第9話:魔王登場イベント
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「さあ、明日はついにゲーム開始27日目だ」
「それがどうしたの?」
魔王のいうゲーム開始日から1カ月近くたったころ、深夜に魔王が部屋にやってきた。
「待ちに待った、俺とヒロインとの第1回目の遭遇だよ!」
「ああ、そんなこともあるんだったわね」
でも、明日っていうと……。
「魔族討伐授業に貴方が出現するってこと?」
「ああ、そうだ」
魔族討伐授業、中世ヨーロッパ風のこの世界にとって、貴族とは騎士や軍人に近いらしい。
現実世界にもナイト(騎士)っていう称号の貴族もいるし、領主が領土の兵を率いるっていうのは指揮官になるっていうことだし。
そして、このザクセンブルク王国の貴族の役目には魔族の討伐がある。
この学園に通うのは基本的に貴族ばかりなので、将来に備えて魔族討伐の実技授業があるのだ。
「明日には分かるだろうが、討伐授業の班編成は、ヒロインと最も親密度が高い攻略対象1人、それからお前とモブたちだ」
「そうなの?」
討伐授業は1年から3年までの各学年で2人ずつの計6人で1班。それに、指導と、万一生徒たちでは倒せなかった場合に備えて軍人が1人つく。
ただ、攻略対象である異国のイケオジ傭兵シンシチは、軍人枠として無条件で私たちの班に参加なので、シンシチとの親密度が一番高い場合はその次に親密度が高いキャラが参加することになる。
というのが魔王の説明だった。
「今回は強制イベントだから、特にお前が何か出来るわけでもないが、まあ、こういうことが起きるんだって心構えだけしてくれればいい」
「ふーん」
というわけで、討伐授業当日、班編成が発表された。
3年生の2人は、第一王子カミルとモブ。
2年生の2人は、私とモブ。
1年生の2人は、ヒロインのクララとコテンパン令嬢。
そして指導する軍人はシンシチだ。
ちなみにシンシチは、今回は軍人枠として参加しているが、学園の戦闘技術の教員でもある。
ゲームの設定じゃ、クララと一緒に参加する1年生はモブのはずだったけど、コテンパンが参加できてるってことは、モブ枠は重要キャラ以外なら誰でも大丈夫ってことなのかな? というより、ゲーム的にはコテンパンはモブ扱い?
でもコテンパンって、モブの割には美少女過ぎるんだよね。もしかして、キャラデザのミス?
たまに、「あのモブの子、ヒロインより可愛くない?」って、話題になるタイプの奴か? 実際、クララより美少女だし。
それはそうと
「どうしてコテンパ……、じゃなくて、バルリング伯爵令嬢と一緒の班にしたの?」
仲が良さそうにも思えなかったので、クララに聞いてみた。
「だって、バルリング伯爵令嬢様は私の言うことを聞いて下さるので、私の荷物を持って頂こうと思いまして」
と、にっこり笑う。
こ、こいつ鬼畜か……。
クララの後ろでは、2人分の荷物を背負ったコテンパンがすごい形相でクララを睨んでいる。
コテンパンは線の細い銀髪美少女なだけに、2人分の荷物を背負った姿が哀愁漂う……。
「あ、そうだ。良かったら他の皆さんの荷物も持っていただきましょうか?」
と、クララがまたにっこりと笑う。
お、鬼か……。
クララの後ろでコテンパンが青ざめている。
さすがにちょっと、いや、かなり可哀そうだ。
「に、荷物はちゃんと自分で持たないとダメなのよ?」
「え、そうなんですか?」
クララはきょとんとした表情だ。
「ええ。荷物を持って行軍することも訓練のうちなの。授業で誰かに荷物を持ってもらって、本番の時に荷物を持って行軍したら疲れて戦えなかった、では元も子もないでしょう?」
そういえば、ゲームの設定としてはともかく、この授業としては、私だって去年参加した記憶がある。全く知らないわけじゃないのだ。
「え~~。せっかく連れてきたのに。役に立たないですね」
あ、コテンパンがなんか泣きそう。
「そ、そういえば、あれからも模擬戦があったんでしょ? バルリング伯爵令嬢とはまだ戦ってないの?」
「あ、何度か戦いました」
「やっぱり貴女が勝ったの?」
「それはそうですよ~~。だって聖魔法と黒魔法なんですもの。負ける方がおかしいですよ~~」
あ、コテンパンが泣きだした。
っていうか、こいつ、すごく調子に乗ってないか?
この世界の住人ってちょろいってことだけど、それって調子に乗りやすいってことでもあるのかな?
