第45話:ヤンキーの暴走?
励みになりますので、
評価、ご感想、お気に入り登録をお願いします。
ある日、登場イベントも一段落してやれやれと思って久しぶりに廊下を1人で歩いていると薄気味悪い現場を目撃した。
中庭の長椅子の真ん中にサザーン王国から来た臨時講師のオルハン・イルハームことヤンキー。その左右に女生徒が座り、さらにヤンキーの前にも数人の女生徒が立って囲んでいる。
何やら女生徒がヤンキーに色々と話しかけているようだ。
「イルハーム先生。サザーン王国ではどのような楽曲が好まれておりますの?」
「私の国は、古今東西の中継地として栄えています。曲も低音の荘厳なものから高音を主体とした賑やかなものまで幅広く好まれていますよ。もちろん、ザクセンブルク王国から影響を受けた曲も好まれています」
女生徒に話しかけにこやかに答えるヤンキー。不思議なことにまるで知的な芸術家のような妄言を吐いている。
え? あれ? あれってヤンキーよね?
私は目を擦り見たがやっぱりヤンキーに間違いない。聞き間違えじゃないかとさらに聞き耳を立てる。
「でも本当にイルハーム先生のような方がこの学園に来てくださって本当に嬉しいです」
「私も。先生がいつかサザーン王国に帰ってしまうなんて……。それを考えると今から胸が苦しくなってしまいます」
女生徒たちは恋する乙女の顔でヤンキーに話しかけている。
「私はただの教師です。貴女たちのこの学園での思い出の一つにでもなれればそれで充分ですよ」
「いえ。イルハーム先生のことは学園の思い出のすべてですわ!」
1人の女生徒がそう言うと何人かの女生徒も頷いた。
いやいや。このヤンキーが学園に来てまだ数日だろ。いくら何でも今を生き過ぎだ。
頬を赤らめる女生徒たちに囲まれたヤンキーは困ったような苦笑を浮かべている。
も、もしかしてバグ? この世界はゲームだからバグもあるの?
そうだとしたら私もバグる可能性があるっていうの?
そう考えると背筋が凍り青ざめた。
するとヤンキーも、青ざめながら立っている私に気づいたようで少し顔をこちらに向けた。そして女生徒たちに声をかけるとこちらにやって来た。
「アーレンベルク公爵令嬢。どうしたのです?」
と笑顔で話しかけてくるバグったヤンキー。
もしかするとホラー映画とかで狂ったコンピューターとかが人間を襲ったりするやつみたいに、いきなり襲って来たりするのだろうか。
「い、いえ……べつに」
と私は後ずさった。バグヤンキーは一瞬怪訝そうな顔をしたけど、すぐに表情を戻して話しかけてきた。
「アーレンベルク公爵令嬢には以前のことも改めて謝罪させて欲しいと思っていたのですよ」
狂ったコンピュータのように礼儀正しくにこやかなバグヤンキー。その恐ろしさに私は抵抗できず促されるままに校舎裏に場所を移した。
ヤンキーを囲んでいた女生徒たちからの恨めし気な視線に気づかず私はヤンキーの後について行く。
「何だよいったい。お化けでも見るような目で俺を見てたけどよ」
あれ? いつものヤンキー?
