第46話:カミルと共闘
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その日の昼休み、いつものように友人たちと共に昼食を取っていると思わぬ人物が声をかけてきた。
「アーレンベルク公爵令嬢。少し話をしたいのだがよろしいか?」
そう声をかけてきたのはザクセンブルク王国側の攻略対象の1人。第一王子のカミルだ。
友人たち。時にクララの興味津々な視線を受けながら校舎裏に場所を移した。内密な話をする時にはいつも校舎裏で代わり映えがないけど、ほかに適した場所がないのだから仕方がない。現代学園物じゃないから校舎の屋上なんてないしね。
「実はサザーン王国から来た臨時講師のオルハン・イルハームのことなのだが……」
「ヤン……イルハーム先生が?」
まさか現実世界の住人だということがばれた? いえ、ここの住人はここがゲームの世界ということどころかゲームの存在すら知らない。だから現実世界という認識すらないはず。
「ああオルハン・イルハームがなんていうか女生徒たちを侍らせていると問題になってるんだ」
あの野郎。言っている傍から問題起こしやがって。
「そ、そうなのね。それで女生徒から苦情が出ているの?」
「いや女生徒たちからは特に苦情はないのだが他の先生方が見かねたようでな。俺にどうにかして欲しいという話になったんだ」
う~~ん。自分から手を出しているわけじゃないのか。モテるって分かって調子に乗ってるんだろうけど……。
「それでどうしてカミル殿下が対応することになったのです? 先生方の役目なのでは? 確かに今年からはカミル殿下も教員見習いとして学園におこしとは聞いておりますけれど」
見習いごときとまでも言わないけど実際そうよね?
「公爵令嬢なら御父上から聞いているかも知れぬが、今回の留学生を含めた友好使節の集団はサザーン王国との外交問題に直結している。それにクバードとユスフは向こうの第三王子と第四王子だからな。イルハームとの問題に彼らが出てくれば対抗できるのは同じ王族である俺だけということだ」
なるほど。カミルが教員見習いになったのはゲームに登場させるためだけの設定と思ってたけど、サザーン王国の登場人物と絡みやすいようになのね。
「それは分かりましたけど、どうしてその話を私に?」
「それには理由が3つある。まず1つはこの学園でサザーン王国の王族に対抗できるのは俺とアーレンベルク公爵令嬢の貴女だけだ」
王族ということならデニスも同じはずだけど、それは意図的に外したみたいね。
「もう1つは、彼らは貴女を口説こうとしているという情報がある」
「お父様も、彼らは侵略する国の有力者の娘をかどわかすって言ってましたわね」
「そうだ。口説こうとしている貴女と敵対するのは彼らの本意ではないはずだ。ならば貴女も動きやすいだろう」
「それはそうね」
「そして最後の1つだが……貴女の組織力を借りたい」
「組織力?」
「クララ嬢が貴女の指示だと言って2年生の女生徒たちを支配下に収めつつあるらしいじゃないか」
(あの女マジか!?)
以前、勘違いしてそんなことを言ってたけど、スルーしてたら本当に実行していたとは。本気で自分たちをスケ番グループとでも思ってるんじゃないでしょうね。
「それに3年は貴女はもちろんヴェラ嬢やカロリーネ嬢といった優秀な人物も貴女を支持している。その組織力を使えば彼らの動向を探るのは造作もないだろう」
「ちょ、ちょっと誤解。いえ、かなり誤解があるようですわ」
これ以上勘違いされちゃたまんないわ。
「そうなのか? だが実際貴女を慕う女生徒は多い。貴女が頼めば手を貸さぬ女生徒は居ないだろう」
「でも、もしそれで手を貸してくれた女生徒が危険な目にあったらどうするんです? 彼らはカミル殿下や私には遠慮しても他の生徒には遠慮しないのでしょう?」
するとカミルの目が少し見開かれ私を見つめた。何か少し驚いているようだ。
「どうかしました?」
「あ、いや。貴女がそういうことを気遣う女性だとは思わな……。いや失礼。そうだな。下手に手を借りてはその者に危害が加えられるかも知れないか」
う~~ん。そんなに特別なことを言ってるつもりはないけど、元のアーレンベルク公爵令嬢だったら言わなそうなことだったかな? まあ中身が変わってるんて考えはしないんでしょうけど、変に勘繰られないようにしないとね。
「別に彼らが可哀そうとかそうことではありませんわよ。ただ……その。そう! 足手まといなのですわ!」
他の生徒のことを足手まとい扱い! どう? 元のアーレンベルク公爵令嬢っぽいでしょ?
「そうだな。そうかもしれないな」
そう言いながらカミルが微笑んだ。
(ぐわっ!)
しまった! 油断してたところに久しぶりのイケメン圧!!
去年1年間、けっこうカミルのことをおちょくってたから耐性ついてたけど、思わぬ奇襲的の笑顔の直撃弾!!
「そ、そうですわ」
どもりながらもなんとか応じたけど、顔が真っ赤になっているのを自分でも感じた。
「それでは俺と貴女の2人でやろう。アーレンベルク公爵令嬢。それで良いか?」
そう言いながらカミルが近寄ってくる。
(近い近い近い!)