なんでも言うことを聞く相手ができて調子に乗ってるみたいね。
まあ、それだけ素直っていうことでもあるので、私が言った通りクララはコテンパンから自分の分の荷物を受け取って背負って歩き出した。
やれやれ、と私も続いて歩き出す。
「ありがとうございます……」
後ろから小さく声が聞こえ、振り返るとコテンパンが俯いて私の後ろを歩いている。
目的の討伐授業の地域に向かう道すがら、第一位王子のカミルはヒロインのクララに話しかけたそうな様子だったけど、クララが私と一緒にいるのでそれは断念したようだ。
王位を得るために私の気も引かなくてはならないカミルにしてみれば、私の前でクララを口説くわけにもいかず、クララの前で私の気を引くわけにもいかず、で、手が出せなかったみたい。
「このあたりから魔族が出現する。隊列を整えろ!」
1時間ほど歩いた後、指導のシンシチの声で改めて隊列を組む。前衛は2年と3年の中から火力が強い者2人。後列は支援が得意な者2人。そして、安全な真ん中は1年になる。
シンシチは指導とサポート役なので、50メートルほど後方を進む。ちなみに、50メートルの距離でも指導できるように指導役の条件には声の大きさも重要らしい。
そうなると私とクララが離れて、私とカミルが並んで歩くことになった。
「随分と彼女と親しそうじゃないですか。少し意外な感じがしますね」
「あら、そうですか?」
さすがのカミルも、今はタイミングをわきまえているのか迫ってくるわけではない。ギリシャ神話の軍神アレス並みのイケメン圧もそれほどではないので普通に話すことが出来る。
「ええ。彼女とは……色々とあったようでしたので」
「あら? 何のことでしょう。私だって素直な後輩は可愛いですわ」
私はとぼけて答えたが、確かに”イベント”では、クララを(取り巻きたちのアテレコにより)罵倒している私が、それ以外のところではクララと仲良くしているのだから意外に思うだろう。
「それに私などより、カミル殿下の方が彼女に興味がお有りなのではありませんこと?」
「ま、まさか、そんなことはありません」
「本当ですか?」
私はあえて疑わしそうな眼をカミルに向けた。
「本当です。いや、話のとっかかりにと彼女のことを口に乗せただけでしたのに、貴女を誤解させてしまうとは……失礼をいたしました」
私の気を引いておきたいカミルはクララに興味がない風に装う。
これでちょっとは牽制になったかな? 少なくとも、私の視界の範囲内でクララに話しかけることは遠慮するでしょう。
魔王が今まで何度やっても魔王ルートにできなかった理由。それは、魔王がヒロインと会える回数が制限されているのと違い、攻略対象たちには会える回数の制限はないということ。つまり、攻略対象たちの方が圧倒的にヒロインと親しくなりやすい。
さっきも私がクララと一緒にいなかったら、カミルはクララに話しかけていただろう。
しばらくすると魔族が出現するようになってきた。弱い魔族しかいない場所なので危なげなく倒していく。
私とカミルは氷属性と火属性の魔法で対照的だ。固有スキルは、カミルが”赤龍破”という大火力攻撃魔法なのに対して、私の固有スキルは”氷結陣”という相手を凍らせて動けなくさせる技だ。とはいえ、こんなところに出る魔族にそんなものは使わない。
私たちは前方に進んでいるので敵も基本的には前から来る。その魔族を低級魔法の火玉や、氷矢で次々と倒していく。
時々、側面から現れる魔族を1年生たちが倒し、1年生が打ち漏らした魔族や極稀に表れる後ろからの敵は後衛の2人が倒していく。
こんな簡単な敵を倒して鍛錬になるの? という感じだけど、どうやら、倒すこと自体に慣れるのが目的らしい。魔族とはいえ、一応は”生き物”だし、予想外の動きもする。実際、初めて参加する1年生は倒すのに躊躇したり、魔法を外したりすることが多いのだ。
危なげなく魔族を倒してる私たちに、サポート役のシンシチも今のところ出番がない。
とはいえ……
(そろそろだよね……)
と思っていると、まだ昼過ぎで明るかった空が急にどんよりと曇りだした。
そして、空中に雷が落ちる! というありえない現象の後、その雷が落ちた空中に現れる漆黒の魔王!
(ぷぷっ)
あ、思わず笑っちゃった。誰だよ? この演出考えたの。もうちょっと普通に現れれば良いでしょうに。
「あ、あれは、まさか!」
え? いつの間に?
かなり後ろに居たはずのシンシチが、私のすぐ傍で叫んだ。
叫んだあと、ぜぇぜぇと荒い息遣いが聞こえる。
軍人のシンシチが息を荒くするほど全力疾走したのか。
生徒の50メートル後ろに居るはずのシンシチに、魔王が出現した瞬間、生徒の近くで台詞を言わせるのはちょっと無理があったね。
(シナリオライター……もうちょっと考えてやれよ)
「誰ですの? アーレンベルク公爵令嬢たる、このアーデルハイドを見下ろすなど身の程をわきまえなさい!」
え? 誰?
