第43話:重要事項
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ヤンキーの登場で、このゲーム世界に現実世界の人間が3人になった。
ヤンキーと協力しあい情報交換をすることになったのだけど、しかしそうすると重大な問題が発生した。
今まで魔王と私の2人だったので、貴方、お前で済んでいたのだ。どうして本名を教えないのかと言えば、何となく教えあうタイミングがなく今更という感じがあった。
そしてこの世界の名前で呼ぶのも気恥ずかしい。魔王のことをシュバルツと呼ぶなんて毎回吹き出しそうだ。
しかしヤンキーのことも貴方と呼べば魔王との区別がつかなくてややこしい。
「あんたのことはなんて呼べば良いの? ヤンキーで良いよね?」
「てめえふざけてんじゃねえぞ!」
怒鳴るヤンキーを私は不思議そうな目で見つめた。そしてたっぷり10秒ほどしてから口を開いた。
「ほかにどう呼べと? あんたオルハンとか呼ばれたいの?」
「本名とか教えあえば良いだろ!」
「え~~。今更教えあってもね? それに下手に知り合いだったとかになったら気まずくない?」
「別に気まずくなんてないだろ」
「でも、もし同じ学校で私が学園のマドンナなのにあなたがカースト底辺のヤンキーだったりしたら恥ずかしいでしょ?」
「なんだよそのお花畑設定は!? お前が底辺で俺が人気者かも知れねえだろ!」
「ぷっ!」
ヤンキーのとんでもない妄想に私は思わず噴き出した。
「お前だって似たようなもんだろうが!」
そうこうしてすったもんだの挙句、ヤンキーのことはヤンキーと呼び、魔王のことはそのまま魔王、私のことは容姿にふさわしく令嬢と呼ぶことに決まった。
こうして重要な問題が解決したので、これからは情報交換だ。
初めに私たち知っている情報を魔王からヤンキーに説明した。こっちの情報はゲーム自体のものもある。ヤンキーが持つ隣国の情報はゲームの設定があってのもののはずなので、先にゲームの情報を共有した方が良いからだ。
そして次にヤンキーから隣国の情報。
「サザーン王国は周辺の国々を侵略して領土を広げているのはお前たちも知っているんだよな?」
「ええ」
「その時に侵略した国々の有能な人材を積極的に登用するんだ。こっちに来ているリベリオの親父は宰相にまでなっているし、護衛隊隊長のヨジョウとかもそうだな」
「なるほど~~。それで名前に統一感がなかったのね」
魔王は
「モンゴル帝国を参考にしたのかな? モンゴル帝国の宰相には元奴隷もいたはずだ。皇帝も長男が継ぐわけじゃなかったし」
と訳の分からないことを言っていた。
とはいえ国の状況が分かっただけで肝心のゲーム的な情報は全くない。
「なによ! 役に立たない情報ばっかりじゃない!」
「しかたねえだろ! ゲームに興味があったのは妹であって俺じゃねえんだよ!」
「兄なんだったら妹のために攻略本を熟読して一言一句覚えるくらいしなさいよ!」
「無茶言ってんじゃねえぞ!」
そこに腕を組んでヤンキーの話を聞いていた魔王が口を開いた。
「この世界はゲームの設定と辻褄があうように出来ている。この世界がゲームだと知らずに過ごしていれば、自分の行動がゲームの設定のためと気づかないんだ」
「まあそれはあんたの話で大体わかったが、それがどうかしたのか?」
「お前はサザーン王国の国王から何か任務を命じられてこの国に来たんじゃないのか?」
「ああこの国を侵略するために情報収集と有力者の娘をたらし込めって言われたな」
そういえば私のお父様、アーレンベルク公爵もそんなことを言ってたわね。
「それは留学生たちも同じなのか?」
「そりゃそうだろうな」
「やはりな。予想はついていたことだがその有力者の娘というのがアーデル……令嬢のことだな。じゃあお前たち隣国から来た奴らは自分がヒロインと結ばれれば他の奴が令嬢と結ばれると考えて、他の奴の手柄にされたくなくて令嬢を殺す。と言ったところか」
「おいおい。いくら他の奴に手柄を立てさせたくないからって、そこまでしねえよ」
毎回狂った話だけどヤンキーにしてみれば自分もその内の1人とみられたわけだ。呆れたように否定した。
「本当にそうか? それは現実世界の記憶、価値観が戻っているからそう思うんじゃないのか? この世界の住人。オルハン・イルハームとして考えてそう言い切れるか?」
「そ、それは……」
魔王の指摘にヤンキーが口ごもる。
「サザーン王国は有能ならば敗戦国の奴隷でも重職につける国なんだろ? 傍から見れば能力を認めてくれる良い国に思えるだろうが、当人たちに取っては気の休まる暇もない強烈な競争世界。出世どころか今の地位を保つのすら実績を見せ続けなければならない。ということじゃないのか? 国王すら長男ではなく有能な者を指名するくらいだからな」
魔王の指摘をヤンキーは否定できないようだ。
「まあ……な」
と頷いた。
「とにかく、お前たちの国の奴らがヒロインと結ばれたらやばいのは分かっただろ? 冗談事じゃないんだ。そうなったらこいつ……令嬢が死んでしまう」
「……分かったよ」
ことの重大さに気づいたヤンキーが神妙に俯いた。
う~~ん。でも魔王の話じゃ死んでも生き返られるみたいだし一応それも言っておいた方が良いかな?
