているんだ。だからお前なんかの入り込む余地など最初からなかったし、姉上のことなど早く忘れてちゃんと嫁を探せ」


「でも僕はまだ姉様のことが・・・」


「口うるさいだけの姉上なんかより、もっと美しくて優しい令嬢がたくさんいるじゃないか。それにうちやアージェント王家だけでなく、メルクリウス王家にもセレーネ女王陛下みたいな凄いレベルの美女がたくさんいるんだぞ」


「セレーネ女王陛下は確かにお美しかったが、フリュオリーネ姉様の方がはるかに美しい」


「ダメだコイツ・・・義兄殿、エミリオに誰かいい人を紹介してやってくれ」


「エミリオが気に入るかは分からないが、うちの分家には年ごろの娘が何人か残っている。フリュと正反対で全員ポンコツだけど、美貌と火力は保証するぞ」





 エミリオの首根っこを掴んで、フォーグが彼を下がらせると、今度はアウレウス宰相が俺に尋ねた。


「ところで婿殿、これから二人だけの結婚式を挙げるそうだが、わざわざマーキュリー城に転移してきたということは、場所は決まっているようだな」

 

「お察しの通り、この城の近くには前世の俺たち二人がよく遊びに行った思い出の場所があるのです」


「・・・フェリシテの森か」


「やはりご存じでしたか」


「アウレウス公爵家の始祖の二人が、誰にも邪魔されず二人だけの時間を過ごした場所がフェリシテの森。バーン王の焚書から逃れた歴史書をアージェント顧問が見つけ、耳にタコができるほど聞かされたからな」


「そう言えば顧問はかなりの歴史オタクで、俺の正体を一番最初に気づきましたからね。・・・・ではそろそろ行こうかフリュ」


「はい、あなた・・・」


 そしてアウレウス公爵家のみんなに見送られて、俺たち二人はフェリシテの森の近くへと跳躍した。





 フェリシテの森はマーキュリー城から半日ほど北に歩いた場所にあり、辺り一帯にマナの乱流が発生していて転移陣が使えない場所になっている。


 さらに森の中は、深い渓谷があったり鬱蒼と生い茂った草木が迷路のようになっていたりと完全な秘境になっており、敵対勢力や暗殺者への対応がしやすかったため、前世の俺たちはこの森でのんびり過ごすことができた。


 森に入って丘を越え、斜面を少し下ったところで川のせせらぎが聞こえてくる。森の木々を抜けたそこは、大きな岩がごろごろと転がる谷川になっていた。


 見上げると、空はどこまでも青く澄みきっている。


 大きな岩に腰かけた俺たちは、そのまま寝転がって空に浮かぶ白い雲が流れて行くのをただ眺めていた。


「前世でもこの大岩に並んで寝転んで、二人で雲を見ていましたね」


 フリュが懐かしそうに俺に話しかける。


「この大岩は500年前のまま変わらずここにあったし、マナが強くて人がほとんど入って来れないから、このあたりは昔のままの何も変わってないようだな。さっきから前世に戻ったような錯覚に陥っていたよ」


「わたくしもです。・・・そうだ、あの祠はまだ残っているでしょうか」


「懐かしいな。だが500年も経てば祠なんか朽ち果ててしまっているだろう」


「それはそうなのですが、わたくしあの祠にもう一度行ってみたいのです」


「実は俺もだ。・・・少し歩いてみるか」




 ウェディングドレスの汚れを軽く魔法で落とすと、バリアーをかけなおして渓谷を上流に登って行く。


 足場が悪いためフリュの手をしっかりつなぎ、彼女の足元を気遣いながらゆっくりと歩いて行く。やがて再び森の中に入って行く獣道が現れた。


「確かここを入って行くんだったな」


「この辺りも昔とあまり変わっていないので、間違いないと思いますわ」


 再び鬱蒼とした森へ入って行く俺たち。そこから森の斜面をさらに登って行くと、木がまばらになった広場のような場所にたどり着いた。


 そしてその片隅には、古びてはいるもののあの小さな祠があった。


「あなた、祠です。まだちゃんと残っていました」


「本当だ。石造りだからか意外としっかりしていたんだな。しかし500年経っても残っていたとは」


「ちょっと中に入って見ましょう」






 祠の中は、大きな部屋と小さな部屋の二つに分かれていて、前世の俺たちは小さな部屋を寝室にして二人だけの一夜を過ごしていた。


 だが500年間誰も手入れしていなかったため、どちらの部屋も様々な植物が根を張って密林のようになっていた。フリュはそれらを転移魔法で外に飛ばし、俺は水魔法を使って丹念に洗浄していった。


 そしてなんとかここで一夜を過ごせるぐらい綺麗に掃除したところで、俺はあることに気が付いた。


「・・・この祠はルシウス教の教会だったんだ」


「・・・え? そうなのですか、あなた」


「ウンディーネ王国の記録院で文献調査をしていた時に、大きい方の部屋の壁に刻まれている紋様と同じものが載っていた。この紋様はルシウス教の聖なる紋章で、ここはきっとルシウス教徒が祈りを捧げる森の小さな教会だったんだよ」


「ここが教会・・・」


 前世のフリュはフェリシテの森とこの祠が大好きだった。


「幼い頃、お母様に連れられてこことよく似た場所に遊びに連れて行ってもらいました。だからこの祠はお母様と一緒に過ごした幼い日々を思い起こせる、とても懐かしい場所なのです」


「そうだったな。今から思えば、フリュの前世の母上であるエルリオーネさんは、フリュがハーフエルフであることを告げられず、それでも彼女たち妖精族が信仰するルシウス教の教会でフリュと一緒に祈りを捧げたかったから、黙って教会に連れて来たのだろうな」


「ここにきたお母様は、いつも静かに祈りを捧げていました。お母様・・・」


 フリュは過去に思いを馳せながら、その母親と同じように静かに祈りを捧げる。


 その長い祈りを終えたフリュが俺を見つめる。彼女はおそらく俺と同じことを考えている。


「今からここで俺たちの結婚式をしよう」


「はい・・・」






 参列者が誰もいない森の小さな教会。


 その礼拝堂の壁に描かれたルシウス教の聖なる紋章の下に立った俺たち二人は、お互い見つめ合って結婚の誓いを立てる。


「わたくしアゾート・メルクリウスは、この先どのような困難が待ち受けようとも、愛する妻フリュオリーネ・アウレウス・メルクリウスと力を合わせ、幸福な人生を全うすることを誓います」


「わたくしフリュオリーネ・アウレウス・メルクリウスはこの愛の全てをアゾート・メルクリウスに捧げ、最後の瞬間が訪れるまで・・・いいえ、その次の人生が訪れても生涯添い遂げることを誓います」


「フリュ・・・」


「アゾート様・・・」


 俺たちは永遠の愛を誓い、口づけを交わした。


                    ~完~

長い間応援いただきありがとうございました


もしよろしければ、評価や感想、レビューなどをいただけると筆者の励みになります


また次回作でお会いできることを楽しみにしています

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― 新着の感想 ―
[良い点] 1年半にわたり、令嬢勇者ともども連載お疲れさまでした。 200万字超えの大作をありがとうございました。 この作品やはりメインヒロインはフリュオリーネですよね。 [気になる点] 1.何かの伏…
[良い点] 完結お疲れ様でした 連載後半時期から読み始めましたが、面白かったです
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