2人きりになったとたんいつも通りの口調に戻るヤンキーに私は唖然とした。
「え? さっきのあれってなに? あんた狂ったんじゃないの? 頭治ったの?」
「お前本当に失礼だな」
ヤンキーはそう言って腕を組んで壁にもたれた。
「さっきの口調のことを言ってるなら俺だって好きでやってるんじゃねえよ」
「え? そうなの? でもなんで?」
「なんでって、俺はサザーン王国からの臨時教諭で来てるんだぜ。それっぽい態度しなきゃなんねえじゃねえか。いきなり態度が変わったらそれこそ狂ったと思われちまう。お前だってそうだろ?」
「え? 私は特に気にしなかったけど?」
「なに? それで周りから変に思われなかったのか?」
「それは……私が生まれつき公爵令嬢の気品を備えてたからかな?」
「いやそういう冗談はいいから」
「失礼だな君」
「いやマジでこんな貴族社会で現代人が普通に振る舞えないだろ」
「それは多少口調は気を付けてたけど……別に……ねえ?」
「ねえって言われても知らねえよ」
「だいたい元の人格に戻ったのによく前の人格のままみたいに振舞えるわね」
「それは前の人格の時から表と裏の顔を使い分けるような生活をしていたからかな。なにせサザーン王国は激しい競争社会で、競争相手の落ち度を探しあうような生活だ。正直な気持ちなんて迂闊に口に出せなかった。普段から今はどう振舞うべきか考えて行動してたんだ。その時の記憶が消えたわけじゃないからな。今もその時の習慣通りの振る舞いをしているってわけさ」
「ふ~~ん。それは大変な話ね」
そうしていると魔王がやって来た。私と同じように一段落したので学園を徘徊していたのだろう。
「どうしたんだ?」
と魔王は言いながら私とヤンキーの間で足を止めた。
「いえちょっとヤンキーの頭がおかしくなったのかと思ったから話を聞いていたの」
「マジでその口の悪さを治さないと長生き出来ねえぞ。俺がこっちの世界の俺として振舞ってたらこの女がイチャモンつけてきたんだよ」
「イチャモンってなによ。貴方が生徒の前では自分のことを私とか言ってて気持ち悪かったって話じゃない」
「だからそれは仕方ねえだろ。今まで文化部門の責任者でこの友好団では臨時教諭を任された奴が、いきなり人格変わったら変人扱いされちまうっての」
「確かにな……。今まではこのゲームをクリアさえすればとしか考えてなかったが、クリア後の生活を考えれば変なことは出来ないか」
「おいおい。今までどうしてそれを考えなかったんだよ」
「……俺、魔王だから魔界で一番偉いし、俺の行動に文句を言うやつなどいない」
「私はクリア後は”割と幸せになる”って確約されているらしいから。無敵かなって」
「無敵だと……じゃ俺は?」
「え~~と。がんばれ?」
「おい! なんで俺だけがんばれなんだよ!」
「だって仕方ないじゃない。貴方は国で一番偉いわけでも、幸せが保証されているわけでもないんでしょ? どうすれば良いなんて私にも分からないわよ」
「ゲームをクリアした後もこの世界の生活は続くからな。まあ今までの自分と同じように振舞えるなら大丈夫だろう」
「それはそうなんだが、お前らに比べて理不尽じゃねえか?」
そう言ったヤンキーは憤慨している様子だ。だけど不意ににやっと笑った。
「ところでよ……。さっきも女たちに囲まれてたんだが俺ってすげ~~モテてねえ?」
確かにさっきの女生徒たちはこいつのことちやほやしてたな。
「それは……恋愛ゲームの攻略対象なんだからこの世界のモテ男なんでしょうけど、むしろこの学園に来るまでモテててなかったの?」
そういうとヤンキーは腕を組んで考え始めた。
「そういえば今まで仕事が忙しくて恋愛する暇がなかったが……女から声をかけられることは結構あったかも。いやサザーン王国ってマジで出世競争っていうか生存競争が激しくてな。こっちがミスをしてなくてもちょっと油断すると手柄を立てた後輩に抜かれるんだよ。だから手柄を立て続けなくちゃなんねえ」
「さっきもそんなこと言ってたわね。それはお気の毒ね」
「しかも先輩を抜いた後輩も負い目を感じてるっていうか、抜き返された時の報復を恐れて抜いた先輩を潰しにかかるしな」
「うわ~~。そりゃ恋愛する暇ないわ。でもそれじゃずっと恋愛しないの? ほかのみんなは? 結婚は?」
「……たいてい上司の娘とか上司の紹介とかで結婚してたな」
「ゲーム世界とは思えないような現実的な話ね。もうちょっと夢見ようよ」
「ふっ。だがなそれもここまでだ。俺はモテる! 俺はモテるぞ!」
その言葉に私は魔王をちらりと視線を送った。その意味を理解したのか魔王が小さく頷く。
こいつにこの世界の住人は総じてちょろい。ということを教えてはいけない。と心に誓った。
「言っときますけど、モテるからって誰彼かまわず手を出しちゃだめよ。特にヒロインのクララとコテンパンは絶対にダメ。前にも言ったけどあんたがヒロインと結ばれちゃ私が殺されるかも知れないんだからね!」
「分かってるよ。俺だって誰彼かまわず女に手を出すほど腐っちゃいねえ。だが……まあモテるのは間違いないな」
ヤンキーはそう言ってにやにやと笑っている。さっき自分を取り巻いていた女生徒たちの顔を思い浮かべているのかも。
仲間が増えたのは良いことなんだろうけど、問題は起こさないで欲しいわね。




