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Subjects Runes ~高速詠唱と現代知識で戦乱の貴族社会をのし上がる~  作者: くまひこ
第2章 真夏のチェスゲーム

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第35話 エピローグ


 学園の手続きはアウレウス伯爵の方で手配済みなので、俺たちがやることはフリュの引っ越しだけたった。


 フリュは伯爵家と縁を切ったため今の上級貴族用の部屋から出ていくことになったが、伯爵がフリュを男爵夫人として手続きしたため、中級貴族の部屋への引っ越しが決まっていた。


「男爵夫人・・・」


「もう、お父様ったら。ごめんなさいアゾート様」



 フリュの引っ越しを手伝い、俺はようやく懐かしの男子寮の部屋に帰ってきた。


 男爵になった俺はワンランク上の個室が使用できるものの、新学期からネオンが女子寮に移るため、俺は今の部屋を使い続けることにしたのだ。


 ネオンがいないこの部屋。


 少し寂しさは感じるが、ネオンは本来女子として入学すべきであり、ようやく正しい道を歩きだしたと思えば遅すぎた方だ。


 ネオンの今後の展開に胃の痛みを感じつつ、疲れがたまっていたせいか、いつのまにか俺は眠ってしまっていた。





「おはようアゾート」


 目が覚めると、いつものようにネオンが覗き込むようにこちらを見ていた。


「おはようネオン。また今日も起こしてくれたんだ・・・って、なんでお前がこの部屋にいるんだ?女子寮に移ったんじゃなかったのか?」


「女に戻るのやめた・・・」


「なんで?」


「だって・・・あの女からアゾートを守らないといけないから」


「あの女って、フリュのことか? 別にそんなんじゃないぞ」


「フリュ! なにその呼び方!」


「俺の家族はみんなそう呼んでるぞ」


「ぬぬぬぬ」


「おまえ、本当にまたその男装を続けるのか?」


「あたりまえでしょ!」


「あたりまえなのか?」


 相変わらずのネオンに呆れながら、俺は素早く制服に着替えた。





 男子寮の前には、以前のようにいつものメンバーが集まってきた。


「お前ら無事だったか。よく助かったな、心配したぞ」


 ダンが俺の肩をバシバシ叩いて喜んでくれた。


 ダンはフェルーム領防衛戦の現場にいて事情を知っているだけに、かなり心配をかけたな。


「あれから連絡を取れなくてすまなかった。内戦に勝ったのはいいが、その後の戦後処理で王都まで行ったり、受け取った褒賞の取り扱いに忙しくて、昨日の夕方にやっと学園まで戻ってきたばかりなんだ」


「ダンから聞いたぞ。内戦が大変だったらしいな。またゆっくり話を聞かせてくれよ」


 カインも俺たちの生還を喜んでくれていた。




「アゾート!」


 後ろから抱きついてきたのは、マールだ。


「無事フォスファーを倒せたんだね」


 マールとは、ポアソン領の浜辺で別れてそれっきりだったので、俺たちの戦いの結末が気になっていたに違いない。


「ああ、勝ったよ」



 少し離れた所では、親衛隊がネオンに対して、米軍仕込みの綺麗な敬礼を見せていた。


 ネオンの話を聞くみんなの顔つきは、とても精悍なものになっていた。


「・・・ひと夏を経て、あいつら随分と雰囲気が変わったな」


 事情を知らないカインが不思議そうに見ている。そこへ、



「おーい、おまたせ」


 現れたのは、夏休み前に急に転入してきた上級クラスのトップ5。ダーシュ、アレン、ユーリ、アネット、パーラだ。


「アゾート、お前も俺たちと同じアウレウス派閥に入ったんだってな。これからよろしく頼むよ」


 そう言えばダーシュとアレンの実家は、アウレウス派閥だったな。


「ああ、サルファーのバカに売られて、アウレウス伯爵に忠誠を誓わされた」


「生徒会長をバカ呼ばわりかよ。さすがだなアゾート」


 あの恋愛バカのせいで、危うく死にかけた上に婚約者まで失ってしまったのだ。


 もはや主君ですらないサルファーの評価は、ストップ安である。


 ダーシュが苦笑いしている横で、アレンが真面目な顔で言った。


「実は俺たちの騎士団も、お前たちの内戦に参戦する準備をしていたんだ。もう少し戦争が長引いていたら、大変な事になっていたんだぞ」


「そうだったのか。今回は本当にやばかったってことか」


 あのままフォスファー軍と戦い続けてても、やがては大軍に包囲される運命。戦略レベルで最初から同じ土俵に立てていなかったのだ。あの娘にしてあの親だ。勝てる気がしない。


 アレンが俺の肩を軽く叩いた。


「そろそろ行こうか」


 パーラは相変わらず、ダンの後ろをついて歩き、ユーリとアネットは、そんなパーラを見守っていた。





 教室のいつもの席に座って始業時間を待っていると、シュミット先生が教室にやってきた。なんだろう?


