第40話:第3の男
2P野郎ことリベリオとのイベントの後、残りの新攻略対象たちとのイベントがあるかと思っていたけど、さすがに1日で全員は詰め込み過ぎかと思ったのか、その後すべての授業が終わってもイベントは起こらなかった。
放課後になり、クララたちは寄宿舎へ、私やヴェラたちは屋敷へ戻る途中、私の耳元に
「校舎裏」
という囁きが聞こえた。
え? 何? と思ったけど、何度も
「校舎裏」
と聞こえてくる。
ああ魔王が従えている魔族ね。そう思って目を凝らすと、かすかに小さい物が高速で飛び回っているのが見える。意識して見ないと小さい虫が飛んでいるとしか思わないわね。
そうかいつもこいつを使ってストーカーしてたのか。まあそれを追及するのは今度にして、友人たちには
「少し用事がありますの」
と言って別れた。
確かに私たちは友人同士で対等と私は思っているけど、やはり彼女たちに取ってアーレンベルク公爵令嬢は格上。特に、その用事が何かを追及されることもなく別れられたのは都合が良いけど、少し寂しいという気持ちにもなる。
私のことをお姉さまと呼ぶヴェラもカロリーネ学年は一緒だし、ヴェラにいたっては数か月とはいえ私より年上だったりする。
「だって、お姉さまのこと尊敬しておりますもの」
と、ヴェラとカロリーネも言っているけど。現実世界の記憶を取り戻す前の私って、そんなに尊敬されるようなご令嬢だったっけかな?
そんなことを考えながら歩いていると校舎裏に到着した。
「今日は3人分のイベントだったか。このペースなら今日中に全員終わるかもと思ったんだがな。まあ、放課後にイベントがないとも限らないが……」
魔族に見張らせてすべてお見通しらしい魔王がそう言った。
「1日で3人もイベントをこなせば十分よ。とっととイベントを終わらせたいとも思うけどね」
しかもヒロインが2人の所為で合計6回もイベントが発生。確かにうんざりだ。
「でも、イベントが全部私とぶつかるってどういうことよ。このゲームのシナリオライター、いくら何でも手を抜きすぎじゃない?」
「いや、手を抜いているというか……。攻略対象が全員お前にぶつかるっていうの自体をネタにしているんだろうな」
「ネタ?」
「ああウケたネタを繰り返すことで、それ自体をネタにするってやつだな」
「でも、何度もぶつかられるこっちはいい迷惑だわ」
私はうんざりしたように声を上げた。
そんな私を魔王がくすりと笑う。
「でもまあ、ある意味良かったよ。この手のゲームの続編は設定がいい加減で続編と言いながら前作で死んでいるはずの攻略対象が、なんの説明もなしに生きて登場してたりするからな。そう考えればこのゲームの本来の正史。つまりクララとカイルあたりが結ばれたシナリオの時間軸の続編で、しれっと俺が生きて登場しててもおかしくない」
「この手のゲームって、そんなにいい加減なの?」
「でも正史ルートならお前は死んでいるはずだった。攻略対象でもないしな」
「え? 随分不公平な話ね」
私は不満げに腕を組んだ。
「だがお前はこうして生きている。つまり攻略対象とお前がぶつかるというやり取りがファンに好評だったんだろう。だからお前もちゃんと生きている魔王ルートの時間軸になって、お前も生きているしお前がぶつかるイベントも起こる」
「うわ~~。シナリオライターに感謝しなきゃいけないのかも知れないけど感謝したくないわ」
「まあこのゲームは登場人物の人気で続編が作られたみたいだから、登場人物が全員登場するルートで……」
魔王がそこまで話したところで、突然
「うわぁ~~~~!!」
と叫び声が聞こえた。しかもかなり近い距離から聞こえる。
「なに?」
と私が声の方向に顔を向けると魔王はすでに走り出していた。どうやら校舎の影から声がするようだ。
(もしかして今の話を聞いていた?)
と思ったけど、話していた内容から魔王の正体がばれたりしそうじゃないし、叫び声を上げられる覚えがない。この世界の人が聞いてもなんのことか分からないはず。
そう考えながらも魔王の後に続いて駆け出した。魔王が校舎の角を曲がり、私も続いて曲がると立ち止まっていた魔王の背中につぶった。
「ちょっと止まらないでよ! あんたまで私にぶつかるつもり!?」
だけど私に背を向ける魔王の顔を覗き込むと唖然とした表情だった。魔王の視線の先には頭を抱えた男がうずくまっている。
「な、なんだこれは……あ、頭が……ゲーム……だと」
そう言いながら黒い髪の毛を掻きむしっている。その手の肌は浅黒い。もしかして隣国の人? ということは攻略対象?
「これは……」
うずくまる男の前で魔王も立ち尽くしている。
「貴方どうしたの?」
と、私はうずくまる男に近づこうとしたが魔王が手で制してきた。
「行こう……」
「え? 何言っているの? 苦しそうじゃない」
「いや”大丈夫”なはずだ」
「大丈夫なはず?」
私はうずくまる男が気になったけど、魔王が私の腕を掴んで強引にその場を立ち去った。
「ちょっと。どういうつもりよ? 貴方何か知ってるんでしょ?」
「知っているっていうか……。お前、分からないのか?」
「分からないのかって……」
何かあるかしら? そういえば!?
