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Subjects Runes ~高速詠唱と現代知識で戦乱の貴族社会をのし上がる~  作者: くまひこ
第2部 最終章 7血族の復活

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第406話 商都ゲシェフトライヒの夜

 ウンディーネ王国の特産品を積み込み、ランドン=アスター帝国への帰路についた俺たちは、シルフィード王国に立ち寄って、ドワーフ船団と合流した。


 そしてシルフィード王に謁見し、ウンディーネ王国と俺たちの国が同盟を結んだこと、マイトネラ女王は俺たちが連れて帰ること、彼女の代わりに妹夫妻が王族に復帰して当面国政を司ることを話すと、全員が驚きのあまり口を開けて唖然とした。


 だが両国間に横たわっていた10年来の懸案事項が解決され、シルバールとシルフィーヌの二人が抱き合って喜んだ。


「あのマイトネラをどうやって説得できたのかは知らないが、キミに任せて正解だったよアゾート」


 そしてシルフィード王国とも同盟を締結すると、船団を率いてドワーフ王国へ向けて出港した。




 ドワーフ王国ではイワーク王と謁見し、マイトネラ女王とシルビア王女の二人を紹介して西の群島で起きた出来事を報告した。


 俺の話に腰を抜かして驚いたイワーク王だったが、すぐに大声で笑いだすと、


「シルフィード王国とウンディーネ王国でそんな大活躍をしてくるとは、さすがはワシの見込んだ兄ちゃんだ。その調子で帝国に戻ったらワシ達の商品もじゃんじゃん売りさばいて来てくれ。ガーッハッハッハ!」


「商売のことなら俺に任せておけ。倉庫が空になるまで全部売りさばいてやるよ」




 そしてドワーフ王国の商品も仕入れて船倉を満タンにすると、航行不能海域を一気に北上してランドン=アスター帝国最大の経済都市、商都ゲシェフトライヒに入港した。


 急いで帰国した俺たちだったが、既に3月中旬に入っており、修論の提出期限がギリギリに迫っている。


 ヒルデ大尉は帰国後すぐに魔法アカデミーに飛ばなくてはならず、その後も研究発表会や学位授与式などスケジュールが目白押しだ。


 俺もすぐに帝都ノイエグラーデスに飛んで、7家融和戦略会議で今回のミッションの報告を行わなければならないし、1年間放置していたメルクリウス=アスター教王国の国政の報告をアウレウス宰相から受けたり、メルクリウス帝国やマイトネラ女王たちの処遇の相談もしたい。


 つまりここでヒルデ大尉とはお別れになるが、船のデッキで下船の準備が整うのを待つ間、そんな大尉に話かけた。


「1年なんてあっという間でしたね。これまでどうもありがとうございました、大尉」


「礼なんか要らないわよ。でも不思議よね。アーネスト中尉とはずっと昔からの知り合いみたいな気がするけど、まだたった1年の付き合いだったのね」


「俺も錯覚しそうです。でももうすぐお別れだと思うと少し寂しいですね」


「そうね・・・。でも中尉は南方未開エリアにメルクリウス帝国を建国したし、ドワーフ王国にもアーネスト工房を作ったでしょ。だから工作員としての仕事もまだまだ続けるのよね」


「たぶんそうなると思います。それに俺はあと1年研究科が残っていますし、修士論文を書くためもう一度南方未開エリアに戻らなければなりません」


「だったらまたすぐに会えるじゃない。私は魔法アカデミーを卒業してもそのまま軍に残るし、エルフの里の担当も続けるつもり。混血ゴブリンたちの面倒を見ておいてあげるわ」


