第110話 バリアーブレイク
メルクリウス騎士団長である父・ロエルは、軍艦3隻を率いて、ポアソン領の沖遥か南方に停泊していた。強襲揚陸作戦開始までの間、革命軍に気づかれないように沖合で待機するためだ。
その一番艦で暇をもて余していたロエルに、アルゴが緊急の報を伝える。
「父上、監視からの報告。右舷80度に海賊船です」
「海賊船だと。よっしゃ任せろ!」
喜び勇んだロエルが甲板に出てみると、遥か遠方に小さく海賊船が見えた。
「なんだ、随分と遠いな。これじゃまだエクスプロージョンが届かないぞ」
「父上、この場合は大砲を使うのです。兄上が作ってくれた軍艦用の大砲「主砲」の試し撃ちをしてみましょう」
「あいつがなんか一生懸命作ってたやつだな。しかしワシはマミーやエリーネみたいな細かい作業は苦手なのだ」
「父上の代わりに僕が調整します。兄上から説明を受けてますので、大丈夫です」
「お前もアゾートに似て細かい事が得意だからな。任せるからやってみろ」
「はい!」
ロエルがそう言うと、アルゴは張り切って右舷の主砲を操作し始めた。ちなみに主砲は、各船の前方と左右に一つずつの3門ついている。
アルゴはなにやら双眼鏡のようなものを取り出して、海賊船を観察し、主砲の角度を調節し始めた。そして、
【火属性上級魔法・エクスプロージョン】
魔法発動と同時に大砲が発射され、その反動で船は大きく左右に揺れ動く。
「うわっとっと。主砲を撃つとかなり揺れるな、この船は」
弾が飛んでいった方向をしばらく見ていると、海賊船のさらに後方で大きな水柱が一つ上がった。
「少し遠くに飛ばしすぎたみたいですね」
アルゴがまた黙々と主砲の角度を調節し始めたが、ロエルは驚き絶句していた、
「なんだと・・・。あんな遠くの海賊船のさらに後方まで弾が飛んで行きやがった。そんなに遠くまで攻撃が届くのかこれ」
「父上、今さら何を言っているのですか。ヴェニアル攻略戦で散々威力を発揮していたじゃないですか」
「いやワシは大砲にはあまり興味がなかったから、詳しくは見てなかったのだ」
「では今その威力を確認してください。いきますよ」
【火属性上級魔法・エクスプロージョン】
もう一度、船が大きく揺れる。
しばらく海賊船を見ていると、弾が命中したらしく、マストが倒れて海の中に落ちていった。
船も軋み、甲板の上では人がたくさん出てきて、大騒ぎを始めたようだ。
そしてアルゴが3発目の主砲を放つとまた命中したらしく、海賊船は船体を真っ二つに折り曲げて海の中に沈み始めた。
「どうですか父上。主砲の威力は凄まじいものがありますよね。この距離で攻撃を受けたら、いかなる艦船も反撃も防御できずに沈没するしかありません」
「お、おう。確かに凄まじいな・・・。これって、ワシたち海上では無敵じゃないのか。アゾートのやつ、またとんでもないものを作りやがったな」
「父上! また海賊船が現れたようです」
「よっしゃ! こんどこそワシに主砲を撃たせろ。海賊船など全滅させてやるわ。しかし、なぜ急に海賊船がこんなに出てきたんだ。このポアソン海域に何かあるのか?」
俺たち3人はクロリーネの試合を見に、体育館までやってきた。
「あ! クロリーネはもう戦ってるよ」
マールが走り出したので、俺とネオンもその後に着いていく。
試合はCブロック予選トーナメント決勝戦。俺たちが観客席についた時には試合はすでに中盤戦の様相だった。
クロリーネ組の相手はフィッシャー校の巨体を誇る男子3人組だ。クロリーネたち小柄の女子3人組とはちょうど正反対の体格だが戦闘スタイルは同じで、2人の剣士と1人の魔導士の組み合わせである。
そんな戦いに、会場は異常な興奮に包まれていた。
「見ろよあの双子の姉妹。真正面から剣を打ち合っても、一歩も引いてないぞ」
「あの小さな身体のどこにあんなパワーが潜んでいるんだよ」
「剣をふる度に揺れるポニーテールと、大きなリボンが可愛すぎる」
「俺、フィッシャー校だけど、この試合はあの子たちを応援するわ」
「当然だよな。大男が女の子に勝っても何も面白くないからな」
観衆の男子生徒は学園によらず全員クロリーネの味方らしい。まあ、あの男3人組には申し訳ないが、むくつけき男どもよりも可愛い女子を応援するのが、男心なのである。
・・・それにしてもお稲荷姉妹が人気とは、フィッシャー校の女性の趣味がよくわからん。脳筋同士気が合うのか・・・まさかロリコン?!