「と、アーレンベルク公爵令嬢様がおっしゃっています!」
コテンパン! お前か!
取り巻きの2人がいないし、誰が私の台詞のアテレコをするのかと思っていたら、まさかコテンパンだったとは。
「ぷっ。俺は魔王! 魔王シュバルツ・ライゼガング。まさか、この名を知らぬ者はおらぬだろうな」
お前、今、笑っただろう。
まてよ? 魔王は自分の台詞は自分で言えるんだ? まあ何度もやり直しているから覚えたんだろうね。もし、魔王も自分の台詞を言わなかったら、今いるモブの誰かが魔王の代役をしてたのかな?
「魔王ですって! と、アーレンベルク公爵令嬢様がおっしゃっています!」
がんばれコテンパン。取り巻きの2人が居ない今、君だけが頼りだ。
「クララ! 下がれ!」
と、叫んだ第一王子のカミルが一瞬はっとした表情をした。
今まで少し興味がある程度だったヒロインへの気持ちが、本物の恋心だったと気づいた……という演出らしい。
「おいおい。俺はその娘に用事があって来たんだ。相手してくれよ」
「なんだと!」
と、カミルが魔王とクララの間に立ちふさがった。
「ふっ」
と、魔王が腕を一振りすると、雷がカミルの目の前に落ちてカミルが吹き飛ばされた。魔王は、吹き飛んだカミルには目もくれずクララに向かって降りてきた。
「気になる力の波動を感じてきてみれば、まさかこんな小娘が発していたとはな」
「あ、ああ……」
クララは怯えて言葉にならない。
「く、くそ……」
よろよろと立ち上がったカミルが構えた。
「赤龍破!!」
カミルの固有スキルの大火力攻撃魔法。十数メートルは離れている私のところまで熱風がくる超高温の炎の砲撃だ。
だけど、
「はっ」
と、笑い交じりの気合の声とともに魔王が右腕を一振りすると、簡単に弾かれ彼方の方角に飛んでいく。
「この俺に歯向かうとは身の程を知らぬ奴だな。まあ、死ね」
もう一度、魔王が右腕を一振りすると虚空から雷が一閃、カミルに向かって進む。だけど、カミルに直撃する寸前でかき消される。
「ほう」
と、魔王が視線を向けた先でクララが両手を前に突き出している。よく見るとカミルの周囲が淡く光っている。どうやらクララが間一髪、聖魔法の結界を張ったらしい。
「手を抜いていたとはいえ、まさか俺の攻撃を防ぐとはな。だが……、とても俺の攻撃を防げるような魔力の結界とも思えぬが……。やはり、何か魔力の波動が他の者と違うか……」
魔王は何やら考えるように顎に手をやった。
こいつ、役になりきっているけど演技の練習でもしてるのか? まあ、普段暇そうだしな。
「せっかく来たんだし、連れて帰って調べるか」
と、魔王がクララへ歩を進めた。
「うぉぉぉっ!!」
雄たけびとともに、護衛のシンシチが今更ながら突っ込んできた。
クララが防がなきゃ第一王子死んでて、貴方、首だったからね。まあシナリオ通りの行動なんだろうけど。
「おいごとやれ!!」
シンシチは、そう叫びながら魔王に飛びついた。
おい? ああ、「俺」の方言ね。シンシチごと魔王をやればいいのね。
と思って、シンシチもろとも魔王に向かって魔法を撃とうとしていると、シンシチがさらに
「逃げろ!!」
と、叫んだ。
やるの? 逃げるの? どっち!?
「シンシチ先生の固有スキル”おいごとやれ”は、相手の動きを封じる拘束技! たとえ魔王といえど固有スキルからは逃れられないはず!」
モブ! 説明ありがとう! 固有スキルで魔王を拘束しているから、その間に逃げろってことね。
見ると、カミルがクララの手を引いてさっさと逃げ出している。
「で、でも」
「”おいごとやれ”発動中に拘束対象に攻撃すると、シンシチにまで同等のダメージを与えてしまう。今はシンシチのいう通り、逃げるしかない!」
カミル! 説明ありがとう!
「逃げるわよ!」
と、私も腰を抜かしていたコテンパンの手を引き、駆け出した。
「アーレンベルク公爵令嬢様! ありがとうございます!」
「はいはい。大丈夫だから逃げましょうね」
魔王がここで誰かを傷つけたりしないはずだしね。
「あ、あの……。これからは、お姉さまって呼んで……いいですか?」
コテンパンは私に手を引かれながらなぜか顔を赤らめている。
「あ、う、うん。いいけど……」
その後、他のモブたちもそれぞれ逃げ出し、シンシチもうまく離脱したようだ。
これで魔王とヒロインの第一回目の遭遇イベントは無事に済んだのかな?