「ありがとうございます、大尉」


「さあ、荷物の積み下ろしが始まったわ。私たちもそろそろこの船を降りましょう」





 俺たちが船を降りると、ゲシェフトライヒ港は戦闘空母アサート・メルクリウスの突然の入港に騒然としていた。


 それもそのはず、誰も見たことのないような鋼鉄製の巨大な異形の船から、2メートルを超える巨体の鬼人族がぞろぞろ降りてきて、大量の積み荷を降ろしてきたのだ。


 それを遠巻きに見守る帝国商人たち。


 しばらくすると、連絡を受けて慌てて駆け付けて来たクリプトン商会のスタッフたちが、その積み荷を受け取って自分たちの倉庫に運び始める。


 ほんの1年前にルカたち3人娘が設立したクリプトン商会は、今や大勢のスタッフを雇い入れるほど会社の規模が拡大していた。


 俺は感心しながらスタッフの後について、倉庫街にあるクリプトン商会の事務所へと向かったのだが、


「おいおい、この辺りの倉庫には全部あいつらの商号が掲げられているじゃないか。あいつらってマジで商才があるんだな」


 以前来た時は、まだ倉庫を事務所代わりにしているこじんまりとした貿易商だったのに・・・。


 呆然としていると倉庫から母上が出て来て、


「お帰りアゾート。珍しい商品をたくさん仕入れてきてくれて、本当に助かったわ」


「あれ? 母上ってこの前ディオーネ城に居たのに、どうしてゲシェフトライヒにいるんだよ」


 タイムリーパーを取りに一度城に戻った時のことを思い出していると、


「何を言ってるのよアゾート。あなたは1年もの間、一度も家に帰って来なかったじゃないの」


「え?」


 ・・・そうか、この世界線の俺たちはシルビア王女の反乱を未然に防いだから、俺はディオーネ城には戻っていないことになっていたのか。





 母上によると、全然家に帰って来ない俺たちに不満を爆発させたセレーネが、アウレウス宰相に国を任せて一人南方未開エリアに向かったらしい。


 だから俺たちの中にセレーネの姿を確認した母上は、無事に合流できたことを喜んでいた。


 そんな母上は1年の大半をここゲシェフトライヒで過ごしていたらしく、ずっとルカ達と一緒に商売をしていたのだ。


「それにしてもたった1年で、クリプトン商会をずいぶん大きくしたんだな」


「これも全てルカちゃんたちの努力の成果なのよ。あの子たちって本当に商売が上手で、父親のクリプトン侯爵もそうだけどクリプトン家って特別な商才を持っているみたいね」


「ふーん・・・そう言えば3人でアルゴ争奪戦をやってたけど、あれって決着はついたの?」


「いいえまだよ。3人ともまだまだ店を大きくするって頑張っていて、まだ一人の脱落者も出てないの」


「それはすごいな・・・。ところで今日はあいつらに大事な話があるんだけど、どこに居るんだ」


 俺は鳥人族にソーサルーラの魔石を卸さなければならないが、それをあいつらに委託するつもりなのだ。


 そのために魔石商会と契約を結んだり、フレイヤーの貸し出しを行ったりと、色々とやらなければならないことがあるのだ。


 だが、


「3人ともソーサルーラにいるわよ。今日は休日だからアルゴの所に遊びに行ったの」


「アルゴの所って・・・なんでアルゴがソーサルーラに居るんだよ」


「結局あの子ボロンブラーク騎士学園には行かずに、魔法アカデミーに入学したのよ」


「え・・・アイツこっちに留学してるんだ」


「あの子ってあなたに似て魔術具を作るのが上手だから、騎士学園より魔法アカデミーの方が向いてるの」


「あいつはリーズと違って騎士ってガラじゃないし、どちらかといえばエンジニアっぽいからな。じゃあ今は学生寮で暮らしているのか」


「アスター邸に下宿してるわよ。ローレシアちゃんがセレーネの隣の部屋をアルゴに貸してくれたの」


「マジかよ・・・なんかメチャクチャだな」





 その後母上の案内でルカ達の家に招待された俺たちは、本人たち不在のままここで一泊することになり、明日の朝に帝都に向かうことになった。


 そんなルカ達の家はゲシェフトライヒの中でも富裕層が住むエリアの一角にある豪邸で、俺たち一人一人に客間が割り当てられると、大ホールで開かれていた晩餐会に飛び込みで参加した。


 そこでは母上に招待された商人たちが、商談に花を咲かせていた。


「母上これって」


「週末になるとこの家に商人たちを招待して定例の晩餐会を開いているのよ。こうすることで新参者のクリプトン商会もゲシェフトライヒの商人ネットワークに入れてもらえたし、人脈も広がっていろんなビジネスが展開できたのよ」


「週末って、ルカ達はソーサルーラに遊びに行って誰もいないのに?」


「だから代わりに私が人脈を作ってあげてるの。商売の基本は人とのつながりだから、こういう地道な活動がいずれ利益につながっていくのよ」


 この人はガチだ。


 母上は王族なんかやめて、ルカ達と一緒に商売人として生きていった方がいい。




 そんな母上に身なりのいい老紳士が挨拶に訪れた。


「こんばんはマミーさん。おや、隣にいるのは例の息子さんかい」


「ええ。この子が私の息子のアゾートよ」


 するとその老紳士が穏やかな笑顔で、俺に握手を求めて来た。


「やはりキミがアゾート君か。うちの息子がお世話になっているようだね」


「いえ、はあ、まあ・・・こちらこそ」


 母上と随分親しげにしているが、誰だろうこの人。


「申し遅れたが、私はこの街の商業ギルドの会頭をしているブロック・クリプトンという者だ。うちのバカ息子がキミに迷惑をかけてなければいいのだが」


「ク、クリプトンッ! まさかボルグ准将の・・・」


「あいつの父親だよ。あのバカ、滅多に家に帰って来ないから、今ごろ帝国軍で何をしているのやら。あいつは元気にしているのかね」


「さあ、どうでしょう・・・。俺も1年前に一度会ったきりで、今ごろ何をしているのやら・・・」





 いや、ちょっと待て、ちょっと待て!


