第402話 油断
「後ろの3人にはしてやられたな。舐めていた訳じゃないけど、大魔法を組み合わせるとこんなことができるんだ。とても勉強になったよ」
そう言ってニヤリと笑うシルス。
「一体何をやった・・・どうしてお前は死なない」
「ククク、そんなことキミに教えると思う?」
バカにした表情を俺に向けるシルスだったが、背中のマイトネラが即座に看破した。
「あれはウンディーネ王家に伝わる古代魔法の一つ、【光属性究極魔法・フェニックス】。魔力の続く限り何度でも蘇ることができます。水のエレメントであるウンディーネ族には使えない魔法でしたが、彼は7属性勇者なので使用できたのでしょう」
それを聞いたシルスがマイトネラを睨み付ける。
「ふーん、この魔法のことまでコイツに教えちゃうんだ。キミはネプチューン皇家の秘密よりコイツの方が大切なんだね。キミのような娘が本家にいたのは知らなかったが、僕の邪魔ばかりするならさっさと殺してしまおう」
「ひっ!」
途端シルスの瞳孔が広がり、凶悪なオーラがマイトネラの身体にまとわりつく。だが俺は自分のオーラを爆散させると、シルスのオーラを打ち消した。
「大丈夫だマイトネラ、絶対にキミを守ってやる。それと貴重な情報をありがとうな」
「はい、魔王様!」
「ねえ安里先輩、シルスの魔力が少し上がったと思わない」
セレーネがシルスを警戒しながら耳元でささやく。
「本当だ・・・懐の魔力測定器の数値は950を指している。どういうことだろう・・・」
「私たちみたいに、何かの魔術具を使ったのかも知れないわね。でもここまで戦った感じ、戦闘力では私たちの方がはるかに上だけど、せっかく倒しても甦ってくるのは厄介よね」
「だよな・・・観月さんには何か作戦があるのか」
「魔力切れになるまで何度も倒してみるのはどう?」
「そうだな、試してみるか」
「じゃあここからはわたしと安里先輩で同時に攻撃するから、後ろのみんなは防御に徹しつつ、隙があればさっきの攻撃をお願いね」
セレーネが前を向いたままそう言うと、後ろのヒルデ大尉もそれに応じる。
「了解よ。前衛はセレーネさんとアーネスト中尉に任せるから、私たちのことは気にせず存分に戦って」
それから俺たち全員による波状攻撃が始まった。
俺とセレーネによる魔力押しの直接攻撃と、カトレアも加わってのヒルデ大尉による大魔法コンビネーション攻撃で、手数と魔力で圧倒している俺たちは何度もシルスを撃破した。
だがその度に彼はフェニックスで蘇り、魔力も少しずつ大きくなっていく。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
「安里先輩・・・コイツ全然倒せないね・・・」
もう10回以上同じことを繰り返しているが、シルスの魔力がとうとうセレーネを越えてしまった。
「魔力の理論限界である1000をはるかに越えてきやがった。一体どうなってるんだ・・・」
焦る俺たちに対して余裕の表情のシルス。
「どうやらキミたちもここまでのようだね。もう大人しく殺された方が楽になれるよ」
「そんなのお断りよ。私はまだ安里先輩との新婚生活を楽しんでいないし、今回こそ思いっきり長生きするんだから」
「ふーん、じゃあいっそ僕の所に来なよ。キミみたいな魔力の強い女の子は大歓迎だし、後ろの娘たちも一緒にどうだい? 僕の家にはキミたちと同じ年頃の娘が何人もいるし、きっと楽しいよ」
「あなたのハーレムなんか私が入るわけないでしょ。ねえ安里先輩、コイツの魔力だって無限じゃないんだし、このまま攻撃を続けましょう」
「無駄だ。僕は何度でも蘇るし、その度に魔力が増大する。さあ僕をもっと強くしておくれよ。クククク、フハハハハ!」
そんな高笑いをするシルスに対し、焦りの色が隠せないセレーネ。
セレーネの言う通り魔力が無限でない以上、永遠に甦り続けるはずはないのだが、かといってコイツの魔力が増大していくのは正直言って厳しい。
俺は背中のマイトネラにこっそり尋ねる。
「ウンディーネ王家に伝わる魔法か魔術具で、シルスがやってるみたいに、徐々に魔力を増大させるものを知らないか」
俺は見本として、自分のアポステルクロイツの指輪をマイトネラに見せるが、それをエレメントで感じ取ったマイトネラは首を横に振る。
「残念ながら、わらわは存じ上げません」
「そうか・・・」
「ですが、戦闘用の魔法ではないのですが、一つ思いだしたことがございます」
「本当か、何でもいいから教えてくれ」
「わらわたちウンディーネ王族がエクストラ・ワン・チェーンの魔術具に魔力を込めているのはご存じと思いますが、わらわ一人の魔力では到底足りないため、他の方々の魔力も使わせていただいております」
「歴史書には、かなり膨大な魔力が必要と書いてあったからな。だがあの魔術具は王家の秘宝だからみんなに触らせる訳には行かないだろう。どうやってみんなの魔力を使うんだ?」
「宮殿にいる高官たちの魔力を一度このわらわの身体に集め、まとめて魔術具に送り込むのです」
「一度身体に集める・・・そんなことができるのか」
「水のエレメント・ウンディーネ族が本来持つ力なのですが、王族は特に大量の魔力を集めることが出来ます。もしかするとシルスはこの力を使って、仲間から魔力の供給を受けているのかもしれません」
「そうか・・・自分の魔力を増幅しているのではなく、仲間の魔力を集めて自分の魔力に見せかけていたのか。だったらその仲間を倒せば」
「はい、シルスの魔力は元に戻るはずです」
「よく気が付いたなマイトネラ」
「わらわは戦いなど初めての経験ですので、気づくのが遅くなって申し訳ありませんでした」
「何を言ってるんだよ、本当に助かった。キミが居てくれたおかげで、シルスを攻略するための糸口が見つかった。ありがとうマイトネラ」
「魔王様・・・」
ということで、シルスの仲間を探し出せばいいわけだが、周りの騎士団は既にほぼ全滅している。
そしてさっきまでダルデスの森だったここは、今や遠くまで見渡せる荒野であり、コイツの仲間などどこにもいない。
「どのくらいの距離なら魔力を集められる」
「わらわの場合は宮殿の中が限界でした」
「ありがとう」
ということは隠れる場所は地中しかない・・・。
仮にそうだとすると、シルスは最初からこの場所で戦うために俺たちをおびき寄せたことになる。自分の仲間であるはずの騎士団をおとりに使って。
それにやろうと思えば最初から魔力を最大にして、俺を完全に圧倒できたはず。なのにそうしなかったのは、俺たちをじっくり追い込んで、心を折ろうとしていたんだ。
なんて狡猾でイヤらしい性格をしてるんだコイツ。
何が自由と平等、愛と平和だよ!
