第50話:歓迎パーティー(1)
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ヤンキーがヴェラを狙っているとか勘弁して欲しい。
まあヤンキーは女生徒たちを侍らすのは止めるみたいだし、ヴェラとの接点もなさそうだからこのままやり過ごせば大丈夫よね?
というわけで何となく日々を過ごしていたのだけど、ここはゲーム世界。平和な時間は短かった。
「明日は友好使節の方の歓迎パーティーですわね」
とカロリーネが楽しそうに言った。
まあカロリーネはパーティーとか華やかなものが好きだからね。
だけどヴェラは浮かない表情だ。カロリーネと違ってパーティーを好きじゃないからだと思っていたけど、そうではなさそうだ。
「ドレスはどうしましょう……。新年のパーティーで新しいドレスを作って貰ったところだからお父様も作ってはくれないでしょうし……」
と着ていくドレスがないことに頭を悩ませている。
ヴェラも伯爵令嬢。しかも王都に屋敷を持つ裕福な家門。イベントのたびにドレスを新調して貰っているんだけど、今回の歓迎パーティーは例年にはないいわば予定外の出費。
開催日まで日がなさ過ぎて、急いで新調しようとすると特別料金が半端ない。さすがに今回は作って貰えないみたい。
毎回ドレスを新調してるのも、ヴェラがねだっているんじゃなくてそうしないと娘のドレスも用意できないのかと他の貴族に馬鹿にされるから。という親の見栄のためみたいだけどね。
でもパーティー嫌いのヴェラが着ていくドレスで悩むなんて意外だわ。と思ったので
「貴女がドレスで悩むなんて珍しいわね」
と聞いてみた。
するとヴェラは少し顔を赤らめ
「だって歓迎パーティーにはイルハーム先生も出席なされるのでしょ?」
と来たもんだ。
そうだった。友好使節団の歓迎パーティーなんだから当然ヤンキーが来るんだった。しかも絶対ゲームイベントもあるシチュエーションよね。
というわけで歓迎パーティー当日。
去年の収穫祭のパーティーのように学園にはパーティーが行える広い会場がある。その会場は今絶賛準備中だ。飾り付けなんかは事前に行われているけど料理は直前に用意しないとね。
どうせイベントが起こるのよね~~。と思っている私はヴェラやカロリーネたちとは別行動で学園内をぶらぶらしていた。
そうして中庭を歩いていると後ろから
「お~~い」
という声が聞こえる。
とはいえ中庭に居るのは私だけじゃない。アーレンベルク公爵令嬢である私をそのような言葉で呼び止める者はいないので、私以外の誰かが呼ばれてるんでしょう。と思って振り向かずに歩いているとその声の主は後ろから走って来て私の前に回り込んだ。
「さっきから呼んでいるだろ。無視するとはひどいな」
そう言ったのはカミルだった。
「あ。ごめんなさい。私が呼ばれてるんじゃないと思って」
そう言うとカミルが口を開いて何か言いかけたがなんだか言い淀んで口を閉じた。
「どうしたの?」
「あ、ああ」
そう言ったカミルが私の耳に顔を寄せてきた。結構慣れてきたけどさすがにここまで顔が近づくとイケメン圧で顔が少し赤くなる。
周囲に聞こえないようにか小さい声でカミルが言った。
「アーデルハイド。少し向こうで話がしたい」
う。そう言えば名前で呼び合おうって話してたんだったわ。なんか恥ずかしいわね。さらに赤面しちゃうわ。
さっき私をお~~いって呼び止めようとしたのもみんなの前で名前呼びを躊躇したからか。
「分かったわ」
と答えて場所を移した。とはいえ、いつもなら校舎裏に行くんだけど今日は先約が居て建物から離れた人気のない場所を歩きながら話すことになった。
「イルハーム先生のことなのだが、あれから彼も女生徒を侍らすのは控えているようだ。君が……アーデルハイドが彼に話してくれたんだろ?」
「え、ええ」
なんだか意図的に名前呼びをしている感じよね。やっぱり私も名前呼びした方が良いのかな?
「カ、カミルはあの後大丈夫だった? 怪我とかしてない?」
「ああ。イルハーム先生に殴られたことだったら大丈夫だ。アーデルハイドありがとう」
カミルはそう言ってほほ笑む。
うっ。イ、イケメン圧が……。視神経がショートしそうだわ。
私は思わず赤面して顔を背けた。
「そう良かったわね。じゃあまたね」
私はカミルから視線を逸らしていたけど、それでもカミルがまた微笑むのを感じた。
「アーデルハイド。俺はどうして、今まで君がこのような女性だと気づかなかったんだろう。なんだか随分と無駄な時間を過ごしていた気がするよ」
そりゃ中身変わってますからね。印象も変わるでしょうよ。とも言えず
「はは。そ、そうかな。カミルも印象変わったわよ」
半分は話の流れでの言葉だが半分は本心だ。確かにカミルも以前とは印象が違って感じる。
「そうか。だとすればアーデルハイドのおかげだな」
会話をしながらいつまでも視線を逸らし続けるわけにもいかずにカミルの顔を見るとやはり微笑んでいる。
こいつこんな顔が出来るんだ。そう思える柔らかい笑顔。イケメンなのが邪魔にすら感じる。
「イルハーム先生のことは君のおかげで助かったが、他の友好使節団の者たちについても対応が必要だろう。もうすぐパーティーが始まるからまた後で話がしたい」
「え、ええ。分かったわ」
「じゃあ。また後で」
カミルはそう言って笑顔で手を振り私とは別の方向に歩いて行った。私は会場に向かって歩き出す。
よく考えたらあいつ、今まではもっと丁寧な口調だったわよね。ちょっと調子に乗ってるんじゃないかしら。
そりゃ前よりは親しい感じだから素が出てるんだろうけど、でもそれってやっぱり今まではお父様の影響力を利用するつもりで私に近づいてきていたってことよね。まったく失礼な話だわ!
