第400話 簒奪帝シルス
簒奪帝シルスへの対応を決めなければならないが、歴史書では彼は行方不明とされており、その後歴史の表舞台に姿を現すことはない。
だったらここで倒してしまってもいいはずだが、
「カトレアとエミリーは、ネプチューン帝国崩壊後のシルスについての特段の記述を見たことはあるか」
「私たちが見た歴史書には、全くと言っていいほど何も書いてなかったわ。シルスは早い段階で誰かに殺されちゃったんじゃないかと思うんだけど」
「本を調べ切れてないという可能性もなくはないが、帝国を滅ぼしたほどの重要人物の記載がどこにもないと言うことは、カトレアの言う通りかもしれないな。リスクを冒したくはなかったけど、シルフィード族の保護のためにここでヤツを倒そう」
「でもねアゾート君、少し気になるのが「シルフィード族が簒奪帝シルスの襲撃を受けた」という記述もなかったことなの。今の時点で未来が変わってしまっている可能性はないのかな」
「それは・・・・いや、ここに攻め込まれる前に俺たちが先にシルスを倒してしまえば、シルフィード族が襲撃を受けた事実は発生しないはず」
するとヒルデ大尉とセレーネも俺に同意し、
「私もアーネスト中尉の意見に賛成よ。多少未来が変わったとしても、ここで放っておいてシルフィード族に被害が及んでしまうのは最悪。今の私たちにできることを全力でやりましょう」
「そうよ安里先輩! その簒奪帝シルスとやらは私がやっつけてあげるから任せて!」
ヒルデ大尉はともかく、セレーネは単に自分が戦いたいだけなんだろうが俺たちの方針は決まった。
だがここでアレクシスが口を挟む。
「そなたらは簒奪帝シルスに勝てる前提で話をしているが、そんな簡単な相手ではないぞ」
「え? だって歴史書を読む限り、シルスは鬼人族にそそのかされて第3代皇帝を暗殺し、帝国を崩壊させた後は行方知れずとなった無責任男としか読めないんだけど。そんなヤツが本当に強いのか?」
「そうなのか? だがシルスは滅法強い。少なくとも第3代魔王ネプチューンとその精鋭部隊を一人で皆殺しにできるほどの戦闘力を持っている」
「まさか・・・でもそんなに強かったのなら、どうして歴史から忽然と消え去ってしまったんだろう」
だがここで考えていても仕方がないし、事態は一刻を争う。
「シルスはみんなで何とかするとして、マイトネラは危ないからここに残っていてくれ」
そして出撃しようとした俺の背中に、マイトネラがすがりついた。
「わらわもあなたに付いて行きたい・・・」
「シルスは強いって言うしさすがにそれは危ないよ」
だがマイトネラが寂しそうに俺を見つめると、胸がぎゅっと締めつけられるように痛くなった。そんな悲しげな目で俺を見ないでくれよ・・・。
「・・・そうだな、マイトネラは絶対に守らなければならない大切な存在。ここに置いておいて万が一にも敵に殺される事態に陥るよりも、俺の目の届くところに居てくれた方が安心して戦えるか・・・。わかった、マイトネラお前もついて来い」
俺がそう言うと、マイトネラは嬉しそうに俺の背中に飛び乗った。
「わらわは死んでも魔王様から離れません」
なんかマイトネラを背負うのが当たり前のように感じてきた俺は、戦いやすくするよう彼女を固定する。
「アレクシス、すまないが彼女と俺をロープでしっかりと結んでくれないか」
「冗談じゃろ? ・・・まさか本当にそなた、その娘を背負ったままシルスと戦うつもりなのか?」
「これが最善策なんだよ。俺には超高速知覚解放のブーストがあって、マイトネラを背負っていても特に問題がないし、本作戦最大の戦略目標は彼女の命を守ること。それが達成できなければ、たとえシルスを倒しても意味がないんだ」
「よほど腕に自信があるようが、まあその娘を近くに置いて戦うのは決して悪い作戦ではないか・・・・。よしそなたの言うとおりにしてやろう」
そしてマイトネラをしっかり結んでもらった俺たちは、隠れ里を出撃して簒奪帝シルスの元へと向かう。