やがて、お稲荷姉妹が男子生徒との打撃戦に打ち勝った。小柄の女子が大柄の男子を力でねじ伏せてしまったのだ。
強ええな、お稲荷姉妹。
体育館を埋め尽くす大歓声。さらに追撃の構えを見せるお稲荷姉妹にあせったのか、フィッシャー校のチームが急にバリアーを張って魔法勝負に出た。
「あれは悪手だよな。魔法勝負こそ避けるべきなんだよ。なんたって相手はボロンブラーク校の1年生最強魔力を誇るクロリーネだ」
俺が相手を心配していると、ネオンがクロリーネが使おうとしている魔法に敏感に反応した。
「あれって、私がアゾートに教えたエレクトロンバーストじゃない? マイクロ波がいっぱい出て生物体内の水分を沸騰させる特殊効果付きのやつ」
「そうそう、あのレンジでチンな。レンチン魔法」
「レンチン? なにそれ意味がわからない」
「こっちの話だ。あれは中々の優れものだから、クロリーネに教え込んどいたんだよ。学園ではスタン波の大きさに変わりはないから今日の試合では効果はないが、実戦だと破壊力に大きな違いがあるからクセをつけておいた方がいいと思って。今日も朝イチでクロリーネに指導しておいたぞ」
「ふーん・・・随分クロリーネに優しいんだね。私の知らない内に、今日の戦いかたまで事細かに指導してたんだ。まさか、彼女も自分のハーレムに入れるつもりじゃないでしょうね」
ネオンがギロリと俺を睨んだ。
「は、は、ハーレムなんて人聞きの悪い。それにクロリーネはアルゴの婚約者だ。弟の婚約者を取るわけないじゃないか」
「どうだか、ねえマールもそう思うでしょ」
「うーん・・・、アゾートはクロリーネのことをそんな目でみてないと思うよ」
「ほら! マールもこう言ってるよ。ネオンは俺を疑い過ぎなんだよ」
「でもね、クロリーネの気持ちは完全にアゾートに向いちゃってるから、結果的にどうなるかわからないけどね」
「ほら! マールもこう言ってるよ。アゾートは女をたらしすぎなんだよ」
「だから、クロリーネの危険な恋を阻止するために、私とリーズの恋愛同盟があるんだけどね」
「恋愛同盟ってこの前言ってたやつか。リーズが俺とマールをくっつけようとしてたけど、それってリーズに何のメリットがあるんだ?」
「私が、リーズとカインの仲を取り持つんだよ」
「えっ! リーズってカインを狙ってたのか? 知らなかった」
「えっ! アゾートってこの事知らなかったんだ・・・ゴメン、今の話は聞かなかったことにして」
「マールは口を滑らせ過ぎなんだよ。リーズとクロリーネの秘密が筒抜けで、なんだか気の毒になってきたよ」
そんな無駄話をしている間に、真正面から魔法の撃ち合いになっていた。だが、相手の放った上級魔法を完全に凌駕する形で、クロリーネのエレクトロンバーストが火を吹いた。
その破壊力はまさに侯爵級であり、これを防げる1年生などどこにも存在しなかった。
3人まとめて一発退場となるスタン波が発生し、試合終了。クロリーネ組の勝利となった。そして、観衆は熱気に包まれた。
「あのピンク髪の女の子、マジすげえ」
「なんだよボロンブラーク校って、強さと可愛いさが比例してるのか」
「強いほど可愛いって、天国のようないい学園だな。俺、転校しようかな」
「やめとけ。魔力がないお前なんか行っても、相手にもされないよ」
「くそー、俺も魔力持ちでチートして、ボロンブラーク学園で美少女にチヤホヤされてえ」
「それな!」
「もし、ボロンブラーク校にそんなチート野郎が実在したら、この大会でフィッシャー校の男子全員に袋叩きになっていたところだぜ」
「いや、どうやらそれが実在するらしいぞ。さっきAAA団を名乗る男に聞いたんだが、アゾートという男が学園の人気アイドルを片っ端から食ってしまったらしい」
「なんだと! うらやまけしからん! 俺たちもそのAAA団に加盟するぞ」
・・・非常に不味い展開になってきた。フィッシャー校ではなるべく本名を明かさないまま、ひっそりと暮らした方がよさそうだ。
クロリーネの圧勝を見届けた俺たちは、フィッシャー校の男子生徒たちの目を盗むように、こっそりと2年生の試合会場に戻ってきた。
ちょうどカイン組の試合が始まるところで、観戦席のダンたちに合流する。
「ようダン。さっきの試合は危なかったな」
「おうアゾートか。アネットから聞いたんだけど、あれはバリアーブレイクっていう技らしいな。うちがバリアー2枚持ちで助かったよ。それよりカイン組はもう決勝戦だぞ、間に合って良かったな」
「え、決勝? 早くないか」
「初戦2試合があっという間に決着がついたからな。カイン組vsエミリー組のネオン親衛隊対決は、やはりカインの独壇場だったよ。親衛隊の格闘術も凄かったが、やはり小銃の弾丸が木製だと、不利だよな」
「ああ、模擬剣と同様の素材を使って物理ダメージを落としてるから、当たれば痛いってぐらいで、遠距離からだと軌道が狂うしあまり使えないんだよね。そういう意味では、彼女たちの近接戦闘力が評価されて勝ち上がったわけだが、カインクラスには通じないだろう」