「あの人ゲームがどうとかって言ってたわね? 私たちの会話を聞いてたということは……」
「ああ、多分、俺たちと一緒だ」
まさか私と魔王以外にも現実世界から来た人がいるなんて。しかも、次の攻略対象の1人っぽい。顔は見えなかったけど髪の色や毛の長さ、身長からみて今までに登場した攻略対象じゃなくて新しい攻略対象みたいだった。
じゃあ混乱しているようだし助けてあげれば良いんじゃないの? と思ったけど、魔王が言うには
「ゲームの強制力で主要登場人物の安全は保障されているし、いったん落ち着いてから話をした方が良いだろう。こっちもどう声をかければ良いか考えたいしな」
ということだった。
じゃあ、きっと今日にイベントがあるはずね
と、その男と会った翌日に気合を入れて休み時間に友人たちを引き連れ校舎を徘徊する。
しかしそうすると
「どうして私たちって、休憩のたびに校舎を徘徊してるのですか?」
と、コテンパンが痛いところを突いてきた。
(うっなんて答えよう)
イベントを待っているとは言えないわよね。
私が返答に困っていると
「毎年、新学期になると学園に不慣れな生徒がいるでしょう。お姉さまはそのような者たちが困らないように見回りをしているのですわ」
そうカロリーネが誇らしそうに説明する。
(え? そうなの?)
と思ったけど、アーレンベルク公爵令嬢としての記憶を掘り起こすと確かにそんなことを言っていた。魔王も言ってたけど、現実世界の私たちからすれば不自然な行動も、ちゃんと辻褄があうようになっているのよね。
「まあ、さすがお姉さまですわ!」
とコテンパン。
「私もお姉さまを見習いたいですわ。まず2年生は私が束ねますわね」
とクララ。
お前、番長グループか何かと勘違いしているだろ。女だからスケ番グループか。
とにかく校舎を徘徊してもイベントが始まらない。そうしているうちにクララが
「お姉さま。中庭にも進出した方が良いのではないですか?」
と言い出した。
進出ってなんだよ。縄張りを広げたいのか。
しかし、私が答える前に
「さあ早く行きましょう!」
とクララが私の腕に自分の腕を絡めて強引に引っ張りだす。
あれ? これってもしかしてイベント?
と思って抵抗すると、女の子とは思えないほどの怪力。やっぱりイベントの強制力が働いた時のリミッターが外れた状態だ。
仕方なしに中庭に向かっておとなしく引きずられていく。
(中庭で誰かとぶつかるのね。でも、廊下と違って見渡しも良いし避けやすいし、ここでぶつかるのはシナリオ的に無理があるんじゃないの?)
そう思いながら中庭に出るために校舎を出る。すると突然後ろから私をがっしりと掴むヴェラとカロリーネ。そして
「危ない!」
という声が聞こえた。それに続いて
「と、オルハン・イルハームが言っている!」
の言葉。
(え? これって!?)
と思っていると頭上から落ちてくる物体。
ガンッ!! と私の目の前に落ちる幅40センチくらいの長方形で重そうな木箱。
あっぶな~~。ヴェラとカロリーネが止めてくれなかったら頭に当たってたかも知れないし、ただじゃすまなかったかも……。
「すまない! 大丈夫か! と、オルハン・イルハームが言っている!」
と、近くに居た男子生徒が大声で叫ぶ。
やっぱり本人以外が代弁している? ということは私や魔王と同じく現実世界から来た人に間違いない。どこ?
と思って周囲を見渡すがそれらしい人物は居ない。
「危ないではありませんこと!? と、お姉さまがおっしゃっています!」
と、校舎の2階に向かって叫ぶヴェラ。
しかし相手からの返答はなく、しばらくすると校舎から1人の男が数人の男子生徒に担がれてやって来た。男は抵抗しているけど多勢に無勢。肌の色や髪の色や長さから昨日、魔王と一緒に見た攻略対象に間違いないようだ。
そして私の目の前に降ろされる。
「お、おい! いったいうぐっ!」
と何か叫ぼうとした攻略対象の男。オルハン・イルハームは、周りの男子生徒たちに羽交い絞めにされ口も塞がれた。
「すまない。景色の良い場所を探していたのだが、つい絵具箱を落としてしまってね。と、オルハン・イルハームが言っている」
そのオルハンを羽交い絞めにしている男子生徒の1人が言った。
しかし当のオルハンの顔色は青い。見開いた目にも恐怖の色が浮かんでいる。
(分かるわ~~。私は魔王に聞かされてたけど、事情も知らずにいきなりこれやられたら怖いわ~~)
「すまないではすみませんわ! 頭にでも当たったらどうなっていたと思いますの!? と、お姉さまがおっしゃっています!」
とカロリーネ。その横で私はカロリーネを指さした。次にその指を自分を指さす。するとオルハンは目を見開いた。
カロリーネが私の台詞を代弁しているのだというゼスチャーが通じたようだったので、私はさらに指をある方向に向けた。
昨日、魔王と打ち合わせていたのだ。私が指差した先には後をつけていた魔王がある文字が書かれた紙を両手に持っている。
オルハンの両目がさらに見開かれた。
そこには”後で話がある。校舎裏で待つ”と、”日本語”で書かれていた。
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