「で、でも魔王は何度も死んでるらしいし、死んだらそれで終わりってわけじゃないのよ? またゲームの初めに戻されるだけなんだって」
「え? そうなのか? じゃあ何度もやり直せるのかよ。焦ったぜ。初めに言ってくれよ」
ヤンキーの表情が明るくなったけど、それに反し魔王の表情が曇る。
「それは確かにそうだ。俺は何度も死んで、その度にゲームの初めに戻されてやり直した」
「じゃあ良いじゃねえか」
「しかしその時は現実世界の記憶を持っているのは俺だけだった。だが今は3人だ。もしこの中の誰かがゲーム中に死んだとして、次もこの3人が揃うのか? ちゃんと3人揃ったところから始まるのか?」
「え? それは……どうなんだろう?」
そんなこと考えこともなかった私は答えられない。
「令嬢の記憶は俺が蘇らせて、そのまま死なせずに1作目をクリアーした。そして今回……ヤンキーの記憶は俺と令嬢との会話を聞いて蘇った。記憶が蘇った初回だから一緒になっているだけで、やり直しになったら3人はバラバラになるかもしれないんだ」
「そうなったら攻略するのは今より難しくなるってことね」
「ああやり直す分攻略方法も分かってくるかも知れないが、1人じゃ出来ることが限られてくる。俺は1人では1作目を1000回以上失敗したが、令嬢と組んだとたんに攻略できた。協力者が居るってことはそれだけ有利なんだ」
「じゃあ次に期待なんてしないで、なんとしてもこの3人で攻略しなきゃ行けないんだな」
ヤンキーの言葉に魔王が神妙に頷いた。
……松ぼっくり投げるのちょっと自重しようかしら。
「ただそれだったら、なおのこと妹を探すのも諦めたくない。今の分が失敗すれば1人きりになって妹を探すのがさらに難しくなるってことだろ?」
「確かに……。そういうことでもあるな」
魔王とヤンキーの話は深刻さを増していく。
私は松ぼっくりは自重することを心に決めた。どうしても投げたくなった時だけにしよう。
「とにかくゲームの登場人物たちにゲームって知っているか聞いて回れば良いんだよな?」
「そうだな。ただ……」
「ただ、なんだよ?」
「もう少しイベントを進ませてみないと誰がゲームの登場人物か分からないな。今回ヒロインのバルリング伯爵令嬢という子がいるんだが、この子は1作目ではモブキャラだった。それが人気が出て今回はヒロインになっている。それに気づいたのはイベントが発生したからなんだ」
「じゃあ、こいつはモブだって思っている奴が実は重要人物だったってことが後から分かるかも知れないってことか」
「まあそうだな」
「よし分かった!」
ヤンキーはそう言って右の拳で左の手の平を打ってパンと音を鳴らせた。
「じゃあ片っ端からゲームって知ってるかって聞いて回れば良いんじゃんねえか」
駄目だ。頭がヤンキーだ。
「まあ……お前がそうするなら止めはしないが……。攻略対象のオルハン・イルハームとしての生活もあるってことを忘れるなよ」
「分かってるって」
額に手をやり不安そうな魔王をよそにヤンキーは自信満々だ。
ヤンキーって根拠なく自信満々っていうけど本当ね。