「ああ、だからもう一つの試合のノーラ、セシル、ナンシーのネオン親衛隊最強チームも、相手チームにあっさりやられちゃったよ。頑張ったんだけどな」
「それでどうだ、その決勝の相手チームは」
「強い。特にリーダーのアベルは、さすがフィッシャー騎士学園って感じで、純粋な剣術なら俺では到底勝てないレベルだな。カインも危ないんじゃないか」
審判の試合開始の合図により、Eブロック予選トーナメント決勝戦が始まった。
相手のリーダーはアベル・バートリー。カインに聞いた話だと、バートリー家の直系らしい。
試合は当初からリーダー同士の一騎打ちの様相だ。残り二人は完全にサポートに徹し、互いに自分のリーダーへの攻撃をけん制しあっている。
カインとアベルの打合いは熾烈を極めた。
豪打対豪打。模擬剣がぶつかるたびにまるで衝撃波が発生するかのような迫力に、観衆の興奮も最高潮だ。
アベルは騎士爵のたたき上げだからだろうか、先ほどのハシム・フィッシャーの時よりも、観衆から絶大な人気を誇っている。
一方カインに対する観衆の反応だが、フィッシャー校の生徒はやはりフィッシャー家の三男でありながらボロンブラーク校に入学したことをあまりよく思っていないように感じる。アベルへの応援の中に、たまにカインへの敵意が混ざっているように感じるからだ。
だが、その分ボロンブラーク校の応援団が、カインを必死に応援する。特に女子生徒たちからの熱い声援が頼もしい。
さて、会場のボルテージ同様、試合も一進一退の熱い展開が続いている。
パワーはアベルの方が上のようだ。
あの長身のカインをいとも簡単に吹っ飛ばす豪打は、もはや人間技とは思えない。一撃一撃がとても重く、自身の魔力で強化していなければ、模擬剣などとっくに粉々に砕け散ってしまうほどだ。
だがそれを全て受けきるカインもすさまじい。
瞬時に展開した固有魔法・護国の絶対防衛圏でピンポイントに攻撃を跳ね返す。そして、アベルの隙をうまくついて斬撃を丁寧に叩き込んでいく。
俺は2人による純粋な剣術の戦いに魅入っていた。
俺はアベルの剛打を受けながら思った。
こいつはバートリー家の直系の血筋で将来の当主候補だ。俺は半分フィッシャー家の血を受け継いでいるが、こいつはバートリー一族の純血。
俺はフィッシャー家の中でも大した実力がなかったが、このアベルにもやられっぱなしでいい思い出がない。俺は中途半端な存在なのだ。
だが、バートリー一族の固有魔法・護国の絶対防衛圏だけは、なぜか純血のアベルより俺の方が得意だった。理由はわからないが、俺は他の魔法が全く使えなくなるほど、この固有魔法があってたんだ。
だから、ご先祖様であるウェイン・バートリー直伝のこの技も、短期間でどうにか使いこなせるようになった。
「カイン、ボロンブラーク校に行ったくせに、強くなったじゃないか。それに一体どうしたんだその技は」
「アベル、試合中に俺に話しかけてくるなんて随分余裕だな。この技について知りたいか。これは例の時間遡行の魔術具で手に入れたものさ」
「あの魔術具は、同じ過去を繰り返し見るための道具だろう。もっとましなうそをつけ」
「ふーん、お前は婆様から何も話を聞いていないのか。メルクリウス一族の話とかも」
「確かに、婆様がメルクリウスがどうのと騒いでいたのは知っているが。・・・詳しく話せ」
「嫌だね。知りたければ、自分で婆様に確認することだな」
「ちっ、生意気な野郎だ!」
俺の言葉に激高したアベルは、全身の魔力を己の肉体に満たして筋力を増強させた。バートリー一族の特技だが、こいつフルパワーで俺を叩き潰す気だな。
以前の俺なら、護国の絶対防衛圏の中に閉じこもって、負けないことに専念していた。
だがもう今は違う。
俺はアベルの全力の一撃を、ピンポイントバリアーで受ける。
このパワー・・・。
婆さんの一撃の数倍は威力がある。さすがバートリー本家直系は伊達じゃないな。
反撃に俺も全力で剣をふり抜き、アベルの胴にぶち込んだ。
だが、アベルは防御姿勢も取らずに平然としている。俺の力では自分の防御力を突破できないことを知っているからだ。
だが、俺には試してみたいことが一つあった。そう、バリアーブレイクだ。
俺はこのピンポイントバリアーを使って、バリアーブレイクを放つ。
バリアーブレイクの本質は、バリアー同士の対消滅にある。
相手バリアーを破壊するための魔力攻撃をあえてバリアーで行うことで、互いのバリアーを侵食しあって効率よく消滅させる。
俺はこのバリアーブレイクを、最強のバリアーである護国の絶対防衛圏で発動させる。
俺は他に魔力が使えなかったが、唯一この最強のバリアーにだけは魔力が使える。しかもピンポイントバリアーだから、俺の魔力量でも十分だ。
受けてみるがいいアベル!