俺は剣を構えなおしてセレーネの傍に寄ると、彼女の耳元で囁く。
「観月さん、アイツの魔力は近くの仲間たちから集めたもののようだ。そいつらを見つけだして倒そう」
「ふーん、そういうからくりだったのね」
「作戦はこうだ。やつの位置取りから仲間の場所を割り出すために・・・」
そこから二人で猛攻を仕掛け、シルスを四方八方に叩き飛ばしてみせた。
仲間から遠ざかるとシルスの魔力が弱まるため、魔力測定器の数値の変化を確認しつつ、すぐ定位置に戻ろうとする動きから場所を特定しようしたが、作戦があからさま過ぎたのか、
「ふーん、どうやら僕の魔力の秘密に気が付いたようだね。背中の彼女がこれ以上余計なことをしゃべらないよう早く殺してしまいたいところだけど、僕のスピードじゃキミの背中は取れないし、さて困ったな」
そして顎に手を当て、困ったふりをするシルス。
どこまでも人を食ったイヤらしい態度を取るヤツだが、突然ニヤリと笑うと俺とセレーネがいる反対方向に跳躍した。
「何だと!」
俺は慌てて追いかけたが、シルスは俺たちとちょうど反対側に位置していたヒルデ大尉たちにターゲットを変更したのだ。
「しまった!」
超高速知覚解放を全開にして、全速力で追いかける俺とセレーネだったが、シルスとの距離が離れすぎており、ヤツの仲間を探すための俺の作戦が裏目に出てしまった形だ。
もちろん彼女たちも無防備ではない。
すぐに全員で4重のバリアーを展開し、カトレアはエレクトロンバーストをシルスにぶつけた。だが今や1400まで魔力が上昇したシルスは、その全てを突破して4人に襲いかかった。
即座に、カトレア、エミリー、カトリーヌの3人をかばうように、ヒルデ大尉が前に出て剣を構えたが、シルスは大尉の剣を叩き落とすと、彼女の心臓に剣を突き刺した。
「さっきからお前は邪魔なんだよ。死ねっ!」
「うっ・・・」
「きゃーっ! ヒルデ大尉ーっ!」
「ウヒヒヒヒ」
シルスは酷薄な笑みを浮かべながら、ヒルデ大尉の胸部に剣を深く突き刺し、ねじり込むようにして確実に息の根を止めに行った。
彼の嗜虐的な笑い声とともに剣が引き抜かれ、胸から大量の血を噴き出して仰向けに倒れる大尉。
悲痛な叫びを上げる3人になおも襲い掛かろうとするシルスに、だが俺は全力の一撃をくらわした。
ドグオーーンッ!
俺の全力でぶっ飛ばされたシルスが、荒野を転々と転がって行く。さらにセレーネが力いっぱい蹴飛ばすと、シルスは遥か先へと飛ばされていった。
すぐにヒルデ大尉に駆け寄ると、だが彼女の身体からは血が大量に流れ続け、地面に吸い込まれて行く。
「カトリーヌ、キュアだ。急げっ!」
「は、はい!」
カトリーヌが慌ててキュアをかけ始めるが、大尉の顔色はみるみる血の気が失せて土気色になって・・・そして呼吸が完全に停止した。
「マイトネラ、フェニックスは使えないのか!」
「わらわには無理です。呪文も存じ上げません」
「くそっ!」
カトリーヌの全力のキュアでもこの状態からの蘇生は不可能。それこそネオンとローレシアの二人がかりで治療しても絶対に助かるとは言いきれない。
この絶望的な状況に、俺は自分の甘さを呪った。
『悪い貴族が来ても、俺が大尉を守ってやる』
傲慢にも俺は彼女にそう約束してしまったが、結局俺は彼女を守りきれなかった。
しかもそれが俺の作戦ミスと油断からだった。
・・・ごめん、ヒルデ大尉。
絶望のどん底に落とされた俺は、だがシルスが猛然とこちらに接近する気配を感じ、ヤツに向き直る。
ルシウス人の特徴である漆黒の大きな瞳を見開き、まとわりつくような笑みを浮かべて、俺たち目掛けて突撃してきた。
・・・アイツだけは絶対に許さん。
大尉の仇は、この俺の手で討つ!
俺の頭の中で何かが切れた音が聞こえ、
世界は赤く染まって行った。
次回決着
お楽しみに