そんなことを考えながら会場に向かって歩いていると友人たちと合流した。
「お姉さまどうしたのです? 顔が赤いですわよ」
「な、何でもないわよ」
カロリーネの指摘にどもりながらも反論した。すると今度はヴェラが口を開いた。
「もしかして、気になる男性でもいらっしゃるのですか?」
「え? な、なんで?」
「いえ、何となくそんな気がしただけですけど……」
「気の所為よヴェラ」
するとそこに魔王がやって来た。だけどいつもの魔王と違って肌の色が白い。つまり留学生のノワール・ラファルグとしての登場というわけだ。
友人たちにはすでに留学生のノワール君とは偶然知り合って顔見知りであると口裏を合わせてある。
「やあアーレンベルク公爵令嬢。今日のパーティーのことなんだが、この学園に来たところでパートナーが居ないんだ。良かったら俺のパートナーになってくれないか?」
魔王がゲームの攻略のこと以外で私に話しかけてくるのは珍しいわね。でもまあどうせイベントが発生するんだろうし、魔王が近くにいるのも良いかもね。
「分かったわ。じゃあパーティーでは一緒に居ましょう」
私は何気なく答えたけどこの言葉に友人たちが騒ぎ出した。貴族の社交の場では新しい友人は相手から紹介されるものという暗黙の了解がある。なので私から紹介されるだろうと、会話に口を挟まず待ち構えていた彼女たちだけど、その暗黙の了解を打ち破って質問攻めが開始された。
「お姉さまが特定の男性のパートナーになるなんて初めてですわよね?」
「最近お知り合いになったばかりとお聞きしておりましたけど、いつの間にそんなに親しくなったのです?」
「お姉さまが殿方に興味があったなんて……」
「お姉さまのようなお方なら王位継承者を狙った方が良いのでは……」
おい。最後の2人。なんかおかしいぞ。
さて。前もって知り合いだとは言っておいたけど、この質問攻めは想定外だ。なんて答えよう? と思ってたけど私が返答する前に魔王が口を開いた。
「アーレンベルク公爵令嬢とはたまたま知り合ったのですが、留学生なのでアーレンベルク公爵令嬢がこの国で一番のレディーとは知らず初対面で随分と図々しい態度を取ってしまい……。公爵令嬢にはそれが新鮮だったようで友人としてお付き合いさせて頂くことになりました」
いつもの魔王キャラとは違って随分と謙虚ね。
そう思った私は魔王に耳打ちした。
「ねえ。そのキャラ付けであってるの? いつもみたいに俺様キャラじゃないの?」
すると魔王も小声で返答する。
「ノワール・ラファルグのキャラ付けなんて俺にも分からないからな。様子見だ。初対面なんだからこれくらいの丁寧さは後からどうとでもなるだろ。この後には俺のイベントもあるだろうから、その時にキャラ付けは確認する」
なるほど。イベントとしての台詞は強制だから、そこで分かるのか。で、ついでにほかの疑問も聞いてみた。
「いつも学園では割と私と距離を置いているよね? 今日はどうしたの?」
「俺も攻略対象の1人だからな。学園でお前に近づけば必然的にヒロインの2人とも接点が増える。ゲームの傾向を把握するまでは不用意に近づかない方が良いだろう。今日は特別だ」
「ふ~~ん」
何となく分かるような分からないよう。どうして今日は特別なんだろう。それを聞こうかと迷っていると学生たちが騒ぐ声が聞こえてきた。
その騒ぎに魔王が
「イベントか?」
とつぶやいたけど、そのつぶやきより先にクララが走り出していた。って速い!
クララはオリンピックで優勝できるんじゃないかというスピードで走っている。これはリミッター外れてるわね。間違いなくイベントだわ。
そのクララに引き離されながらも追いかけていくと、何とかクララの姿が見えなくなるほど離される前にクララが足を止めた。
するとクララが早速
「私の為に争うのは止めて下さい!」
と状況も分かっていないだろうに叫び、その後、ゼイゼイと息を切らした。うん。頑張ったね。
見るとサザーン王国の第三王子クバード・ラドワーンとこっちの第一王子であるカミルが対峙していた。
なるほど。クララをめぐってクバードとカミルが争うというイベントなのね。
そう思って見物することにした。すると早速カミルが口を開いて叫んだ。
「アーレンベルク公爵令嬢を侮辱するのは許さん!」
私かよ!!
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