俺はアベルの猛攻撃をかわし切り懐にもぐりこむと、自分の模擬剣に魔力をまとわせた。
【無属性魔法・バリアーブレイク】
透明な魔力のバリアーに覆われた模擬剣を力一杯、アベルの身体を保護している物理防御バリアーにぶち当てる。何度か練習はしていたが、本番で使用するのは初めてだ。
ジュボッ・・・!
俺のピンポイントバリアーが急速に浸食を始め、アベルの全身を覆うバリアーを根こそぎ消滅させる。
よし消えたぞ!
「カイン、俺に何をした!」
突然自分のバリアーが消失し、なにが起こったのか分からずあせるアベル。
しかしそんなアベルに俺は、全体重をこの剣にのせて、アベルの脇腹を全力でふり抜き、アベルの巨体をテラス席へと吹っ飛ばした。
ドゴーーッ!
すかさず俺はテラス席のテーブルを盛大に巻き込んで倒れたアベルの上から馬乗りにして、首筋に模擬剣をあてた。
「ま、まいった。降参だ」
審判がアベルの降参を確認し、俺は残りの二人に突撃していった。アベルを倒した俺にもはや敵はいない。俺はアベル同様に、2人の防御バリアーを無力化させて、一撃で戦闘不能に追い込み試合終了。
勝った!
これで俺たちの決勝リーグ進出が決まった。
それと同時に、俺はバートリー家直系のアベルに、初めて打ち勝つことができたのだ。
今日から俺が、世代最強のバートリー騎士だ。
私はアウレウス派令嬢の3人とカイン様の試合を見に来ていた。
「きゃー、カイン様が逆転勝ちました」
「リーズ様は興奮しすぎです。令嬢なのですから、もう少しおしとやかに応援してくださいませ」
「だってすごくかっこよかったのですもの、カイン様」
「ま、まあ、かっこいいとは思いますが、そこまで興奮する程ではないと思います」
「そうでしょうか、メリア様。ボロンブラーク校の男子の中で一番強くてかっこいいと思いますよ」
「わたくしもメリア様のいう通り、カイン様はそこそこかっこいいぐらいにしか思えません。あのような男臭い肉弾戦よりも、頭脳戦のように戦われるアゾート様の方が、ずっとかっこいいと思いますよ」
「うへぇ、それはヒルダ様だけです。お兄様は男らしさに欠けるので、私には絶対ありえませんね・・・そういえば、ターニャ様が見当たりませんが」
「ターニャ様は、ダーシュ様の手当てに向かわれましたわ。ダーシュ様狙いの令嬢が群がってましたから、少しでもポイントを稼いでおこうという作戦ですよ。リーズ様もカイン様のところに行かなくてもよろしいのですか」
ポイントを稼ぐって何だろう?
確かにカイン様の方を見ると、学園の女子たちがさっそく群がっていた。いつものモブね・・・。
でもモブをよく観察していると、傷ついたカイン様にキュアをかけたり、かいがいしく世話をしているものもいる。
冷や汗が額に流れた。この感情は焦り?
あのカレン・アルバハイムなんかも、カイン様にタオルを手渡している。
そうか、これがポイント稼ぎというものなんだ!
私は慌てて、カイン様に群がる女子たちの群れに突撃していった。
あれはただのモブじゃなくて、みんなポイントを稼ごうと行動していた結果だったんだ。
完全に出遅れて焦っている私の姿を見て、メリア様とヒルダ様が後ろでため息をついているのが見えた。