「全員聞いてくれ。夏休みにここボロンブラーク領で発生した内戦により、学園の生徒が12名死亡もしくは処刑された。このクラスにも2名の戦死者が出ている。冥福を祈るように」


 言われて見れば2つ空席がある。


 亡くなった二人は、アラモネア子爵かどこかの配下の騎士だったんだろう。


 なお、ハーディンは一族連座ですでに処刑されている。


 ニックは無事だったようで、サルファー陣営の誰かに忠誠を捧げたようだ。






「それから、このクラスにまた新しい転入生だ。入ってきたまえ」


 また転入生!


 こんな時期に誰が入ってくるんだ?


 クラスが急にざわめきだした。


 そして教室に入ってきたのは、一人の女子生徒。


 整えられた綺麗な金髪が軽く前でロールし、人形のような整いすぎた美貌をたたえた氷の女王。手にはいつもの扇子がある。


 フリュオリーネだった。


「「「え?!」」」


 俺はなにも聞いていない。


 クラス全員も理解が追い付かず、完全にフリーズしている。


「知らない者はいないと思うが、生徒会副会長のフリュオリーネだ。今日から君たちのクラスメートになるから、仲良くするように。あとは学級委員長に任せる。以上」


 それだけ言うと、シュミット先生が去っていった。


「「「・・・・・・・」」」


 どういうことか説明ぐらいして行ってくれよ。


 せめてこの場を、俺に丸投げしないでほしい。


 フリュも教室の前に立ったまま、困った表情で俺の方を見ていた。



「・・そ、それじゃあ、フリュ、フリュオリーネさん。簡単に自己紹介お願いします」


「フリュオリーネ・メルクリウスです。2年生ですが、アウレウス伯爵の特別な計らいにより、今日からこのクラスで学ぶことになりました。よろしくお願いします」


 ざわざわざわ・・・


 俺やネオン、親衛隊はともかく、他のみんなはサマーパーティーで、サルファーから突然婚約破棄されたあとのことを何も知らない。


 婚約破棄されるとなぜうちのクラスに転入することになるのか、全く意味が分からないだろう。


 俺も分かっていないが。


「フリュオリーネ様のご家名が変わられたように聞こえましたが、夏休みの間にどなたかにお輿入れされたのでしょうか」


 ユーリが聞きにくいことを、ズバズバ聞いてくる。


「結婚したわけではないのですが、今はアゾート様のご実家でお世話になっております」


「「「なんでアゾート?!」」」


 不倶戴天の敵のようにいがみ合っていたこの二人が?


 この夏休みの間にいったい何があったんだ。


 恋愛脳をフル回転させるユーリ、アネット、パーラが余計な妄想を働かせる一方、モテない同盟達のどす黒いオーラが教室中を満たす。


(我らが女神セレーネ様だけでは飽きたらず、そのライバルである氷の女王にまで手を出すとは。この男、万死に値する)


「そういうのとは全然違うからな!お前ら余計な妄想を働かせるのはやめろ」


「その通りです。私を後見くださるアゾート様のご家名を名乗らせてもらっているだけです」


「お前、名前変わったのか」


 ダンが後ろを振り向いて俺に聞いた。そういえば言ってなかったな。俺が答えようとすると、


「今回の内戦の功績によりフェルーム家から独立した、アゾート・メルクリウス男爵です」


「「「えーーーー?」」」


「「プーーーッ!」」


 フリュの発言にクラス中が衝撃を受ける中、ダーシュとアレンは噴き出して笑っていた。


「だ、男爵になったのか、お前」


 ダンが驚きで固まってしまっている。


「そうなんだよ。領地と城ももらった」


「まじか」


「お、お前、ずいぶんとかっこいい名前になったんだな。それ自分で考えたのか」


 ダーシュは笑いながら俺にたずねた。


「? いや、アウレウス伯爵に勧められた」


「そうか、いや悪い。イメージに合いすぎて、少しツボに入っただけだ。気にするな」


 どういうことだ?



「もうすぐ授業が始まる。フリュオリーネは空いている席を使ってくれ」


 フリュが空いている席の一つ、マールの前の席に着席した。


 俺はフリュを呼び寄せると、小声でどうなっているのか聞いた。


「前のクラスのままだと私への風当たりが強いので、こちらに転入して参りました。座学は自習でも大丈夫だし、実技は単位がいただけるようなので、卒業は大丈夫です」


「なら、いいんだけど」





 騒然とする教室でマールは思った。強力なライバルがまた一人増えてしまったと。


 そしてネオンは思った。コイツがアゾートの近くにいる限り、この男装はやめられないと。



挿絵(By みてみん)

次回新章です。


古代魔法文明の謎と、新たな戦いは経済戦を書いてみようと思います。


ご期待ください。

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