私は思わず後ずさるがカミルがゆっくりとそれを追う。壁ドンとまでは行かないが壁際まで追い詰められた。
結構カミルのイケメン圧も平気になってたはずなんだけど、一回突破されたら立て直すのが難しい。
「そ、そうですわね」
思わず目を逸らし答える。
なんだか不味い雰囲気だなと思っているとカミルとは別の男の声。
「そこで何をやっている?」
その声に私とカミルが視線を向ける。
「お前は確か……ラファルグとか言ったな」
そうノワール・ラファルグ。魔王の学園での名前だ。
「ほう。俺の名前を知っていたか」
「たまたまだ」
カミルが不機嫌そうに言った。
確かに、この国の第一王子が転入してきた学生の名前をいちいち覚えていそうにはないけど、サザーン王国からの転入生と同時期に来たってことで覚えてたのかしら。
「それより、こんなところに女を連れ込んで何をするつもりだ?」
そう言って魔王がカミルに鋭い視線を向ける。
「それは下種の勘繰りというものだ。貴様の考えているようなことではない。貴様自身が常にそう考えているから他人もそうだと思うだけだろ」
言い返したカミルも魔王を睨む。
前作から魔王と戦うのってカミルばっかりだったけど、まさかここで戦闘なんて始めないわよね?
しかし私の心配をよそに2人の間には火花が散り今にも爆発しそうだ。
魔王は人間の姿をしているとはいえ肌の色を変えているだけで去年の収穫祭パーティの時と同じ顔。私は同一人物だとすぐに分かったけど、なにせここはゲームの世界。髪の毛や肌の色。瞳の色だけでも変われば別人と認識されるから魔王とはばれてないはずなんだけどね。
「女とみれば誰彼かまわず手を出しおいてよく言えたものだな」
魔王がかなり喧嘩腰ね。そういえば魔王からすれば私より前のアーレンベルク公爵令嬢が亡くなったのってカミル達攻略対象の所為なんだし嫌ってても当たり前なのかも。
以前、攻略対象たちもその時とは別の人間みたいなことも言ってたけど、いったん頭に血が上っちゃあね。
「貴様、俺を誰だと……。いや。俺はアーレンベルク公爵令嬢に話があっただけだ。やましいところなどない」
魔王とカミルが睨みあい、魔王がジリジリと距離を詰める。
今後もゲームイベントに参加しなきゃならないんだから、2人ともここでイベントに参加不可能になるような怪我を負ったりはしないんだろうけど、魔法を打ち合ったりしたらモブが巻き添えになりそうよね。
魔王はその辺わきまえていると思うけど、カミルはパーティー会場で魔法をぶっ放した前科があるし。とにかく2人を引き離さないと!
って言っても、どちらを引きはなすか。やっぱり魔法を撃ちそうな方を逃がすべきね。逃げてるところを後ろから撃たれたらたまんないし。そう判断しカミルの手を取った。
「い、行きますわよ!」
そう言ってカミルの手を引いてその場から逃げ出した。そしてかなり離れてからカミルの手を離す。
「どうして俺が逃げなくてはならんのだ」
「だってカミル殿下は、以前パーティー会場で魔法発動させたではありませんか。あんなところで魔法を撃ったら危ないですわよ」
「それは……。だがあの時とは違う。あんな無茶はもうしない」
「どうでしょう」
カミルはまだ釈然としないようだったが水掛け論になるだけかと思ったのか話を変えてきた。
「それでさっきの話だが……」
「ヤン……イルハーム先生のことですか?」
「ああそうだ。その話については忘れてくれ。こちらで何とかする」
あれ? 何でだろう。でもヤンキーが問題を起こすのをけん制するのは悪い話じゃないし、ザクセンブルク王国の方の攻略対象とも繋がりがあった方が都合が良いかも。
前まではゲームの情報は魔王が全部把握してたけど、今回は手探りだからね。
「いえ。私もお手伝いしますわ」
「良いのか?」
「ええ。是非」
「それはありがたい。それではこれからは同士ということでアーレンベルク公爵令嬢ではなく、アーデルハイドと呼ばせて貰ってよろしいか?」
「え?」
中世ヨーロッパではファミリーネーム呼びとファーストネーム呼びってどちらが親しい感じなんだったかしら? いやそう見せているだけで日本のゲームなんだから、日本の感覚でファーストネーム呼びの方が親しい感じか。元のアーレンベルク公爵令嬢としての記憶を掘り起こしてもやっぱりそうだ。
なぜか突然ぐいぐい来るわね。とはいえ断れる流れじゃないし断るほどのことでもない。それにイケメン圧の影響も消えていない。
「ええ。もちろんですわ」
「ではアーデルハイド。俺のこともカミルと呼んでくれ」
それは断る。
とは言えないわよね。
「ええ。分かりましたわ。カミル……」
う~~ん。自分から言うのならともかく人から言われて呼び捨てってなんか恥ずかしいわよね。イケメン圧もあって赤面しちゃうわ。
そんな様子の私にカミルが微笑む。私はどういう反応をしてよいのか分からず顔を赤らめたままあいまいな笑みを浮かべた。
「そ、それではえ……と。また明日」
雰囲気に耐え切れずに私がそう言うとカミルは微笑みを深くし
「ああ。また明日」
と返事をしその日は分かれた。
しかしこの時の私は忘れていた。この世界の住人は総じてちょろい。それは知っている。だけど、それは男もということは失念していたのだ。