森の中を南に向かって突き進むと、やがて敵部隊と接触する。
「簒奪帝シルス配下の騎士団だ。隠れ里に攻め込まれないように俺たちの手で敵の侵入をここで阻止する」
「アーネスト中尉、何かいい作戦はあるの?」
「ここは兵力を分散し、ゲリラ戦を展開しましょう。見通しの悪い森の中での戦いになりますので、超高速知覚解放が使える俺とセレーネが敵をかく乱させ、それ以外のみんなで魔法攻撃をお願いします。ただし森の動物や魔獣は絶対に殺さず、敵部隊だけを選択的に始末するため、範囲魔法の使用は禁止です」
「・・・そうね、その作戦で行きましょう。カトレアはセレーネさんと常に行動を共にして、通信の魔術具を起動させたままにしておいてね。それで私と中尉の3人で連絡を取り合いましょう」
「了解です、ヒルデ大尉」
セレーネもカトレアと作戦を確認する。
「じゃあ私はカトレアの移動に合わせてその周囲の敵を叩くから、攻撃目標が決まったら分かるように指示を出してね」
そしてセレーネはカトレアと、ヒルデ大尉はエミリーとカトリーヌを連れて、それぞれ森の中に消えていった。
俺は単独での敵の掃討作戦を開始したが、意外なことに敵の斥候といえどもかなり精強な騎士だった。
「この騎士団はかなり強い。歴史の表舞台から消えてしまったのが不思議なぐらいの猛者たちだ。このまま放っておけばシルスが新たな国を建国する可能性も捨てきれないし、未来の歴史を守るためにはシルス同様ここで騎士団を全滅させるのが正解。遠慮は無用か」
そう判断するや、俺は魔力を一気に解放して本気で彼らに対峙した。
オオオオオオッ・・・・!
真っ赤な魔力のオーラが空に立ち昇り、空間マナ鳴動する。
それに怯えた森の魔獣や動物たちが一目散に俺から逃げていく。そして俺の魔力に呼応してはるか遠くの方でセレーネが魔力を解放し、他のみんなも次々と魔力を増大させていく。
みんな本気を出したようだ。
一方俺の目の前に立ちはだかっていた敵の騎士は、
「この膨大な魔力はまさか・・・魔族! シルス様、助け・・・」
だが逃げだそうとする敵騎士の懐に神速のステップで飛び込むと、高速詠唱でその魔法を発動させた。
【火属性初級魔法・ファイアー】
たった一節【焼き尽くせ】とのみ詠唱した最低限のその魔法は、だが魔力値900超の超高温のプラズマとなり、目の前の敵騎士を灰にする。
それを見た他の敵騎士が表情を真っ青に変えて逃げ出そうとするが、魔力、スピード、パワーの全てで敵を凌駕する俺から逃れることはできず、防御不能な超高温プラズマがうなりを上げて敵騎士たちを次々と焼き尽くしていく。
さてそんなシルスの騎士団だが、どうやら敵は様々な種族の混成部隊となっており、その大半が鬼人族で構成されパワーを生かして正面突破を図ってくる。
そのほかにも様々な獣人族がその身体特性を生かして臨機応変に攻め込んでくるが、ゴウキたちのような魔力耐性はないため、魔法攻撃にはめっぽう弱い。
だがそんな彼らを魔法攻撃から守るための支援部隊としてウンディーネとシルフィードの混成部隊も存在する。
彼らの平均魔力は200。妖精族の平均値よりかなり高めであり、カトレアたちとほぼ同水準。彼らに対して初級魔法で有効打を放てるのは俺とセレーネぐらいで、ヒルデ大尉たちには少し厳しい。
この厄介なウンディーネとシルフィードの部隊を、俺が優先的に叩いて行く。
「ここからは我慢比べだ。ゲリラ戦で奴らの警戒感を極限まで引出し、できれば恐怖で戦意を挫きたい」
戦いが始まってどれほどの時間が経っただろうか。
この広い森を舞台にゲリラ戦を展開している俺たちは、まだシルフィードの隠れ里に敵の侵入を許していない。
だが敵の全兵力が分からないため、いつまでこんな戦いが続くのか分からず、精神的に追い込まれているのは俺たちの方なのかもしれない。
そんな時、遠くでエクスプロージョンがさく裂する音が聞こえた。爆発の規模から考えてセレーネが発動させたものだと思われる。