 なんで敵の親玉とこの俺が、ルカの家の晩餐会で、のんきに世間話をしているんだよ!


 コイツは旧シリウス教会幹部の数少ないの生き残りで、アージェント王国との戦争で大儲けを企んでいた軍産複合体の親玉、ブロック・クリプトンだ。


 そのラスボス的存在とこの俺が、なぜかフランクな雰囲気で雑談を始めてしまった・・・。




 俺は頭が混乱して、隣にいる母上に耳打ちをする。


「母上、ルカ達はブロック・クリプトンを破産させるためにこのゲシェフトライヒに乗り込んだんだよね。だったらなぜ母上はラスボスと仲良くしてるんだよ」


「そんなのルカちゃんたちの目標が変わったからに決まってるでしょ。アルゴ争奪戦に勝ち残るためには、ギルドを味方に付けないと話にないのよ。みんな自分が勝つために必死なんだから」


「そりゃあ、商業ギルドを敵に回したら商売なんてうまく行くはずがないけど。しかし・・・」


「しかしも、かかしもないでしょ。こんなの商売人の常識よ」


 商売人の常識って、あんた王族だろ。


 どうやら母上とルカ達にはブロック・クリプトンと戦う気持ちが微塵も残っていないらしい。


 そう言えば皇女リアーネも、内戦でボロボロになった帝国の経済を立て直すため、ブロック・クリプトン率いる商都ゲシェフトライヒの経済力や工業力を必要としていた。


 アージェント王国との戦争も終結した今、俺がブロック・クリプトンと敵対する理由など最早皆無。


 ならとっとと頭を切り替えて、商談でも始めるか。





「ブロックさん、俺はこの1年間、南方未開エリアの調査に行ってたんですが、そこで珍しい商品を大量に仕入れたんです。興味ありますか」


 すると待ってましたと言わんばかりに、笑顔で俺に答えた。


「ここにいる商人たちの中に、あの商品に興味がない者など一人もいない。もちろんこの私も含めてね」


 やはりこのブロック・クリプトンは最初からあの積み荷に興味があって俺に話しかけてきたのだ。周りで歓談している商人たちも、さっきから俺とブロックの会話に聞き耳を立てている。


「しかしあの鋼鉄の巨大な船には驚いた。あれをどこで手に入れた」


「南方未開エリアには、この帝国よりも高い工業力を誇るドワーフ王国という国があって、鋼鉄船の建造技術を持っています。あの積み荷はそのドワーフ王国で製造された工業製品や、他の様々な国の特産品です」


「ほう・・・南方未開エリアには遅れた蛮族しか住んでいないと思っていたが、まさか我々よりも進んだ国が存在したとは」


「ほんの数ヵ月前に帝国と国交が開かれたばかりで、俺が担当工作員に就任しまいた」


「南方未開エリアはアッシュがのめり込んでいたが、エルフの里に私は興味がなかった。なぜなら金の匂いが全くしないのでね。だがドワーフ王国は話が違う。もちろん積み荷の商品リストを我がギルドに提出してくれるんだろうね」


「母上に頼んでおきましたので明日には一式提出できるでしょう。それから今後俺が仕入れた商品は、クリプトン商会を通して取引させていただきます。是非ご購入を検討ください」


「よろしい。どんな商品があるのか明日が楽しみだ。ところで我々自身も南方未開エリアとの貿易に参入できるのかな」


「すぐには難しいと思います。ご存じの通り、あの大陸の周囲には航行不能海域があって、木造船では突破できません。鋼鉄船はドワーフ王国の戦略物資になっててドワーフ王国の市民でないと入手できませんし、帝国への商品の輸送は俺が行うことになります」


「いやはやうらやましい限りだが、キミに一つだけ警告をしておく。もし暴利をむさぼろうとするならキミをこのギルドから締め出さざるを得ない。それが意味することをもちろん分かっているだろうね」


 笑顔のままのブロック・クリプトンは、だか眼光がするどく光る。帝国での商業の権益を握っている彼と敵対すれば、ビジネス上の不利益を被りかねない。


「そんなことはしません。適性利益はいただきますが、俺は共存共栄がモットーですので、経済をぐるぐる回してみんなが豊かになれればいいと思ってます」


「なら結構。さすがはマミーさんの息子、商売の何たるかをわかっているじゃないか」


 満足そうに笑みを浮かべるブロック・クリプトンが、俺とガッシリ握手を交わした。

次回、帝都の軍本部へ


お楽しみに

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― 新着の感想 ―
[一言] すみません。ちゃんと書いてありました。失礼しました。
[良い点] クリプトン一族って貴族よりも商人やらせた方がよさそうですかね。 それにしても、ブロックは思うところはないんですかね。 また、マミーはメルクリウス王国の政務やらなくて良いんですかね。 [気に…
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