第51話:歓迎パーティー(2)
「アーレンベルク公爵令嬢を侮辱するのは許さん!」
そのカミルの叫びに騒ぎに集まっていたみんなの視線が私に集中する。
あれ? クララが主役のクバード&カミルイベントとかじゃないの? 私のイベント? その割にはクララが全力疾走してたし、私は普通に走れてたわよね?
クララも、あれ? あれ? という感じで戸惑っている。
すると突然モブの1人が叫んだ。
「今の間違い! 間違いですから!! クララとの言い間違いです!!」
そう言いながら頭の上で両手を大きく振っている。
え? 間違い? そんなのあり?
そう思っていると周囲の人だかりからも
「そうか言い間違いか」
「本当はクララなのね」
と納得の声がする。
うわ。みんな納得するんだ。
だが唖然とする私をよそにイベントは進行する。
「何もその女を侮辱したわけじゃない。この学園にはろくな女が居ないと言っただけだ」
クバードがカミルを睨みながら言い放つ。
「その、この学園の女の中にアー「クララ~~!」令嬢も含まれると言っているんだ」
カミルの台詞にモブが必死でかぶせてくる。これ大丈夫なの?
「ちっ! こまかい奴だな。お前がその……クララ? とかいう奴に気があるのは分かったけどよ。そんなこまかいことばっかり言っていると器が知れるぜ」
おいおい。なんだかクバードの台詞も疑問形になってるぞ。
「貴様は品性が知れるようだがな」
そう言ったカミルとクバードが睨みあう。
「お前、さっきこのパーティーでの俺たちを対応を担当するとか言ってたよな。このパーティーは俺たちの歓迎のためなんだろ。その担当なんだったらもうちょっと態度を考えろよ」
そうか。前のイルハーム先生の件もあるしサザーン王国の王族に対抗できるのはこちらの王族だけ。ということでカミルが担当か。だけどそのクバードからの指摘で、逆にカミルは冷静になったようだ。
「そうだな。しかし、それを言うなら君たちは友好使節の一員として学園に来ているはずだ。だったら友好的な態度を取って欲しいものだ。友好的な態度を取れないなら本国に連絡して、お引き取り願わなくてはならなくなるぞ」
カミルも王族としての立場も理解しているだろうしクバードたちの本当の狙いも分かっている。実際年齢もカミルの方が1つ上で冷静になりさえすれば一枚上手だ。
ここで手柄を立てなければならないクバードとしては、本国に送り返されるのだけは避けたいはず。とはいえ大人しく引き下がるのはクバードのプライドが許さない。
「じゃあそのクララっていうのがろくな女じゃないっていうなら、パーティーではその女が俺のパートナーになってくれよ」
一方的に折れるのはプライドが許さないから、カミルにも譲歩させようって言うのね。さすが王族の駆け引きってやつかしら。
とはいえカミルもそう簡単には折れないんじゃ……。
「それは別にかまわん」
え? 良いの?
クララも、え? という顔をしている。
するとモブが大慌てで頭上で両手を振りながら叫ぶ。
「駄目です! 駄目ですよ!!」
そして周囲からも
「そうよね。駄目よね」
「駄目に決まってますわよね」
と声がする。
そしてクララが、うんうんと頷いている。
「じゃあその女に選んでもらおうぜ。お前はどうする?」
クバードがそう言ってクララに視線を向ける。
するとクララは即答せず考え込んでいるようだ。
あれ? なんでだろう。イベントだから決まっている台詞を言うだけじゃないの? 迷っているように見えるのもイベントの演出?