「ついにエクスプロージョンを使ったか・・・」
終わりの見えない戦いに我慢しきれず使用したのだろうが、考えてみればそろそろ頃合いかもしれない。
というのも、この長い戦いの中で、森の中に動物や魔獣が一匹もいなくなっているのだ。
「騎士団殲滅のためにも、効率のいい範囲魔法に切り替えてもいいのかも知れないな」
ちょうどその時、ヒルデ大尉が疲れ果てたエミリーとカトリーヌを連れて合流した。
「アーネスト中尉、こちらはもう限界よ」
「お疲れ様。ここまで良く戦えた方だと思います」
「・・・ねえ、セレーネさんも使ってるし、私たちも大魔法の使用を解禁してはどうかしら。だって、このまま私たちが負けるのも本末転倒でしょう」
「実は俺もそれがいいと思っていました。ここから先は敵の殲滅だけを考えましょう。そして簒奪帝シルスを見つけ出して一気に倒す」
「了解。ここからはこのメンバーで固まって行動しましょう。私はライジングドライバーで溶岩流を発生させるから、アーネスト中尉はエクスプロージョンでそれを吹き飛ばして」
「ライジングドライバーって地下のマグマを召喚する魔法ですよね。そんな危険な魔法を使うのですか」
「そうよ。溶岩流だから普通に使っても敵に逃げられるだけだけど、単純な熱量だけは膨大だから、溶岩を中尉のエクスプロージョンで爆散させて、森ごと敵騎士団を焼き払ってしまう作戦よ」
「エグい・・・よくそんなこと思い付きますね」
「私たちの魔力は無限にある訳じゃないの。ここで一気に勝負を決めるわよ!」
俺たちはダルデスの森を焼き払いながら、ついに森の外の平原にたどり着いた。
この「ダルデスの森」という地名は、未来のアレクシスに教えてもらったものだが、実は帝国軍の地図上には存在しないのだ。
長い年月の間に地形が変わるのはよくあることで俺は気にもしていなかったが、俺たち全員による範囲魔法攻撃によって、敵騎士団もろともこの時代の「ダルデスの森」もその大半が消滅してしまった。
つまり「ダルデスの森」は元々俺たちが消滅させた可能性が高く、タイムリープで過去に干渉することが最初から運命づけられていたのかも知れない。
にわとりが先か卵が先かは永遠に答えの分からない無限ループだが、それほどまでに徹底した破壊が行われた結果、俺たちは森を抜けて平原まで到達した。
そして目の前には、一人の青年が立っている。
青のマントをひるがえし、勲章だらけの軍服と宝石をちりばめた豪華な王冠を頭に乗せたその男は、全属性の巨大な魔力を内に秘めていた。
「この男は7属性勇者・・・」
一般的な勇者の平均魔力値は700程度。
だが目の前のこの男は、それをはるかに越える強い魔力を持っている。アポステルクロイツの指輪に似た魔術具でも使っているのかもしれない。
それは向こうも感じたようで、
「へえ・・・キミは随分と魔力が強いんだね。僕と同じぐらいの魔力を持ってる人間を見るのは初めてだ」
そう言って感心している。
簒奪帝シルスはシルフィードとウンディーネの両親から生まれたネプチューン皇家の分家だと歴史書には残されている。
そして目の前の彼も黒い髪に黒い瞳・・・見事なまでのルシウス人だ。
「お前が簒奪帝シルスか」
「簒奪帝? 随分と酷い言い方だね。僕はネプチューン帝国第4代皇帝シルス。これでも歴代最強の魔王ネプチューンなんだよ。そういうキミは何者なのかな。その炎のオーラはまるで・・・」
何かに気付いたのか、シルスは俺の顔を見てニヤリと笑った。水と風の両方のエレメントを持つシルスは俺の魔力の根源に触れたのかも知れない。
こいつに何を隠しても無駄か。
「俺は魔王メルクリウス。お前を倒す者だ」
「あはははは! やっぱりキミも魔族だったんだね。しかもあのType-メルクリウスときた。でもね、この世界に魔王は二人もいらない。今から僕がキミを殺してあげる」
その瞬間シルスのオーラが爆発し、7色のオーラが天を貫いた。
「来るぞ!」
次回バトル開始
お楽しみに




