【16】
「クロヴィス様?!」
会いたいと願っていた人の声が扉の向こうから聞こえる。
「クロヴィス様! クロヴィス様! 助けてください、扉が、開かないのです……!」
「開かないっ? くっ、確かに動かなくなってるみたいだ。……お前たち!」
クロヴィスが扉を確認する気配と、誰かに命じる声。きっと、護衛の兵が側にいるのだろう。クロヴィスに命じられた彼らが扉に体当たりを始める。
ドン! ドン! と重いものが何度か扉に当たる音が響いた後――――
「ブランシュっ!」
会いたくてたまらなかったその人の姿が、そこにあった。
「クロヴィス様……!」
躊躇わず、広げられたクロヴィスの腕の中に飛び込む。ブランシュから彼の背中に腕を回せば、彼もきつく抱き締め返してくれる。
その温もりに、涙が流れた。
「ブランシュ……! ブランシュ……! エバンズ家に着いたら君がいなくて心臓が止まるかと……! それが君の求婚への答えなのだと思ったが、どうしても直接君から聞きたくて探しに来てしまったんだ。まさか、閉じ込められていたなんて……!」
「違うのです。違うのですクロヴィス様。心を落ち着けるためにここへ来たら、古くなった扉が開かなくなってしまったのです。私は、クロヴィス様から逃げたりしませんわ……!」
「良かった。君から想い出の場所を聞いていて。良かった。諦めずに君を探しに来て……!」
――――君がどこにいても。俺が君を見つけて、名前を呼んでみせるよブランシュ
その言葉通りにクロヴィスは自分を見つけてくれた。名前を、呼んでくれた。
もう、迷わない。自分は、彼を愛している。
王太子である彼の隣にいるためには様々な困難が待っているかもしれないが、乗り越えてみせる。
「クロヴィス様、私も、貴方を愛しています。どうか、私と結婚してください」
「っ! もちろんだ。もちろんだブランシュ。愛してる……!」
宝石にも例えられる美しい青い瞳を見開き、ブランシュの言葉の意味を理解したクロヴィスがキスの雨を降らせる。
いつまでも終わらない二人の口づけを、天使の像が祝福していた。
――数年後。王になったクロヴィス=アゼルサスは、アゼルサス聖王国史の中でも輝く時代を治めた名君となる。
その王の側には常に王妃の姿があり、二人は終生仲むつまじい夫婦であったという。
存在感がなく、人々に忘れられがちだったブランシュ=エバンズ伯爵令嬢。
その少女がこの国の歴史に名を残すブランシュ=アゼルサスになるのは、それはまた、別の話。
fin