あ。もしかしてこれってゲーム的には選択イベント? ここでクバードのパートナーになるって言えばパーティーはクバードとのイベントで、断ればカミルとのイベントになるとかかな。
そうしてクララはしばらく迷っていたようだけど、選んだのはなんと
「分かりました。私はクバード様のパートナーになりますわ」
とクバードを選んだ。
クバードの態度が悪かったから周囲の人たちは、クララの選択に驚いているけど、実はカミルは一つもクララを庇ってないしね。それどころか私と言い間違えていることになってるっぽいし、クララは内心ブチギレてるんじゃないかしら。
あ、そういえば前のゲームの時にクララとカミルと攻略対象たちの好感度が上がらないように、さんざん悪口を吹き込んだんだったわ。そのまま好感度が低いのかもね。
それにクバードもクララを名指して悪口を言ってるわけじゃないし、そりゃクバードを選んでも仕方がないわ。
「へ~~。良いのかい」
「はい。私がクバード様のパートナーになれば争いが収まるなら、喜んでクバード様のパートナーを務めさせて頂きます」
クバードとクララはそう会話を交わすと並んでパーティー会場へと入っていった。
まあとにかくイベントはこれで終了ね。
するとカミルが私が居るのに気づいたようで話しかけてきた。
「やあ。アー……レンベルク公爵令嬢。みっともないところを見せてしまったな」
なんだかアーデルハイドって言いかけたっぽい感じだな。周りに人が居るのに気づいて踏ん張ったみたいだけど。
「そんなことはないわ。これでクバード殿下も少しは大人しくなるでしょ」
「彼がこれで大人しくなるかな」
「本国に帰されるっていうのは一番こたえるみたいだから、大人しくなるんじゃないかしら」
「だと良いんだがな」
するとカミルは微笑み、私も微笑み返した。
「そうだ。アーレンベルク公爵令嬢。良かったら俺のパートナーになってくれないか?」
雰囲気的には間違いなくオッケーする流れ。でも私は言い淀んだ。
「え、え~~と……」
「すまないが公爵令嬢は俺のパートナーだ」
その言葉の主に私とカミルが視線を向けた。そこには当然、魔王ことノワール・ラファルグの姿があった。そうなのよね。イベントの直前に魔王から誘われてオッケーしてたのよね。
そんなことを考えている間に魔王が私とカミルとの間に立ちふさがった。
別に強引に誘われてたわけじゃないし、これは感じ悪くない?
「だから別のパートナーを探して頂きたい」
魔王の言葉に一瞬、魔王を睨んだカミルが私に顔を向けた。
「……そうか。残念だが仕方がないな。次に機会があったら頼む」
反射的に、ええ。と答えようとしたところに、その前に魔王が口を挟む。
「そんな先のことを予約するのは野暮っていうものですよ。カミル殿下。その時にはアーレンベルク公爵令嬢の気が変わっているかもしれない。もちろん殿下もです」
「俺の気は変わったりなどしない」
「そうですか? 去年は随分とクララ嬢にご執着だったとアーレンベルク公爵令嬢からお聞きしておりますが」
「なに!?」
い、いや。言ってない。そりゃクララはヒロインなんだしカミルがクララに執着してたのは確かだけど、それは魔王が知っていたことであって私が魔王に言ったんじゃない。
でも確かに去年にマルセルの別荘に行って魔王がクララを連れ去った時にはカミルを含めた攻略対象の全員でクララを助けに行こうとしていた。それはカミル自身が分かっている。
でも最近ではカミルは私に好意に近いものを持っているのはさすがに私にも分かる。それを、以前は自分はクララに気があったことを私が知ってると分かったらカミルは気不味いだろう。
そして実際カミルは私に一瞬気まずそうな視線を向けた後、顔を背けた。
「あ、あの時は公爵令嬢のことを誤解していた」
「ええそうでしょう。ちゃんとその人を見れば誰にも良いところはある。それを見つけられる殿下は素晴らしいお方だ。殿下ならばきっと別の女性の良いところも見つけることでしょう」
一見褒めているようだけど、どうせすぐに別の女性に気が引かれるんだろうという嫌味か。
ちょっと魔王。あんた感じ悪いよ。普段はあんまり人に悪意を向ける奴じゃないと思ってたんだけど、さすがに今までのアーレンベルク公爵令嬢を殺したっていう攻略対象たちは許せないか……。でも以前は、今のあいつらがお前を殺そうとしたわけじゃない。って言ってたんだけどな。
カミルが何も言い返せなくなっていると、これ見よがしに魔王が私の腰に手をまわした。
「アーレンベルク公爵令嬢。そろそろパーティーが始まる。行きましょう」
と、私を会場へといざなう。
「え、ええ」
このままここに留まっていても事態は良くならなさそうなので私は同意した。カミルをかばいたい気持ちもあるんだけど、今までの魔王とカミルとの関係を考えるとカミルの味方をするのも躊躇われるし。
魔王にエスコートされながらカミルに視線を向けると、カミルは顔を背けていた。




